第636話 お祭りはどうですか

 スプーンとフォークで食べられるよう、ハンバーグプレートにした栄養科三人組。 

 最初はチーズ乗せハンバーグで出したが、お代わり自由で希望があれば、おろしそハンバーグ、目玉焼き乗せデミグラスハンバーグもある。

 雅会任侠チームが全制覇するであろうことは、すっかりお見通しの栄養科三人組。黄金船からメイド達を転移させたので、こんがりと焼けたハンバーグがどんどん量産されている。


「このぶどう酒、美味しいわね、香澄」

「うんうん、妙子さんのぶどう酒とは違った美味しさだわ。ぶどうの品種が違うのでしょうね、麻子」


 円卓で初めてのハンバーグに舌鼓を打ちつつも、今年は病害虫が多くぶどうは不作なんですとこぼす議員たち。それこそ精霊に祈りを捧げる事案でしょうと、でっかい釘を刺す麻子と香澄。精霊を怒らせたらバッタの大群が押し寄せて、大地がペンペン草もない状態になるかもよと畳みかける。


 実際に群れ単位でテイムしちゃう御仁が、しれっとした顔でここにいるのだ。

 みやびが怒ったら、本当にやりそうだから笑えない。ライスを頬張るファフニールがうんうんと頷き、フレイアがそれもアリねとコンポタスープをスプーンですくう。大精霊が下す天罰、いと恐ろしや。


「昨夜も話した通り、精霊が怒る理由はただひとつ。民が正しい精霊信仰を失った時なのよ、カウパー議長」

「しかしみやびさま、精霊の存在をすっかり忘れてしまった民に対し、我々は何をすべきなのでしょうか」

「この惑星にお祭りの習慣はあるのかしら」


 顔を見合わせる議員たち、お祭りそのものが分からないようだ。祭事の事でしょうかと尋ねるクリストファに、それって民も参加してるのかしらと逆に問う任侠大精霊さま。民と共に行っていれば信仰心が薄れることなんてそうそうないはずよと、スプーンを四拍子に振り痛いところを突く。


「春は豊作を精霊に祈願する春祭り、秋は収穫を祝い精霊に感謝を捧げる秋祭り。食肉の恵みを精霊に感謝する謝肉祭もいいわね、クリストファさま」

「具体的にはどのような祭事になるのでしょう、みやびさま。我々は厳かな儀式として代々受け継いで来ましたゆえ、全く想像できないのです」

「祭壇にお供え物をして、みんなで飲んで歌って踊って騒いで」


 ぽかんと口を開けるクリストファに議員たち。何やら楽しそうではないかと、純粋にそう思えたのだ。だから楽しい催しなのよとみやびは笑い、大事なのはお祭りの意義を形骸化させないことよと付け加えた。


「お祭りが近付くとうずうずわくわくしちゃう感覚と、精霊に対する感謝を忘れない意識改革を、惑星の全地域に広げたらどうかしら、クリストファさま」

「成る程、政策で信仰を押しつけるのではなく、催し物として楽しませ自然と精霊の存在を意識させるのですね? みやびさま」

「そう、そして祭りの中心となり民を導くのは、神職の役目だわ。議会はその後押しをして、円滑な運営をサポートするのよ」


 これこそみやびがセラフィムに宣言した、私は私のやり方で宇宙の意思を代弁する手法なのだろう。ほほうと頷きやる気を出した議員たち。食欲も湧いたのか、ハンバーグプレートお代わりと次々手を挙げている。

 みやびは知らない、いろんなお祭りが開催されるようになるのだが、降臨祭が生まれることを。それは大精霊の巫女がラカン星に降臨し、植民地支配を打ち破った記念日の祭りとなる。自分がまつられちゃうお祭りが普及することを、今のみやびは知るよしもない。


 だがこのやり方をみやびは。これから解放していく全ての惑星で展開する腹積もりなのだ。大精霊セラフィムと眷属の精霊たちを納得させる、お祭りどんちゃんで信仰心の目覚めを促す意識改革を。

 今のみやびを、セラぽんは見ているかも知れない。もしかすると、イン・アンナやぬっしーにシャダイっちも。それこそ大精霊たるに相応しいか、お手並み拝見と宇宙の彼方から。


 共同体から魔力を蓄える宝石は全て押収しており、ショボイ艦隊をどうしようかと話しは流れて行った。政権運営は議会に戻ったけれど戦後処理と同じく、片付けなきゃいけない案件があるのだ。


「乗組員を養成して、ラカン星の防衛に使うべきではないでしょうか、みやびさま」

「ジェシカ領事の言う通りね、遊ばせておくのはもったいないわ」


 そこは巡洋艦の艦長だったジェシカ領事だ。ガリアン星に比べ奪還する意味合いの低い惑星ではあるが、自己防衛力は必要ですと杯のぶどう酒を口に含む。

 問題は乗組員となるが同席していたユンカースが、その任をレジスタンスにお与え下さいと身を乗り出した。母星解放の願いは達成したレジスタンスだが、危険が去った訳ではない。アンドロメダ共同体が存在する限り、恒久的な安全が確保された訳ではないからだ。


 ならば普段は空いているイラコ号の祭壇で訓練すればと、ハンバーグをお上品に食べるゲイワーズが提案し、レジスタンスの有志を預ることに決定。その中にはラカン星の竜族、イグノア族も含まれている。更にみやび亭アマテラス号支店が賑やかになりそうねと、アルネ組とカエラ組がによによしていた。


 尚それでリリムの考えが変わるかと思えばさに非ず、どうも彼女は艦長候補になりたいらしい。戦艦や空母を含む艦隊で戦略や運用を身に付け、共同体の打倒を目差し燃えているのだ。良い意味で女の一念岩をも通す。あらいいじゃないと、ジェシカが目を細めて胡麻だれサラダを頬張った。


「捉えた共同体の者たちにはどんな裁きが? カウパー議長」

「ラカン星の法に照らせば、良くて二十年間の強制労働、悪くて火刑でしょうか、みやびさま」


 他者を犠牲にし、属性を取り込んだ幹部連中は火刑。艦隊の乗組員であった部下たちは大方、強制労働になるでしょうとクリストファが補足する。罪に対する量刑はロマニア侯国と変わらず、レアムールとエアリスが妥当でしょうねと頷き合う。


「強制労働になった罪人をさ、将来的には私に預けてくれないかしら、カウパー議長」

「……はい? みやびさま、今なんと仰いましたか」


 数年後を目処に罪人を引き取るってことよと、みやびはラカン産のぶどう酒を口に含んでむふんと笑う。これには黄金船の首脳陣もびっくりで、みやびの意図するところを掴みかねていた。


 ホムラのフライドチキン星と、ポリタニアのミックスナッツ星。それ以外は駅を作るのに相応しい環境の惑星が残念ながらが存在しなかった。まあ有るならシャダイっちが、とっくに教えてくれているだろう。アンドロメダを目指す途中の座標に、宇宙ステーションを建造しよう、それがみやびの構想なのだ。


「その宇宙ステーションに罪人を放り込むと言うのですか? みやびさま」

「んふ、クリストファさま、議員のみなさま、ここで問題です。座標固定で移動はできないけど、内部の生活環境を整えるのは反重力ドライブよ。反重力ドライブを動かすのは魔力。誰も手を貸さなかったら、罪人はどうするかしら」

「そりゃ必死こいて祈りを捧げ……あっ」

「正解よ、カウパー議長」


 言葉で分からないなら体に覚えさせる。その環境に放り込んで正しき精霊信仰に目覚めるならよし、目覚めないならそれまでの人。

 イラコ号で行っている作物栽培と家畜飼育は教えるし、暗黒空間で不足しがちな水は定期便で供給する。それで自給自足をさせるのよと、みやびは構想を披露する。


「罪人に甘くないですか? みやびさま」

「あら、島流しと変わらないでしょ、クリストファさま。二十年の強制労働とどっこいどっこいだわ」


 それで罪人が悪しき精霊信仰から脱却できれば儲けもの。アンドロメダ銀河のハルマゲドンを回避する一角となってくれれば、それで良いと任侠大精霊さまは考えているのだ。


 これもまた、宇宙の意思を代弁するみやびのやり方。

 今までも内紛に陥ったメリサンド帝国を、モスマン帝国を、そしてシーパングを、義理と人情で仲間に引き入れて来た。蓮沼に手を出しちゃった、いくつかの暴力団を取り込み真っ当な任侠にしたのもそう。それが蓮沼みやびという、今までいなかったタイプの大精霊なのだ。


「分かりました、引き渡しの時期が来たらいつでも仰ってください、みやびさま」

「感謝します、カウパー議長。アンドロメダ銀河の将来が楽しみだわ」


 誰もが納得したようで、頃合いと見たアリスとアルネ組にカエラ組が、円卓の皆にデザートを並べて行く。それはフルーツパフェで、新鮮な果実とシャーベット、ソフトクリームにソースなんかを、パフェグラスにぎゅぎゅっと閉じ込めた芸術品。


 プロデュースした香澄が、急いで食べるとこめかみにキーンと来るからねと、アドバイスしたが遅かりし。議員たちが片手の親指と中指でこめかみを押さえている。ありゃまあと、眉を八の字にする栄養科三人組と嫁たち。ゲイワーズは相変わらずお上品に食べ、敵巡洋艦に乗り込んだ時うおりゃあと、回し蹴りで乗組員どもをまとめて薙ぎ倒したのが嘘のよう。


 そして栄養科三人組は分かっているのだ、この後カウパー議長たちが料理人の派遣をお願いして来るだろう事を。さてメイドの誰を指名しましょうかと、みやびはサクランボの茎を口の中でもごもご動かす。

 愛妻のファフニールとフレイアが、茎で何してるんだろうと首を傾げている。ところが出て来た茎に結び目が出来ており、どうやったらそうなるのと目を丸くする。


 うちらもできるよねと、麻子も香澄も始めちゃう。

 料理人の舌は味覚だけでなく器用さも求められるのですねと、アルネとカエラがベクトルの違う変な勘違いをしちゃってる。んなわけないですと、ふよふよ浮くアリスが二人のおつむをぺちぺち叩く。


 でもお祭りで誰が早く結べるか競ったら面白そうですねと、飯塚まで茎を口の中に入れた。これがまた意外と早く、やるわねとゲイワーズまで挑戦を始めちゃった。

 アリーナでの出張みやび亭、アフターランチはみんなしてサクランボの茎と格闘する、変な方向へと向かってしまう。でものんびりまったり、ゆったりとした時間が流れて行くのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る