第13話 感謝の言葉
そのままリリスに手を伸ばすアドミスを見て思わず悠里はアドミスの手を掴んだ。
「待って」
「お、お前! まだ邪魔するのか? アドミスを誂っているなら後悔することになるぞ!」
「やめろレン!」
アドミスは細身の学生を一喝すると、ゆっくりと視線を悠里に戻し口を開いた。
「なんだ? 言ってみろ。大したことじゃなかったらぶっ潰す」
「そうだね。それじゃあ失礼して。……リリスに呪印は付いていないよそれは俺が保証する」
「お前……」
リリスが悠里の隣で驚きの声を上げる。一方でアドミスは怒りに満ちた目で悠里を見下ろし、手に持ったままの神装武装(シューレ)を悠里の脳天に目掛けて振り下ろしてきた。
悠里は右手に星応力(エーテル)を集約させると、そのままアドミスの攻撃を受け止める。更に一歩近づくとアドミスの武器に内蔵されたトロンコアに触れそのまま力を加える事なくトロンコアを破壊した。
「「なっ!」」
複数の驚きの声が夜の広場に響き、アドミスも一歩後ずさる。
しかし悠里に一本取られた事に腹が立ったのかすぐに仁王立ちで悠里を睨む。
「舐めてんのか!」
怒り狂った怨念のような視線を悠里は受け止めながら膨大な星応力(エーテル)を体から発露させている。
それを体内に無理やり押し込んだ悠里は静かにアドミスを見つめる。
「今君はどうしてリリスに呪印が無いと言い切れるのか聞いてきたよね。その理由に答えると実は今朝ちょっとした事故でリリスの裸を見てるんだ。その時にリリスにそれらしきアザはなかった。君の妹が失踪したのは今日の朝以降なのかな? 失踪したと言う話を聞く限り数日間帰ってきていないような印象を覚えるんだけど」
「くっ……」
アドミスは苦虫を噛み潰したような顔で悠里を品定めするように観察し始めた。
「お前。名前は」
「天久悠里」
「覚えておこう。──リリス! 俺は諦めねぇからな! 絶対にお前が犯人という証拠を見つけ出しぶっ殺す」
そう吐き捨て去っていくアドミスのあとを、残された一人が慌てて追いかけていく。
「はぁ……やれやれだ」
アドミスたちの姿が見えなくなってからリリスは再びベンチに腰を下ろした。
「それじゃあ俺も帰ろっかなー」
悠里はリリスに背中を向けアドミス達が通っていった道を辿るように歩こうとした。
──しかし。
「待て。お前に話がある」
残念ながらリリスは悠里を逃がすことはせずとても女の子とは思えない強靭な力で悠里の手を掴んだ。
「な、何かな。リリスさん」
「……そんなに警戒するな。今日は流石に私も疲れた。特に何もするつもりはない」
「そ、そっか。──それで何かな?」
「うむ。お前は今朝私の胸のアザ(・・)を見たはずだ。どうして庇ったんだ?」
「……それは、君が俺に言った『曲がった事が大嫌い』って発言と君の目が信じられるものだと思ったからだよ。そう言う事を言う人が平然とした顔で嘘を付くとは思えないからね」
「ふっ。確証も無いのに助けた訳か」
「それはそうだけど……だったらリリスさんのその胸のアザに付いて聞かせてもらっていいかい?」
悠里がそう問うた途端にリリスの表情は曇りだした。
「──アザの件については今は話したくない。だがいつかお前が信用できる男と思ったら話してもいい。それと私の事はリリスでいい。さっきまで呼び捨てにしていただろ?」
「分かった。リリス。じゃあアザの件は置いておいて──どうしてあんなに恨まれているんだい? アドミスの去り際の発言を聞くに今回の件以外にも何か恨まれていそうだったけど」
リリスは立ち上がり自販機でコーヒーを買うと一本悠里に向かって放おった。
「あ、ありがとう」
「気にするな。さて、アドミスの話だが、どうやらあいつは私が気に食わないらしい。その手のやつははっきり言えばかなり多いがあいつはかなりしつこい。何度決闘を挑まれたことか……」
「だけど、アドミスって相当強いんだよね?」
「ああ、序列一〇位辺りをいつもウロウロしているな。だが私ほどではないし、そもそも序列なんてそこまで当てにならん。『禁書序列(アクセスオルド)』入りしていなくても実力が有るやつはいっぱいいる」
「アドミスと何度も戦っているってことはリリスってもしかして序列一位だったりするのかな?」
「いや、残念ながら序列二位だ。上には上がいるからな」
リリスはそういうと僅かに口角を上げた。その品定めするような視線に悠里は耐えきれず思わず目を反らす。
「まだおまえに質問がある。お前軍はどうしたんだ? 辞めたのか?」
「うん。そうだね。元々無理やりって感じだったから、上手いことセシリアに買収された感じかな」
「なるほど……それともう一つ。さっきの技は一体何だ? 敵のトロンコアを破壊するなんて……星応技術(ステラスキル)でもあるまい?」
リリスは少し前のめりになり興味津々と言った様子で悠里にそう聞いてきた。
「うん。トロンコアに星応力を注ぐことで一時的に出力を増す手段の星応技術(ステラスキル)じゃないよ。やってる事は似てるんだけどね」
「どうやってやるんだ? 話せないものか?」
「いや、全然話せるよ。そもそも簡単にできるモノじゃないからね。セシリアには軽く話したんだけど、トロンコアの反発現象って知ってるかな?」
「ああ。確か特定の条件下でトロンサーバーに攻撃性のある星応力(エーテル)を送ると、トロンサーバーが反撃してくる現象の事。……そうか。それなら確かにトロンコアは壊れる。だがそれにはとてつもないと言う言葉では言い表せないくらいの苦痛を伴うはずだ。それにトロンコアとの共鳴率も九〇%を超えなければいけないし戦闘中に使うなんて正気ではないぞ」
「まぁそこが俺の特殊な所かな。俺はトロンサーバーの反撃してきた力を自らに取り込む事ができるんだよ。だから苦痛ではないし、むしろ力を増す事ができる」
「そんな馬鹿な……」
リリスの瞳が開かれる。
「確かにアドミスのトロンコアが壊れた直後のお前はすごかった。目がくらむほどの星応力(エーテル)を纏っていたな。しかしそれなら吸収した星応力(エーテル)は何処に行ったんだ?」
リリスがそう聞いてきた直後、悠里は自らの体内にある異界結晶が鼓動をしているのを感じ取った。
ふと悠里はセシリアの言葉を思い出す。
『《異界結晶》は生きています。今は無理でもいつかはそのコアの事を信じてあげてください。そうすればその子は貴方に力を貸してくれますので』
セシリアの言っていた事はあながち間違っていないのかも知れない……。
「おい、おい! 聞いているのか」
リリスの声が悠里の耳に届くと同時に悠里のスネに鋭い痛みが走った。
「痛っ!」
「ふん。お前が無視をするからだ。話したくないならいい。秘密は誰にでもあるからな」
と、リリスは不機嫌そうに立ち上がるとそのまま悠里を置いて立ち去ろうとしていく。
「ま、待ってリリス」
「なんだ? まだ用があるのか?」
「そうじゃなくてこれ。返すよ」
悠里はずっとポケットに入れていたリリスのリボンを手渡した。
「これは……どうしてお前が」
「今朝の戦闘中に爆風で飛んできたんだよ」
「そうか……ありがとう。これは大切なものなんだ。本当にありがとう」
そう悠里にお礼を言うリリスは悠里が見たリリスの表情の中で一番嬉しそうに微笑んでいた。目には僅かに涙が溜まっている。
「いや、いいんだ。今朝のは俺が悪いからね」
「それでも感謝する。本当にありがとう。さっきの件も含めていずれお礼をさせてくれ」
リリスはリボンを大事そうに抱きしめながら深々と悠里に頭を下げるとそのまま立ち去っていった。
「あ……男子寮の場所聞くの忘れてた……」
その後おおよそ三十分近く暗闇の中をさまよい悠里は男子寮を見つけ自らの部屋に向かった。
セシリアに渡された鍵で部屋に入るとそこには既に様々な私物が置かれていた。
セシリアの部屋とは比べ物にならないくらい狭い部屋で部屋の内装はこの部屋に住んでいる主によって大きく改造されている。
壁には世界中の様々な絶景を撮った写真が飾られていて撮影者のセンスの高さが伺える。
「同居人がいるのか……あれ? 今留守かな?」
ふと悠里が部屋の中央に置かれた机の上に一通の手紙が置いてあるのを発見した。
「手紙? あれ。宛名が俺になってる……」
手に手紙を取ってみると今の時代珍しい羊皮紙で手紙は書かれている事に気がついた。
悠里は物珍しい羊皮紙を軽く眺めるとそのまま本文に目を通した。
『やぁ。始めまして天久悠里。手紙での挨拶になってしまうのは申し訳ないと思ってる。だけど今日はスクープが取れる気がするんだ。だから今日は泊まり込みだ。あと部屋は好きに使ってくれ。お前は二段目のベッドだからな。下のベッドは俺のベッドだ。では、良い夜を』
と、これだけ書かれていた。
結局悠里は同居人の名前すら分からず推測できるのは、同居人が新聞部などの報道系部活に所属していると言う事だけだった。
「寝るか。明日は大変そうだし……」
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