142話 二人っきりの温泉時間
今回の旅行はこのために来たと言っても過言ではない。私にとっても琴ちゃんにとっても最重要な一大イベント――温泉。
「琴ちゃん、早く早く!」
「ま、待ってお姉ちゃん……わ、私まだちょっと心の準備が……」
率先して琴ちゃんの手を引き、解放されている露天風呂へと歩みを進る。温泉マークと『ゆ』の字が書かれたのれんをくぐり抜けて辿り着いた脱衣所。
「んっ……しょっと……」
手頃な空いているロッカーの前に立ち、色んな意味で覚悟を決めた私は女らしく(?)ズバーンと着ていた浴衣を脱ぎ始める。今は他のお客さんも見当たらないし、ただ温泉に入るだけだし、何より琴ちゃんにはこれまで裸なんていくらでも見られているもんね。こんなの今更だ。
「……お、お姉ちゃん大胆……」
逆にいつもは服なんてパパッと脱いでグイグイ私を押し倒しに来る琴ちゃんだけど、今日は私の勢いに押されているようで……恐る恐るといった具合に浴衣を遠慮しがちにゆっくり脱いでいる。
「…………(ゴクリ)」
「(めっちゃ見られとる……)」
まあ、脱ぎながらも琴ちゃんったら遠慮なく私の身体をこれでもかと思うくらいガン見しちゃってるんだけどね。仮に視線に物理的干渉能力があったなら、きっと私の身体は琴ちゃんによって穴だらけになっていただろう。
……と言うか、そのせいで脱ぐのが遅くなっているのでは……?と思わなくもない。
「ほら琴ちゃん、早く入らなきゃ風邪引くよ」
「あ……う、うん……ごめんすぐいく……」
私の裸体を見る事に夢中になってる琴ちゃんを急かし、服をロッカーに預けた後はいよいよ浴場へ。重たい扉をよいしょと開いた先で私たちを待っていたのは……微かな硫黄の独特な匂いとホカホカした白い湯気、そしてこれでもかと広がるだだっ広い露天風呂だった。
時間が時間だけに幸か不幸かお客さんは少ないようで、私たちと入れ違いに妙齢の女性二人がちょうど温泉から上がったくらいで他には誰もいない。こんなに素敵な露天風呂を私と琴ちゃん二人で独占出来るなんてラッキー♪と思いつつ。まずは身体を洗うべく洗い場へと向かうことに。
「……あ、そだ。ねえ琴ちゃん」
「……え?な、なぁにお姉ちゃん?」
「折角だし……昔みたいに琴ちゃん洗ってあげよっか」
「ぴぇ!?」
用意された椅子に腰掛け、持ってきたお風呂セットのシャンプーを取り出しつつ。ふとそんな事を思い至り琴ちゃんに提案する私。普段は琴ちゃんに洗われまくっているわけだし、今日は琴ちゃんを私が洗ってあげたい。折角の旅行なんだし、私にとっても琴ちゃんにとっても良い思い出づくりの一つになりそうだもんね。
「お、お姉ちゃんに洗って貰える……い、いい……の……?あ、洗って貰っても……」
「うん。てか、どっちかというと私がやりたいの。ダメかなぁ?」
「だ、大丈夫……!すっごい嬉しい……!よ、よろしく……お願いします……」
「何で敬語?ふふふ……変な琴ちゃん」
てんやわんやになりながらも琴ちゃんからOKも貰えた事だし、早速琴ちゃんの後ろにまわりまずは髪を洗い始める私。うっとりするほど美しい黒髪に触れ、壊れ物を扱うように丁寧に、丁寧に。優しく洗う。
「……ホント、髪綺麗だよね琴ちゃん。いいなぁ」
「お、お姉ちゃんの髪も……綺麗だよ……」
「そう?んー、でも私は真っ黒で艶々で真っ直ぐな琴ちゃんの髪が一番だって思うよ。はー……ホントきれー……」
ため息が出るくらい綺麗な黒髪。それを手櫛でゆっくりと梳いてあげる私。梳かれる度に鏡越しの琴ちゃんが、撫でられた猫のような顔になっているのが可愛らしくてついつい頬が緩む。
ああ、この感覚……懐かしい……
「昔もこんな風に琴ちゃんの髪を洗ってあげてたよね。お気に入りのシャンプーハットを付けて私に洗って!っておねだりしてさ。そういや琴ちゃんはシャンプーハットもういらないの?」
「い、いらないよ!私もう大人だもん!」
「あはは、そりゃそっか。……ふふふ。思い出すなぁ。髪をワシャワシャ洗ってあげると琴ちゃん本当に気持ちよさそうにしてたんだよね。お痒いところはありませんかー?って聞くとありませーん!って返してくれて、シャンプーハット付けてるのにシャンプーを流す時は一生懸命おめめを瞑って……ホント一挙手一投足全部が可愛かったなぁ琴ちゃん」
「い、いつの話してるのお姉ちゃん……恥ずかしいよ……」
そんな思い出話に花を咲かせながら、シャワーを使ってシャンプーを洗い流す。昔と違って今の琴ちゃんは洗い流されても目を思い切り瞑ったりしなかった。成長したなぁ琴ちゃん……
「さて、んじゃ次は身体をっと……琴ちゃん、失礼」
「ひゃっ……!」
無事に髪も洗い終わったし、今度は琴ちゃんの身体を洗おう。間違っても琴ちゃんの珠のお肌に傷を付けぬように細心の注意を払いながら丁寧に洗ってあげる。ボディソープをよく泡立てて、首……背中……腕……くびれ――
「……はへー……ホント、改めてすっごい綺麗になったよね琴ちゃん……」
「い、いまさら……ひやぅ…………急に、どうした……の……っく……」
昔こうして洗ってあげていた事を思い出していたから尚更思う。10年でこんなにも人は美しくなれるんだなと感心する。……白く透き通る肌、傷一つないピンッと伸びた背中、長い手足に張りのあるお尻、たわわに実った豊満なお胸……
何もかもが美しかった。何もかもが輝いて見えた。なんて……なんて綺麗なんだろう……
「あー…………思いっきり抱いてあげたい……」
「……お姉ちゃん?」
「…………おっと。ごめんごめん、なんでもないよー」
あまりの美しさについ本音が漏れ出しかけたけど。今はまだその時じゃないと頭を振って正気に戻る。いかんいかん、浴場で欲情しとる場合か私。とりあえず洗えるところは大体洗い、その後は琴ちゃんに持っていたスポンジを手渡す。
「ごめん琴ちゃん、前の方は流石に私がやると色々マズいだろうし自分で洗って貰えるかな?」
「え……」
「ありゃ、残念そう。もしかして洗って欲しかったりする?」
「…………う、ううん……べつに……」
「本当にぃ?洗って貰いたかったって琴ちゃんの顔に書いてあるけどぉ?」
「…………じ、自分で洗えるもん……」
とろとろな顔をしていたところで私にスポンジを渡されて、もの凄く残念そうなお顔をしている琴ちゃん。思わず笑っちゃいそうになりながらも、渋々身体を洗う琴ちゃんを横目に私は私で自分の身体をささっと洗う。
「ふひー……さっぱりした。んじゃ身体が冷えちゃう前に待ちに待った温泉を――」
「あ、あぁあああああ!!?」
「うぉっ!?な、何!?どうしたの琴ちゃん!?」
と、ほぼ同時に身体を洗い終えていざ温泉へ――と思った矢先に琴ちゃんは突然大きな声を上げたではないか。な、何事……!?
「お、お姉ちゃん……まさか自分で身体洗っちゃったの……!?」
「え?あ、ああうんそうだけど……それが?」
「私が洗うつもりだったのに!?お姉ちゃんの身体を洗うのはこの私だけに許された名誉ある仕事のハズだったのに、なんで勝手に洗っちゃうの!?」
「え、ああうん……ごめん……」
琴ちゃんの勢いに負けてつい謝ってしまったけど……これは私が悪いのだろうか……?
「ひ、酷いよお姉ちゃん……私の楽しみを奪うなんて……も、もう一回!もう一回洗おう!洗わせて……!」
「いやー……流石に身体洗った後にまた洗うのはちょっと……それに早く温泉に入らないと身体冷えちゃうよ」
「そうだけど、でもぉ!」
てか、私の身体なんていっつも洗っているじゃないの琴ちゃんは……
「まあまあ、ならまた別の機会に洗えば良いじゃないの。それこそ明日の朝風呂にでもさ」
「…………へ?いや……あの……朝風呂も……お姉ちゃんと一緒で……いいの……?」
「ん?ここっていつでも温泉解放されてるでしょ?折角温泉旅行してるんだし、朝風呂も一緒にどうかなって思ったんだけど……お姉ちゃんと一緒じゃいや?」
「よ、よろこんでお付き合いします……!え、えへへ……また一緒に……お姉ちゃんと一緒におふろ……♡」
やれやれ……今まさにお風呂入っているって言うのに、もう次に入るお風呂のことを考えるなんて琴ちゃんってば気が早いというかなんというか……そういうところも可愛らしいんだけどね。
「……っと。そんなことより早く温泉入るよ琴ちゃん。流石にこのままじゃ寒いでしょ」
「あ、うんそうだね!」
琴ちゃんも無事に納得してくれたところで。濡れた身体が外の空気に触れて身体が冷え切ってしまったわけだし急いで温泉に駆け込む私たち。
飛び込むように温泉に入り、ずっぷり身体を湯に沈めると……冷え切った身体に熱が染みて……思わず『あ゛ー』っとおっさんみたいな汚い声が漏れ出す私。
「はぁ……んぅ……んっ」
「うーん……私と違ってなんと色っぽい艶声。流石大人な琴ちゃんだ」
「え、何……?急にどうしたのお姉ちゃん」
「なんでもないなんでもない」
片や隣の琴ちゃんはそれはもうキュンキュンきちゃうエッロい声を漏らしていた。同じ女でもここまで所作が違うもんなんだなと我ながら感心する。
……いや、感心するだけじゃダメだろ反省しろ私……こんなんじゃいつまで経っても琴ちゃんの理想の姉にはなれないだろうが……
「それにしても……ホント気持ちいいよねー……極楽極楽……」
「うん……凄く気持ちいい……」
ともあれ反省はまた別の機会に。今は温泉を堪能させて貰うとしよう。やはり私と琴ちゃん以外は誰もいない温泉……いや仮に誰かいたとしても、広々としたこの温泉なら手足を存分に伸ばせる。これが家のお風呂ならこうもいかなかっただろうと思いながら、遠慮なく手足を思いきり伸ばし、風呂の縁の良い感じの岩に背中を預ける。
「まさかお姉ちゃんと一緒に温泉まで入れるなんて……幸せすぎる……夢みたい……」
「あはは、まだ言ってる琴ちゃん。大丈夫、夢じゃないよ」
「ん……わかるよ。だって……お姉ちゃんの熱……ちゃんと感じるもん……」
そう呟きながら琴ちゃんは私の肩に頭を預ける。私もそんな琴ちゃんの熱を感じながら、ちらりと琴ちゃんを盗み見る。
長く美しい私自慢の髪を邪魔にならないようにとまとめた琴ちゃんは……うなじの生え際まで見えている。思わずドキッと胸が高鳴った。
少し視線を落としたら、温泉越しに見える琴ちゃんの……一糸まとわぬ芸術品とも思える身体が見える。余すことなく全て見えちゃう。お風呂にタオルは厳禁だもんね仕方ないね。……ああ、なんと素晴らしい日本のお風呂文化であろうか。
ぴとっとくっついているから、琴ちゃんの香りがダイレクトに私の鼻孔を刺激する。シャンプーの香りに混ざりながらもハッキリ主張する琴ちゃん特有の大好きな香り……嗅いでいるだけでご飯三杯くらいは余裕でイけそう。
もうさ、何度も何度も思う事なんだけど……琴ちゃんってば……
「「…………ホント、きれい……」」
「……ん?」
「……あっ」
と、思わず漏らした私の本音が。何故か琴ちゃんとハモっていた。綺麗って……うん?琴ちゃんの身体に見とれていたから気づいていなかったけど。どうやら琴ちゃんを見てみると……脱衣所の時と同じように私の身体を必死に見つめていたご様子。ばつの悪そうな顔をしてすすっと目を逸らす。
琴ちゃんみたいなパーフェクトボディに見惚れる私はともかく……私みたいな中途半端な残念ボディをそんなに熱中して見つめる琴ちゃんって……物好きだよなぁ……
「ね、琴ちゃん。私の身体って見てて面白いものでもなくない?琴ちゃんと違って突出したモノを持ってるわけでもないし。それに……その。お世辞にも綺麗って言えるもんじゃないし」
私好みである理想の大人の女性の身体を私の為に身につけた琴ちゃんに比べたら月とすっぽん。オマケに私の身体には……琴ちゃんを事故から守った時に出来た無数の傷跡が残っていて綺麗と言われるようなものでは決してない。つい私は琴ちゃんにそう問いかけてしまう。
けれど琴ちゃんはその私の問いかけに全力で首を振り。そして熱烈にこう語る。
「そんな事ない……!お姉ちゃんの身体は、私にとっては世界一だよ……!どこをどう見ても綺麗だもん!お顔は今も昔もバチクソ私好みだしいつでもちゅーしたくなっちゃうし、おっぱいもお尻もくびれもおへそもどれも可愛くて撫で回したいっていっつも思ってるし、私を命がけで守ってくれた時の傷とか……本当にかっこよくて、美しいってさえ思ってて…………許されるならその傷全部を触りたいしキスしたいし舐め回したいって思ってるし……!」
「お、おぅ……」
まるで琴ちゃんに欲情している時の私みたいな……思考が私に大分似通ってて流石我が従姉妹だと感心せざるを得ない。てか……傷舐め回したいって……
「ああ、そういやそれも琴ちゃんの性癖の一つだったもんね……ちょくちょく私のおでこの傷とか触ったり舐めたりしてくるし。…………んじゃさ琴ちゃん」
「な、なぁにお姉ちゃん?もしかしなくてもやっぱり引いた……?」
「いや、引いたわけじゃなくて。今までもおでことかはやってたけど……もしかしなくても私が許可したら、全身の傷舐めたりしたいって思ってたりする?」
「…………ゆ、許されるなら」
ふむふむ。正直でよろしい。
「んー……うん。んじゃさ琴ちゃん。ちょうど今真っ裸だし。他に誰もいないわけだし――舐めてみる?」
「よろしくおねがいします……!」
「早……っ!?ま、まあいっか。とりあえずやるのは良いけどお手柔らかにね……」
「…………む、むりかも……」
「無理って……」
琴ちゃんの為の温泉旅行、そして琴ちゃんの為の素敵な思い出作りをしてあげたいと思っていた私は、普段は許可しないであろうそんな事も気の迷いからOKしてあげてしまう。
私から許可を貰った琴ちゃんは迷い無くお礼を言って、すぐさまむしゃぶりつくように……私の全身ありとあらゆる私の傷に手で慈しむように触れて、感謝するようにキスを落として、そしてねっとりじっくり舐めしゃぶって――結局二人がのぼせる一歩手前までそれは続いたのであった。
…………都合よく、この場に誰もいなくて助かった。念のため誰にも見られないようにと物陰に隠れてやったとはいえ……たぶん漏れ出す私の快楽に酔った声までは隠せなかっただろうから。
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