第4話 突然の勧誘

「っていう訳なんだけど。満足してくれたかな?」

「ええ、十分です。なるほど……」


 ブロンド髪の女の子は顔を伏せ何かを考え込んでいる。


「分かりました。天久悠里さん。貴方を我が神明館学園に推薦いたします」


 と、突然何の脈絡もなく目の前の少女はそう言った。一方悠里は困惑して口をパクパクとさせている。


(どういう事? 今の流れでどうしてそうなったんだろう?)


「困惑しているのは分かります。しかしもしこの学園から出て貴方に行き場はあるんでしょうか? この学園なら貴方に居場所を提供できます。私は貴方という存在が我が校の為になると判断しました」


 少女の提案は悠里にとってとてもありがたい話だった。けれど軍の束縛から逃れた今、悠里にはやらなくてはいけないことがある。


「ごめん。ありがたい話だけど、俺は探さなくちゃいけない人がいるんだ。学園都市は異界の魔物ヴィアヌスに対抗する戦力を開発、育成する場所でしょ。正直俺には興味が無いかな」

「いえ、一つ大事な事を忘れています。《魔戦祭トーナメント》の存在を」


 《魔戦祭トーナメント》は《異界世代デミステラ》の中でも学園都市の生徒だけが参加できる大会で、主催は世界企業財閥と魔術研究会の共同だったはず。


「そうだったね。でもごめん。申し訳ないけど、そういうのに興味はないかな」

「しかし、貴方が優勝すれば様々な特典に加え、トロンサーバーへの最高アクセス権限を一時的に付与されます。それがあればどんな情報も引き出すことができます。もちろん今現在、トロンコアにサービスを提供しているRION《OS》は世界の目となり、あらゆる機械や人とリンクしています。貴方の探し人である妹さんとお姉さんも見つかるのでは?」


 セシリアがなんてこと無いように放った言葉はまだ悠里が話していない事だった。

 悠里は困惑しつつバクバクと早まる鼓動を抑え込む様に言葉をひねり出す。


「ど、どうして君がそれを知っているんだい?」

「ふふっ。私は全てを知っていますから。もし頷いていただけるのであれば信用出来る情報が集まり次第貴方も有益な情報をお伝えしますよ」


 冗談だと思っていたけれど、もしかしたらあながち『全てを知っている』というのは間違っていないのかもしれないと、悠里は少し目の前に立つ少女を不気味だと感じつつ困ったように眉を寄せた。


 目の前の少女の一見少し可愛そうな子のような発言は単に話術の一つだろう。現に悠里が《トロンコア》をハメていない神装武装(シューレ)を振り回していた時には彼女は異様なほど驚いていた。


 だから妹と姉の話は悠里が眠っている間に軍のサーバーにでもアクセスしたから知っていたのだろうと悠里は判断した。


「……んー」


 目の前の少女の話は置いておいて、確かにトロンサーバーへの最高アクセス権限があれば悠里の探し人は見つかるだろう。


 それに優勝特典も今となっては世界の中心とも言える企業である世界企業財閥と魔術研究会の支援が貰えると言ったものだ。それがあれば大概の願いは叶うはずだ。二つの企業はそれだけの力があり、その力は企業と言う枠を超え今は独立した国として機能しているほどだ。


 事実この学園都市に来ている学生のおおよそ大半はトロンサーバーへのアクセス権限よりもその二つの国のどちらかの力を借り願望を叶えるために来ている。ちなみに残りの一部は持て余した力を振り回したいと思っている人間たちだ。


 しかし、悠里はそのどれでも無かった。確かにトロンサーバーへの最高アクセス権限は欲しい。一方でそれをやってしまうと負けだという思いも悠里の中にはあった。


「はぁ。分かりました。あまり強引な事はしたくなかったのですけれど……仕方ありませんね」


 そう言って軽く溜息を付いた少女は机の上に一枚の紙を置いた。

 それは悠里も驚くくらい、〇のたくさん付いた請求書だった。


「こ、これはー……何かな?」


(何か分からないけれど、ものすごく嫌な予感がする)


 悠里はふと脳裏を過ぎった嫌な予感に身震いをしていると、少女が悠里に見えるように書類をはっきりと見せてきた。


「貴方が壊したエレベーターや学校の施設その他諸々の修理費です。貴方がこの学校に入学して大会で優勝してくれるのであれば、開発中の神装武装シューレの事故で済ませようと思っていたのですけれど……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る