第627話 グレート・スピリチュアル・チユーズ
ジェシカの母星であるガリアン星、その大気圏に突入した連結黄金船。当然ながら敵艦隊が発進し、地上からは地対空ミサイルが飛んで来る。だが物理反射で対空陣地はことごとく破壊され、戦闘機も対艦ミサイルを放てば勝手に自滅していく。
「反撃はどうする? みやびさん」
「ガリアン星の民を傷付けたくないから、ミサイルはもっぱら敵艦隊に向けて、彩花さん。敵の出方を見たいから、合図するまではまだ撃たないでね」
秀一を迎えたアルネ、豊を迎えたカエラ、彩花を迎えた香澄、美櫻を迎えた麻子。竜族との儀式ではないから魔力は増強されないが、精霊化すると属性強化が麻子と香澄に現れていた。香澄はハウリングが使えるし、麻子は照明弾を撃てる。
そしてアウト・ロウ十二人と契りを交わしたみやびはと言えば、魔力増強に属性強化で人知を超える存在と化していた。見た目はそのまんまなんだけど簡単に表現するならば、自らブラックホールを生み出せる大精霊を顕現させたと言えば分かりやすいだろうか。
同じくアウト・ロウと血の交換を行ったアリスも、その実力は推して知るべし。怒らせたら惑星のひとつやふたつ、吹っ飛ばしそうな勢いが纏うオーラから感じ取れるのだ。大精霊が
「相変わらず通信要請には応じないのよね、麻子。お馬鹿なのかしら」
「お馬鹿なんだろうね、香澄。僕ちゃんが負けるはずない、みたいな」
どのみち回線が開いたところでカルト宗教の狂信者よろしく、言葉が通じないのは目に見えている。そんな手合いはこれまでの戦いで何度も出会ってきたのだ、今更よねと祭壇のパネルを操作する麻子と香澄。
「ねえジェシカ領事、あいつらはやっぱり竜を人と認めないのかしら」
「よく分かりましたね。その通りです、みやび殿。自分たちが構築する世界に竜族は必要ない、そんな考え方が根底にあります」
かつてメリサンド帝国に反旗を翻した王族と同じで、ファフニールにレアムールとエアリス、ティーナとローレルが眉を曇らせた。
ロマニア侯国の戦いは、リンドを人として認めてもらう為の戦いでもあった。リンド族にとってはこの現状、とても他人事とは思えないのだ。
自分の思うがまま世界を牛耳ろうと欲すれば、精霊に近い存在の竜族は目の上のたんこぶでしかない。そこに差別意識が生まれ、道を踏み外し排除しようとする力が働く。誤った精霊信仰で三悪道に落ちた、救いようのない愚か者の見本とも言える。
「ねえ秀一、この戦艦の映像を拡大して」
「何か気になることでも? 美櫻」
ズームされた戦艦に誰もがあっと声を上げ、ジェシカに至っては唇をワナワナと震わせている。鎖で数珠つなぎにされたガリアン星の民が、砲塔の周囲に並ばせられているではないか。民を盾に使うのかと飯塚が吐き捨てるように唸り、何て卑怯なとジェシカが唇を噛んだ。
「善人を相手にするなら、戦術としては悪くないわね」
「ちょっと、みや坊」
「戦術としてはね、ファニー。でもやってることは外道の所業よ。物理攻撃は一旦中止ね、彩花さん」
すると通信要請に対する受諾信号が帰って来た。アンドロメダ共同体とやらに対話を試みるのは、これが初となる訳で祭壇に緊張が走る。回線を開いてとみやびが目線を送り、受けた麻子が分かったわとパネルのアイコンをタップした。
『我はガリアン星の方面司令長官、ミズルだ。ふぁっふぁっふぁ、一般人を巻き込みたくないようだな、それがお前達の弱点だ』
「私が船長のみやびよ。
『ふん、その強がりがどこまで持つかな。その黄金船は我々が接収する、乗員は生かしてやろう、ただし奴隷としてな。まずは船長ひとりでこっちに来い、話しはそれからだ。応じなければ十五分ごとに、一般人をひとりずつ処刑する』
そこで回線は切れた。みんなの視線がみやびに集まるけれど、彼女は泰然と構え落ち着いたものであった。心の泡立ちを感じ取り何をするつもりか、悟ったファフニールとフレイアがみやびの手を取った。三人の姿が光に包まれ、愛妻がみやびと融合していく。
精霊化したみやびは千手観音のように腕を何本も出せるが、意識すれば普通に両腕のみにもできる。属性のオーラを隠す術はフレイアから伝授され、ぱっと見は普段と全く変わらない。
「アリス、ミニサイズで付き合って」
「はいお姉ちゃん、どこまでも付いて行きます」
本来ならここで近衛隊は職務上、止めに入るべきなのだろう。だが今のみやびを何とか出来る手合いがいるなら、むしろお目にかかってみたいもの。レアムールもエアリスも、ティーナとローレルも、お気を付けてと小さく手を振る。
まるで散歩にでも行くような、そんな雰囲気でみやびは行って来ますと笑った。そして彼女は敵戦艦の真上に、瞬間移動したのだ。
「な……いつの間に、しかも空を飛べるなら風の奥義持ちなのか」
てっきり宇宙戦闘機で着艦するとばかり思い込んでいたミズルが、空を舞うみやびに目を白黒させている。他の乗員たちも四属性銃を構えるけれど、そんな豆鉄砲がみやびに通用するわけがない。
「約束通り来たわよ、お話しとやらを聞かせてもらいましょうか」
「仲間の見ている前で船長を血祭りに上げる、こんな効果的なプレッシャーはあるまい。つまり話しと言うのはだな、これだ!」
やはりミズルも六属性を取り込んでいるらしく、スペクトラ砲に似た万能弾を放ってきた。もちろんみやびの黄金魔法盾が発動し、ミズルの血祭り作戦は失敗に終る。
「何だ今の魔法盾は、どの属性とも違うではないか! 貴様いったい何者だ」
「外道に答える義務はないわ、貴方がいったい誰に喧嘩を売ったのか、その目で確かめなさい」
みやびは右腕を伸ばし手のひらを空に向けた。そこに現れたのは黄金を含む七連魔方陣で、放たれた光の
「な、七連魔方陣、まさか大精霊の巫女だと言うのか」
「これから私が行うのは宇宙の意思、あなた方に拒否権は無いの。悔いる気持ちが少しでもあるならば、アケローン川を渡った先で裁きを受けなさい。
アリスの助言により、みやびが生み出した大精霊の
珠が虹色に変化する光の粒と化し、空を覆い尽くして行く。やがて模様を形成し浮かび上がったのは、みやびの紋章である八枚花びらの
みやびの紋章が
放射線はどんな物質でもすり抜けるが唯一、鉛だけはすり抜けることができない。病院のレントゲン技師が鉛の入った重い衣服を身に纏うのは、放射線の被爆を防ぐためだ。
いま降り注いでいる光には特別な粒子が含まれており、鉛さえもすり抜けることができる。その正体は大精霊による選民であり、正しい信仰を保つ者には祝福を、悪しき信仰に染まった者は冥土へ
船内にいようが建物の中にいようが、この判定から逃れる事はできない。紋章が輝いている間にガリアン星が一周すれば、悪しき精霊信仰の徒は一掃されていることだろう。
事実ミズルと乗員達は悶え苦しみ倒れ伏し、その体は灰となり崩れ落ちた。対して鎖に繋がれた一般市民は物理無効と魔力無効が付与され、苦し紛れに乗員が放った四属性銃が効かなくなっていた。かつては魔力耐性だったが、みやびのパワーアップに伴い耐性が無効にランクアップしたのである。
「麻子、香澄、船を戦艦に横付けして。雅会の諸君、出番よ! 一般市民の保護と残ってるかも知れない無信教の乗員を捕縛して」
さあいっちょやりますかと、銃を手にした飯塚と石黒。アマテラス号の甲板を一周も走れない高田が、何故か嬉々として参加。
彼らも大精霊の判定を受けたのだから、物理無効と魔力無効の状態だ。怖い物なしで敵戦艦に飛び移り、艦内に突入していくのであった。
「キラー提督、聞こえるかしら」
『これはみやび殿。アンドロメダへ到達したと聞き及んでおりましたが、雑音も無く明瞭に聞こえます』
みやびの成長はダイヤモンド通信にも影響を与えたようで、性能が飛躍的に上昇していた。宇宙の中心を目指すなら、こんな頼れる通信手段はないだろう。
「戦艦一、空母一、巡洋艦三、駆逐艦五、無傷で入手したのだけど要らない?」
『……はい?』
「れっきとしたガリアン星の艦隊よ、本来ならば貴方が指揮を執るべき船のはず」
『まさか、まさか我が母星を解放されたのですか、みやび殿』
「残念ながらガリアン政府の重職にあった者は、ひとり残らず処刑されていたわ。新政府を樹立するまで、貴方はガリアン星を統括する任に就くべきよ」
返事が遅いのは通信障害では無く、キラー提督が絶句しているからだ。ジェシカが感極まってほろりと涙を流し、飯塚がその肩を抱き寄せている。
『このご恩、一生忘れませぬ、みやび殿』
「その言葉はアンドロメダ共同体をぶっ潰すまで取っておいて、協力してもらいたいことが色々あるの」
『もちろん何なりと、これでも武人の端くれ、協力は惜しみません』
敵が本拠地としている惑星はまだ掴めていないが、戦艦にあった航路データで大まかな場所は絞られていた。駆逐艦が持つ機動性の良さでチェック&ラン、敵に見つかったらゲートを開いてすたこらさっさ。それを繰り返し敵の本拠地をあぶり出したいのだ。アンドロメダ攻略、いよいよ本格始動である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます