138話 楽しい温泉街巡り
琴ちゃんとの楽しい思い出作りの為、紬希さん(+
『早速始めよう。私とお姉ちゃんの…………素敵な初夜を……』
部屋に着くなり即琴ちゃんに押し倒された私。一瞬で服を脱ぎ捨て、こちらの服も剥ぎ取られ。諸々の過程をすっ飛ばして危うく色んな意味でゴールインしてしまうところだったけど……それでもどうにか必死に琴ちゃんを説得して事なきを得た。
「ごめんねお姉ちゃん……流石に気が逸りすぎたよね」
「あ、あはは……だ、大丈夫大丈夫……琴ちゃんも久しぶりの旅行でテンションが上がっちゃったんだよね……わかるわかるよ」
「うん……ようやくお姉ちゃんと結ばれるって思ったらテンション上がっちゃって……後先考えずに突っ走り過ぎちゃった。ごめんね……まずは温泉で身も心も綺麗にしてから結婚初夜を迎えるのが常識ってものだよね」
「……そ、そうかも……ね?」
そもそも結婚初夜は今回の旅行の予定に組み込まれていないのだが……というツッコミは野暮ってものだろうか……?
「やれやれね。折角琴ちゃんが覚悟を決めて抱かれに行ったってのにこれだからこのヘタレが。いいのよ琴ちゃん。このヘタレに気にせず思い切ってヤっちゃっても」
「あや子さん……ですがやはりお姉ちゃんの嫌がる事はしたくないですし。何よりもこういうのはムードが大事ですから」
「いーのいーの。そこのヘタレはムードなんて気にする性分じゃないわ。あや子お姉さんが保証してあげる。嫌がる素振りはフリよフリ。ヘタレで自分から琴ちゃんに手を出す勇気がないだけで、ホントは小絃も琴ちゃんに抱かれるのを心待ちしてるんだし」
私にお預けを食らった琴ちゃんに、あや子のアホが無責任にもそんな役に立たないアドバイスをくれてやっている。いつぞやの意図返しのつもりだろうか?ヘタレヘタレと連呼しているのが非常に腹立たしい。
「…………そういうあや子ちゃんは、もっとムードとか気にした方が良いと思うんだけど?真っ昼間から周りの迷惑も考えずにさ……私がどれだけ恥ずかしい思いをさせられたか……」
「あ、あの……紬希さん。良かったら私のスカーフをどうぞです。……その。大変言いにくいのですが……お首を隠された方が良いかと……」
「あっ…………あ、ありがとうございます小絃さん助かります……」
……ちなみにそのあや子だけど。ムードもへったくれもなく紬希さんに襲いかかって身体中にキスマークを刻んだ結果、紬希さんからお返しに平手打ちをプレゼントされ。あや子の頬には見事な紅葉が色づいていた。
ごらん琴ちゃん。ムードを大事にしなかった者の末路がコレだよ。どうか反面教師として見習ってちょうだいね。
「うぅ……小絃さんのさり気ない優しさが身に染みます……うっかり小絃さんに惚れちゃいそうですよ……」
「あはは、紬希さんみたいな可愛い人にそういう事言われるのは冗談でも嬉しいですね。ですが…………そういう冗談は、出来れば冗談の通じない人たちがいない時にお願いします。でないと――」
「つ、つつつ……紬希……ちゃん……?お姉ちゃんに惚れちゃったって……う、嘘……だよね……?紬希ちゃんって実はお姉ちゃん狙いだった……!?そんな、私……紬希ちゃんを亡き者になんかしたくないのに……!?」
「小絃ー♪ちょーっと私と今から一緒に良いとこ行かなーい?折角温泉街に来てるんだし一緒に温泉に入りましょうよ…………しっかり暖まるように、頭までずっぷり浸かってさぁ……!大丈夫よ。小絃の何も詰まってないスカスカの頭がぷかぷか浮かんでこないように私が優しく抑えつけておいてあげるからねぇ……!」
「――ね?こうなっちゃいますから」
「……ごめんなさい小絃さん……あと、冗談だからどうか冷静になって琴ちゃんにあや子ちゃん……」
何気ない紬希さんのそんな一言に、琴ちゃんは涙目になりながら鈍器を紬希さんにちらつかせ。そしてあや子は重しとロープをもはや隠そうとすることなく私に向けてくる。
琴ちゃんはともかく……誰のせいでこうなったかよく考えてみろやロリコン犯罪者め……
「ええい……!良いから皆とっとと観光行くよ!折角の旅行なのにやってることがいつもと同じじゃ意味ないでしょうが!?」
まだ着いたばかりだと言うのに(9割あや子の奇行のせいで)すでに無駄なエネルギーと時間をだいぶ浪費してしまっている。このままじゃ何のためにわざわざ新幹線に乗ってここまで来たかわからないじゃないか。
そんなわけで殺気立つ二人を紬希さんと一緒に引き連れて、温泉街へと向かうのであった。
◇ ◇ ◇
カラン、コロン♪と心地良い軽快な足音を鳴り響かせながら温泉街を巡る私たち。
「小絃お姉ちゃん温泉まんじゅうだよ。はい、あーん♡」
「あ、あーん……」
「どう、どう?美味しい?美味しいかなお姉ちゃん?」
「(琴ちゃんの『あーん♡』の破壊力ありすぎて、味なんてわからんとはとても言えぬ……)」
「やれやれ。見せつけてくれるわね二人とも。……こっちも負けてらんないわよね紬希っ!」
「い、いや……私はやらないからね?人前でそんな……はずかしいし……」
「…………」
「わ、わわわ……!?あや子ちゃんが一瞬で石化した……!?わ、わかったよ!やれば良いんでしょやれば!?」
「紬希ぃ……!」
歴史あるであろう古き良き街並みを眺めつつ、名物である温泉まんじゅうやおせんべいを琴ちゃんお馴染みの『あーん♡』で食べてさせて貰ったり。
「今日という今日こそ、貴様に引導を渡してやるぞアホのあや子ォ!」
「それはこっちの台詞よ!覚悟しなさいバカ小絃ォ!」
「お姉ちゃん頑張れー!」
「あ、あや子ちゃんも負けるなー!」
昔懐かしい遊技場に立ち寄って、琴ちゃんや紬希さんに応援されながらあや子と真剣勝負をしてみたり。
「うーん……お土産何が良いかなぁ。料理上手なマコ師匠たちに下手なお土産は渡しにくいしなぁ」
「ふふ、分かるよお姉ちゃん。麻生係長とかも結構舌肥えてるから選ぶの大変なんだよね」
「だよねぇ……んーと。あとお世話になってる人と言えば琴ちゃんのお父さんとお母さんかな。よし、これだけあればお土産が十分だよね琴ちゃん」
「……あれ?待ってお姉ちゃん。お義母さんへのお土産を買ってない気がするけど……」
「お世話になってるどころかこっちが世話してやってる駄母に、わざわざ土産なんて用意する必要ないよ琴ちゃん♡」
日頃お世話になっている琴ちゃんのお父さんとお母さん。マコ師匠やコマさん、ヒメさんたちへのお土産を買ってみたりと……それはもう大変充実した観光を思う存分楽しませて貰っている。
「楽しいねお姉ちゃんっ!」
「ふふふ、そうだね琴ちゃん」
温泉街の探索をしながら。旅館でレンタルした浴衣を美しく着こなして袖を広げてクルリと私の前で舞うように回る琴ちゃん。温泉街の熱に当てられたようにすっかり童心に返っている琴ちゃんは、10年前のあの頃みたいな無邪気な笑顔を浮かべて私にそう言ってくれる。
この琴ちゃんの天真爛漫な笑顔を見れただけで、ここに連れてきて良かったとお姉ちゃんはひっそり歓喜の涙流しまくりだよ。
……それにしても。
「(ボソッ)…………琴ちゃん……色っぽい……えろい……うなじ綺麗……」
「ん?お姉ちゃん今何か言った?」
「ひぅ!?な、なんでもないよあははははは……!」
歓喜の涙を流しながら、ついでに欲望の鼻血まで垂れ流しそうになっている私。あどけない反応を見せながらも、身体の方はすっかり大人の女性へと成長してしまっている琴ちゃん。そんな琴ちゃんが浴衣なんて着ちゃった日には……お姉ちゃんはもう色々ダメになっちゃっているのですよ……
長く美しい黒髪と、真っ白なキャンバスのような肌を持つ琴ちゃんは……当然浴衣がよく似合う。浴衣に合うように自慢の黒髪をサッとまとめたところとか、後ろの襟からちらりと窺えるうなじとか……ドストライク過ぎてつらい……直視すると興奮しすぎて呼吸困難になっちゃいそう……
「わ……凄い、ここ足湯だってお姉ちゃん。自由に入って良いみたいだし……一緒に入ろ♪」
「あ、足湯って…………わ、わわっ……こ、琴ちゃん……!?い、いけないわそんな……ひ、人前で裾を捲るだなんて……は、破廉恥な……!?」
「え?破廉恥って……でもこうしないと足湯に入れないよね?」
「う、ぐぐぐぐ……そ、それは……そうなんだけどぉ……」
そんな私に追い打ちをかけるように、琴ちゃんは浴衣姿のまま足湯に入る。足湯に入るために際どい部分まで捲り上げられた浴衣の裾……そこからのぞく程よくむっちりした太ももに悩ましい曲線を描くふくらはぎ、バランス良く配置された足指……総じて完璧と言うほかない琴ちゃんの脚線美……
「……空空即是色受想行識亦復如是……」
「……んふふー♪おねえーちゃーん♪隙ありー!」
「~~~~~~~~ッ!!?」
なるべく意識しないように琴ちゃんの隣で足湯に入りながら。琴ちゃん(のおみ足)から目を逸らし、般若心経を心の中で唱える私。けれど琴ちゃんはその私を嘲笑うように……足湯の中でその長い生足を挑発的に伸ばし、つーっと私の脚をなぞって――
「カハッ……!?」
「えっ……!?ど、どうしたのお姉ちゃん……!?く、くすぐたかった……?ごめん、こういうの嫌だったりする……?」
「なんでも、ないよ……ハァ、ハァ……寧ろもっとして欲しかっ――ンンッ……!ほ、ほんとになんでも……なんでもないの……」
隠れ(?)脚フェチな私にはこの天国のような地獄の時間がとても耐えられそうにない。ゆ、浴衣+魅惑の生足とか反則過ぎでしょ……いかん……気をしっかり保て私……うっかり足湯を(鼻血で)血の池地獄に変えちゃ今度こそ警察に突き出されかねないぞ……
「(ボソッ)…………ね、ねえあや子ちゃん。なんだか小絃さん苦しそうに見えるよ……も、もしかして急に体調が悪くなったんじゃ……」
「ん?ああアレ?違う違う。小絃のアレはただ琴ちゃんの浴衣姿に興奮してるだけよ。まあ、ある意味病気なんでしょうけどすでに手遅れだろうから安心しなさい」
はいそこやかましい。
「って言うか……今更だけど紬希はどうして浴衣着てないのよ?琴ちゃんに負けないくらい……ううん、琴ちゃんよりも絶対似合うはずなのに。私も見てみたかったのに勿体ないわね」
「…………どうしてって」
「……あや子、お前ってやつは……」
「……あや子さん」
「え?何その紬希の反応……小絃に琴ちゃんまでなんなのよ?」
琴ちゃんの浴衣姿にハァハァしている私を羨ましがるように、指をくわえてそんな白々しい事を口にするあや子。前述の琴ちゃんに加えて私やあや子までもが浴衣をレンタルしている中。ただ一人、紬希さんだけは普段着のままでいるのである。
けど……どうしても何も……ねえ?
「…………そりゃ私も着てみたい気持ちはあったけどね」
「けど?」
「誰かさんに浴衣を着られないくらい身体中にキスされたお陰で、とてもじゃないけど人前じゃ浴衣を着られなかったんだけど?」
「…………ごめんなさい」
静かに怒る紬希さんに、お得意の土下座をその場で披露するあや子。紬希さんが浴衣を着られない原因を作っておきながらこのロリコンはホントに救えないな……
「全くもう。あや子ちゃんはどうしてこう」
「だ、だってさぁ……」
「…………お、お部屋に戻ってからなら……浴衣姿も……見せてあげるからさ……」
「紬希愛してるぅ!」
「声大きいよっ!?」
と、まあこんな具合で。思うがまま温泉街を堪能する私たちなのであった。
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