160話 お姉ちゃんの決意
――今回の騒動の後日談を、少しだけ語ろうと思う。
あの後……泣きつかれた琴ちゃんが私の腕の中で眠りこけた隙に、あれだけ苦しめられた防犯システムを全て停止させる事に成功した私。一先ずこれで、仮に琴ちゃんが途中で目を覚ましても、また監禁されちゃうような事にはならないだろう。
「……ごめ……なさい……ごめんな、さい……こいとおねえちゃん、ごめんなさい……」
「……大丈夫。大丈夫だよ琴ちゃん。琴ちゃんはなーんにも悪くない。悪くないよ。これはただの……悪い夢だからね。琴ちゃんが目を覚ましたら……全部無かったことになっているからね」
その琴ちゃんだけど……怪しいポンコツ装置が原因でこうなったとはいえ、私にやったアレやコレやが相当ショックだったようで。深い眠りについているハズなのにいつもにも増して苦しそうにうなされていた。
そんな琴ちゃんを罪悪感を溶かすように抱きしめてあげながら、何度も何度も私は琴ちゃんに『大丈夫、悪くないよ』と囁く。そうだ、琴ちゃんは何にも悪くない。悪いのは……
「…………あの、小絃?今回ばかりは謝るわ……ごめんなさい……謝るから…………そろそろこれ、外してくれないかしら……?地味に手足が痛いんだけど……わ、わかってるの?あたしは娘に縛られて悦ぶHENTAIじゃないのよ?」
「やかましい。琴ちゃんとついでに私が受けた痛みはそんなもんじゃないわ。いいからしばらくは大人しくそこで縛られてろエセ科学者」
そう。悪いのはこの……関わったもの全てを不幸せにしてしまう呪いのような発明品しか作る才能が無い今回の(※今回も)元凶なのだから。
『小絃ー、なんか破られるハズのないあたしの完璧な防犯システムが機能停止したから様子見に来てあげたわよー』
とかほざきながら、数十分前にノコノコやって来たバ母さん。飛んで火に入るなんとやら。とりあえず少しでも反省を促すべく、顔を見た瞬間琴ちゃんに縛られていた時の手枷足枷を有効活用して情け容赦なく縛りあげておいたわ。
「兎にも角にもまずは琴ちゃんだ。オイBBA、ここに来たって事は……ちゃんと琴ちゃんを正気に戻す装置は持ってきたんだろうね?」
今回の監禁騒動の引き金は、例の『理性破壊装置』だった。一刻も早く琴ちゃんの理性を戻し、琴ちゃんを苦痛から解放してあげなければなるまい。そう思い私は『さっさと出せ』と圧を込めながら母さんに手を差し出す。
「え?なんで?そんなもの持ってくる必要なくない?」
「…………(ぷちん)」
だというのにこの超弩級人の心がないマザーは……本気で私の言うことが理解出来ないと言わんばかりに首を傾げてきやがった。
はっはっは。いやはや……相も変わらず、私を怒らせる事に関しては天下一品だなこのヤロウ。
「…………よし決めた。このまま簀巻きにしようそうしよう。ねえ母さん、娘として特別に選ばせてあげるね。海がいい?山がいい?」
「待ちなさい小絃……!?まるで『夏の旅行先はどこにする?』的な感覚で、あたしの死体の処理場所を決めさせようとしないでちょうだい……!?あんた、いつになく目が本気と書いてマジなんだけど……!?海って言ったら沈める気なの!?山って言ったら埋める気なの!?」
そりゃ本気だからね。ふざけているなら今すぐにでもこの反省の色が全く見えないBBAを穏便に処理してやるつもりだから覚悟しろよ。
「違うのよ小絃、ちゃんと話は最後まで聞きなさいってば。あたしが言いたいのはね……『今の琴ちゃんには装置を使う意味が無い』って事なのよ」
「……どういう意味さ。まさか母さん、琴ちゃんは理性をなくそうがなくすまいが変わらないとでも言いたいの?もしや琴ちゃんを侮辱してんなら、こっちにだって考えが……」
「だから違うってば。……正直あたしもビックリしているんだけどね。あんたにも一度説明してやった事だけど、一度あの装置を起動したらもう一度ボタンを押さない限り理性は失ったままのハズだったのよ。これがかなり強制力があってね、普通なら半永久的に解ける事はなかったんだけどさ」
なにせ琴ちゃんやあの紬希さんですら母さんの装置を使った途端にタガが外れて、自分で自分を抑えきれずにそれはもう大変な事になっちゃったと聞く。……改めて、なんてものを作り上げやがったんだうちのアホアホ母は……
「それは知ってる。で?」
「だからね。今回の琴ちゃんは理性を失った結果、あんたを監禁したいって欲望が表に出ちゃっていたわけでしょう?だったら本来なら何があってもあんたは琴ちゃんから逃れられないはずだったわけよ。それなのにあんたはこうして無事に監禁生活から解放された。……これがどういうことか、わかるかしら?」
「……だから?さっきから母さんは何が言いたいのさ?回りくどいから要点だけ言ってよ」
「わからないの小絃?琴ちゃんの理性が外れているなら……解放される事は絶対にあり得ないハズだった。と言うことはつまりね……あんたが解放された時点で、琴ちゃんは装置も使わずに自力で理性を取り戻したって事よ」
「え?」
琴ちゃんが、自力で……?
「流石は琴ちゃん、凄い精神力だわ。こんな事あるものなのねぇ……まさかと思って様子を見に来てみれば。琴ちゃんったらしっかり理性を取り戻しちゃっているじゃない。前例がないからビックリよ。……琴ちゃんの奥底に強制的に閉じ込めていた理性が、あんたの為にあたしの装置に打ち勝ったって事なのね。それって相当大変な事なのに。…………ふふん、やっぱり愛の力なのかしらねぇ小絃」
「……琴ちゃん」
それを聞いて感極まった私は思わず琴ちゃんを抱き締める力を更に強くしてしまう。ああ、もう……本当にこの子は……
「…………母さん。あんたにいくつか頼みがある」
「ん。いいわ、聞きましょう。今回ばかりは流石のあたしも……琴ちゃんにも、あんたにも。悪い事したって自覚してるからね。言ってみなさいな」
「まず一つ。ここ一週間のアレコレを『悪い夢だった』って琴ちゃんに思い込ませる装置とか作って欲しい。出来る?出来るよね?出来ないとは言わせんぞ」
私の為に頑張って理性を取り戻してくれた琴ちゃん。私もそんな琴ちゃんの為に、琴ちゃんの姉として出来る事をやってあげなくちゃね。
「ふむ……その程度ならまあ何とかなるでしょう。良いわ、やってみましょう」
「ならよし。完成したらすぐに琴ちゃんに使うよ。あとついでに……この馬鹿げた監禁部屋も責任持って元通りにしておくように」
「えぇー……元に戻すの……?コレを……?ここまで作るのに相当重労働だったのよ小絃……勿体ないし戻すの面倒くさいし、これはもうそのままで良くない?」
「良くないわ。嫌すぎるんだよ寝室が監禁部屋なんて……」
「まあ待ちなさい。ちょっと見方を変えたら素敵なインテリアにも見えなくはない……そう思わない?」
「思わないわ。いいからとっとと元に戻さんかい」
「うぅ……折角作ったのに……わかった、わかったわよぅ……」
とりあえずここまでしておけば後は琴ちゃんが目を覚めしても『あれは夢だった』って認識されて気を病むような事はなくなるはず。整合性を取るためにも……紬希さんやヒメさんたちに後日連絡を取って話を合わせておくとしようか。
さて……あと私がお姉ちゃんとしてやっておくべき事と言えば――
『…………だめ。ここは……ここだけは、だめ……ぜったい……』
『…………ほら、ここって……小さな子供用の服しか取り扱ってないもん。今の私やお姉ちゃんが行ったところで意味ないじゃない』
『……イト、おねえちゃ……コイトおねえちゃん……やだ。まって、そっちいっちゃ……だめ……だめ……にげ、て……いや、いやだよ…………おねえちゃん……おねがい、わたしを……ひとりに……しない、で……』
――ああ、そうだ。そうだった。お姉ちゃんとしてやっておくべき事……あったわ。今までは目を逸らしていた事だけど。そろそろ本格的に……ちゃんと向き合っていかないとね。
「…………それからもう一つ。ねえ母さん……母さんにちょっと……作って欲しい発明品があるんだけど」
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