第3話 三日前

 ──三日前──


 異界防衛軍ヘクトルの本部にて囚われていた悠里は珍しく異界防衛軍ヘクトルの最上階、総長室に呼び出された。


「来たか。天久君」


 悠里を呼び出した総長は筋肉ががっちり付いた体育会系の肉体で年のせいか髪の毛は真っ白に染まっている。そして彼は機嫌良さそうに大企業の社長室にありそうな高級な椅子に腰を下ろした。


「さて、いきなりになるが命令だ。君には新明館学園に侵入してもらう。目的はあの学校に封印されている異界結晶プロトコアだ。ところで君は異界結晶プロトコアについて何を知っているかな?」


 そこでようやく発言を許された悠里は口を開いた。


「はい。旧世紀の終わりに突如開いた異界との亀裂から流れ込んできた人類の敵である魔物ヴィアヌスに対抗するために開発された現在のトロンコアにあたるものだと聞いています」

「二十点だ」


 総長は足を組むと机に置かれていたリモコンのスイッチを押した。すると部屋の壁の色が徐々に抜け落ち全面ガラス張りのように外の景色を映し始めた。

 外では軍の飛行機が訓練をしているのが見えるが、それよりも空高くに存在する紫色の禍々しい大きな切れ目に自然と目が向く。


「旧世紀の終わりに地球は異世界と繋がった。そしてその時、《神応素マナ》や《星応力(エーテル)》などの未知のエネルギーが地球に降り注ぎ、更には《神応素マナ》の影響によって新人類である《異界世代デミステラ》が生まれた訳だが、先程君が言った通り同時に人類にとっての外敵が出現した。そこについては割愛するが、それを良しとしない異界の民であるプレアデスと言う種族が人類に力を貸し与え作られたモノがある。それが現在のトロンコアにあたる異界結晶プロトコアだ」


 流石軍の長ともなればこれくらいの基本情報は全て頭に入っているらしい。しかし今話したことは極秘情報だ。一般人は知らない。


「まぁそんな事はどうでも良いんだが、異界結晶プロトコアとトロンコアの違いに付いて君はどれほど知っているかね?」


「トロンコアはトロンサーバーに常時接続していて擬似的にプロトタイプコアを模倣し、使用者に力を与えます。同時にRION《OS》によって戦闘補助から生活補助まで受けられます」


「そうだ。トロンコアはその中枢であるトロンサーバーがなければただの綺麗な石ころだ。しかし異界結晶プロトコアは違う。異界結晶プロトコアはそう言った制約が一切無く。そしてトコンコアより強力だ。我々は古いトロンコアから新たなるコアを作り出す必要があるのだ。そのためにサンプルが必要だ」


 総長の言葉を聞き悠里の手は自然と自らの心臓部分に動く。

 そんな様子をみて総長はニヤリと笑う。


「安心したまえ。君は有能だ。君の心臓の付近に埋め込まれた異界結晶プロトコアを無理に奪おうとは思わんよ。君が神明館学園に侵入して異界結晶プロトコアを奪取すればな」

「……分かりました。準備が完了次第奪取に向かいます」

「うむ。君の動向はその腕に付いているリングから随時観察させてもらう。逆らえば即座に毒針が君の体に突き刺さるから気をつけたまえ。それと君にはトロンコアに同調してトロンサーバから強制的に力を引き出すという特殊技能があったな。破壊前提のトロンコアを四つ支給しよう」


 悠里の特殊技能はこの世に二つと無い技能だ。習得した時にはまだ悠里の胸には異界結晶プロトコアは埋め込まれていなかった。


「ふむ。たしか君は神装武装シューレにトロンコアは付けないんだったな」

「はい。なんと言うかトロンコアを使うと胸に埋まったコアが不機嫌になるような感覚をふと感じるんです」

「ほう。面白い。異界結晶プロトコアの本質を考えると決しておかしな事ではないな」


 と、総長が面白そうにクツクツと笑い始めたがその理由が悠里には分からなかった。

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