第543話 情報を一部開示

 ――ここは総理官邸の一室。


 みやび、ファフニール、そしてメライヤが、総理と会談していた。もちろん早苗も一緒で、話しの流れをコントロールしている。台本はないけれど、どんな話しをするかは予め打ち合わせ済み。


 そろそろ情報を出さないと、蓮沼家に群がる報道陣の数が、増える事はあっても減らないからだ。そんな訳で室内には記者団を招き入れているが、質問は一切禁止、お行儀の悪い子はご退場いただくことになっている。


「メライヤさんは、どうやって日本にいらしたのでしょう。宇宙船が飛来したという情報はありませんが」

「光属性が持つゲートの力で来ました、総理」

「その属性というものを、詳しくお聞かせ願えませんか」


 それは私からと、ファフニールが小さく手を挙げた。彼女は空気中の水分を集め、掌に氷を作って見せた。記者団からどよめきが起こるけれど、警護に付くモムノフさん達から静粛にと睨まれている。


「人は何かしらの属性を必ず持っています。光・闇・火・水・風・地、このいずれかに属して生を受けるのです。それは地球人も同じ、ただ光属性と闇属性は、希少な存在ですね」

「つまり我々も条件を満たせば、氷を作ったりできる訳ですね、ファフニールさん」

「はい総理、特にアマツ族を祖先に持つ日本人ならば、素養があるはずです」


 ファフニールから氷を受け取ったみやびが、ミネラル水の入ったコップに浮かべ、そのまま沸騰させてみせる。氷が溶け湯気を立てるコップに、再び記者団からどよめきが起きた。なんせ実演したのは日本人であるみやびだから、誰もが驚きを隠せないでいるのだ。


「宇宙船の機能を全て使うには、この力……私たちは魔力と呼んでいますが、行使できる六属性を全員揃える必要があります。誰でも動かせるという訳ではありません、総理」

「成る程、人員は数ではなく属性ということですね、ファフニールさん」


 その通りですと頷く、ファフニールとメライヤ。

 この場に於いてメライヤが宇宙迷子ってことは、伏せておくことにしたみやび達。報道陣が知りたがっていること、いや世界中が知りたがっているのは、宇宙船の数と戦闘能力だろうと読んでいたからだ。


「都合が悪ければお答え頂かなくても結構なんですが、宇宙船をどれほど保有してらっしゃるのでしょうか、ファフニールさん」

「所有国は違いますが、惑星イオナでは三隻保有しております、副総理。日本も一隻保有していますよ、艦名はアメノトリフネ号、持ち主は今上陛下です」


 なんだってーという声が、報道陣のあちこちから上がった。これで世界中は大騒ぎになるだろう。ちなみにみやびが三隻保有していることは、まだナイショである。


「クルーがいないので、募集してはいかがでしょう、総理。特に光属性と闇属性は大歓迎ですね。宇宙自衛隊の創設、地球の未来が広がりますよ」


 総理と副総理がニヤリと笑った、みやびにこれを言わせる筋書きだったからだ。立ち会っていた新沼海将も、よしよしとほくそ笑んでいる。そこで攻撃力はどうなのかしらと、早苗がみやびにわざとらしく尋ねた。


「最大出力だと地球は丸焦げになりますよ、副総理。乗組員の任用には徹底した身上調査が必要でしょう」


 口には出さないがよしオッケーと、早苗は満足そうな顔で頷いた。これで日本の領土にちょっかい出そうって国は、諦めざるを得ないだろう。台湾有事も回避できて、一石二鳥である。


 憲法九条も改正され、自衛隊が正式に日本の国防軍であると明記された。日本は二度と軍国主義にはならない。だが他国からの武力による現状変更は容認せず、鉄槌を下すと世界に向けて宣言したも同然。そこに宇宙自衛隊の創設ときたもんだ。

 竹島も尖閣諸島も日本の領土、さっさと出て行け。北方領土はいつ返還するんだ早く答えろ、そんな無言の圧力をかけたに等しい。


 会談が終わり報道陣がこれはえらいこっちゃと、蜘蛛の子を散らすように総理官邸を飛び出して行く。このニュースが世界中を駆け巡り、日本の外交スタンスを知らしめることになる。C国とR国にKC国がどんな反応を示すか見物だと、紀氏田も早苗もふふんと笑うのであった。


 ――ここはアメリカ合衆国の大統領官邸、ホワイトハウス。


「みやび・蓮沼とはいったい何者なんだ? CIA中央諜報局は何をしている」

「スパイ防止法が制定され、諜報活動が難航しているようです、ハドソン大統領」


 それにしたって情報が少なすぎるだろうと、大統領は補佐官に胡乱な目を向けた。そうは言っても人ならざる力を行使され、モムノフさんもいる蓮沼家は鉄壁の守り。みやび組のホームページと大学生活、ロマニア食品グループ以外の情報がまるで入ってこないのだ。


「日米首脳会談は必須です、大統領。それに合わせてみやび組を我が国に招待されてはいかがでしょうか、食に精通しているようですし」

「何か考えがあるのかね? ジェニファー広報担当官君」

「我々は核兵器を使用してしまいました、全米の有権者がその行為に憂いています。みやび・蓮沼と話しを、彼女を敵に回すのは得策ではありません」


 かつてアメリカは世界の警察であった。

 その存在は良くも悪くも、国際秩序を守る天秤の役割を果たしていた。だがその軍事力を維持するためには、米国民の負担があまりにも大きすぎたと言える。

 そろそろ世界の警察から手を引きましょうとなった途端に、C国は国境線が曖昧な南シナ海に軍事拠点を建設し始め、R国はU国に触手を伸ばしたのだ。


 共産主義は王政帝政を否定し、信教を認めない上に国家間の取り決めを平気で破る性質を持つ。国民を騙し搾取し、根底に領土的野心を持つのがデフォルト。これは歴史が証明しており、ゆえに共産主義を禁止するのが世界の民主主義に於けるスタンダードなのだ。


「名目はNASA航空宇宙局との懇談会を兼ねた会食。それならば来てもらえるのではないでしょうか、ハドソン大統領」

「名案だなジェニファー君、日本の外務省と調整を頼む。私もそうだな、ホットラインでキッシー紀氏田総理と話そう、早い方がいい」


 アメリカが動き出したくらいだ、イギリスもフランスもドイツも、みやび組に接触しようと試みるのは明らか。けれど蓮沼家は、別の話題で盛り上がっていたりして。


「デートは簡単に言うとね、マルガマルゲリータ、好き合っている恋人同士が遊びに行くってことなのよ」

「スオンの申し出とは異なるのでしょうか、ラングリーフィン」


 それはプロポーズよねーと、ぷくくと笑う麻子と香澄。

 ここは蓮沼家の敷地内、みやびの離れ。山下から誘われていると、マルガが相談に来ていた。デートの意味が分からず、ずっと返事を保留にしていたらしい。

 ちなみにみやびの離れが、政治結社みやび組の本拠地。今日も全国のネット民から届いた食材や調味料が、縁側にずらっと並んでいる。


 寮の近衛隊はみんな洋服に切り替わっているが、マルガはまだ守備隊の第一種警戒態勢だった。本人がいざという時、竜化しにくいからと断っていたのだ。

 そんなわけで妙子さんにも来てもらい、スリーサイズを計りながら着せ替えタイムと相成った次第。仕事から戻った工藤の愛妻、ミリーアメリアも加わりみんなでわいきゃい。


「やっぱり地属性ね、ボンキュッポンのグラマラスボディだわ、みやびさん」

「第一種警戒態勢だと胸やお尻って分からないものよね、妙子さん」


 マントを羽織ると尚更ねと、巻き尺を手にする妙子がむふんと笑う。ボンキュッポンって何でしょうかと、全裸のマルガは首を傾げているけれど。

 自分が他人からどう映るかどう見られているか、それを全く気にしないのがリンドの女子。天真爛漫とも言うが、スオンを獲得する為にはお洒落も大事。


 レトロガーリーなんてどうかしらと、香澄がノートパソコンを開いて画像を並べていく。そこへ量産型オタクガーリーも捨てがたいわと麻子が言い出し、このオヤジがと香澄が半眼を向ける。


「どっちも悪くないんじゃない? 代官山にいそうな子と、秋葉原にいそうな子の違いだし」


 そんなことをみやびが言っちゃうもんだから、麻子と香澄の暴走が始まる。そして出て来たのはまるで地下アイドルの衣装、どうしてそうなった。


「これで行きましょう、妙子さん」

「そ、それでいいのね麻子さん」

「フリルとレースをふんだんに使いましょう、妙子さん」

「わ、分かったわ香澄さん」


 私もこんな衣装が欲しいとミリーが言い出しちゃった。山下記者が見たらどんな顔するかしらと、へにゃりと笑うみやび。そして話しに全く付いて来れない、マルガであった。

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