ボルドーシャヴ

エリー.ファー

ボルドーシャヴ

 この船に乗るなと私は言ったはずだ。

 いいな、ここで殺されることになってもいいということだな。

 そう考えるぞ。

 私たちは、この船で麻薬を運んでいる。海を五つ渡り、白泉を通り、最後にはここに戻ってくる。その間の温度差によって麻薬の熟成が進み、芳醇な香りが漂い始める。

 嘘ではない。

 これが事実だ。

 途中の諸国では、この香りの強さによって好みがあるので、それに合わせて降ろしていく。

 お前には、その手伝いをしてもらうことにする。

 船に乗ったんだ。乗船料くらいは、労働という形でもらうことにする。

 私たちは、麻薬を売りさばくのが仕事だ。決して、お前のような女をどこかへと連れていく誘拐犯でも、舟渡でもない。

 いいか、生きていくことを選択しろ。そして、その結果がすべて労働に繋がっていると思え。

 私たちは、男であるとか女であるとか、そのような性別で分けることをしない。労働力としてのレベルが著しく低ければここで生活する権利も与えない。そういう意味では平等だ。

 女であることを悔やんで生きていく必要はない。死ぬときは無能であることを悔やんで死ね。

 私は、この船の決まりごとのすべてを理解できるわけではない。なぜなら、この船には頭と呼ばれる人間が数えきれないほど乗っているからだ。つまり、その都度、この船内のルールは変わり、しかもどのように変わったのかという告知すらない。

 空気を読め。雰囲気だけを頼りに生き残れ。明確な規則はないが、守らなければ次はない。

 いいな。

 分かったな。

 正直、お前のような人間は明日には一切の痕跡も残らず死んでいることだろう。安心せず働き、用心しながら眠り、誰にも感謝することなく、頼ることなく生きていけ。

 この船に乗ったことを後悔する必要はない。

 寿命がほんの少し短くなっただけだ。


 ここにいた、女はどうした。

 ほら、汚い女だ。

 隠れて乗ってきて働こうとしていた女だ。

 あぁ、なるほど。

 サーベルで、生きたまま首を切り裂いていって、絶叫しながら謝罪を続ける姿を見て、みんなで楽しんだと。

 そうか。

 まぁ、それくらいの使い道しかなかったな、あの女は。

 で、次の島の名前はなんだ。

 サクライケデゥ島。

 麻薬の名前は蓮町。枯れ具合はニコタールレベル。香り自体は余りたたないものを用意しろ。間違っても青いものを持っていくなよ、あそこの富豪は金を出し渋るくせに、目はいい。

 まぁ、少しくらいは暇になるかもしれないが、気を付けておけ。

 いつだって、この船に乗せている麻薬は、金以上の価値を生む。きっと、命は二の次で哀れな空気を口から吐き出す死神たちが笑いながら探しに来ているはずだ。渡すなよ、死んでも守れよ。


 麻薬を売り払えば、こんな島に用はない。

 お、なんだこの骨は。

 あぁ、あの女の骨か。

 もう、肉もついていないじゃないか。そんなに長くこの倉庫に置いておいたのか。

 何故、海に投げなかったのか、と聞くのは野暮だな。

 可哀そうにな。

 人間の死体のせいで、この部分においてあった、盗んできた家具が少し腐り始めてる。

 家具が可哀そうだ。

 高く売れないかもしれない。

 俺たちが手にできる金が少ないかもしれない。

 つまり、俺たちが可哀そうだ。

 この女の死体を家具のところに置いたやつを連れてこい。

 麻薬もたくさん売れたんだ。今日は、そいつを的にして宴としようじゃないか。

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