第6話 旧友
もう一人、旧友との再会を書いておきたい。
彼の名は、「ユージ君」。
前述した5年前のインドネシアで出会い、当時、全財産をもぎ取られ、途方に暮れていた私を救ってくれた一人である。
歳は4つほど先輩ではあるが、地元も同じ大阪という事もあって、帰国後も時折会う機会を作り、食事などを共にしていた。
その彼が、奮起一転、オーストラリアの地を目指し、「ワーキングホリデー」の制度を使ってこのパースにきたのが、およそ8か月ほど前。
いろいろと彼なりに日本でも思うことがあり、至った決断のようだった。
それはさておき、私にとってはまぎれもなく「恩人」である。
彼独特のゆるい感じも大好きで、先輩風などふかすこともなく、ただただ、マイペースな雰囲気の彼に会いたかったのはパースに来た理由の一つとして数えてもいい。
待ち合わせは、久しぶりの「スワンリバー」
地元の人たちが、朝からジョギングをしたり、散歩をしたり…パース市街における市民憩いの場所。
パースといえば、ここに来ないと始まらない。
そんなスワンリバーでユージ君と待ち合わせをする。
「ヒュミ!ひさしぶり!!!」
「ユージ君!!会いたかったです!!!」
旅を通じて出会ったからか、大阪よりもしっくりなじむ気がする。こういう旅先の方が。
ひとしきりお互いの近況を共有しつつ、スワンリバーの瀟洒なカフェで朝食をとる。
今日一日は久しぶりのパース観光に付き合ってもらう予定だ。
まずは、市内きっての観光名所「キングスパーク」。
ここから一望できるパース市街の風景をみていると、5年前の当時をいろいろと思い出す。
忘れかけていた何かが少しずつ戻ってくるような。懐かしい気持ちでいっぱいになる。
「ヒュミは、そういえばこれからどうするの?」
「これからは…まずダーウィンまで北上して、そのあと…世界一周しようと思ってるんです!とりあえずは、アジアをぶらぶらしながら」
「おぉ!まじかー!今回はそんな壮大な旅やったんやねー!うらやましいなぁ、今がスタートやもんね。」
ユージ君はこのオーストラリアでのワーホリ生活もそろそろ終止符を打つべき時期に来ているらしい。
やりきった、やりきれてない、この期間に思うことは本人にしかわからないことではある。
しかし、異国の地に来ている者同士、やはりお互いのこれからの行き先、活動は気にかかる。
そしてそれは、できれば聞いていて気持ちいいものであってほしい。
こういう話をするときには、羨望の目を向けさせようと誇張気味に自分の経験を話そうとする奴、要するに「イキり」が多いのも実感としてかなり多い。
だが、そんな奴らにくらべ、ユージ君はもはや悟りを開いてるかのよう。
自分のことはもちろん、私のことについても特段感情を荒ぶることもなく、ただ、この優しいまなざしで受け止めてくれる。
そんな彼が大好きなのだ。
そんな話をしながら向かった先は、「スビアコ」
週末に開かれるフリーマーケットは、パース市民にはもちろん、観光客にも有名だ。
その雰囲気を、冷やかしながら味わいたかった。
そして当時の私が、食材配達の「ドライバー」として働いていた日本食レストランがある街。
その面影を見たかったのも理由の一つだ。
昔いた街。
自分にとってそうした街を訪れると言う事は、当時の思い出に浸るだけではなく、蘇ってくる思い出と同時に、何かそれ以外の自分にとって有益な記憶を思い返そうと、期待しているのかもしれない。
生まれてはじめて海外でクルマに乗り、映画で見るような海岸線を走り、慣れない英語を使いながら、配達にいそしんだ記憶はやはり感慨深くもある。
さわやかな思い出とともに、ぶつけまくった車のことも思い出してしまった。
そうして、電車に乗り、向かった先は「フリーマントル」。
海のそばにある港町で、ここも大好きな街の一つ。
この街名物の「フィッシュ&チップス」を食べながら、突き抜けるような青空。
VB 片手にユージ君とたわいもない話を続ける。
周りには休日と言う事もあり、私たちと同じようなオージーたちがにぎやかに語り合っている。
日本と比べるのはこの場合無意味なことでしかないと思うが、しいて言うならこのような日常の気楽さ。日々にある一瞬の幸せのようなものを楽しむ力。これはわが日本においてももっと満喫すべきではないだろうか。
この雰囲気の中ではそんな風に思わざるを得ない。
たわいもない日常ではあるが、それが素晴らしいのである。
あっという間に時は過ぎ、
有名なフリーマントルの「夕陽」を目に焼き付け、パースの街に戻る。
ユージ君の泊っているバックパッカーに宿を移し、そこで日本人の「カイト君」、韓国人の「パン」と知り合う。
そしてユージ君を含め、彼たちが私のパースの旅をさらに彩りいいものにしてくれるのである。
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