155話 脱走作戦その2
『琴ちゃんを色仕掛けで堕として脱走する』
アホのあや子のそんなバカそのものの作戦に乗っかかり。裸エプロンを装着し琴ちゃんを色仕掛けして……そして盛大に失敗した。いや色仕掛け自体はどういうわけか性交――じゃない、成功したんだけど。成功し過ぎたというかなんというか……とにかく肝心要の脱走には至っていない。
それでも他に方法もなかったわけだし、それなりに感触は悪くなかったしで。その後もダメ元で何度か琴ちゃんの前で色仕掛けチャレンジをやってみた私なんだけど……
『こ、琴ちゃん……その。お、お仕事中に……ごめんね。ちょ、ちょーっといいかな……?琴ちゃんにお願いしたい事が……あるんだけど……』
『んー?なぁに小絃お姉ちゃん。どうかした?ひょっとして構ってあげられなくて寂しくなっ…………え?』
『その、えと……ど、どうかな……?』
『…………お姉ちゃん、その格好は……?ウエディングドレス……?』
『クローゼットの中物色してたらこんなものがあったから……気の迷いで着てみたんだけど……に、似合う?お姉ちゃん……ちゃんと花嫁さんに見える……かな?琴ちゃんと一緒に並んでも変だったり……しない?琴ちゃんだけのお嫁さんに……見える?』
『…………』
『こ、琴ちゃん?あのぅ……キミいつのまに私とお揃いのウエディングドレス着たの?すっごい綺麗だけど……それに……どこからその指輪を出したの?あとそのキス待ち顔はなに……?あ、ちょ……なんかどんどん近づいて――ん、ンンンーっ!?』
昼は(何故かクローゼットの中に大事に収納されていた)ウエディングドレスを着て琴ちゃんの前に立ってみたり。
『お姉ちゃん。もうすっかり夜になっちゃったね。そろそろおやすみの時間だよ。一緒におねんねしようね』
『あ、あの……琴ちゃん。も、もう寝ちゃうの……?流石に早すぎない……?まだ8時前で眠くないんだけど……』
『眠くない?んー、そうだね。確かにちょっとだけ早いかもね。でもねお姉ちゃん。お姉ちゃんはまだ身体が本調子じゃないんだし。しっかり眠って体力を戻さなきゃ。眠れないなら私が眠くなるまで本でも読み聞かせしてあげるから』
『で、でもさ琴ちゃん。折角私たち誰にも邪魔されず二人っきりなのに……このまま寝るだけなんて勿体ないと思わない?』
『……?というと?』
『えと……まあ、つまりは…………こういう事……!(バサァ!)よ、夜はまだまだこれからって事さ!』
『…………お姉ちゃん。その透け透けネグリジェは……なに?』
『け、結婚初夜のお供にどうぞって……以前ヒメさんに貰ったやつ…………あ、あはは……流石に引いた?お姉ちゃんにセクシー路線は無謀だった……かな?』
『…………』
『あの、琴ちゃん?せめて何か言って……む、無言で迫るのはやめて……?なんか、おめめ怖い気がするのは気のせ…………あっ』
夜は見た目が凄いネグリジェを装備して、ベッドで琴ちゃんをお誘いしてみたり。
――と、まあそんなこんなであの手この手で琴ちゃんに色仕掛けして……その結果はというと……
「畜生、あや子なんかの戯れ言を本気で信じた私がバカだったわ……!」
『ハハハッ、バーカ』
「ぶちのめすぞ貴様ァ!」
結局脱出は叶わずに、未だに囚われの身の私であった。
「どういうことだあや子!貴様の言った通り恥を忍んで色仕掛けやった結果がこれだぞ!?」
深夜。どうにかこうにか暴走琴ちゃんを寝かしつけた私はこの何の役にも立たない作戦を立案したあや子のアホに抗議の電話を鳴らしていた。
『なによ。色仕掛けそのものは上手くいったんでしょ?琴ちゃんを骨抜きに出来たんでしょ?一体何の問題があるって言うのよ』
「上手くいきすぎてるのが問題なんだよッ!」
確かにあや子の言うとおり、色仕掛け自体は奇跡的に上手くいったかもしれない。私との結婚願望が強い琴ちゃんには裸エプロンもウエディングドレスもスケスケネグリジェも、相当効いていたのは認めよう。
……だがしかし。上手くいきすぎたのが逆に仇になったと言わざるを得ない。なぜならあや子のアドバイスに従い色仕掛けした結果、理性を失って欲望に忠実になってしまっている琴ちゃんに拘束され……指一本動かなくなるくらいに抱き潰されちゃって……脱出するどころの話じゃなくなってしまったのだから。
「そもそもこの作戦の目的は、あくまで脱出することであって色仕掛けそのものじゃないでしょうが!?脱出するどころか寧ろ余計に琴ちゃんから『もう絶対に逃がさないよお姉ちゃん……!』って強い意志を感じるんだけど!?」
『そりゃ残当ってやつじゃない?琴ちゃんからしたらただでさえ小絃を逃がす理由なんてないってのに、目の前で色仕掛けなんてされちゃった日には……ねぇ?『鴨が葱を背負って鍋を沸かして美味しく召し上がれ♡』なんて事をしでかしている小絃を琴ちゃんが逃がす道理なんてあるわけないじゃないの』
「本末転倒過ぎるだろうがバカァ!!!」
くそぅ……まさか作戦の趣旨を理解出来ないくらいのおバカさんだったとは……これだからこのロリコンは……
まあ、そんなアホのあや子ごときの作戦に乗った私もアレだからこれ以上文句は言えないんだがね……あや子なんざ頼ったのがそもそもの間違いだったってわかっただけでも一歩前進だ。素直に他の手を考えるか。
『あの……小絃さん聞こえますか?といいますか……ご、ご無事ですか……?』
「おや?この声はもしかしなくても……紬希さん!紬希さんじゃないですか!
と、次の作戦を練ろうとしていた矢先。あや子との電話越しに儚げで愛らしい女性の声が聞こえてきた。この声は間違いない、琴ちゃんの大親友にしてあや子のお嫁さんの紬希さんだ。ああ、久々に紬希さんの声聞くとなんだか癒やされるなぁ。
「夜分遅くにすみませんね。なんだかすっごく紬希さんとお話するの久しぶりな気がします。あ、ちなみに私はこの通り元気いっぱいですよ!」
『そ、そうですか。……と、とりあえずは小絃さんがお元気そうでホッとしました。……えと。それでその……色々あって琴ちゃんから監禁されているとあや子ちゃんから聞いたのですが……』
「あ、あはは……実はそうなんですよね。掻い摘まんで説明しますと――」
心配してくれている紬希さんの為に今何が起きているのかを簡単に説明する私。母さんのいつもの迷惑実験に琴ちゃんが巻き込まれた事。理性が溶けた琴ちゃんに監禁されてしまった事。脱出が困難である事……我ながらわけのわからない状況だなと説明しながら思いつつも、聡明な紬希さんは私の拙い説明を真剣に聞いてくれる。
「――と言う事なんです」
『……なるほどです。琴ちゃんの理性が…………普段の琴ちゃんらしからぬ奇行はそのせいだったんですね。私、琴ちゃんも小絃さんの事も心配で……何度かお家に来たんですけど……残念ながら琴ちゃんに会って貰えなくて……』
「あー……そうでした。琴ちゃんに追い返されちゃったんでしたよね。折角来てくれたのにすみません紬希さん……」
『い、いえいえ。それほどまでに小絃さんのお母さんの実験装置の効果が凄かったって事ですから仕方ないですよ。実は私も……その。小絃さんのお母さんに実験に付き合って欲しいって頼まれて……その時理性を外されちゃって大変な事になっちゃいましたから。琴ちゃんの今の状況はよくわかります』
「重ね重ねうちの駄母がほんっとにすみません……!」
……そういえばあや子から話は聞いてたけど。紬希さんも今回の理性破壊装置の犠牲になってたって話だったね……本当にあのマッドサイエンティストBBAは……ここから出たら琴ちゃんと紬希さんの分までぶん殴ってやる……!
『い、良いんですよその事は。それよりも小絃さん。その場所から一刻も早く脱出して……琴ちゃんを元に戻したいのですよね?役に立てるか自信はありませんが……私もどうか協力させてください』
「お、おお……!それは心強いです紬希さん!紬希さんがいてくれれば百人力!是非ともよろしくお願いします!」
『おい小絃。なーんで私の時と紬希の時で態度も反応もそんなに違うのよ?』
ははは、言わなきゃわからないのかねチミは?
「早速で申し訳ないんですが紬希さん。どうかこの私に知恵をお貸し下さい。この難攻不落の監獄……どうすれば脱出出来ると思いますか?」
『えと……そうですね。とにかく状況を整理させてください。まず始めに……琴ちゃんにその家から出して貰うのは……』
「それはかなり難しいかと思います。今の琴ちゃんはどうも……私が外に出る事を極端に恐れているみたいなんですよ」
さり気なく『近くをお散歩しよう』とか『また一緒に旅行に行こう』とか誘ってみたんだけど。頑なに『必要ない』って何を言っても一刀両断してきたわけだし。
『そうですよね……では、琴ちゃんの隙を見てどうにか脱出するのは……?』
「それもかなり厳しいですね。それはもう厳重に施錠されていますし、それ以前に琴ちゃんに隙がまるでないんです。常に監視の目を光らせていて、何をするにも私から目を離さないので……」
『なるほど……その状況なら誰かがその家に侵入して小絃さんを助けるという手も無理そうですね。…………あれ?ですが小絃さん。今はこうして自由に私やあや子ちゃんと電話していますよね?今琴ちゃんは……?』
「ぐっすり眠ってますのでその隙に電話してます。……あ、ちなみにあや子にも言いましたが、この隙に琴ちゃんが持っているであろう鍵を拝借する方法は無理ですよ。何せ琴ちゃん、私のその行動を見越して寝ている時はこの部屋の外の金庫に家中の鍵をしまっていますし。この部屋は10時にはオートロックがかかって……6時に自動的に開くのを待つか、もしくは琴ちゃんの声紋認証で中から開けて貰うしか――」
『…………声紋、認証……』
「……?紬希さん?」
そう説明すると少し考えこむように無言になる紬希さん。何か思いつかれたのだろうか?邪魔しないように紬希さんからの応答を待つ事……数分。紬希さんは再度私にこのように問いかけてきた。
『……あの。小絃さん。それはつまり……夜は流石の琴ちゃんも隙が出来るって事ですか?電話をしても問題無い程度には……隙が出来ると』
「え?え、ええ。その日の体調とかにも寄ると思いますが……多分そうですね」
『その家の全ての鍵をしまっている金庫の開け方はわかりますか?』
「あ、はい。普通のダイヤル式の金庫ですし、私が監禁される前から琴ちゃんと共同で使っていた金庫なので私でも開けられますよ。ただ……この部屋から出られないなら開けられても意味がないんですけどねー……」
『…………なるほど』
やれやれと思わずため息を吐いてしまう私。うーん、考えれば考えるほど脱出無理ゲー過ぎるな……ホントどうしたものかねぇ。
『えと……小絃さん。一つ思いついた事があるんですが……』
「えっ!?もう何か思いつかれたんですか!?はや!?」
『わ、わわわ……こ、小絃さんあまり大声出したら不味いです……!琴ちゃんに聞かれちゃいますよ……!?』
あまりにもあっさりと脱出方法を思いつく紬希さんに驚愕して、思わず大声を出しそうになる私。慌てて自分の口を手で押さえて、恐る恐るすぐ近くで眠る琴ちゃんの様子を見てみる。
…………よし、大丈夫。今日の私とのアレコレでかなり疲れているようだしよく寝てるね。ホッと胸を撫で下ろしながら、改めて紬希さんに尋ねてみる。
「す、すみませんつい興奮しちゃって……そ、それで?思いつかれた事とは……?」
『あ、えと。あくまでも素人考えですし……上手くいくかわかりません。あくまで参考程度に聞いて欲しいのですが……』
「なんと頼もしい……!遠慮せずどんどん言ってください紬希さん……!」
『は、はい。それでは……』
期待に胸を膨らませるそんな私に対し、紬希さんはこんな策を授けてくれる。
『常に小絃さんを監視している琴ちゃんも、夜だけは警戒を解いてくれるのですよね。でしたら……やはり夜中にこっそりとその家から抜け出すのが一番安全だと思うんです』
「そうですね……ですがその為には、この鉄格子で囲まれた部屋から抜け出すしかなくて……それには時間を待つか琴ちゃんに開けて貰うしか――」
『それですよ小絃さん。琴ちゃんに開けて貰うんです』
「……琴ちゃんに開けて貰うって……ま、まさかまた色仕掛けで?」
『また……?い、いえ……そんなエッチな方法じゃなくてですね。そうじゃなくて……間接的に開けて貰うんです。その部屋って……確か声紋認証システムで開閉出来るのですよね?』
「は、はい……こんなアホみたいな部屋を作った母さんからそのように聞いていますけど……」
『でしたら――琴ちゃんの声を録音して、それを使って夜中にこっそり部屋から出るのは……どうでしょうか?』
「…………!」
その紬希さんの作戦に、私は一筋の光を見た気がした。お、おお……!流石は紬希さん……!これはいける気がするぞ……!
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