第624話 千住丸の恋心
大変ご無沙汰しておりました、汐朗でございます、みなさまおはこんにちばんわ。実は8月4日に、虫垂炎で救急搬送され入院しておりましたですハイ。
つまり今年の夏、私は病院のベッドでお盆明けまで過ごしてた訳でして_| ̄|○ノ これは無理と感じたら、我慢せず迷うこと無く、救急車を呼びましょうね。
そんな訳でエピソードの投稿を再開することが出来ました。点滴が外れれば食っちゃ寝の入院生活、色んな想像力が湧きましたので、楽しいお話しが描けたらなと思っております。
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――ここは亜空間倉庫の宇宙船格納エリア。
敵艦隊と遭遇すれば、けちょんけちょんにぶっ叩く黄金船。使った対艦ミサイルと宇宙魚雷を補充すべく、いったん帰港した形だ。
弾薬は栄養科三人組が錬成するため、当面は亜空間倉庫に滞在することとなる。徹と山下も新婚旅行から戻る頃だから、タイミングとしてはちょうど良い。
こんな時みやびは、船員たちを半舷上陸させる。
半舷上陸とは船員の半数を当直として残し、半数ずつ交代で上陸させ英気を養わせること。別に亜空間倉庫で構いませんよと口を揃えた雅会任侠チームだが、いいからシャバの空気を吸ってこいと、東京にゲートを開いた任侠大精霊さま。
宇宙の航路開拓は新沼海将と真戸川センセイからお願いされている、宇宙自衛隊としての正式な任務。任侠チームの口座には自衛官としての俸給が振り込まれており、けっこう貯まっているはず。お金は天下の回り物、遊んで使ってきなさい、これがみやびの意図する所である。
「石黒さんはどうするんですか」
「そうだな、高田。俺は海に行くつもりだ」
「海……ですか」
「海水浴だよ。海の家の料理は、みやび亭ほど期待は出来ないだろうけどな」
「浜辺でビールかぁ、俺も付いてっていいですかね」
「いいぜ、ビールを飲みながら、水着お姉ちゃんのウォッチングでもしようや」
そんな話しをしながら、ゲートをくぐる石黒と高田のコンビ。東京を案内してあげたらとみやびに言われ、飯塚もジェシカの手を引きゲートへ。
彩花は当直として残り、豊はクースカピーなので、秀一と美櫻が入って行った。座標は桐島組長のビルで連絡済みだから、向こうもそのつもりで待っている事だろう。
一般採用メイドにもエビデンス城にゲートを開き、みやびは半舷上陸とした。俸給の他に宇宙への出張手当も付いておりますゆえ、彼女たちにも大いに休暇を楽しんでもらいたい。栄養科三人組からもらったショルダーバッグを手に、彼女らもワイキャイはしゃぎながらゲートに飛び込んで行った。
「さて、祭壇でお茶でもしよっか、みんな」
みやびのお誘いに、いいねいいねと手を叩く麻子と香澄に嫁たち。もちろんアルネ組とカエラ組も一緒で、折角だから居住エリアのカリーナとフェリアも呼ぼうと話しはすぐにまとまる。
「ラングリーフィンに相談があるのだけど」
「何かしら、カリーナさま」
お茶菓子はフライドポテトとチキンナゲットにアップルパイ。保温庫に入れてあったもので、みやびのテレパシーを受けたモムノフさんが持ってきてくれた。
カリーナはシナモンを利かせたアップルパイに手を伸ばし、さてどう話したものかと思案顔をする。はっきりもの申す彼女にしては珍しいことで、何だろうと顔を見合わせる栄養科三人組。
「千住丸さまのことなんだけどね」
「うん」
「もしかすると、ヒルデが好きなのではないかしら」
「うんうん……へ?」
ヒルデは愛称で、正式にはブリュンヒルデ。名前の由来は
彼女はシーパングで戦をしてる最中、亜空間倉庫の居住エリアで食事提供の任に就いていた。今はスミレとクーリドの補佐役としてシーパングの領事館に、武官と文官兼任で派遣されている。
「よく気付いたわね、カリーナさま」
「ヒルデもちょくちょく調味料を取りに来るでしょう。そんな時は千住丸さま、彼女の傍から離れないのよね、ラングリーフィン」
カリーナも行く行はラシーダの後を引き継ぎ、侍従長になるであろう人物。もしかすると父シャメルと同じく、モスマン帝国の宰相に登り詰めるかも知れない。
当初のおてんばっぷりは鳴りを潜め、最近は随分と落ち着いて来ている。そして何よりも周囲をよく見ており、アンガスの代理として副領事の仕事もそつなくこなしていた。
ラフィア領事に言わせると、そこはやっぱり皇族の血筋、持って生まれた貫録が出て来たのだろうって評価だ。紅貿易公司の会頭さんも人を見る目は確か、カリーナを好ましく思っているようだ。
「ヒルデは来年リンドとして成人するし、千住丸さまもその頃には元服して成人だよね、香澄」
「麻子、そういう話しじゃないのよ、これは大問題だわ」
その通りよと、みやびもファフニールも、レアムールにエアリスも、アリスが煎れてくれたお茶をすすってさあどうしましょ。リンド族はロマニア侯国の国籍から絶対に離れない。だから菊池はエレオノーラとスオンになる際、家督を弟に譲りシーパングの民からロマニアの民になった経緯がある。
ところが千住丸は藤堂のひとり息子であり、跡継ぎがいなくなればお家お取り潰しの危機となるのだ。いったいどうすればと、頭を抱える囲炉裏テーブルの面々。
国によるしきたりの壁、難しい問題ですねと、フレイアがチキンナゲット摘まんで頬張った。ちょんと付けたソースは竜族向けのハバネロスペシャルで、うわ辛そうとフェリアが頬をひくつかせている。
「初音さまは今こっちにいるの? カリーナさま」
「バスケットボールの審判をしているわ、ラングリーフィン」
モムノフさんに連れてきてと、テレパシーを送る任侠大精霊さま。
そして囲炉裏テーブルへやって来た初音は話しを聞き、やはりと言うか予想どおり狼狽えてしまった。千住丸を産んだ後は何故か子宝に恵まれず、夫である藤堂に負い目を感じていたとも。
「側室を設けるよう何度か進言したのでございますが、
しゅんと項垂れる初音に、六属性の祝福が舞い降りた。もちろん発動したのはアリスで、今のは何と目を丸くするみやび達。するとアリス曰く、初音が身ごもりますようにと、つい念じてしまったらしい。
「効果の持続期間は? アリス」
「子宝を授かるまでです、麻子さま」
「でかした! 励みましょう初音さま」
「あの、何を励むのでしょうか、香澄さま」
夜の営みに決まってるでしょうと、畳みかける栄養科三人組。初音が沸騰したヤカンのようになり口をパクパクさせたのは言うまでもない。
鷲見城の城下町には防火目的で水路が張り巡らされており、ウナギやスッポンは簡単に入手できる。アスカとハンナに回線を開き、当面は精力増強食をと指示を飛ばす任侠大精霊さま。
ウナギの肝串は最優先で藤堂にと、スッポンの生き血は赤ワインで割って飲ませてと、聞いてるこっちが鼻血の出て来そうな内容まで伝え始めた。
千住丸が元服するまで、初音が第二子を設ければセーフなのだ。
「そう言えば生け簀にウナギとスッポンがいたわね、フェリア」
「千住丸さま達に蒲焼きとスッポン鍋はまだでしたね、カリーナさま」
少年少女たちにも今夜はスタミナ料理ねとうそぶくカリーナだが、鼻血出さなきゃいいけどと顔を見合わせるアルネ組とカエラ組。まあそこはローティーンとミドルティーンだ。スポーツで発散させりゃいいでしょと、麻子と香澄がフライドポテトに手を伸ばし頬張るのであった。
――そして夜の蓮沼家。
「アメリカ土産って、割りと難しいのよね、みやちゃん」
「あっちでしか販売されてないオレオじゃない、ありがとうお義母さん」
みやびにお義母さんと呼ばれ、思わず身をくねらせちゃう京子さん。まあそこは見なかった事にしてあげる蓮沼家の面々、麻子と香澄もアメリカ限定のオレオを受け取り興味津々。
徹もけっこう悩んだようだが、こちらもアメリカ限定のレイズ。ポテトチップスの老舗で、日本では販売されていないフレーバーを見繕って来たもよう。
男衆にならフォアローゼズやワイルドターキーといった、バーボンウィスキーが定番であろうが、栄養科三人組にはそうも行かないわけで。京子と相談した結果が日本で売られていない、アメリカ限定のオレオとレイズだったりする。
「これ、気に入ってもらえると嬉しいな、みやびちゃん」
「これってギラデリの板チョコよね、山下さん」
「そう、色んなフレーバーの詰め合わせ。俺としてはシーソルトキャラメルがお勧めかな」
うわありがとうと目を細める栄養科三人組と嫁たち。
アルネ組とカエラ組も嬉しそうに受け取り、夕食のリクエストはと尋ねてみる。すると徹に京子、山下に
「こてこての和食がいいよな、京子」
「やっぱり味噌醤油ってズルイわよね、徹さん」
「天ぷらが食いたいよな、マルガ」
「お刺身もね、
あーはいはいと、席を立つ栄養科三人組。何となく予測はしていたのだ、日本食が欲しいだろうなと。既に仕込みを始めていたマーガレットが、準備万端ですと満面の笑みで台所からグーサイン。
佐伯組に黒田組と工藤組、アンガス組と早苗さんに桑名もそろそろ戻って来る頃合いだ。今夜の蓮沼家はお刺身と天ぷら盛り合わせに、山かけご飯とざる蕎麦になるもよう。
縁側では満君とクロヒョウ三兄弟が、マルガからもらったジャックリンクスのビーフジャーキーをもりもり頬張っていた。
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