第203話 水の奥義
実体は竜だし、普段着にしているキトンは布一枚。光の加減によっては体の線が丸わかりで、ランハルト公に言わせるとけっこうエロい。
けれどリンド族の女子は羞恥心というものが欠如しているらしく、大らかで開けっぴろげなところがある。まあ竜なので。
ただし着替える所を見て良いのは、同性か絆を結んだスオンだけ。この点を注意していないと、魔力弾が飛んできて生命の危機だ。
裸体を晒すことよりも
それはさて置き。
基本的にこちらの住人は、衆目に肌を晒すのも晒されるのも慣れていない。なのでみやびの水着姿は、少々目の毒と言える。
岸壁で網の手入れをしていた漁師達がええ? と言う顔で固まり、作業をする手がすっかり止まっていた。
けれどそんなことは全く気にしない魔王さま。シルビア姫から着痩せするタイプと評され、ちょこっと照れてはいるが。
「水着と言って、私の国ではこれが泳ぐ時の
腰に網袋を結びつつ、自分の体を指差しながらビキニからTバックまで説明しちゃうみやび。想像してしまったのか、ヨハン君とバルディが思わず鼻を押さえた。もしかして鼻血が出た?
ヨハン君は毎晩、レベッカのすっぽんぽんを見ているはず。フルオープンよりも布で隠されている方が、男心をくすぐるのであろうか。
だけどアルネが怖い顔というか鬼女と化しつつあるので、そろそろ気付いた方がいいぞヨハン君。
今のこの状況を見たら、ファフニールとレベッカはどんな反応を示すだろう。そう話しつつ、ティーナとローレルは頭に思い浮かべてみる。リンド族の女子、情愛が深い分その反動も大きい。
氷結地獄と火炎地獄の交互攻撃になるわねと、二人の意見が一致。ヨハン君もバルディも、漁師さん達も、二人がこの場にいなくて良かったね。
陽光に照らされ健康的な肢体を披露するみやびが、目を閉じ両手を胸に当てて集中を始めた。全身から眩い七色の光を発し、その色が万華鏡が如く移り変わる。
精霊が降臨したような姿は美しくもあり、神聖で犯しがたい
そんな彼女の両手に水掻きが現われ、両膝下が魚の尾ビレみたいに変化を遂げる。首にエラのような器官も出来上がり、その姿はまるで人魚。着用しているのは学園指定のスク水なんだけど。
「んふふ。皇帝陛下から漁業権もらったことだし、乱獲してくるね」
そう言って岸壁から海に飛び込んだみやびだが、その直後が凄まじかった。ドンという音が聞こえそうな程の
それは時速八十キロ以上で泳ぐマグロよりも、時速百キロ以上で泳ぐメカジキすらも
「これは水の奥義……ですな」
人魚と化した時点で青天の
クララにシルビア姫も茫然自失で、漁師さん達に至っても何が起きたか頭の整理が追いつかず真っ白状態。
「うん、深く考えないようにしてるから大丈夫。そうよね? ヨハン兄さん」
「そうそう。考えちゃダメなんだよな、アルネ」
「ラングリーフィンは計り知れないのですぅ、ティーナ」
「うんうん、ローレル。でもそれで納得していいのかなって、ふっと思う時もあるのよね」
タマちゃんのゴンドラへ戻り、クッキーを頬張りつつティータイムを始めたみやびチームの四人。
クララとシルビア姫、そしてバルディが再起動して湯呑みを手にするのは、ちょいと時間がかかりそうだった。
このクラゲは麻子に言わせると、立派な中華食材だったような。
そんな事を思いつつ、フワフワと漂う備前クラゲを横目で見ながらみやびは海底にまっしぐら。狙うはエビカニにイカタコ、良さげな食材を見つけたらそいつもゲットだ。アコウダイとかクエとか、超が付く高級魚なら大歓迎。
人間の目からは水深が深くなればなるほど、海洋生物は本来持つ色を失う。それは人が太陽光に反射した色を見ているから。
光の届かない深さになると、まずは赤、そして黄色が識別できなくなる。色が派手なマダイも、水深百メートルにもなれば白に近いグレーなのだ。あの派手な色は、実は生活環境に合わせた保護色だったりする。
しかし今のみやびは瞳が水属性の碧眼。どこに何がいるかはすっかりお見通しで、ひょいひょい捕まえては腰に結んだ網袋に入れていく。
漁の邪魔をしに来たサメの一団には、頭にパンチとチョップと強靱な尾ビレによるキックで撃退。
サメも食べられるけど、あんまり美味しくないのよね。フカヒレだけなら麻子が喜びそうだけど。
通りすがりのウミガメさんを見つけ、その甲羅で休憩しつつサメをどう解体するかに思いを馳せる魔王さま。サメちゃんたち良かったね、食材対象にならなくて。
ウミガメに横乗りして、網袋の中身を確認しつつご満悦のみやび。その姿は美しく、海の精霊と言っても過言ではなかった。
魚食性の強いマグロやカジキが恐れをなしたのか、みやびに全く寄りつかない。安全と思ったのか、周囲にアジやイワシといった小魚の群れが集まり出した。
その魚群を眺め目を細めつつも……、もっと大きくなったら食べてあげると思っちゃう所はやっぱり魔王さまだったりする。
海面に浮上し、そこからは風の奥義で一気に岸壁へ戻ったみやび。こちらの世界に来た頃はショートボブだったみやびの髪は、今ではブラ下まで伸びていた。
普通なら伸びても五センチ位のはずだけれど、これも
これが漁師さん達のハートをズキュンと射貫いちゃったらしい。彼らは本日、目の保養をし過ぎて仕事できません。
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