第8話 Do you wanna join us!?

パース最後の一日は、まずは今後の目的地である「ダーウィン」のツアーを決めておくことにした。


現地であれこれ決めるよりかは、ここパースである程度決めておいたほうが時間を効率よく使えると考えたからである。


もっとも、先の予定を決めてしまうということは、確かに効率的に動くことができ、行動にメリハリがつくことは間違いない。

しかし、逆にいうと、時間に制約が出るのも確かである。


私のような自由な旅は、「何時までに」とか、「いつまでに」など、時間に追われることのないよう、先の予定を決めるということは通常あまりしないスタンスではあるが、時と場合による。


今のように、いつまでも居心地のいい場所に居座りすぎてしまいそうな場合は強制的に予定を立てるのも一つの有効な手段。

時間は有限である。


その後は「スカボロビーチ」までバスに乗り出かける。

スカボロは海に面したパースの中でも人気あるビーチの一つで、かって私が住んでいた町でもある。


この町でオーストラリア生活の大半を過ごしたこともあり、とても感慨深く感じる。

何も変わってない景色を一瞬見ただけで、当時の記憶が色々と蘇ってきた。


みんな元気でいるかな、なんて考えだすとまた会いたい気持ちが止まらなくなりそうだったので、ここは先に進む為にも思い出に浸るだけにとどめ、きれいな海を目に焼き付けながら引き上げた。


今晩がパース最後の夜と言う事で、お別れ会も含め、宿のいつもの食堂で飲み会が始まる。

とても居心地がよくなってきていたけども、ここにいるそれぞれが目的がある。

そのために別々の道を歩むことは必然でもあり、進まなければならない。


ビール片手に名残惜しく最後の夜を味わう。

特別な話をするわけでもなく、地元の話や、これからのこと、みんなが思い思いの事を語りながら酒も進んでいった。


だんだんとテンションも上がり、明るいムードに満ちてきたところ、カイト君から

「これからみんなでマスタングに行かないか」との提案。

マスタングとは、シティにある有名なPUBで、酒を飲み踊ったり、いうなれば日本でいうクラブのような類の場所である。


その提案に食い気味に賛成の手を挙げたのは、すっかり出来上がっているパンである。

体と同じぐらいの声のでかさで、れっつふぉー!(レッツゴー)と叫んでいる。


酒を飲む前はいるのかどうかもわからない存在感だった男が、もはやマスタングリーダーとして先陣を切りだす。


すっかり酒で出来上がり、楽しいムードになった私たちは満場一致でマスタングに向かうことに。


目的の場所へ向かう道中、ガソリンである酒を追加するためにコンビニへ。

そこでひと問題が起きる。

ふと見ると、なにやらカイト君が店員ともめている。

全く聞き取れないネイティブ並みの英語話し、カイト君が店員に詰め寄っている。

どちらに非があるのかわからないが、カイト君に店員は応じることなくだんまりを決め込み時折反論するのみ。

そこにカイト君が何やらたたみ掛ける。


カイト君は気が済んだのか、店を出て事態は収束したが、聞くところによればお釣りの間違いから口論に発展したそうな。


いや、しかし。理由はどうあれ、私はこの年下のストゥーデントに感服せざるを得なかった。


果たしてわたしが仮にお釣りの間違いに気づき、店員に非があることがわかっても、あのようなことを言えるだろうか?異国の地で、物怖じもせず、自分の主張を述べれるだろうか?


現時点での私ではNOだ。


とてもじゃないけど、そんな勇気は持ち合わせていなかった。おそらく気づいたとしても、黙ってやり過ごすことになるだろう。

そんな自分に恥じている時、ふと、通りに目を移すと、


「Do you wanna join us!?」「Do you wanna join us!?」

(俺たちと一緒に行かないか?!)


と、片っ端から通行人に声をかけているパンが目に入った。

先ほど自分を恥じた気持ちは、パンを恥じることによってすっかり失せてしまった。


マスタングではパンを筆頭に踊り狂った。

普段、踊りなどめったにしない私だが、それはむしろ踊りではなくみんなで肩を組み、円陣を組みながら飛び跳ねるといった類のもので、周りからすれば迷惑極まりないアジア人の集団だったであろう。

が、名も知らない人たちもパンの「Do you wanna join us!?」の言葉に惹かれ、いつしか大勢が円陣に加わり、パース最後の夜は盛り上がっていった。



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