第622話 セラフィム
「全砲門を開きます、豊っち……ああ寝てるんだった。美櫻さんお願い」
「任せて彩花さん、緊急連絡、総員戦闘配備!」
「すごい数だな、ゲートを開いてどんどん集まって来てる」
「もしかして怖じ気づいた? 秀一」
美櫻にご冗談をと言いながら、秀一が祭壇のパネルをタップする。対艦ミサイルと宇宙魚雷をいつでも射出できるよう操作し、こっちも準備完了と声を上げた。
ついさっきまでは、囲炉裏テーブルでだべっていた三人。話題はやっぱり豊がティーナを、押し倒す勢いで攻略したこと。緑茶を飲みながらポテチを頬張りながら、そんな手もあるんだなと、よろしくない考えが脳裏を過った三人である。
アンドロメダ銀河に入りまずはジェシカの故郷、ガリアン星に進路を向けたアマテラス号。そこへ早速のお出迎えで広域宇宙レーダーに、アラームと共におびただしい数の敵艦が表示され今に至る。
そこへ艦橋を駆け上がって来た、みやびたち首脳陣が祭壇に到着。飯塚組も一緒で、ジェシカが即座に艦影の確認をする。
「戦艦五隻に空母三隻だな、空母からは宇宙戦闘機がどんどん発艦している。巡洋艦と駆逐艦は悪いが、数えるのが面倒くさいほどだ」
言ってるそばから対艦ミサイルに宇宙魚雷が飛んできたけれど、こっちは物理反射に魔力吸収と万能吸収の黄金船。ただしダメージは受けないが爆風で、船体が大きく揺れる。
「第一シールド破られました、みやびさんどうします?」
「このまま敵のど真ん中に突っ込むわよ、美櫻さん。最大船速で直進よーそろ!」
物理反射で敵艦のあちこちから火の手が上がったけれど、戦艦は虹色コーティングを施してあるようで無傷。そこはみやびだって折り込み済み、アマテラス号の主砲と副砲が咆哮をあげる。射程を十宇宙海里に調整した粒子砲が、敵戦艦に穴を空け貫通していった。
挨拶も無いままいきなり仕掛けてくる相手に、情けなどミジンコほども持ち合わせていない任侠大精霊さま。敢えて敵艦隊のど真ん中に突っ込んだのは、同士討ちになるため敵さんが下手に撃てなくなるからだ。
みやびが外道を即座にブラックホールへ放り込まない理由、それは他者を傷付ける行為の何たるかを魂に深く刻み込んでやるため。
「イラコ号とエピフォン号の砲門も開きますね、みやびさん」
「まだノーダメージの巡洋艦や駆逐艦にどんどん撃ってちょうだい、彩花さん」
任せてと怪しく笑い、パネルのアイコンをタップする彩花。秀一と美櫻も小バエのように寄ってくる宇宙戦闘機を、四属性
飯塚とジェシカもパネル操作に参加し、対艦ミサイルと宇宙魚雷を放ちまくった。船内武器庫では雅会任侠チームが、ミサイルと魚雷をえっさほいさと補充している。近代化改修でコンベアに乗せれば、射出口に自動装填される仕組みに改良されているのだ。
黄金船を相手に手も足も出ず被弾し、黒煙と炎を撒き散らす敵艦隊。通信要請を続けているみやびだけれど、梨の
「敵さん白旗揚げるかな、麻子」
「どうだろうね、香澄。お馬鹿だから僕ちゃんが負けるはずないって、頑張っちゃうかもよ」
そのドンパチが突然止んで、宇宙空間が静寂を取り戻した。
何と全ての敵艦と敵戦闘機が、一瞬にして消え失せたのだ。時空の歪みは確認されておらず、ゲートを開いて逃げたとは考えにくい。祭壇を囲んで顔を見合わせるみやび達だが、何が起きたかのかさっぱり分からず首を傾げる。
「あなた達、この銀河をどうしたいのかしら」
いつの間にか囲炉裏テーブルにちょんと座り、秀一たちがお茶請けにしていたポテチを頬張ってる人が。女性っぽいけど中性的な雰囲気で、聖職者みたいな服装をしている。誰この人と、目が点になってしまう祭壇の面々。
「あの、もしかして、あなたがセラフィム?」
「そうよ、イン・アンナの愛し子。エル・シャダイが行け行けってうるさいから、こうして会いに来たわけ。交戦中の船は邪魔だったから、全てブラックホールに放り込んだわ」
つまりこの人がアンドロメダ銀河を統括する大精霊で、情けも容赦もないのはブチ切れたみやび以上かも知れない。エル・シャダイは気難しいと評していたが、果たしてみやび達の言葉に耳を傾けてくれるんだろうか。
「はいネギマお待たせ、セラフィム。こっちが塩でこっちがタレね」
「これが焼き鳥というやつね、
ねぎまを頬張りビールを流し込んでプハッと息を吐く、アンドロメダ銀河の大精霊さま。夜のみやび亭開店にはまだ早いから、囲炉裏テーブルで炉端焼きを始めた栄養科三人組である。
麻子組がホタテを焼き、香澄組がホッケを焼いて、アルネ組とカエラ組は野菜串とフランクフルトを。戦闘態勢は解除され通常運転に戻ったから、秀一たちと飯塚組もちゃっかりご相伴に預っていた。
「ちょっとそこの聖獣、ビールもう一杯ちょうだい」
「はい、少々お待ちください」
みやびが亜空間倉庫から出したビールサーバーに、大ジョッキを当てて生ビールを注ぐアリス。きっちり七対三で、どうぞとセラフィムの前に置く。
そこからは延々と、セラフィムの愚痴を聞かされる羽目になるみやび達。せっかく生み出した銀河から正しい精霊信仰が失われ、もはや鋳つぶして作り直しだわと。
エル・シャダイは気難しいと話していたが、どっちかって言うと小言が多い昭和生まれのお婆ちゃんに近い。
「私たちね、アンドロメダ銀河を存続させたいのよ、セラフィム」
「それは人類に信仰心を取り戻させるってことよ、イン・アンナの愛し子。人間とは慢心を起こし自らを過信し、宇宙の意思と精霊の存在を忘れ去るもの。今まで何度も見て来たし、その度に私たちは作り直して来たのだから」
そこを曲げてチャンスをちょうだいと、鶏皮串にレバー串とつくね串を並べて行くみやび。つくねを選んで頬張りながら、みやびを射るように見据えたセラフィム。ちなみにビールジョッキは手放さず、ほれほれとアリスにお代わりを催促する。こんな雰囲気で飲み食いするの、嫌いじゃないみたいだ。
「私も含めこの銀河の精霊たちは、あんまり気は長くないわ。
やったね、セラフィムから何とか約束を取り付けたみやび。麻子も香澄もそれぞれの嫁たちも、ほっと胸を撫で下ろす。だが一番救われたのはきっと、アンドロメダを故郷とするジェシカであろう。
――セラフィムが帰った後、ここは場所を移してアケローン川。
訪れたのはみやびとアリスだけなんだけれど、なぜか炉端焼きをまたやる羽目に。アリスを生み出したのはイン・アンナであり、グランド・マザーだから筋を通しに来たのだ。
「あの、カロンお爺ちゃんは分かるんだけど、どうしてぬっしーとシャダイっちまでいるのかしら」
「固いこと言いなさんな、みやび。君もそう思うだろ、シャダイっち」
「そうそう、あのセラフィムから譲歩を引き出したんだ。おめでとうの乾杯をさせてくれ」
どう見ても炉端焼きを楽しみたいようにしか見えないのだが。まあしゃあないと、尻尾を振るワンコ状態の大精霊さま達に、焼きハマグリと焼きトン串を並べるみやびである。
「それで、私に話しがあるのよね、みやび」
「単刀直入に言うわね、イン・アンナ。アリスを私にちょうだい」
大ジョッキを片手に焼きトン串を頬張るイン・アンナが、ふうんとアリスをちらりと見やる。当のご本人はお盆で顔を隠し、ふよふよ浮いている。
「気付いてると思うけど、アリスの魔力を供給していたのはこの私。これからはみやびが供給元になるわ、それは承知の上なのよね?」
「もちろんよ、家族として養うのだから」
「そう、ならいいわ。魔力食いの聖なる獣、大事にしてちょうだい」
そう言ってイン・アンナはアリスに、ここへいらっしゃいと声を掛けた。お盆から半分顔を出した自らの創造物に目を細め、優しく頭を撫でる。
「アリス、ファフニールだけでなくフレイアとも血の交換をしなさい。アウト・ロウともね」
「え?」
「聖獣とは正しき精霊信仰を保つ者に、加護と恩恵を与える存在。更に力を付け、みやびを支えるのです」
「分かりました、グランド・マザー」
何だか話しが大きくなったようなと、みやびの顔が引きつる。
だがぬっしーもシャダイっちも、アリスはよくできた聖獣だとジョッキを煽る。普通はこんな細やかな性格にはならないらしく、製造元であるイン・アンナと、生活を共にするみやびの影響だろうと口を揃えた。
「私はこれからも、マザーをお姉ちゃんと呼ばなきゃいけないのですか?」
「んふふ、お姉ちゃんでいいのよアリス。これからもよろしくね」
お姉ちゃんと呼びなさいオーラが立ちこめる、顔は満面の笑みだが目が笑ってない任侠大精霊さま。その迫力にアリスが思いっきりびびって、お盆を落としそうになりはっしと掴んだ。
宇宙は膨張を続けており、暗黒空間にどんどん銀河を生み出すのが精霊の本懐と言える。けれど大精霊になれる魂はそうそう見つからず、宇宙の意思を代弁する精霊は人手不足なのだ。
みやびは面白い……もとい良い大精霊になると、ぬっしーとシャダイっちがジョッキをぶつけ合った。ちなみにカロンお爺ちゃんは焼きトン串が十本目、だいぶ気に入ったみたいだ。
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