137話 旅館に着いたらまずやる事は
あや子のアホのせいでちょっとだけ(?)新幹線内で騒いじゃって琴ちゃん&紬希さん、そして乗客の皆さんにご迷惑をかけちゃったり。その騒ぎを聞きつけた車掌さんに危うくポリスメンを呼ばれかけるところまでいっちゃったんだけど……それでもどうにか穏便に(あや子と二人仲良く土下座して)事を済ませ。予定通り旅行先に……そして予約を取っていたすぐ近くの旅館に辿り着いた私たち。
「――全くもう……どうしてあや子ちゃんは何かある度に小絃さんにつっかかるのかなぁ……あや子ちゃんもいい大人なんだし、もうちょっと落ち着いた行動をして欲しいんだけどなぁ」
「そ、そうは言うけどね紬希。私は悪くないのよ……旅行先までこのバカがバカやらかすのが悪いのであって……」
「小絃お姉ちゃんもだよ。折角皆で楽しく旅行に来てるんだし、楽しい思い出を作るためにも仲良くしようよ」
「し、仕方ないんだよ琴ちゃん……全部あや子が悪いんだよ……私は楽しい思い出作りをしたいのにあや子のアホが余計な茶々をいれるから……」
「「ッ~~~~~~~!!」」
旅館に着いても相も変わらず一触即発な私とあや子。そんな醜い姉たちの言動に苦笑いする琴ちゃんと頭を抱える紬希さん。これではどちらが姉貴分たちなのかわかったもんじゃないね。
でもね、これはどうしようもない事なんだよ……こちとら琴ちゃんとの素敵な思い出メモリーを残すつもり満々だったのに……その思い出メモリーにあや子という重篤なウイルスが侵略してきたんだから……ウイルスバスターしたくなるのも無理のないことなんだよ。
「うぅ……言ったそばからまた喧嘩……あや子ちゃんたちがこんな調子だと皆で一晩同じ部屋で寝泊まりするのも難しいんじゃ……」
「ああ、それに関しては大丈夫だよ紬希ちゃん。だってここの旅館、お姉ちゃんと私。そして紬希ちゃんとあや子さんで部屋を別々に取ってるし」
「あれ?そうなの琴ちゃん?」
「「えっ?」」
と、さらっと衝撃の発言を言い放つ琴ちゃん。これにはため息を吐いていた紬希さんも、あと数秒でいつも通りの殴り合いに発展しかけていた私とあや子も喧嘩を中断し琴ちゃんに視線を一斉に向ける。
「あ、あの……琴ちゃん?お姉ちゃんの聞き間違いかな?今、部屋を別々に取ってるって言わなかった?」
「うん。大丈夫そう言ったから。お姉ちゃんは最初、お姉ちゃんと私と紬希ちゃんの三人で予約取ってたでしょ?」
「う、うん……そのつもりだったけど……」
「でもあや子さんも一緒に行くことになって、予約人数の変更しなきゃいけなくなったでしょ?だったらいっそのこと二人一組にしちゃおうって思ったの。その方が部屋も広々使えるし……それにこれならお姉ちゃんたちが喧嘩する事もないでしょ?」
「「「おぉー……!」」」
思わぬ琴ちゃんのファインプレーに感嘆の声が上がる。流石琴ちゃん……私とあや子とは長い付き合いだし私たちの行動もよく理解してて流石だわ。
「ナイスな判断だよ琴ちゃん!これであや子のアホの顔を寝る時まで見ることなく安眠できるね!」
「心から礼を言うわ琴ちゃん!バカ小絃の顔を見ずに済んで清々するし……おまけに紬希と一緒の部屋だなんて…………ふ、ふふふ……ぐふふふふふふふ……っ!」
「あ、あや子ちゃんと二人きり……い、良いの琴ちゃん……?わざわざもう一部屋お部屋を取るなんて……お金もかかったよね……?」
「いいのいいの。思ったほどかからなかったし。それにその方が紬希ちゃんも嬉しいでしょ?勿論私もお姉ちゃんと二人っきりで嬉しいし」
あや子と同室だと思っていたから若干テンション下がり気味だったけど。そういう事なら話が別だ。これなら気分良く琴ちゃんと良い思い出作りに専念できるね!
「さてと。それじゃあ話もまとまったところで……ちょうど良い時間だしチェックインしようか。私フロントで受付してくるよ」
「そうね。ああ琴ちゃん。だったらもう一部屋のチェックインは私が手続きするわ」
「ありがとうございますあや子さん。そういうわけだから……お姉ちゃんと紬希ちゃんはロビーでゆっくりしててよ」
旅館に足を踏み入れると、琴ちゃんとあや子が素早くチェックインする。特に私が出来る事もないし、琴ちゃんのお言葉に甘えて紬希さんと二人でロビーのふかふかなソファで一休みさせて貰う事に。
「ふひー……」
「……大丈夫ですか小絃さん?」
「へ?何がです?」
ソファに腰を下ろしてホッと息を吐いた私に、同じく隣に腰掛けた紬希さんが少し心配そうに小声でそんな事を聞いてきた。大丈夫とは……何がだろうか?
「慣れない長距離移動に加えて……その。あや子ちゃんに絡まれて大分お疲れなんじゃないかって思いまして。ホントにうちのあや子ちゃんがすみません……何のために同行したのやら……小絃さんは無理はなさっていませんか?身体の不調とかは……」
「あ、そうでしたね……ええ、大丈夫ですよ。長距離移動って言っても新幹線とタクシーに乗ってただけですし疲れるような事は全然してませんよ。あと、あや子とのアレも平気ですって。昔からのコミュニケーションみたいなもんですからあんなのでいちいち疲れてたらキリがないですし」
「あ、あはは……とにかく小絃さんがお元気なら良かったです。何か辛かったり苦しかったらすぐに言ってくださいね。できる限り私もフォローしますので」
「はい、信頼してます紬希さん」
琴ちゃんに聞かれないうちに、密かに私の現在の体調を確認してくれる紬希さん。……ホント、紬希さんには頭が下がる。約束通り体調が不安定な私のフォローをしてくれるばかりか『出来れば琴ちゃんに心配させたくない』という私の気持ちをくみ取って琴ちゃんがいない時にやってくれるなんて。
改めてあや子のアホには勿体ないよくできたお嫁さん過ぎるな紬希さんは。やれやれ……こんな身近に素敵な模範生がいるんだし、あや子はもう少し彼女を見習って――いやごめん今の無し。あや子が紬希さんみたいな純情可憐になったところを想像したら体調が悪くなりそう……
「おまたせー!チェックイン無事に出来たよお姉ちゃん!」
「こっちもバッチリよ紬希!さっ、早くお部屋に行きましょうねー!」
と、心から紬希さんに感謝していたところで何故か妙にテンションが高い琴ちゃんとあや子が戻ってきた。琴ちゃんは私の、あや子は紬希さんの手を取ると。そのままスキップする勢いで部屋へと向かう。
「ちょ……こ、琴ちゃん。そんなに走っちゃ転んじゃうよ危ないよ」
「えへへー♪ごめんなさい、でも小絃お姉ちゃんと二人っきりになれるって思うと嬉しくてつい」
「あ、あや子ちゃんも……そう慌てなくても時間はまだまだあるんだし落ち着いて……」
「なーに言ってるの紬希!こうしている間にも紬希とイチャつける時間は過ぎ去っていくのよ!?さあ、急いで紬希!」
そんなこんなで二人に急かされてあっという間に辿り着いたお部屋。
「そ、それじゃあ紬希さん。あとついでにあや子も。荷物を置いてゆっくりしてから……ちょうど良い時間になったら観光巡りでもしましょう。都合が良い時に電話しますんで」
「は、はいです小絃さん。こ、琴ちゃんもまたあとで……」
「ほらお姉ちゃん、早く早くっ!」
「紬希!焦らさないで!さあ、行くわよ二人の楽園へ!」
隣同士の部屋の前で、とりあえずお互いに一時の別れを告げてそれぞれの部屋へ。そこは……まさに楽園だった。
「お、おぉ……想像以上に凄い……」
一歩脚を踏み入れるなり、和室特有の如何にもな畳の落ち着く香りに歓迎される。二人用と聞いていたけれども十分過ぎるくらい広い純和風な部屋は手入れが行き届いており、大層な床の間まで付いていた。旅館らしく大浴場もあるらしいけれど、個人でゆっくり楽しむ用にベランダには露天風呂も備わっていてなんとも贅沢だ。
そしてそのなによりも私の目を引くのは、部屋の中央にすでに準備万端と言わんばかりに敷いてある大きめの布団だ。大抵の旅館の場合は夕食が終わってから敷かれるのが一般的だろうけど、この旅館は早速使ってねと言わんばかりに布団がその存在感をアピールしている。おまけに二人用なのに一組しか敷かれていないところを見るに、これはもう二人で一緒のお布団で寝ろと暗に示されているとしか思えな――うん?
「……いや、なんでもう布団敷かれてるの……?しかもなんで一組だけ……?」
「お姉ちゃん……そ、それじゃあ旅館にも着いた事だし……早速……やろ」
そんな私の疑問をよそに、私の後ろにいた琴ちゃんはいそいそと服を脱ぎながらそんな事を言い出す。早速やろって……なんの事だろう?琴ちゃん、服脱いでるってことは浴衣にでも着替えようって言いたいのかな?
確かに郷に入っては郷に従えって言うし、折角温泉街の旅館に来たならその場所に相応しい正装を……浴衣を着るのが筋ってもんか。それじゃあ私も琴ちゃんに見習って浴衣に着替えちゃおうかね。
「うん、おっけー。いつでもいいよー」
「お姉ちゃん……!ああ良かった、お姉ちゃんも私と同じ気持ちなんだね……お姉ちゃんにも了承を得たことだし……早速始めよう。私とお姉ちゃんの…………素敵な初夜を……」
「待ちたまえ琴ちゃん」
早速敷かれた布団への疑問も彼方に吹っ飛ぶ琴ちゃんの格好。浴衣に着替えるどころか、部屋に入って僅か10秒足らずで着ていた服を音もなく全て脱ぎ捨てて。琴ちゃんはスタンバイされていた布団へと優しく私を押し倒す。
「ステイ、ステイ琴ちゃん……!初夜って何!?気が早いし時間も早いし行動も早いよ!?何もかもが早すぎるよ!?早速やろって……こっちの事だったの!?」
「???これ以外にヤる事……ある?お姉ちゃんと私はふ~ふも同然。パートナー同士が旅館に来てやる事と言ったら一つしかない。だからこそ仲居さんに『先にお布団敷いておいてください』って頼んだんだし」
「ああ、だから布団がすでに……準備されてたってわけね……っ!?準備万端過ぎるわ琴ちゃん……っ!?」
馬乗りになり、私の上で蠱惑的に魅惑の身体を揺らしながら迫り来る琴ちゃんを必死に押し戻しながら抵抗する私。
「だ、ダメだって……色んな意味で早すぎるって……!?てか、紬希さんとあや子が隣にいるってのに……あの二人には準備が出来たら観光しようって言ってたじゃん!?『おかしいなぁ。全然連絡ないなぁ』って不思議に思われてこっちの部屋にあの二人が入ってきたらどうするのさ!?」
「???何言ってるのお姉ちゃん。だから……ふ~ふが旅館に来たら……これ以外にヤる事ってないでしょ?あや子さんもそれを見越して私と同じように仲居さんにお願いしてたよ。だから多分今頃は――」
『ちょ……あや子ちゃん!?なんで脱いでるの!?浴衣に着替えるんじゃないの!?』
『んー?浴衣?……うーん良いわねぇ♪紬希の浴衣姿……想像するだけでご飯3杯は余裕でイケルわ。…………でも、それはそれとしてなんで今わざわざ浴衣なんて着るの?結局脱いじゃうわけだし着る必要なくない?』
『な、何言って…………や、やぁ……っ!?脱がすの、いやぁ…………こ、琴ちゃんと……小絃さんと……観光巡りするって約束じゃ……!?』
『そんなの後よ後。大丈夫大丈夫。あっちもあっちでよろしくヤってるって。だからこっちも……存分に楽しみましょうね紬希……!』
『ば、ばか……やだ、どこ、触って…………や、やだぁ……ふたりに、きこえちゃ……ぁ……ン、んっ』
『寧ろ聞かせちゃいましょうよ紬希!どれだけ私たちが愛しているかをさぁ!!!』
「――ね?この通り楽しくヤってるよ」
「あんの……ロリコン色情魔……ッ!」
「私たちも負けていられないよね……!それじゃあお姉ちゃん…………素敵な
「そのルビはおかしいし、そもそもまだ真っ昼間だってば……!?ほ、ホント待ってゆるしてかんにんして…………今は、今はまだダメぇえええええええ!!?」
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