第5話 修復

 その書類を見た途端、ずっと渋っていた悠里の気持ちが百八十度変わった。

 侵入した罪悪感などもあって拒否していたが、請求書の丸の付いている数が尋常じゃなく悠里は震える声を抑えながら声を出した。


「あっ……ちょっと気が変わったよ。ぜひこの学校にお世話になりたいな」

「あらあら。本当ですか? ではこの書類は破り捨てておきましょう」


 セシリアが目の前で目を細め嬉しそうに微笑み悠里の借金書類をバラバラに破り割く。

 それを目にして悠里はほっと溜息を付いた。


「ありがとう」

「いえいえ。これから貴方には頑張ってもらいますから。さてと、これから同じ一年生の同級生になるんですから自己紹介からですね。私は生徒会長のセシリア・エリエスタと申します」


 と、少女がそう言ったが、悠里は名前より別の部分が気になってしまい思わず口にしてしまった。


「えっ? 同級生?」

「そうですよ? 何か?」

「い、いやごめん。もっと年上なのかと思ってた」

「それは私が老け顔ってことでしょうか?」


 セシリアは不機嫌そうに頬をぷっくり膨らませると悠里に圧を掛けながら顔を近づけた。


「ち、違うってエリエスタさん。ちょっと大人びた印象を感じてたから」

「へぇ。そうですか」


 まだ機嫌を治していないのかセシリアは未だに頬を膨らませ不機嫌そうにそう言った。言動はともかくそう言うところは年相応らしい。


「そ、それにしてもまだ一年生なのに生徒会長ってすごいね」

「そうですね。中等部の時から生徒会長をやっていたので別におかしな事では無いです」

「あの。怒ってる?」

「ふふっ。いえ。怒っていませんよ。冗談です。少し困らせてみようと思っただけですから。ただ悪いと思っているならどうぞ名前でお呼びください」


「なるほど。分かったよ。じゃあセシリアさん」

「セシリア、で結構ですよ」

「いや、流石にいきなりそれは……」


 悠里の人生経験からすればいきなり女子を名前を呼び捨てにすると言うのはかなり抵抗がある。別に呼び捨てする中のいい女の子が居なかった訳では無いがそんな過去は遠い昔のことである。


「セシリア、です」

「……セシリアー」

「どうして棒読みなんですか。借金背負いたいのでしょうか?」


「ええっと……それはずるくないかな」

「ずるくないです。正当な権利ですもの。ほらセ・シ・リ・ア」

「……分かったよ。セシリア。これで満足かい?」

「ええ、大満足です。天久さん」


 悠里が根負けして素直に名前を呼ぶとセシリアは嬉しそうに目を細めた。


「じゃあ俺の事も悠里って呼び捨てにしてくれて構わないよ。なんかずっと『さん』付けだとくすぐったいし」

「分かりました。悠里」


「……そう言えば、俺達を纏めて攻撃してきた女子生徒はどうなったんだい?」

「あぁ。リリス=エルシア・フォン・フェリセントですね」

「そうなの? 名前までは知らないけどさ。そのリリスさんは大丈夫だった?」

「ええ、まぁ攻撃した本人なのでピンピンしていましたよ? 貴方を灰にすると言って聞かなかったですけどね」


 セシリアがあまりにもにっこりと天使のような笑顔を浮かべながらそんな事を言うので、悠里がその言葉の意味を理解するのに少々時間がかかった。


「……俺、燃やされたの?」

「いえいえ、流石にそれは止めましたよ。まぁ貴方が我が校の生徒の一員となったことを知ればすぐに決闘を挑んでくると思いますので頑張ってくださいね」


 悠里はセシリアに救われた事に安堵しながらもこれから起こる出来事を想像して微妙な顔をした。そしてふとポケットに入ったとある物の存在に気が付いた。


「そう言えばこれ……戦闘中に拾ったんだけど、落とし物として提出していいかい?」

「これは……リリスの宝物のリボンですね。まぁまぁ。こんなにボロボロにしてしまって……」

 セシリアが悠里からリボンを受け取ると丁寧に状態を確認し始めた。


「宝物なんだ……。セシリア。俺の《トロンコア》が一個残ってたはずなんだけど何処にあるのかな?」

「ああ、これでしょうか? それにしても高級品である《トロンコア》を消耗品のように扱うのはどの世界を探してもきっと貴方だけでしょうね」


 そう言いながらセシリアは何故か全くよく分からない服の下から悠里のトロンコアを取り出し悠里に手渡しをした。


「あ、ありがとう」


 困惑する悠里の受け取った《トロンコア》はセシリアの体温で妙に生暖かい。

「それでどうするんですか?」

「うん。さっき話したから分かると思うけど、俺の体内には《異界結晶プロトコア》が埋め込まれているんだ。それで《異界結晶プロトコア》から力を引き出そうと思ったらある程度纏まったエネルギーが必要だからさ」


 悠里は生暖かい《トロンコア》を冷ましながらそう言った。


「そんな事をしなくても《異界結晶プロトコア》は《トロンコア》と違って生きていますし信用してあげれば力を貸してくれるのではないですか?」

「ん? 《異界結晶プロトコア》が生きている? 確かに《トロンコア》を使うと胸の中のコアが怒ったみたいに震え始めるけど、流石にそれは無いんじゃないかな? どちらかというと《トロンコア》の方が生きているって感じるかな」


 と、悠里はそう言うと軽く瞑想を始めた。

「ごめん」

 と、悠里がポツリと言葉を発した直後、トロンコアは弾け悠里は膨大な《星応力エーテル》を身にまとった。

 次の瞬間悠里の手が手をかざした机の上に置かれたリボンが淡く光り初め、気が付くと新品のように綺麗になっていた。

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