165話 お姉ちゃんの手作りお弁当
今日は楽しい琴ちゃんとの人生お初のデートの日。そんなわけで絶対に失敗出来ない私は紬希さんたちのご協力の下、綿密な計画を立ててデートに臨んだんだけど……
「――ご、ごめん琴ちゃん……私ったらつい夢中になっちゃって……折角のデートなのに余計な時間を取らせちゃって」
「う、ううん……謝らなきゃいけないのは私の方だよ小絃お姉ちゃん……お外でこんなに長い時間お姉ちゃんに立ち話させるなんて……」
デート開始早々に出鼻をくじかれる。デート故に気合いを入れすぎた弊害なのか、待ち合わせ場所から一歩も動かずに1時間近くお互いにお互いのデート服の褒め合いをしてしまったのである。折角待ち合わせ時間の30分も早く来たというのに台無しである。
「とんでもない!琴ちゃんが謝る必要なんてないよ!この通り私元気いっぱいだし!それに……実言うと琴ちゃんに気に入って貰えるようにって、かなり無理しておめかししてきたからさ。こんなに琴ちゃんに褒めて貰えるなんて思ってなくて……正直滅茶苦茶嬉しかったんだ!」
「わ、私も……私もだよお姉ちゃん……!お姉ちゃんが昔『可愛いよ』って褒めてくれた格好だったから……それを思い出して気づけばこんな格好してて……ほんとはね、私……怖かった。大人になって、今更こんな格好しても喜ばれないんじゃないかって不安だったけど……でもお姉ちゃんがあんなに喜んでくれるなんて……私、ホントにうれしい!」
「琴ちゃん……♡」
「お姉ちゃん……♡」
いや、でもただでさえ世界一可愛い琴ちゃんが更にあんなに可愛くおめかししてデートに挑んでくれたのにそれを全力で褒めないとか、お姉ちゃんとしても人間としてもないと思うし……これは仕方のない事だったハズ。
逆に考えれば30分早めに来ておいたからこそプラスマイナスで考えると30分しかロスしなかったワケだし、この程度なら多少デートのプランを調整するだけで済むってものだろう。マコ師匠の言うとおり早めに来ておいて大正解だったわ。
『――ったく。まだあの二人やるつもりなのかしら?いい加減、見てるこっちが気恥ずかしくなってきたんだけど?じれったいし時間の無駄だし、いいからはよデートしろってツッコんで来ても良いかしら?』
『だ、ダメだよあや子ちゃん!琴ちゃんも小絃さんも、今すっごく良い雰囲気なんだし邪魔しちゃダメだって!』
『フッ……だから言っただろう我が弟子コイコイよ。デートする時は待ち合わせ時間よりも早く来るべきだって。師の教えが早速役にたったね』
『こうなることを見越して予め対策を練っているとは……流石ですマコ姉さま!』
『ホント流石。経験者はひと味違うね。何せマコの場合1時間どころか1日前からデートのためにコマを待ってた実績があるもんね』
『あっ……ちょ、ヒメっち……!それはコマに心配かけちゃうからコマにはナイショにしてってあれほど口酸っぱく言ってたのに……!?』
『…………ほぅ。そのお話は後でじっくり聞かせていただきましょうか姉さま』
……と、いかんいかん。これ以上琴ちゃんとの二人だけの世界に浸ると外野たちがしびれを切らして何をしでかすかわかったもんじゃない。あや子辺りが余計な事をする前に本格的にデートを始めなくっちゃね。
「じゃあ琴ちゃん。そろそろデート始めちゃおっか」
「う、うん……よ、よろしくお願いします……」
「はい、よろしくね。そんじゃまずは……ちょうど良い時間だし、早速だけどお昼にしよっか」
ホントなら手始めに近くの公園でお散歩って流れだったけど、時間も押してきているところだしランチにしようと提案する私。すっかりお昼になっちゃったし。腹が減ってはなんとやら、だしね。
「実は私、お弁当作ってきたんだ。良かったら……琴ちゃん、食べてくれないかな」
「お、お姉ちゃんのお弁当……う、うん!食べる!食べたい!…………あ。と言うか……ご、ごめんね。私、お昼の事とか全然考えていなくて……お姉ちゃんは私の為にお弁当作ってくれてたのに……」
「あはは、なんで琴ちゃんが謝るのさ。気にしない気にしない。デート誘ったの私でしょ?ならこっちがご飯の事とか考えるの当然じゃないの。それよりもこの近くに静かで人気のないところってどっかなかったかな?折角食べるならそういうところでお弁当広げたいし」
あと、私たちの後を付けているそこの出歯亀たちが悪目立ちして通行人の皆さんに通報された挙げ句、こっちにまでとばっちりが来てデートを台無しにされても困るし。
「この近くで静かで人気のないところ……?えっと。まずこの先の公園はこの時間だとあんまり人は来ないね。反対方向には空き地があってあっちは近くに家も建ってないから昼夜問わず誰も来ないよ。その他だとあっちの路地裏とか薄暗い上に多少声が漏れても表通りから離れているから誰も気づかないだろうし、あっちには使ってないテナントがあってそこって実は鍵もかかっていないから簡単に出入りできて結構オススメ」
「ふむふむ、だったらお弁当を食べるならこの先の公園がちょうど良さそうだね。そこで食べよっか琴ちゃん」
「う、うん!お姉ちゃんの手作りお弁当楽しみ!お腹ペコペコだもん!」
そう言ってキラキラした目で私が持つバスケットを見つめる琴ちゃん。じ、自分から作っておいてなんだけど……そこまで琴ちゃんに期待されるとちょっぴり心配になっちゃう私。だ、大丈夫……だよね?マコ師匠からもOKサインは出たし、紬希さんたちにも一度試食して貰ったわけだし。あとは琴ちゃんのお口に合うと良いんだけど……なんて思いながら、琴ちゃんに手を引かれつつ公園に足を運ぶ私。
……ところでだ。
「……そう言えば琴ちゃん。すっごいどうでも良い些細な事だけど聞いてみてもいい?」
「んー?なぁにお姉ちゃん?」
「どうして琴ちゃんは静かで人気のないところを聞いたらそんなすぐに即答できて、オマケにそんなに詳しいのかなーって……お姉ちゃんちょっとだけ気になってさ」
「え?…………あ」
「まさかとは思うけど……琴ちゃん、そういう場所で私と色々とエロエロな事がしたくて、それで前もって下調べしてたとか――なーんてね!いくらなんでもそれは無いか!ハッハッハ!」
「…………(ササッ)」
「あ、あれ?……ね、ねえ琴ちゃん?どうしてそこで笑い飛ばしてくれないの琴ちゃん?どうしてそこで私から目を全力で逸らすの琴ちゃん?ねえ、ねえってば……!?」
◇ ◇ ◇
そんなやり取りをしながら公園に辿り着いた私と琴ちゃん。適当な木陰にレジャーシートを二人で敷いて、お弁当箱を広げたら準備完了。
「お姉ちゃんの手作りお弁当……見ただけでわかる、これ絶対美味しいやつだ……すごい。た、食べていい?もう食べてもいい?」
「ふふ、琴ちゃん?食べる前にやることがあるでしょう?ほら、手を合わせて……せーの」
「「いただきます!」」
仲良く手を合わせ『いただきます』をして……いざ実食。琴ちゃんの好物を中心に作ったとはいえ……美味しいか美味しくないかは食べて貰わない事には始まらない。
琴ちゃんのお口に、私の手料理が送り込まれる。緊張の一瞬……さあ、どうだ……?
「……(もぐもぐ)」
「……ど、どう……かな琴ちゃん?」
「……(もぐもぐ)」
「えと……琴、ちゃん……?」
「…………(もぐもぐもぐ)」
「琴ちゃん……!?」
期待半分不安半分で『美味しい』or『不味い』のリアクションを待っていた私だけれど。予想に反し琴ちゃんは何の反応もなく、ただひたすらに目の前の私の手料理を味わい続けている。わ、わからん……ど……どっちだこれは……!?
「あ、あの……琴ちゃん?そんなに急いで食べたら喉につまっちゃうよ……良く噛んで食べないと健康にも悪いし。……あ、あと……その。お味はどうかなーってお姉ちゃん気になってさ……」
「…………はっ!?ご、ごめんなさい……私ったらはしたない……」
一心不乱に取り皿にとった食事を平らげて、おかわりしようとしていた琴ちゃんに声をかけてみる私。ようやく琴ちゃんは我に返り口の中の料理を飲み込んで。私に恥ずかしそうに顔を赤くしてこう答える。
「すっ……ごく美味しいよお姉ちゃん!正直に言うとビックリした……いつもお姉ちゃんが作ってくれるからお姉ちゃんの料理の腕が上達しているのはわかっていたつもりだけど……今日のは特に美味しい!あまりに美味しかったからつい夢中になっちゃって……」
「そ、そっか!それは……作った甲斐があるよ!いっぱい作ったから良かったらたくさん食べてね!…………あ、でもさっきも言った通りゆっくり食べようね琴ちゃん」
「う、うんわかってる。うぅ……恥ずかしいなぁ私……あ、お姉ちゃんもちゃんと食べてね!これ!このサンドイッチとかとっても美味しいんだよ!」
この反応、どうやら琴ちゃんのお口に合っていたらしい。ほっと安堵のため息をつきつつ、私も食事をはじめる事に。琴ちゃんが褒め称えてくれただけあってマコ師匠や琴ちゃんの料理には負けると思うけど結構美味しい。
「しっかし……なんだか懐かしいよね琴ちゃん」
「……?懐かしいって、何が?」
「ふふ、琴ちゃんは覚えてない?まー覚えてないのも無理はないか。実はこの公園ってさ……琴ちゃんが小さい頃にお姉ちゃんとピクニックに何度か来たことがあるんだよ」
「……ぁ」
食事をしながら私がそう語り始めると、あれだけ器用に素早く動かしていた箸を止めて聞き入る琴ちゃん。
「今日みたいな良く晴れた日にね、琴ちゃんのお母さんに作って貰ったお弁当を持ってこんな風にお弁当箱広げてさ。琴ちゃんと二人で一緒に食べたんだよね。いやぁ、本当に懐かしいなぁ」
「…………そう、だね。うん……覚えてる。ちゃんと覚えてるよ……お姉ちゃんとの素敵な思い出だし…………それに、10年前のあの日も……同じように……」
「琴ちゃんも覚えてる?そっかそっか!それはうれしいなぁ!」
一瞬陰りを見せた琴ちゃんに、あえて気づかないフリをして私は話を続ける。……良かった。覚えていてくれたみたいだ。今の琴ちゃんには酷かもしれないけど……そうじゃなきゃ、今日のデートを企画した意味は無いもんね。
「あ、そーだ。懐かしいついでに……折角食べるなら琴ちゃんの大好きな『アレ』もしてあげましょう。と言うわけで琴ちゃん」
「……え?な、なぁにお姉ちゃん?」
「はい、あーん♡」
「…………ッ!?」
あまり思い出したくない事を思い出させてしまったお詫びと、それからデートらしい事をしてあげたいという思いを込めて。琴ちゃんの大好物である甘口の厚焼き卵を箸で掴んで琴ちゃんの口元に持っていってあげる私。
油断していたであろう琴ちゃんは目を白黒させて、驚いた表情を私に見せてくれる(かわいい)。
「あ、あの……?お、お姉ちゃん?」
「あーん、だよ琴ちゃん。お口あけてー」
「ど、どう……したの?いつもはあーんするのもされるのも……恥ずかしがってるのに……ましてお外でなんて……」
「んー?昔はこうして食べさせあいっこしてたでしょー?」
「そ、そう……だけど……な、なんで今急に……」
「こうすれば琴ちゃんの食事のペースも私が調整してあげられるでしょ?これで急いで食べるような事もしなくて済むじゃない。それにさ……」
「そ、それに……?」
「あーん♡するのって、恋人っぽいでしょ。折角の琴ちゃんとのデートなんだしお姉ちゃんやりたくなったの。……ダメ、かな?」
「だ、ダメなんかじゃないよ……!お、お姉ちゃんさえ良ければ……お、おねがい……しましゅ……」
「良かった。なら改めて……あーん♡」
すっかりしおらしくなった琴ちゃんは、お顔を真っ赤っかにしながらも言われたとおりお口を開けて私を待つ。雛鳥みたいで可愛いなぁ、と内心思いながら琴ちゃんのお口に厚焼き卵を送り届ける。
「どう琴ちゃん?美味しい?」
「…………おいしい。しあわせの味がする……」
「あはは!なぁにそれ?お姉ちゃん、それがどんな味か気になるなぁ。ねえ琴ちゃん。折角だし私にもあーん♡してくれないかな?」
「えっ!?良いの!?」
「ふふ……良いも悪いも、私がお願いしてる事でしょう?ね、琴ちゃん。お願い……」
「う、うん……まかせて!あ、あーん♡」
「はいあーん♡」
そうやって最後まで二人で食べさせあいっこする事になった私と琴ちゃん。一人で食べるよりも時間が余計にかかっちゃって……お陰でまたもや予定していたデートの計画を調整しなくちゃいけなくなっちゃったんだけど……
でも、まあいっか!琴ちゃん喜んでくれてたからね!
『……うぇ。なにあの甘ったるい空間……こっちはランチもまだなのに胸焼けしちゃいそうだわ。紬希!こっちも負けじとイチャつきましょう!』
『一体何と戦っているのあや子ちゃんは……?』
『姉さま……私たちも……しませんか』
『コマもどうして対抗しようとしているんだい……?てか、こっちにはあーん♡するものが何もなくない……?』
『あーん♡が無ければちゅー♡しましょう姉さま』
『……どいつもこいつも見せつけるようにイチャつきやがって。いいもん。私も帰ったら母さんと思いっきりイチャついてやるもん……』
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