第14話 夢そして決闘

 その夜悠里は夢を見た。

 そこは真っ白な部屋で他に何も無い。何処までも続く白が悠里の恐怖心を引き立てる。

 それは夢と言うにはあまりにも鮮明過ぎた。


 すると突然目の前に映像が投影され始めた。

 それは悠里の胸に異界結晶が埋め込まれた日だった。

 その思い出したくもない光景に思わず悠里は目を閉じる。


「何なんだ。こんな悪夢早く覚めてくれ」

「ふむ……ユウリがそう言うなら辞めておくか」


 白い空間に突如悠里とは違う知らない女の子の声が響いた。よく見れば悠里の目の前には白いモヤがうごめいていた。


「お前が今の映像を見せたのか?」

「そうだな。今日、ユウリが私にエネルギーを与えてくれたからようやく私も動けるようになったんだ」

「な、何のことだい?」


「ほら、あれだ。あれ。えーとトロンコア……だっけ? あれを壊した時に溢れたエネルギー? をいつもはユウリは勝手に使っちゃうけど今日はそのまま全部私にくれただろ? それで私も休止状態からようやく動けた訳だ。すごいだろ!」


 目の前の白いモヤの姿の正体は分からないが自信満々にドヤ顔しているのだけはなんとなく分かる。 

 確かに今日悠里はトロンサーバーから送られて来た星応力(エーテル)を攻撃に転用すること無くそのまま体内に押し込んだ。リリスが不思議に思っていたがどうやら星応力(エーテル)は目の前のこいつが吸っていったらしい。


「それにしても夢にしては良く出来てるなぁ」

「⁉ ち、違うぞ。これは夢じゃなくてユウリの精神世界の中だぞ」


 モヤが焦ったように悠里に近づいてくる。直後ジリジリと言う目覚ましの音が聞こえてきた。

 すると夢の世界はブロックの様に細かくボロボロと崩れ崩壊していく。


「じ、時間だ。い、良いかユウリ。もし何か起きたならこのノアを信じて呼ぶんだぞ! 絶対だからな」


        ****


 悠里が目を開けるといつも見ている無機質なコンクリートの天井では無くエコクロスの白っぽい天井が悠里の視界いっぱいに映っていた。


「そっか。俺……学園都市にいるんだ」


 悠里はゆっくり上体を起こすと数回後頭部を掻きベットから飛び降りた。


「よし! 頑張ろう」


 悠里は気合を入れると初登校に向けて準備を始めた。


 と、言っても悠里がする準備とは渡された制服を着て神装武装(シューレ)を腰のホルスターに入れるだけ……。


「あ、そう言えばリリスの攻撃で壊れたんだっけ。はぁ。こんな事ならちゃんとトロンコアと使って強度を上げておけばよかったなぁ」


 悠里が使っていた神装武装(シューレ)は特別製で学園都市で使用される一般的な神装武装(シューレ)よりはるかに強度が高かった。同じものは手に入らないだろう。


 悠里は少し腰辺りに物足りなさを感じながら諦めて部屋から出た。


       ****


 悠里が男子寮から出ると玄関前に知っている人物が立っているのが見えた。

 少女は悠里を見つけるとバラ色の髪の毛をなびかせながら悠里に向かって歩いてきた。


「やぁ。リリス。おはよう」

「ああ、おはようだな。昨日はありがとう悠里」

「いやいや。あれくらい当然だって」


 照れながら頭を掻く悠里に、リリスは礼儀正しく深々と頭をさげた。

 ──しかし。


「……では始めようか」


 一瞬微笑んだリリスはスイッチを入れ替えたかのように突然雰囲気を大きく変化させ敵意の籠もった瞳で悠里を睨み始めた。

 そして次の瞬間、悠里の目の前に四角い仮想ウィンドウが表示される。


 ウィンドウにはこう書かれていた。

『挑戦者:リリス=エルシア・フォン・フェリセントが決闘を申し込んできました。決闘を受けますか?』


「……え?」

「早く押せ。私はお前に裸を見られた仕返しをしていない」

「でも昨日はお礼を言って……」

「それとこれは別だ。早くしろ。でないとお前が昨日女子寮に侵入していた事をバラすぞ」

「⁉ ど、どうしてそれを……」


「気が付かないと思ったのか? お前の星応力(エーテル)の波形は特殊だから覚えやすいからな。ただセシリアが庇っていたから黙っただけだ」

「うっ……。はぁ。分かったよ。ただ今神装武装(シューレ)無いんだ。だからまた今度で良いかい?」

「……仕方がない」


 と、リリスが残念そうに俯いたので悠里は安堵の溜息を付いた。


 が、直後リリスの周辺で星応力(エーテル)が爆発的に高まり、彼女の頭上数メートルの場所で大きな爆発が発生した。


 その音に驚いて起きたのか悠里の背後の男子寮から男子生徒のざわめきの声が聞こえてくる。

 そしてそんな男子寮に向かってリリスは凛とした大声を出す。


「おい! 今からこいつと決闘をするんだ。誰か神装武装(シューレ)を貸してくれないか⁉」


 そう、リリスが叫んだ直後、騒ぎを聞きつけてきた生徒が集まり始めた。

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