166話 いちゃいちゃお買い物

 琴ちゃんとのあーん♡で英気とコトニウム(※琴ちゃんから発せられる素敵物質。音瀬小絃の体力&MPが全回復する)を養って。腹ごしらえも済んだところで今度こそ本格的に琴ちゃんとのデート開始だ。


「さてと。お腹も膨らんだわけだしそろそろデートしよっか琴ちゃん」

「は、はい……その……よ、よろしくお願いします小絃お姉ちゃん……」

「あはは。敬語になってるよ琴ちゃん。もしかして緊張しているの?」

「だ、だって……あ、憧れの……お姉ちゃんとのデートだし……」

「お、おう……」


 モジモジしながらそんなキュンキュンきちゃう事を平気で言っちゃう琴ちゃん。なんなの?ねえなんなのこの可愛い生き物は?


「と、ところで琴ちゃん。今更だけどデートの行き先は私が決めちゃって良かったの?」


 念のため琴ちゃんにそう問いかける私。今回のデートはお誘いした私が全て計画した。その上で、琴ちゃんにはどこに行くのか何をするのかナイショにしている。これはマコ師匠たちから『行き先知らない方がドキドキするよ』というアドバイスがあったからって理由と、あと実はもう一つ大事な理由があるんだけど……まあ、それは一旦置いておくとして。


「本当はどこか行きたかったところとかあるんじゃないの?もしそうなら遠慮せずに言って良いんだよ」

「う、うん。でも私は……正直お姉ちゃんと一緒のデートなら、どこだって天国だから。お姉ちゃんが行きたいところがあるなら……地の果てだって付いていくよ」

「オッケー。ならお姉ちゃんがエスコートしてあげる。ふふふ。これは責任重大だね。それじゃ――お手をどうぞ、お姫様」

「ヒュッ……!?」


 任されたからには年上(※今は年下です)として、そして琴ちゃんの頼れる(?)お姉ちゃんとして、琴ちゃんをリードしてあげなくては。そんな決意を胸に、早速琴ちゃんに手を差し伸べてみた私なんだけど……そんな私の行動を目の当たりにした琴ちゃんは息を呑み、その場でフリーズしてしまう。


「あああ、あの……あの……っ!?お、お姉ちゃん……なに、を……!?」

「何って……手を繋いだ方がデートらしいかなって思ったんだけど。むぅ、やっぱり恥ずかしい?昔はよく琴ちゃんと一緒に手を繋いでお出かけしてたと思うんだけど、琴ちゃんもすっかり大人になったんだし流石にもうそういうの嫌だったりするかな?もしそうなら……」


 琴ちゃんが嫌な事は極力無理強いしたくない。それに琴ちゃんの手前なんともない風を装っているけれど……『お手をどうぞ、お姫様』なんて、こんなクサイ台詞を吐くとかどんな罰ゲームだよって自分でも言いたくなる。これはちょっと失敗だったかもしれんと、気まずくなりながらも出した手を引っ込めようとしたけれど……


「ま、待って!い、嫌じゃない!嫌なんかじゃないよ!?」


 そんな私の引っ込めかけた手を追いかけて、縋るように掴む琴ちゃん。


「ご、ごめん……違うの……突然のことでビックリしたっていうか……いつも以上にお姉ちゃんが積極的で……ドキドキが止まらなっちゃって……本当に嫌なんかじゃないの。寧ろその……お姉ちゃんさえ良ければ……私も……手、繋ぎたい……」

「ホントに?それは嬉しいな。じゃあ……改めて。お手をどうぞ、私の可愛いお姫様」

「は、はぃ……♡」


 琴ちゃんの了承も無事に得たところで改めて手を繋ぐ。離さないように、それでも痛くないように。琴ちゃんの手をそっと握れば、おずおずと琴ちゃんも握り返してくれる。伝わるその手の温かさと柔らかさ。それがなんとも心地良い。

 手を握った瞬間、ただでさえ赤かった琴ちゃんの顔はりんごみたいに更に真っ赤になっている。かくいう私も……鏡がないからわからないけど、それでも間違いなく琴ちゃんと同じように顔を真っ赤にしていることだろう。だってさっきから顔中が火照ってしかたないもの。


「…………琴ちゃん」

「…………小絃お姉ちゃん」


 そのまましばらく手を繋いだまま、ただただお互いの名前を呼び合って……見つめ合って。そして手を握るだけでは飽き足らず、どちらともなく自然に指を絡ませ合って。

 ここ最近あや子のアホに事あるごとに『ヘタレ』だのなんだのと不名誉な事を言われてきた私には似つかわしくない、あまりの大胆な行動に自分でもちょっとビックリしちゃう。私って……こんな事も出来たんだね……


「っと、いかんいかん……また時間を無駄に費やすところだった。さ、さあ琴ちゃん。時間も惜しいしこのままデートに行こうかね!」

「う、うん……分かった……」


 時間を忘れて二人だけの世界にトリップしかけたけれど、同じ徹を踏むつもりはない。琴ちゃんに声をかけ、ようやく私たちは最初のデートスポットへと足を踏み出すのであった。

 ……無論、繋いだ手は離さぬまま。指も絡ませ合ったままで。


『ぶ、ぶはっ……ぶはははははは!!!だ、ダメ……う、ウケるわ……『お手をどうぞお姫様』とかクサすぎでしょ!小絃に似合わなさすぎて……ぶははははははは!!!』

『こらあや子ちゃん!笑わないの!どこがおかしいのよ、小絃さん凄くかっこいいでしょ!?』

『ッ!?か、かっこいい!?かっこいいって……あの小絃が!?そ、それはつまり…………紬希……紬希……?もしかして……わ、私よりも……小絃の事かっこいいって思うって事……?』

『へ?い、いや急にどうしたのよあや子ちゃん。あくまで私は一般論として小絃さんがかっこいいって思ったのであって…………(ボソッ)私にとって一番かっこいいって思えるのは、あや子ちゃんだし……』

『紬希ぃ!!!』

『うーむ……不思議だ。あんな見てるこっちが照れちゃうレベルの恋人繋ぎしといて、あれでコイコイたちまだ恋人じゃないとか絶対嘘でしょ』

『妬けちゃうくらいラブラブ、ですよね。見てください姉さま、お二人ともあんなに幸せそう。それでこそアドバイスした甲斐があるというものですね』

『そうだねー。頑張れー二人とも。…………あー。それはそれとしてさ、コマ』

『うふふ♪皆まで言わないでくださいませマコ姉さま。私たちも……負けていられませんよね。手始めに、手……繋いじゃいましょうか♡』

『…………この、バカップル共め……』



 ◇ ◇ ◇



「着いたよ琴ちゃん。最初はこのお店!」

「ここは……」

「ほほぅ。その反応……どうやら琴ちゃんも覚えがあるみたいだね。そうそう、昔何度か琴ちゃんとお買い物に来た小物屋さんだよ」


 琴ちゃんの手を引いて、やって来たのはこの町の小さな小物屋さん。ちっちゃい頃の琴ちゃんのお気に入りのお店の一つだ。


「10年前も休日になると琴ちゃんに連れられて遊びに来たんだよね。ホント懐かしいなぁ……琴ちゃんったら連れてくる度にキラキラに目を輝かせて。お小遣いを片手に何時間も悩んでさー。可愛かったなぁ……あの頃の琴ちゃん」

「い、いつの話をしてるのお姉ちゃん……恥ずかしいからやめてよぅ……」

「あ!でもでも!今日の琴ちゃんも可愛さは負けてないからね!大人の魅力溢れる中に、少女のようなあどけなさもあって……最高だから!」

「だ、だからそういうのも恥ずかしいって!い、いいから早く中に入ろうよ。その為に来たんでしょ?」


 そうやって琴ちゃんに催促されお店に入る私たち。お店の中は女の子が好きそうなアクセサリーやキャラクターグッズがおもちゃ箱のように詰められている。10年前からあるお店だから潰れていないかとか、客層が変わってお店の中身も変わっていないかとかちょっと不安だったけど……この雰囲気、良い意味で全然変わっていないみたいで良かった。とりあえずお店の中を端から端まで一通り見て回る事に。


「うーむ……こういう場所って色々目移りしちゃうよねー。ね、琴ちゃんは何か…………ん?琴ちゃん?」


 カップル用のペアグッズとか、琴ちゃんに似合いそうなインテリアとか。気になる物は手に取って物色していたところ。立ち止まり何かをジッと見つめている琴ちゃんに気づく私。


「もしかして何か気になるものでもあった?どれどれ?」

「えっ……あ……いやその……」

「おー、これは……シュシュだね!」


 琴ちゃんが熱心に見ていたのは髪飾りの一種であるシュシュだった。わぁ……これもまたなんとも懐かしい。10年前からお洒落さんだった琴ちゃんは、当然ヘアスタイルも当時からこだわりを持っていて。あの頃の琴ちゃんもこのお店の鏡の前でにらめっこしながらシュシュを吟味してたっけ。目を閉じれば今でも鮮明に思い出せるよ。


「欲しい?だったら今日は私がエスコートしてるわけだし買ってあげる!どれが良い?あ、お金の事なら大丈夫!ちゃんと用意してきたからね!」

「ま、待ってお姉ちゃん。違うの……ベ、別に私……欲しいとは一言も言ってなくて……」

「え?でも気になるんでしょ?」

「それは……そうだけど。でも私……あの頃と違って……一応大人なんだし。今更こんなシュシュなんて……似合わないだろうし……」

「???」


 似合わない?何の話だろう?琴ちゃんに似合わないものなど存在しないよね?


「そ、そりゃあ……昔なら平気で付けられたかもしれないけどさ……ブームになったのは10年以上前の話だし。今時はダサいとか言われてるんだよ。小学生とか……ちっちゃくて可愛い紬希ちゃんとかならいざ知らず。今の私には……絶対似合わないだろうし……」

「…………むぅ?」


 気恥ずかしそうな顔でそんな意味不明な事を告げる琴ちゃんと、それから琴ちゃんが手に持っていたシュシュを交互に見比べ首を大きく傾げる私。ブームが10年前?ダサい?……琴ちゃんに似合わない?


「そっかそっか、よくわかった」

「う、うん……わかってくれて良かったよお姉ちゃん」

「うんうん、よくわかったよ。そういう事なら――あのー!店員さーん!これくださーい!」

「あ、はーい!お買い上げありがとうございまーす!」

「一体何がわかったって言うのお姉ちゃん!?」


 琴ちゃんの話を聞いた上で。私は店員さんを召喚し、さっさと会計を済ませてしまう。そしてそのまま困惑する琴ちゃんに、早速購入したシュシュを装着してみる事に。


「……うん、やっぱり可愛い!どーです店員さん!うちの琴ちゃんは!可愛いでしょ!」

「ええ勿論!とっても可愛らしいですよお客さま!」

「ほらね?その道のプロである店員さんも可愛いって言ってるじゃん。琴ちゃんは可愛いし、シュシュも最高に似合ってるんだよ。ほらほら、琴ちゃんも見てみ?めっちゃ可愛いでしょー」


 鏡の前に琴ちゃんを立たせ。装着したシュシュを琴ちゃん自身に見て貰う。そこには可愛い×可愛い=極上の可愛い琴ちゃんが出来上がっていた。


「で、でも……」

「えーい、うるさいっ!ブームが10年前がどうしたってんだ!私の感性は10年前に置き去りになってるから何一つ問題無いね!世間のブームとか知らん!それよりも……他でもないこの私が琴ちゃんを可愛いって思っているんだからそれで良いでしょ!」

「は、はひ……」


 まだ何やらごちゃごちゃ言いかける琴ちゃんを力業で言いくるめる私。ややあって琴ちゃんは改めて鏡の中の自分を見つめ、そして……


「あ、あの……お姉ちゃん」

「んー?なぁに琴ちゃん」

「その……あ、ありがと……嬉しい……」

「ははは、なんのなんの!お礼なんて良いんだよ。こういうプレゼントで良ければなんだって買ってあげるからね!」


 はにかみながら私にお礼を言ってくれる琴ちゃん。そんなかわゆい反応とかわゆい格好を見せてくれただけでお釣りがくるってものだ。ふふふ……我ながら良い買い物をしてしまったな……


「…………(ボソッ)私が嬉しいって言ったの……プレゼントもだけど……可愛いって言ってくれた事なんだけどな……えへへ……♪」


 中々に幸先の良いスタートだ。この調子で琴ちゃんにデートを楽しんで貰うとしよう。それじゃ、張り切って次の目的地まで行ってみましょうかねーっと。


『ほう……小絃のやつ、ファッションセンスが絶望的な癖に悪くないチョイスするじゃないの。こっちも負けてらんないわ。……てなわけで紬希!私からも紬希にプレゼントよ!絶対紬希に似合うから、受け取ってちょうだい!』

『…………わー、なんてかわいらしいバックパックなんだろうねー……ウレシイナー…………って、言うとでも思ったのかなあや子ちゃんは?これ、ランドセルだよね?なんでこんな物がこんな場所で売られているのかはこの際置いておくとして。いらないからね?……うちに何個ランドセルがあると思ってるのよ……』

『コマ!コマは何か欲しいものとかある?お姉ちゃんがプレゼントしてあげるから何でも言ってね!』

『まあ嬉しい♪でしたら…………姉さまが欲しいです。姉さまの全てを私にくださいな♡』

『もー、やだなぁコマったら。それはもうとっくの昔にコマにぜーんぶあげたじゃないの♡そうじゃなくて他の――って、あれ?ねえコマ?そう言えばヒメっちどこ行ったか知らない?』

『あ、ああ……ヒメさまならつい先ほど……『こんなバカップル共の甘ったるい空間にいつまでもいられるか!私は母さんの元に帰らせて貰う!』とか何とか言って帰られたみたいでして……』

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