149話 同棲(監禁)生活2日目(昼)

 ちょっと……いや大分特殊な朝の目覚めと朝ご飯が終わり。


「…………(ブツブツブツ)琴ちゃんのお父様、お母様……大変申し訳ございません……大事な嫁入り前の娘さんの大事な唇を…………言い訳になりますが……わざとではないんです、決してわざとでは……ですが……はいそうです……超超タイプな顔が良すぎる大人のお姉さまへと成長した琴ちゃんにキスされるの気持ちよすぎて……抵抗できなかったのも事実です…………ここから出られたら真っ先にお二人には土下座します……それで許されるなんて都合が良い事は思っていませんが……そうしなきゃ私の気持ちが収まらないんです……」


 琴ちゃんが食器を片付けている間。私は琴ちゃんに監禁されているお部屋で一人、琴ちゃんのお父様お母様がいらっしゃるであろう方角に向けて全力で土下座しながら……ただただ謝罪を口にしていた。ああ、自己嫌悪。我ながら意志薄弱過ぎて泣ける。

 理性を失っている琴ちゃんに、食事と称して唇を奪われた。それも一度や二度の話ではない。……そもそも琴ちゃんの姉貴分である私には止める義務があったというのに、それが出来ないばかりか……


『私に口移しされて不快だった?気持ち悪かった?だったら大人しく私もやめる。お姉ちゃんが本気で嫌がる事はしない。…………でもねお姉ちゃん。昨日の……私に口移しされている時のお姉ちゃんの顔ね。『もっとして♡』って言っているようにしか見えなかったよ』


 あろうことか琴ちゃんに痛いところを突かれ、黙らされ。されるがままにされちゃって。唇を奪われている時はまるで魔法にかけられたように……頭がポーっとなって……触れ合う唇が気持ちよくて……蕩けちゃいそうで。結局食事が終わってからも、たっぷり堪能しちゃって……


「…………最低だ、最低すぎだよ私……琴ちゃん誑かして……キスまでさせて……姉失格だ……」


 そんでもって、食事が終わり琴ちゃんが一時的に離れたところでようやく魔法が解け。正気に戻った私はこうして後悔の念に駆られてるってわけさ……


「や、やっぱり早くここから抜け出さないと……抜け出して、母さんぶん殴って例の装置を使って琴ちゃんを元に…………そうしなきゃ私……きっと琴ちゃんに溺れ――」

「お待たせお姉ちゃん♡ごめんね、今お片付け終わったよ」


 焦りと後悔から、改めて決意を新たにした私。そんな矢先に家事を終えた琴ちゃんが戻ってきた。さて……朝食も無事(?)済んだわけだし、本来であれば琴ちゃんはそろそろ出勤する時間なんだけど……


「え、えと……ねえ琴ちゃん?琴ちゃんはその……平日だし、そろそろお仕事に行く時間だよね?こんなにのんびりしてて大丈夫かなーって……」

「うん、大丈夫!昨日も説明したけど、麻生課長と話を付けて、今日からリモート中心の勤務に変わったからね。今まではごめんね?ずっと家で一人で寂しい思いをさせちゃってて。これからはお姉ちゃんに何があっても良いように、お仕事中も私がお姉ちゃんの側に居てあげるからね!」

「……そっかぁ……うん、それは……う、嬉しいなぁ。琴ちゃんが一緒にいてくれるなんて…………あはは……」

「えへへ♪私も嬉しい!お仕事中もお姉ちゃんと一緒だなんて夢みたい!」


 そうなんだよなぁ……最初は何かの冗談かと思っていたんだけど。どうやら琴ちゃん、本当にヒメさんと相談してしばらくの間在宅勤務に変更して貰っているらしい。もしも琴ちゃんが普通に出勤してたなら、その間になんとかしてこの監禁状態から抜け出せたかもだけど……そう上手くはいかないようだ。


「(とは言え……いくらなんでも仕事中は、琴ちゃんだって隙をみせるだろうし……その時こそが脱出チャンスだな……)」


 ただ、それでも半日近くパソコンに向かって仕事をする都合上。私から目を離さざるを得ない時が必ず来る。私への監視の目がなくなった隙を付いて……どうにかここから脱出を――


「さて。それじゃあお姉ちゃん、そろそろ私お仕事に入るから」

「あ、ああうん!そだね、わかってるわかってる。私は琴ちゃんの邪魔にならないように――」

「はい、ここ。ここに座ってね」

「はいはい了か…………はい?」


 そう密かに企む私をよそに。琴ちゃんは何を考えているのやら、作業机の下を指差してそんな事を言い出した。人一人くらいは入りそうなスペースのそこには一人用のミニソファが置かれているんだけど……え?何?座ってって…………まさか……


「あの、琴ちゃん……?それって、つまり……?」

「ここに座ってねお姉ちゃん。そうすればお仕事中も……ずっとお姉ちゃんと一緒に居られるからね!」

「……こ、琴ちゃんがリお仕事をしている間、私はここに居ろって……事カナ?」

「そうっ!これでお姉ちゃんの体調がもしも急変したとしても、お姉ちゃんの身に何かあったとしても……すぐに対応できるからね!」


 ナイスアイデアを思いついたような、そんな満面の笑みを浮かべてそう告げる琴ちゃん。あ、甘かった……仕事中なら私から目を離すとか思っていた私が大甘だった……!?


「い、いやいやいや!それは良くない!流石に良くないよ!ほ、ほら!そんなところに私が居たら琴ちゃんの邪魔にしかならないじゃん!?こ、琴ちゃんも集中出来なくなるんじゃないかな!?」

「邪魔?なんで?ついこの間オンライン会議でお姉ちゃんを抱っこしてたじゃない。その時はいつも以上に仕事捗ったよ。邪魔になるどころか私のモチベーションがアップするから何も問題無いよね?」

「で、でもね!琴ちゃんはそうかもしれないけど……お仕事中に私が映り込んじゃったら会社の皆さんも『何やっているんだ』とか『非常識だ!』とか『遊ぶくらいなら出勤しなさい』って怒られるかもだし……!」

「大丈夫。この前と違ってテレワークなんだし常にカメラをオンにしなくちゃいけないわけじゃないの。定期的に作業状況をメールとか電話で報告すれば良いだけだし。勿論オンライン会議が始まったらそうはいかないけれど……お姉ちゃんが映り込まないようにちゃんと位置を調整したよ。そもそももしもの時はカメラもオフにすれば良いだけだし、仮に映り込んでも……お姉ちゃんと私の仲の良さを知らしめれば良いだけだもんね」


 琴ちゃんの邪魔にしかならない上に恥ずかしい。何よりも……このままでは折角の脱走出来そうなチャンスを逃してしまう……慌てて必死に琴ちゃんを説得する私なんだけど、何をどう説得しても今の琴ちゃんには暖簾に腕押し。逆に私の方が論破されてしまう始末ときた。


「そういうわけだからお姉ちゃん。遠慮しないでどーぞ♪ふかふかのソファ買ったから絶対気持ちいいよ。ああ、お姉ちゃんこそ私が仕事してるからって気にしないで良いんだからね。好きな本とか読んでいいし、スマホで動画とか見てても良いからね」

「あ、ちょ……こ、琴ちゃんまって……」


 結局押し切られるようにソファに座らされる。絶妙にふかふかのソファに沈めて机の下に私を押し込むと、琴ちゃんは満足そうに自分の椅子に座る。そして……



 きゅっ♡



「~~~~~~~~~~ッ!!?」


 座った状態でその長く美しい琴ちゃんのおみ足を交差させ、ソファに座った私に優しく絡めてきたではないか。それはまるでシートベルトのようで、まるで私をどこにも行かせるまいとする拘束具のようで……


「あ、あのっ!あの!?こ、こここ……琴ちゃん……!?」

「ごめんねーお姉ちゃん。そろそろお仕事始まるからね。静かにしてようねー」


 琴ちゃんの足下で抗議を入れたい私だったんだけど。琴ちゃんは子どもをあやすようにそう言って、さっさとパソコンを立ち上げて仕事の準備を始める。


「おはようございます皆さん。音羽琴です。私事で恐縮ですが本日からこのような勤務形態に変更させていただく事になりました。必要に応じてオフィスに出社いたしますし、この通りはいつでもリモートや電話、メールで連絡可能です。このチームの一員であることを光栄に感じており、今後も協力して成功を重ねていきたいと考えております。どうかご理解のほどよろしくお願い申し上げます」

『ん、そういうわけだから。音羽は今日から在宅勤務になりました。必要な作業があれば音羽が言った通り電話とかメールで随時連絡を取り合ってください。……さて音羽。とりあえず今日は先にメールで送っていた通り資料作成とデータ分析をお願いね。出来た資料はクラウド上にアップしておいて。あと、10時から会議があるからリモートで参加して貰える?』

「はいです麻生課長。私のワガママに付き合ってくれてありがとうございます。オフィスにいなくても全力でお仕事しますからね」

『期待してる。小絃さんにもよろしく言っといて。んじゃ、また後で』


 ヒメさんや会社の皆さんとの会話をササッと済ませ、お仕事モードに入る琴ちゃん。よく分からないけれどパソコンをかっこよく操作して流れるように作業する。

 やることも特にない上に琴ちゃんに足でホールドされてどこにも逃げられない私は、とりあえず琴ちゃんに言われたとおり用意されていた小説やスマホで時間を潰してみようと試みるんだけど……


「(…………なんも集中、できねぇ……)」


 好きな小説も、気になってたスマホの動画も……5分も経たずに放り出す。とてもじゃないけど何やっても頭に入ってこない。というのも……


「(お仕事してる琴ちゃんが気になって……なんにも手が付かない……!)」


 ちらりと頭上の……作業をしている琴ちゃんの様子を盗み見る。キーボードを真剣な表情でカタカタと叩く琴ちゃんは……それはもう凜々しくて、美しかった。まさに大人の出来る女性って感じで……私の好みドストライク。


「……?どうかしたお姉ちゃん?」

「え……あ、いやその……なんでも……」

「ふふふ……寂しくなった?ごめんね、お姉ちゃんに構えなくて。もうちょっと我慢しててね。お昼休憩の時間になったらまた一緒に遊ぼうね」


 はた、と私と目が合って。琴ちゃんは凜々しい表情から一転。いつものにこにこ愛らしい顔に変わる。そのギャップもまたたまらない。仕事の合間にちょうど良い位置にある私の頭を優しくナデナデして……それが終わるとまたキリッとした顔で仕事に戻る琴ちゃん。そのオンオフの切り替えが美しすぎて……永遠に琴ちゃんのお顔見れちゃいそう……

 あんまりマジマジ琴ちゃんを見ているのは悪いよねと、投げた小説やスマホに手を伸ばして頑張って続きを読んだり見たりしてみようと試みる。けど……それも数秒も経たぬうちにギブアップ。琴ちゃんのお顔を見さえしなければ集中出来ると思ったのに……やっぱり私は甘かった。だってさぁ……だってさぁ……!


「(足……琴ちゃんの足…………生足ぃいいいいい!!!)」


 私を拘束する……琴ちゃんの足。その存在が私の集中力を徹底的に削ぐ。……恥ずかしながら、この私……音瀬小絃は……実は無類の足好き。大人の女性の長く美しい足が大好物なのである。そして……知らぬ間に10年の時が経ち、立派に成長した琴ちゃんの足は……まさに私の理想そのもの。そんなものが『どうぞめしあがれ♡』と言わんばかりに目の前にあるこの状況……どうして他のものに集中出来ようか。

 お尻から出てくるすらりとした長い足。その全てかパーフェクトだった。程よく肉の付いた太ももも、手入れが行き届いた膝裏も、引き締まったよく運動している事がわかるふくらはぎも、くびれた足首も、美しいアーチを描く土踏まずも――どれもこれも最の高すぎた。


「(こんなに近くにあるなら、ちょっと触っても不意の事故ってことで…………いや、いやいやいや!?何考えてる私……!?)」


 誘蛾灯のように無意識に琴ちゃんの生足に手を伸ばしかけ、ブンブンと頭を振って正気に戻す。い、いかん……理性を失っているのは琴ちゃんであって私じゃないのに……私まで理性を失ってどうするんだ。琴ちゃんの仕事の邪魔はダメ!絶対!

 ……いや、でも……ちょっとくらいなら……


「…………触りたいんだ、お姉ちゃん」

「ふぉうッ!?」


 ハァハァと息を荒げ琴ちゃんの足を笑えるくらい情けなく凝視していて全く気づかなかった。いつの間にか股下の私を見つめ、妖艶に笑う琴ちゃんを。


「あ、あの……あの!これは、違うの……!?」

「何が違うの?何も違わないよね?私の足、触りたいよーって……そんな目をしてるよお姉ちゃん。何を躊躇うの?触りたいなら触れば良いのに」


 そう言って先ほどのように私の頭を優しくナデナデする琴ちゃん。……ただし、手ではなく器用に足で。まるで私を挑発するように生足で頭を撫でてくる。いつもの琴ちゃんなら頼まれても絶対にしないであろうこの行為……こ、こんなところでも理性を失った影響が……


「お姉ちゃん、私の足好きだもんね。その足を思う存分触りたいって思ってたんだよね?ううん、それだけじゃ全然足りない。足蹴にされて、踏まれて……舐めたいなって思っていたんだよね?」

「わ、私……私は……」

「……良いんだよ、お姉ちゃんの好きにして。お姉ちゃんの欲望……私なら全部、ぜぇんぶ……受け止めてあげられるから」


 そう言って、琴ちゃんは太ももで私の頬をむにぃ……と挟む。その時点で、私の理性は軽く飛んでいってしまった。

 我慢の限界だった私は、雪のように白い足に震える手を伸ばす私。両の手を太ももに這わせ、その滑らかな手触りを味わえば。あとは琴ちゃんに言われるがまま、自分の本能の赴くまま。狂ったように触れて、なぞって、嗅いで、舐めて、吸いついて――


「あは……♪いい、良いよお姉ちゃん……もっと、もっと欲望を私にぶつけて……もっと私に溺れて……♡」


 …………ちなみに。これは余談だけど。これだけのことを私にされて、途中Web会議まで入ったというのに……顔色一つ変えることなく仕事をこなしたそうな。

 というか寧ろ私に邪魔された方が仕事に集中出来たとかなんとかで……後からヒメさんに聞いた話だと『予定してた3倍仕事してくれてた』そうな……

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