第12話 追求

「おい。レン。そいつを動かないように捕まえろ」


アドミスが後方に立って様子を見ていた細身の生徒に命令をした。

そしてレンと呼ばれた生徒がリリスの後ろに回った直後、悠里は茂みから出て声を掛けた。


「あれ? リリスじゃないか。奇遇だね。こんな所で遭うなんて」

「……どうしてお前がここに」

「はぁ? 誰だお前。邪魔するんじゃねぇよ」


悠里の飛び出すタイミングとセリフがあまりにわざとらしかった為、リリスとアドミスは揃って眉をひそめ悠里を睨みつけた。



「……ん? 揉め事かな? 取り敢えず治安警察を呼ぶよ」


 悠里はポケットから携帯端末を取り出し電源ボタンを押す。耳元でRION《OS》の起動シークエンスが聞こえて仮想ウィンドウが展開される。

 直後、地響きのような足音が聞こえてきた。


「余計なことをするんじゃねぇ!」


 悠里が声の方を向いた時にはアドミスがものすごい形相で突撃していた。

咄嗟に突撃を回避した悠里は先程まで握っていた携帯端末が手元に無いことに気が付いた。

 悠里は嫌な予感がして空を見上げる。すると十メートルは舞い上がった携帯端末が地上を目指して落下していた。


「あ!」


悠里は落下地点に向かって走り飛びついたが綺麗に悠里の手をすり抜け、軽い音と共に何かが割れた音がした。


「あー。これ高かったのに……」


別にサブ端末があるためそこまで痛手ではないが悠里は軽く困ったような顔をする。


「はっ。邪魔をするからだ。懲りたら二度と関わるんじゃねぇ」


アドミスはそう言い残すと悠里の携帯端末を踏み潰し振り返る事無く再びリリスに向かって歩く。


「く、来るな! おい。天久悠里。そんな所で四つん這いになっている暇があったらなんとかしろ!」

「無理だな。あいつ日和ってるぜ。雑魚が《深淵の十人(アビス・サベル)》である俺の邪魔をするからだ」


そう、嘲るように悠里を一瞥したアドミスはリリスの服に手を伸ばした。

それを横目にみた悠里はすぐにアドミスの手を強い力で掴んだ。


「そこまでにしておこうか。それ以上は犯罪だからさ」

「あぁ? てめぇ。まだ邪魔すんのか! いいぞ。それならお前から潰してやる」


 アドミスは神装武装(シューレ)の発動体を取り出すとそこから悠里の体くらいの大きさの光の大剣を出現させ悠里に目掛けて振り下ろした。

 しかし悠里はそれを平然と受け流しリリスに手を伸ばした。


「大丈夫かい? リリス」

「ああ、すまない。助かった」


リリスは若干悠里の警戒しながら悠里の手を掴むとすっと立ち上がった。


「てめぇさては共犯だな」

「何のことだい? 悪いけど俺は今日転校してきた新入生だよ。共犯とか何の話かしらないけど、女性の服を剥ごうとするのはどうかと思うよ?」


「うるせぇ! そいつの体に呪印(カース)がついていれば、リリスが犯人だと確定するんだよ。邪魔するんじゃねぇ!」


 アドミスは空気をビリビリと震わせながら悠里に向かって怒鳴った。


「だから私は知らないと言っている! いい加減にしないと治安警察を呼ぶぞ!」


「呼んでみろ。だがその時捕まるのはお前だ。リリス。それにそこのお前も共犯で捕まるだろうな」


 そう威圧を掛けてくるアドミスは間近で見ると、かなり大きかった。おおよそ二メートル近いだろう。そのアドミスの筋肉はかなり鍛え上げられていて、相当トレーニングをしたのが伺える。


 《異界世代(デミステラ)》の体には常時星応力(エーテル)が流れており身体能力を向上させている。それによってトレーニングをしても中々筋肉は付かないのだが、アドミスはかなり過酷なトレーニングを積んだに違いない。


「ねぇ? リリス。呪印(カース)ってなんだい?」

「ああ、セレンと言う生徒の固有能力で、今問題なのはそいつの攻撃を受けると体に髑髏(どくろ)状のあざができる事だな」

「なるほど……」


 ふと悠里は今日の早朝、リリスの着替え中に女子更衣室に侵入してしまった事を思い出した。

 ──悲鳴が聞こえた部屋に思わず入ってしまった悠里の目に映ったのは着替え真っ最中のリリスの姿だった。

 リリスの体は健康的でしなやかな足はつま先までスラリと伸び、輝かんばかりの太ももからは純白の下着が顔を覗かせていた。


 しかし上半身の方はそうではなく、まさに今から着衣をしようとしていたようで、手に握られたブラがだらしなく彼女の手から垂れ下がっている。

 そのまま二人はしばらくの間、固まったように動かなかった。


 そしてそんなリリスの胸にはアザのような焼印が入っているのを悠里は見てしまった。

 そこから悠里はリリスに謝罪をして逃げた訳だ。


 ──思い出してみれば確かにリリスの体には何かのアザが付いていた。それが彼らの言う呪印の印かどうかは分からないが……。


リリスの胸にあった印を思い出して悠里は下を向き、どちらの発言に信憑性が有るかという事を考えていると、アドミスが悠里を押しのけた。


「分かっただろ。リリスの服を剥げばこいつが犯人か分かるんだ」


そのままリリスに手を伸ばすアドミスを見て思わず悠里はアドミスの手を掴んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る