148話 同棲(監禁)生活2日目(朝)

 これまでのあらすじ。


 毎度余計な事しかしない母さんの余計な発明品のせいで、琴ちゃんの理性が彼方へと吹っ飛んだ。


 それのどこに問題があるんだ?元から琴ちゃんってば結構本能に忠実だし、理性を外したところでいつもと大して変わらないのでは?と思われるかもしれない。なんならこの私でさえそう思っていたんだけど……どうやら私の認識はグラブジャムン(※世界一甘いお菓子)より甘かったらしい。


「あ、あの……琴ちゃん?それでその……どうしてこんな監獄みたいな場所で私を監禁――もとい、どうしてこんな防犯対策ばっちしなお家で私を保護しているのかしらん?」

「あれ?私、お姉ちゃんに言ってなかったっけ。ごめんね、ビックリしちゃったよね。でも安心して。これも全て……お姉ちゃんの為のものだから。あのねお姉ちゃん。お外にはね、怖いものがいっぱいあるの。小絃お姉ちゃんの身体も、心も……奪ってくるようなものがいっぱいあるの。ここにいればそんな危ないものからお姉ちゃんを守ってあげられるの。わかった?」

「な、なるほどねー……なるほどかねー……?」


 まず手始めに。琴ちゃんの保護欲が限界突破した。私が事故から目を覚ましてからというもの、事故に遭う原因を作ったっていう負い目もあってか過保護気味ではあった琴ちゃんなんだけど……理性を失ったことでその過保護さに磨きがかかってしまったようだ。そしてその過保護さから来る……私をあらゆる脅威から守りたいという琴ちゃんの強い意志が……どういうわけか私を監禁するって発想に至ってしまったらしい。

 そんなわけで、ただいま私は絶賛監禁中。お家……どころか鉄格子付きのお部屋の外に出ることさえもままならないのである。


「で、でもさ琴ちゃん……こんなに厳重な作りじゃ琴ちゃんが出入りするのも大変じゃないかな……これじゃお仕事とか……お買い物に行く時とか……こ、困っちゃうよね?ね?」

「大丈夫。出る必要ないから」

「えっ」

「仕事に関しては麻生係長と話を付けてきたよ。リモート中心の仕事に切り替えて貰ったんだ。日常品とか食材とかの買い物も、ネット通販で事足りる時代だし何も問題無いね♡」

「…………そっかぁ。凄い時代になっちゃったんだねー……」


 琴ちゃんの理性を元に戻すには、母さんが作りやがったポンコツ装置のボタンをもう一度琴ちゃんに押させる必要があるという。てなわけで、どうにか琴ちゃんを元に戻してあげたいところだけれど……それも一筋縄ではいかない模様。隙を見て琴ちゃんが外に出ている時に脱出すりゃ良いじゃんとか最初は安易に考えていたんだけど……要塞と化したこの家からは外から入ることも中から出ることも、今のところその手段がない。

 そもそも琴ちゃん本人が外に出ようとせず四六時中私にべったりなのだから、抜け出す隙などまるでない。


「…………どうしよう」


 冷静に状況を整理すればするほどに、詰んでいるという事実が私に重くのしかかってくる。

 ……ホント、私これからどうすりゃいいんだろ……



 ◇ ◇ ◇



 さて。そんなこんなで琴ちゃんとのイチャイチャラブラブ(?)監禁生活が始まったわけだけど。具体的に私と琴ちゃんがどのような生活を送っているのか、ここに記してみようと思う。


「――ちゅ……ん、ちゅ……レロ、ぇろ…………じゅるる……っ」

「ん……は、ぁ……ンん…………んあッ!?」

「あ、起きた。ふふふ、小絃お姉ちゃんおはよ♡」


 まず朝起きて早々に。琴ちゃんに服をほぼ全部剥ぎ取られ……全身くまなく舐められていた。

 ……はい、初っぱなから何もかもおかしいね。


「えっ、あ?……は!?こ、こここ……琴ちゃん!?い、今……なにを、して……!?私の身体……な、舐め……!?」

「ん?何をって……毎朝やってる健康チェックだけど?」

「毎朝やってる健康チェック!?」


 慌ててシーツで自分の身体を隠しつつ、何をしているのか問い詰めると。しれっとしたお顔でそう告げる琴ちゃん。思わずオウム返ししてしまう私。待て、待ってくれ。聞き慣れないワード過ぎてお姉ちゃんついて行けていないんだが……!?


「お姉ちゃんの鼓動、お姉ちゃんの体温。そしてお姉ちゃんの匂いにお姉ちゃんの味を確認してたの。今日のお姉ちゃんも、いつも通りで安心したよ」

「何その確認方法!?…………いや、それよりもだ。毎朝やってるとか、いつも通りとかってどういうこと!?」

「そのまんまの意味だよ?毎朝やってる私の日課だもの」


 知らないんだが……!?え、待って……私琴ちゃんにいつもこんな風にちゅちゅペロペロさせられてたの……!?


「お姉ちゃんの健康チェックも無事に終わった事だし。お姉ちゃんお腹空いたでしょ。私、ご飯作ってくるね。お姉ちゃんはまだゆっくりしてていいからね」


 困惑する私をよそに、琴ちゃんはさっさと(監禁)部屋から出てキッチンへと向かって行った。

 ……無論、この部屋の鍵は忘れず厳重に閉め切った上で。


「…………ちゅちゅペロペロに、クンカクンカまでされてたのか私……」


 今明かされる衝撃の事実。いや、毎日やられてたのに気づかないとかどんだけ私鈍感なんだよと我ながら感心する。確かに朝起きる度に琴ちゃんの良い匂いが、琴ちゃんの温もりが。自分の身体中に染みついていて……まるで包み込まれているようなそんな幸せな感覚が残っていた気がしてたけどさぁ……


「……てか。一応、それをバレないようにする理性はあったのね琴ちゃん……」


 気づかない私も私だけど、それでも何かしらの痕跡が残っていたら流石の私も気づいていたハズ。今日この日まで私に隠し通せていた琴ちゃんの証拠隠滅能力も凄いな……

 まあ、今回理性が外されちゃったせいで『私に隠さなきゃって理性』も消え去っちゃって……お陰で私にバレちゃったわけだけど。


「…………あれ?って事はだ。これ……理性が戻ったら琴ちゃん不味いのでは……?」


 隠すって事はつまるところ……理性が外されていないならそれが恥ずかしい事だって思っているって事だよね?私にバレたくないことって意味だよね?ならば……もしも理性が元に戻れば、色々不味くないか?少なくとも、私が同じ立場なら恥ずかしさのあまり爆発する自信がある。


「……ヤバいな。琴ちゃんの傷口が広がる前に……早く理性を戻してあげないと……」

「――お姉ちゃんお待たせ。ご飯できたよ♡」


 なんて考えていたところで。ご飯の準備万端な琴ちゃんが戻ってきた。私と自分の分のご飯をお膳に用意して、私の目の前に置いてくれる琴ちゃん。

 ……そのお膳には当然のように……昨日同様琴ちゃん側のお膳にしかお箸が用意されていない。ということは……


「それじゃあ、お姉ちゃんはお口開けててね。私が食べやすいようにしっかり噛んで……お姉ちゃんに美味しく食べて貰うから」

「や、やっぱりそうなるのね……」


 やはりというべきか。今日も琴ちゃんは私に……口移しでご飯を食べさせる算段らしい。こ、これは流石に見逃せない……!


「あ、あのさ琴ちゃん!さっきのクンクンペロペロの件はまだスルーするとしても、こればっかりはお姉ちゃん流石にどうかと思うんだ!」

「……何が?」

「昨日から始まった、口移しでご飯食べさせるこれのことだよ!」


 しっかり咀嚼しあだっぽい仕草で私に迫り、唇を近づけてきた琴ちゃん。その琴ちゃんを私は全力で押しのける。

 遮られた琴ちゃんは一度ゴクンとそれを飲み込んで、本気で不思議そうなお顔で首を傾げているけれど……お姉ちゃん的にはどうしてそんなお顔をしているのかがわからんのよ……!?


「や、やめようよ……恥ずかしいってレベルじゃないよこれ……こ、琴ちゃんだってホントは嫌なんじゃないの?こんな方法で私に食べさせるとか……衛生的にも……ビジュアル的にも……なんかこう……ね?ね?」

「……私は全然気にならないけど」

「私が気にするの!!!」


 だって、だってさ……これってさ……!昨日は私もなるべく考えないようにしてたけどさ……チューしているのと同じ事でしょ……!?い、いや厳密に言えば違うけど!!!ある意味チューよりハイレベルなんだけど!!!

 私嫌だよ……こ、こんなしょうもない事で……琴ちゃんの大事な大事なファーストキス(※すでにお姉ちゃんと経験済み)を奪っちゃう事になるなんて……琴ちゃんにも琴ちゃんのお父さんお母さんにも申し訳ないやらなにやらの気持ちで一杯で……


「ふむふむなるほど。お姉ちゃんは気になっちゃうのね」

「そ、そうなの……だからね琴ちゃん!せめてここはいつも通りあーん♡くらいで許してくれると――」

「でもダメ」

「なんでぇ!?」


 分かってくれるかと思ったけれど。情け容赦なく琴ちゃんは私の提案を却下する。ど、どうして……


「これはね、仕方のない事なの。だってお姉ちゃん……まだご飯を噛んで食べることも正直億劫なんでしょ。言うなれば……医療行為。お姉ちゃんが本当の意味で元気になるまでは……しっかり私が噛んで食べさせてあげないとダメなの」

「いや、でも……!?そ、そもそも私……別にご飯食べるくらい今までもこれからも普通に自分一人で出来――」

「それにさ、お姉ちゃん。…………本当にやめても良いの?」


 スッ……と目を細め、ペロリと舌を舐めて。まるで肉食獣のような視線を私に送ってそう問いかけてくる琴ちゃん。な、何を……言って……?


「嬉しくなかった?こういう事されて。『これは医療行為みたいなもの』――そんな言い訳が通じるんだよ。今までお姉ちゃんが、したいしたいって思ってたキスが……大義名分を得て出来るんだよ」

「…………ッ!」

「えーっと?なんて言ってたっけ。確かそう……『琴ちゃんみたいな綺麗なお姉さんとキスしたかった』『すっごい綺麗に育った琴ちゃんの唇を堪能したかった』――だよね?そう思っていたんだよね?」

「…………は、はは……なんの……話か……お姉ちゃんさっぱり……」


 …………だらだらと身体中から嫌な汗が噴き出てくる。なぜ、それを……言ってたって……いつ、どこで…………私が、か……?


「私に口移しされて不快だった?気持ち悪かった?だったら大人しく私もやめる。お姉ちゃんが本気で嫌がる事はしない。…………でもねお姉ちゃん」


 そう言って琴ちゃんは私にしなだれかかり。そして耳元に熱い吐息を吐きかけながら、ねっとりと囁くようにこう指摘する。


「昨日の……私に口移しされている時のお姉ちゃんの顔ね。






『もっとして♡』って言っているようにしか見えなかったよ」

「ぁ、ぅ……」


 一体いつ撮っていたのか。琴ちゃんに口移しされている私の顔が琴ちゃんのスマホに撮されていた。画面の私は……なるほど確かに。琴ちゃんに指摘された通りの顔をしていた。

 ただただ口ごもり。顔を真っ赤にするしか出来なくなった私を前に。口角を上げ、三日月みたいな笑みを浮かべた琴ちゃんは、再度自分が作った料理を口に運ぶ。愛おしそうに噛み砕き、そしてゆっくりと私の両頬を両手で添えて……フグみたいにパクパクと開け閉めする口元に自分の美しい唇を持ってきて、そして――


「「ん……」」


 口から口へ。酸素の代わりに咀嚼した琴ちゃんの手料理が、琴ちゃんの唾液と舌と一緒に流れ込む。上手い言い訳も何も出来ず、黙って受け入れるしかない私に満足した様子の琴ちゃんは嬉々として幾度となくその行為を続けるのであった。その料理を私が食べ終わるまで。


 …………いいや。食べるものがなくなった後も。お互いが満足するまでずっと、ずっと……

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