133話 小絃お姉ちゃんの看病奮闘記(その後)
琴ちゃんが風邪を引いて2日ほど経過した。途中急な高熱や私の危うい看護のせいでヒヤヒヤする事も多々あったけれど……それでもどうにか無事に峠は越えて。
「——いやぁ、それもこれも紬希さんやマコ師匠、コマさんの的確なアドバイスのお陰ですよ。皆さん本当にありがとうございます!近いうちにお礼をさせてください!」
「い、いえ……その。こ、琴ちゃんが元気になってくれて……わ、私も友人として嬉しく思います……よ?」
「ま、まあ……私たちもちょっとは役に立てて何より……かな。ね、ねえコマ」
「え、ええそうですねマコ姉さま……もっとも琴さまがお元気になったのは小絃さまの献身的な看病のお陰だと……思いますが……」
琴ちゃんの完全復活を聞きつけて遊びに来てくれた彼女たちにお礼を告げる。いやはや……皆がいなかったらどうなっていたことか。この3人にはどれだけ感謝してもしきれないわ。
と、そんな中……紬希さんのおまけでいつものように呼んでもないのに来ていたあや子が唐突にこんな事を言い出した。
「んで?琴ちゃんが元気になったのは良いんだけどさ」
「あん?なにさあや子」
「皆が言いにくそうだから、私が敢えて言わせて貰うわね小絃。…………その顔の腫れは一体何なの?」
「へ?」
そんな事を言うあや子が……いいや、あや子含めこの場にいる全員が。私の顔に注目を向ける。皆の視線を受け、改めて私は手元に置いておいた手鏡で自分の顔を覗き込むと……そこには。通常の三倍近く頬を腫らした私の、見るも無惨な顔が写り込んでいた。コレは(見た目が)酷い……
「す、すみません小絃さん……実は私も凄く気になっていたんです。……だ、大丈夫なんですか……?一体何があったんですか?」
「すっごい顔だねコイコイ……そんなに腫らして痛くないの……?」
「おたふく風邪……でしょうか?小絃さま、病院には行かれました?」
「ちょっと……おたふく風邪って……ホントなの小絃……?信じられないわ」
全員が心配そうに私に声をかけてくれる。普段の私への扱いが嘘みたいに、なんとあのあや子までも滅茶苦茶不安そうなのである。それくらい酷い有様だって事なんだろう。慌てて私は誤解を解くことに。
「ああ、いや違うくて。これはだね——」
「ねえ小絃、まさかあんた……治ったというの?現代医学でも治療不可のハズのアレが……そんな事ってあり得るの……?」
「おうキサマ、それは私の何が治ったって言っているのかね?」
バカは風邪引かないハズだから、『風邪を引く』イコール『バカが治ってしまった』とでも言いたいのかあや子よ。ぶちのめすぞコラ……
「ま、まああや子ちゃんの冗談はさておき。小絃さん、これが本当におたふく風邪なら今すぐ病院に行きましょう。私が付き添いますので……」
「いやいや……どうか安心してくださいよ紬希さん。それにマコ師匠にコマさんも。おたふく風邪とかじゃないんですよこれ。ただ単純に、顔が腫れ上がっているだけ。言ってしまえばちょっとした怪我をしただけなんです」
「怪我って……何したらそんな惨状になるのさコイコイ。なんかまるでボクサーの試合後みたいな顔になっちゃってるじゃない。殴り合いでもしたの?」
「この腫れ具合から見て……一度や二度、強い衝撃が加わったわけではなさそうです……何度も何度も数え切れないほど殴打されたとしか……も、もしや強盗とかが家に押入ったとかじゃ……」
「だ、大丈夫です!そういう物騒な感じのやつでもないんで!」
「んじゃどういう感じのやつなのよ小絃」
う、ううん……どういう感じって言われても……
「…………こ、琴ちゃんの看病の……弊害とだけ……」
「「「「???」」」」
…………言えない。言えっこない。こうなった原因が——
熱でぽーっと上気した琴ちゃんの、普段は拝めないトロ顔に萌えてハァハァしては自分をぶん殴り。
まだ上手くご飯が食べられないに琴ちゃんに、あーん♡させた時の愛らしさにキュンキュンきては自分をぶん殴り。
汗ばんだ服を着替えさせて、ついでに身体をふきふきさせた時の蠱惑的な琴ちゃんの肉体美にエロスを感じては自分をぶん殴り。
夜中に高熱が出た琴ちゃんを解熱させるべく、緊急手段として……その。琴ちゃんの……お、お尻に…………○○を……使うことになり、その背徳感と征服感にどす黒い感情を芽生えさせては自分をぶん殴り。
——と、まあこんな具合で。二日間で計108回。煩悩の数だけ自分を律した時に出来た(不)名誉の勲章だなんて……とても言えるはずもない。
「と、とにかく風邪でもなんでもないしホントに大丈夫なんです。見苦しいでしょうがどうかお気になさらず」
「そ、そうですか……ですがそれでもそんなに腫れていたら大変でしょう?どちらにしても病院に行って処置した方が良いと思います。今日は私、お仕事お休みなので付き添います。一緒に診察に行きましょう小絃さん」
看護師さんらしく私を気遣いそんな優しいことを言ってくれる紬希さん。相変わらずあや子の嫁とは思えない立派でありがたい進言に感謝しながらも、私は苦笑しながらこう返す。
「ありがとうございます紬希さん。でも大丈夫です。こんなの唾付けとけばそのうち治りますし」
「で、でも……」
「……それに。いくら紬希さんといえど、そのポジションは譲らないと思いますので……」
「ふぇ?ポジション……?」
「(バンッ!)お待たせ小絃お姉ちゃんっ!」
などと私が告げた途端。勢いよく部屋の扉が開かれる。そこにいたのはすっかり元気になってくれた琴ちゃんだった。
「ああ琴ちゃん、元気になったのね。あや子お姉さんも嬉しい…………え?」
「コトたんお邪魔してるよー。いやはや風邪大変だったよねー…………え?」
「良かったです琴さま。やはり小絃さまの看病が効いたのです…………え?」
そんな琴ちゃんの出現に、この場にいる全員の気持ちが一つになる。
「「「「(なんでナース服……?)」」」」
現れた琴ちゃんは、何故かその身にナース服を纏っていたのだから。そりゃそうなるわな……
「あ、紬希ちゃん。それに皆さんも。ご心配おかけしました。音羽琴、お陰様でこんなに元気になりました」
「え、あ……うん……元気いっぱいみたいで安心したよ琴ちゃん…………うん。そ、それはそれとして……あの、その格好は……?」
「んー?コレのこと?嫌だなぁ、紬希ちゃんともあろう人が分からないはずないでしょう?お姉ちゃんを看護するなら、それ相応の正当な格好をしなきゃいけないじゃない。超特急で紬希ちゃんのナース服を参考に作ってみたんだ。どう?ちゃんと私も看護師さんに見える?」
「…………あ、ああうん。なるほど……小絃さんの言ってたポジションってそういう……」
そんな琴ちゃんの一言で全て察してくれたらしい紬希さん。あや子やマコ師匠たちに目配せしてから荷物をまとめてこう告げる。
「え、えと……元気なお顔が見られて良かったよ。そ、それじゃあ琴ちゃん。私帰るね。ほ、ほらあや子ちゃんも……」
「そ、そうね……邪魔しちゃ悪いもんね……色々と」
「こ、コマ!私たちもそろそろ帰ろっか!コイコイお大事に!」
「ですね。それではお二人とも。失礼いたしました」
下手に私の看護の邪魔をすれば琴ちゃんが怖いことになる。きっとそれがよくわかっているであろう四人はそそくさとこの場を後にする。
そんな四人のことは全く意に介さず。琴ちゃんは私が横になっていたベッドに潜り込んできて。
「えへへ……ね、小絃お姉ちゃん」
「う、うん……なにかな琴ちゃん」
「まずは改めてお礼を言わせてね。……本当にありがとう。お姉ちゃんのお陰でこんなに元気になりました」
「い、いや……大した事してないから大丈夫。まだ病み上がりなんだし琴ちゃんも無理しちゃダメだからね」
「私はもう全快したよ。そう、お姉ちゃんの献身的で情熱的な看病のお陰でね。熱のせいで朧気だけど……それでも覚えてる。お姉ちゃんすっごく頼りになって……すっごくかっこよかったよ。素敵だった」
そう言って琴ちゃんはうっとりしながら私にぴったりとくっついてくる。
「今度は私が、お姉ちゃんのお世話をする番。ああ、こんなにお顔を腫らしちゃって……すっごく熱を帯びてるよ。痛いよね?苦しいよね?すぐに治療してあげるからね」
「あ、ああうん……それはありがたい話ではあるんだけど……ねえ琴ちゃん?その前に聞いてもいい?私のほっぺたのお世話と、この添い寝は一体どう関係するのかな?」
「……ごめんね。私は現職の紬希ちゃんと違ってあんまり慣れてないから。こんな風にくっついて近くで治療しないと上手く出来ないの。だからこれは仕方のないことなの」
「ここまで密着していたら、そっちの方が逆に治療しにくくないかなぁ!?」
更に私に密着し、手足を私にまとわりつかせながら満面の笑みを浮かべる琴ちゃん。
「それにこういうのお姉ちゃんも好きでしょう?お姉ちゃんが持ってたA○で見たことあるよ。年上のお姉さんが、治療と称してこんな風にお胸を密着させて誘惑するやつ。折角の機会だから私も実践してみようかと」
「さては琴ちゃん、そっちがメインでやってない!?だ、ダメだって……こういうのはせめて元気になった時に……って……ちょ、ちょっとどこ触ってんの……!?あ、嘘そんなところまで……いや待ってそこは治療とは全然関係な——ぴ、ぴにゃぁあああああああ!!?」
すっかりいつも通り元気いっぱいになってくれた琴ちゃんに。いつも通り元気いっぱい襲われちゃう私。そんな風に琴ちゃんに色々されながらも……こう思う。
風邪を引いた琴ちゃんはいつもと違った可愛さとか魅力があったけど。それでもやっぱり……こんなに元気な琴ちゃんのことが私は一番大好きだな、と。
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