第7話 パンとカイトくん
ユージ君から紹介された同じバックパッカーズに泊まる二人。
韓国人のパンと、日本人のカイトくんはパースの大学に通い、STUDENT VISA(学生ビザ)を取得してここパースに滞在している。
学生である以上、よほどの資金に余裕あるものでない限り、私たち同様節約にいそしみ、このような安宿に泊まりつつ学校に通うものも少なくない。
それは世界各国同じのようだ。
新しく来た私を紹介がてら、安宿の共同キッチンにみんなで夕食、そしてビール片手にテーブルを囲む。
オーストラリアのバックパッカーズ的な安宿には大抵このような共同キッチンが併設されていて、それぞれが自分で食材を管理し、自炊する。
この日もスーパーで買ってきた簡単な食材を調理した。
余ったものは他の者に間違えて食われたり盗まれたりしないよう、名前を書いて冷蔵庫に保存する。
しばらくオーストラリアでの生活が続く私も必要最低限の調味料は揃えておいた。
かさばるため量もできるだけ少なく。そして移動の際に痛まないようなものをチョイスするのが鉄則だ。
それぞれ見た目はあまりよくないパスタや、チャーハン的ないわゆる男飯をつまみながら自己紹介をかねて懇親会が始まる。
当時の私は25歳、ユージ君が29歳、カイト君とパンは同い年の23歳。
パンは体はかなり大きく、なにか格闘技でもやってるかのような体躯をしているが、本人曰く生まれつきの恵まれた体形なだけで、特にこれといって特技はないらしい。
もっとも、韓国の若者は数年間、義務として軍に入りそこで訓練を受ける。
ときおり韓国の俳優などが、なんとかそれを受けまいと、ニュースになるのも見かける。
我々日本人よりも常に危険と隣り合わせなのだ。
それこそ、北朝鮮の脅威にさらされていることを考えれば、自国を守るための致し方ない防衛手段なのだろう。
もっともそんな簡単にまとめられる話では決してない。
だが、このパンに関しても韓国民の義務を果たしてきたわけで、とりたて実戦経験はなくとも、平和ボケしている私たちに比べればはるかに戦闘能力は高いのだろう。
そんな私の思いとは裏腹に、物静かでとてもシャイな韓国人だ。
その横にいるのが、いかにも秀才、そして男前という天から二物もの恩恵をうけたカイト君。
そして、カイト君はパンとは相対的によく喋る人だった。
話す内容を聞いているといかにも論理的な内容のため、頭の悪い私には少し苦手なタイプではあった。
パンと話すときは全員英語で話すため、そこで彼の英語力の高さを目の当たりにする。
さすが、英語を生業としている学生。脱帽。
そんな時、自身の英語力に恥ずかしい思いもした。
しかし、ユージ君がいるので安心もしていた。
同レベルだからである。
そんなカイト君も、これから世界一周を目指す私に興味を持ってくれたようで、話の中心は私にうつった。
学生の身分である以上、このような思い切った旅は難しく、その分余計に興味がわくのかもしれない。
「世界一周?めちゃくちゃいいですね~!俺もいつかやってみたいなー!」
「カイトくんなら 帰国後しっかりした外資系に入社して、稼ぎも全然ちがうだろうから、俺みたいな貧乏旅行じゃなくてもっと豪華な旅がいつでもできるよー」
「そんなうまくいかないですよ、ヒュミさん。それに俺、こういう宿の方が意外と肌に合うんです。将来旅に出るとしても、同じバックパッカースタイルでいきたいですね。」
酒が入ると意外と話も合いそうである。
やはり私の先入観の問題か。
それよりも、先ほどまで全く静かで傾聴のスキルが高いと感じていたパンが、いつのまにか席を離れ、あちこちで笑いながら上機嫌に宿のみんなに話しかけている。
どうやら、酔うとこうなるタイプらしい。
そんなこんなで、日本人同士、お互いの故郷の事や、これからの事、たわいもない話をしながら夜は更けていった。
パースにいるのもあと1日である。
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