第6話 冗談ですよ。悠里

※ 本編の※は興味がなければ読み飛ばして貰って大丈夫です。この世界の状況を授業という形で説明しているだけです。




「すごいですね」


セシリアが目を丸くして手放しに拍手をすると興味深そうに机に置かれたリボンを丁寧に観察し始めた。


「ところでどうして先程謝罪をしていたんでしょうか?」

「うん。さっき瞑想している間にトロンコアと繋がっているトロンサーバーに《星応力エーテル》を流し込んだんだ。するとトロンサーバーは俺に純粋な《星応力》の塊を送り返して来るんだ。まるで叩かれたから叩き返すみたいな感じで……その感覚が妙に罪悪感を感じさせるっていうのかな? どうしても申し訳なく思っちゃうんだ」


「なるほど、その純粋で暴力的な量の《星応力》を自らの異界結晶(プロトコア)に送り込む事で強制的に力を引き出しているという訳ですか」

「そう言うことだね。でも真似はしないほうがいいと思う。軍でも俺の特殊な技能について研究していたけど、同じことをできた人間はいなかったから」


「ええ、分かってますよ。しかし悠里は相当な量の《星応力》をお持ちなんですね。異界結晶プロトコアは膨大な星応力を必要としますが、本来空気中から吸収するはずの《星応力》や《神応素》を全て貴方の体内から供給しているという事になりますからね」


「まぁね。さて……そろそろ俺は行こうかな。俺にも学生寮が割り当てられるんだよね?」

「ええ、ちょっと待ってくださいね」


と、セシリアは椅子から立ち上がると執務机の方まで歩き、机をガサゴソと漁り始めた。


「ありました。えーと……あっ。すみません。部屋の配備まで一日は掛かります」

「そっか……まぁ急だったし仕方ないかな。俺は野宿でもするよ」

「いえいえ、これは生徒会長の私の責任です。ですのでぜひ私の部屋に泊まっていってください。女子寮ですけど。ふふっ」


何が楽しいのかころころと笑いながら楽しそうにセシリアは口元を抑えた。


「そ、それは流石に……この部屋に泊まるっているのはどうかな。だめ?」

「それは駄目ですね。この部屋には重要な書類がたくさんあるので……。私個人としては貴方を信用していますが、それは学園の考えと一緒という訳では無いですし」


遠回しに言えば信用できないから駄目という事だ。

しかしそれは悠里がこの学園に来た理由を思えば仕方がない事だ。


「そうだよね……うーん。どうしよう、やっぱり野宿かな」

「いえいえ、私の部屋で構いませんよ。どうして遠慮するんですか?」

「逆にどうしてセシリアは俺が了承すると思ったの?」

「……そうですよね。分かりました。では私も今日はこの部屋に泊まります。それならよろしいのでは無いですか?」


何がよろしいのか、と悠里は突っ込みたい気持ちを抑え悠里がセシリアを見ると、所詮他人事なのか相変わらずセシリアは楽しそうにクスクスと口を抑え笑っていた。


「うーん……」

「と、いう嘘です悠里。驚きましたか?」

「……それは驚くよ。はぁ。道理で変なことばっかり言ってると思ったよ」


「いえいえ、私の部屋へのお誘いはあながち冗談では無いのですが」

「それも冗談なんだよね?」


「あらあら、信用されなくなってしまいましたね」

と、セシリアはクスクスと笑いながら悠里の前に歩いてくると、銀色の真新しい鍵と部屋番号の描かれたタブを手渡した。


「どうぞ。これが貴方の部屋の鍵です。今から寮まで案内するので付いてきてくださいね」

そう言ってセシリアは悠里を導くように先導して扉を開けると悠里を急かしてきた。


「ほら、早く行きますよ。悠里」


セシリアは椅子に座ったままの大きなあくびをしていた悠里に手を差し伸ばし、悠里は慌てて手を取った。


「ごめん。行こっか」

「はい。ではこちらに」


セシリアは悠里に背を向けるとそのまま部屋から出ていった。

    ****


※「あー、つまり旧世紀の終わりは突然だった訳なんだが、中でも《繋界化オーバーレイ》と呼ばれる異世界とこの世界が繋がった事象は全世界に未曾有の被害をもたらした。世界が繋がった原因は未だに分かっていないが、異界から降り注いだ物質や生命体により、世界は否応なく変質させられた訳だ。地殻変動や既存国家の衰退、旧世紀台頭していた大企業が全て合併した世界企業財閥の台頭、そして異界から降り注いだ神応素マナによる新人類──君たち《異界世代デミステラ》の誕生、更には向こうの異世界との交流から神応素マナ星応力エーテルの研究による科学技術の向上、トロンコアの誕生などなど、よくも悪くも人類の歴史は《繋界化オーバーレイ》を境にして大きく塗り替えられたと言える」


 通りすがった教室からは、男性教員の授業をしている声が聞こえてくる。


※「もっとも最近の学説だと《繋界化オーバーレイ》はスイスに置かれていたLHCによる影響だったのではと言うのが主流のようだな。まぁともかく《繋界化(オーバーレイ)》によって現存する国は大きく分けて五つに分かれてしまった。これはテストに出るから覚えとけよ。間違えて学園都市のある日本を国に入れるなよ。日本は今現在国としては認められていないからな。一応自治権はあるが学園都市の関係もあって五つの国と日本政府が共同統治している状態だからな」


 随分と熱意の籠もった口調の説明は聞いている人間を引き込むような話し方だが、話している内容は常識の範疇を超えておらず眠気を誘う代物だ。


 教室を覗いてみれば、熱意の籠もった教員の説明を無視して学生の大半が顔を机に突っ伏している。


 ふと、教室の中に居る生徒が丁寧な敬語を使い教員に質問をしているのを聞いて悠里はセシリアにずっとタメ口を使っている事に気がついた。


「今更だけど敬語使った方がいいのかな?」

「いえ、そのままで構いませんよ。それより本気で戦った仲なのに今更タメ口など不要じゃないですか?」

「でもセシリアは敬語じゃないか」

「私は習慣ですから、どんな人にも敬語なのでお気になさらないでください」


「そっか……そう言う事なら。そう言えば俺が所属するクラスは何処になるんだい?」

「少しだけ覗いてみますか?」

「大丈夫なの?」


「ええ、まだ貴方の席は用意できてないので授業を受けるのは明日になってしまいますが」

「じゃあ少しだけ覗いて見ようかな」

「分かりました。ではこちらです」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る