132話 小絃お姉ちゃんの看病奮闘記(後編)
風邪引き琴ちゃんの看病はまだまだ続く。ご飯も食べさせてお薬も飲んでもらった。さてさて次なる私のミッションは……汗をかいた琴ちゃんの看病だ。
高熱のためか随分汗をかいている様子の琴ちゃん。傍目からも汗でベトベトして寝苦しそうだ。そんな琴ちゃんの為に早速行動に移った私なんだけど……
「——えっ!?風邪引いた時ってお風呂に入るのもダメなんですかコマさん!?」
『え、ええっと……いえ。ダメというか何と言うか……』
琴ちゃんの為に熱々にお風呂を沸かして、いつものように琴ちゃんと入浴しようとしていた矢先。マコ師匠から連絡を受けたコマさんに急遽ストップをかけられてしまう。
『実は絶対にダメというわけではないのです。昔は一律に風邪の時にお風呂に入るのは良くないと言われていましたが、最近では寧ろお風呂に入るのを推奨するお医者さまもいらっしゃるそうです。体調や症状によっては問題無いケースもあるんだとか。皮膚を清潔にすることが出来ますし、血行も良くなる事で治癒力や免疫力を促進させられるらしいですからね』
「で、でしたらお風呂も問題無いのでは……」
『ただ……流石に三十九度以上も熱がある本日の琴さまをお風呂に入れるのは酷ではないかと。お風呂に入るとどうしても体力が消耗しますし、無理して入ると意識が朦朧とする可能性もあります。それに湯冷めをしたら最悪風邪が悪化しかねませんので……』
「そ、そうだったんですか……」
あっぶねぇ……危うく食事の時と同じようにとんでもないやらかしをしでかすところだった……汗をいっぱいかけば琴ちゃんもきっと元気になると勝手に思っていたわ。『嫌な予感がするからちょっとコマに連絡しとく』と珍しく機転を利かせたマコ師匠も、的確なアドバイスをくれたコマさんもマジで感謝しかないわ……
『とは言え小絃さまの仰る通り、汗をかかせたまま放置するのも良くありません。そのままにしておくと身体が冷えてしまいますので、汗をホットタオルなどで拭き取り小まめに着替えさせることが大切です。その際可能であれば失った水分の補給も一緒に行って下さい』
「なるほど……」
『寒気が引き、熱が上がりきったら熱を逃がしてあげましょう。掛け布団を薄くして脇の下や足の付け根を冷やしてあげるとより効果的に——』
「ふむふむ……」
コマさんの大変ためになる助言を電話越しに聞きとりながら、無知は罪だと猛省する私。過去一度も風邪を引かなかった事がまさかこんなところで足を引っ張るとは……意気込むだけじゃダメだった。マコ師匠やコマさんたちがいなかったら琴ちゃんを危険な目に逢わせてしまうところだったじゃないか。
やれやれだ……あや子にバカ扱いされるのもやむなしと言わざるを得ないね。
『——と、まあこんな感じですかね。大まかにどのように対応すれば良いかはお話させていただきましたが、もし何か他にわからない事があればご連絡下さい』
「滅茶苦茶助かりましたよコマさん!ほんっとに、ありがとうございました!今度是非ともマコ師匠共々お礼をさせてくださいね!そんじゃ、琴ちゃんに試してきますので今日はこの辺で——」
おバカな私でもわかる丁寧なアドバイスをくれたコマさんに心からお礼を言いつつ、早速琴ちゃんに試そうと電話を切ろうとする私。
『あ……すみません、もう少しだけお待ち下さい小絃さま』
「へ……?」
そんな私にコマさんが優しい声色で待ったをかける。
『小絃さまは風邪を引かれた事がなかったと仰っていましたよね』
「え?え、ええそうなんです。まさしくバカは風邪を引かないって事なんでしょうね。いやはやお恥ずかしい限りで……」
『健康なのは素晴らしい事ですよ。どうか誇って下さい。……ですが。そうなると小絃さまは風邪を引いた人の気持ちがわからないと思います。ですので余計なお節介かもですが、最後に一つだけ琴さまのためにも助言をさせてください。あのですね——』
◇ ◇ ◇
「——琴ちゃん、具合はどう?」
「あ……おねえ、ちゃん……」
コマさんとの通話を終え、再度琴ちゃんのお部屋にやって来た。
「ん、まだちょっと……ふらふら……あと、熱い……かも……」
恐る恐るベッドに横になっている琴ちゃんに声をかけてみる。声に覇気はなく私を見つめるその目はどこか焦点が合っていない様子だ。
「ごめん琴ちゃん。随分汗をかいてるみたいだしそのままだと気持ち悪いよね?辛いと思うけど……頑張ってお着替えしようか」
「うん……」
危惧したとおり汗をじっくりかいている琴ちゃん。一応着替えると返事を返してくれるけど、動く気配はみられない。やはり相当辛いのか身体を動かすのも億劫なのだろう。
となれば……仕方ないよね。着替えは私が手伝ってあげるとしよう。そのためにここに私がいるわけだし。
「本当にごめん琴ちゃん。ばんざい出来るかな?はい、ばんざーい」
「ばん、ざーい……」
昔お風呂に琴ちゃんを入れていた時を思い返しながらばんざいと声をかけてみる。熱で朦朧としているからか、子どもの頃のように素直に両手を上げてくれる琴ちゃん(可愛い)。琴ちゃんが頑張って手を上げてくれている隙に、私は琴ちゃんの着ているパジャマを急いで脱がしていく。
……それにしても。
「ぅん……は、ぁん……」
「…………(ゴクリ)」
パジャマをなすがまま私の手によって脱がされる琴ちゃんは……ハッキリ言ってエロかった。目は潤み、頬は紅潮し。はだけたパジャマから見える肩は熱で赤みを帯びていて。下着の間から見える胸は汗ばんで水も滴る良い琴ちゃんって感じでたまらない。
ああ、いけない……いけないわ琴ちゃん……こんなに立派に実っちゃって……おまけになんなのそのトロンとしたお顔は?私に脱がされても全然抵抗しないし……押し倒されても文句なんて言えないわよ?それとももしや私を誘っているの?誘い受けってやつなの?ならばそれに応えるのがお姉ちゃんとしての務め(?)だよね……!任せて琴ちゃん、お姉ちゃんがその期待に応えてあげ——
「ふんっ……!」
ゴッ! ゴッ!! ゴシャァ!!!
「…………?お姉ちゃん……今の音、なぁに……?どうかしたの……?」
「なんでもないよー。琴ちゃんは気にしないでいいからねー」
あまりに綺麗な琴ちゃんに見とれ欲情し、お姉ちゃん失格な最低最悪な事をしでかそうとしたところで。自分で自分を容赦なくぶん殴り煩悩を退散させる。しっかりしろ私……私は琴ちゃんのお姉ちゃんだぞ……?ここで弱っている琴ちゃんに手を出すなど、お前はあや子と同レベルに成り下がるつもりなのか?
「そんな事より琴ちゃん。汗拭いてあげる。さっぱりしてからまたお休みしようね」
「うん……」
「よしよし。なら下着、外しちゃうよ」
正気に戻った私は心をお姉ちゃんモードに切り替えた。まずは琴ちゃんの後ろにまわり、ブラのホックをそっと外し……適温に温めておいたタオルを琴ちゃんの背中に当てる。
「冷たくない?大丈夫?」
「へいき……あったかい……」
「そかそか。それじゃあ拭いてあげるね。痛かったり嫌だったりしたらすぐに教えてね」
のんびりしてたら風邪が悪化してしまうだろう。手早く……されど丁寧に。背中の輪郭、背骨の形に沿うようにタオルを走らせて、滴る汗をまんべんなく拭いていく。
「……よし。琴ちゃん、それじゃあ次は前を……」
「んー……」
「…………おぅふ……」
背中が終われば次は前。琴ちゃんの正面に移動する。纏うものが何も無い琴ちゃんは……息を呑むくらい美しかった。細い手足に引き締まったお腹、芸術的なくびれ……ブラから解放されてこぼれた柔らかそうな豊満で形の良い胸……全てに見惚れてしまう。
一度はちゃんと正気に戻ったハズなのに、またもや邪な心が私を揺り動かそうとする。……念のためもう一発グーで自分の頬に強烈な一撃を叩き込んで、深呼吸でお姉ちゃんモードを再起動。黙々と琴ちゃんの清拭を再開する。
「ん、ぅ……」
「(甘酸っぱい汗の匂いたまらん……)」
首から腕に、腕から脇に。
「はぁ……く、ぅん……」
「(すっごいしっとり……それにやわらか……)」
お腹の周り、脇腹、腰……
「や、ぁ……んっ……ゃんっ……」
「(舐め取りてぇ……むしゃぶりつきてぇ……)」
勿論二つの大きな丸みのあるそこも忘れない。特に汗をかきやすいそこを優しくなぞり、真珠のような汗を綺麗に拭き取って。
「んっ……んん、ぅ……ぁん……っ」
「(声、エッロ……)」
琴ちゃんの吸い付くような肌の柔らかさと、無自覚に漏れる色っぽい琴ちゃんの声に苦悶する……そんな天国であり地獄のような時を経て、神経を極限にすり減らしながらもどうにかこうにか琴ちゃんの全身を拭き終わる私。
もうちょっとで私の微かに残った理性がご臨終になるところだった。それでも最大の難所はクリアした。頑張った……!私超頑張った……!
「は、はいお疲れ琴ちゃん!綺麗になったね!いや、琴ちゃんは何しても綺麗だけどね!そんじゃ、あとは新しいパジャマに着替えようねー!」
「……んー」
そう琴ちゃんに言ってみると、琴ちゃんは『お姉ちゃん、着せて』と言わんばかりにさっきみたいにばんざいしてくれる。そんな子どもの頃を彷彿とさせる琴ちゃんの仕草にキュンキュンきながらも、素早く私は琴ちゃんを着替えさせてあげる。
「はいおしまい。琴ちゃんすっきりしたでしょう?それじゃ今度はお飲み物を飲もうか。喉渇いているでしょう?」
「のむ……」
着替えさせたら後はしっかり水分補給。琴ちゃんの腰に手を回し、ゆっくりと飲み物を飲んで貰う。身体も綺麗になってさっぱりした上に水分もしっかりと取れたお陰か、ついさっきまでよりも心なしか顔色が良さそうな気がする。
良かった……これでとりあえず一安心ってところかな。
「さ、あとはねんねの時間だよ。ゆっくり眠れば琴ちゃんもきっとすぐに良くなるからね。それじゃあお休み琴ちゃん」
そう声をかけ、あとは琴ちゃんの安眠を自分のやかましく暑苦しいオーラで邪魔せぬようにと部屋から出ようとする私…………だったんだけど。
きゅ……
「ふぁ?」
「…………小絃、お姉ちゃん……」
微かに後ろに引っ張られる感覚を感じ振り向くと。一体どうしたことだろう。琴ちゃんが一生懸命手を伸ばし、私の服の袖を掴んでいるではないか。
「ど、どうしたの琴ちゃん!?何かあった!?辛い!?苦しい!?病院行く!?」
ちょっと身体を動かすだけでも相当に辛いはずなのにそれでも私を引き止めた。と言うことは、どうしても私に訴えたい事があると言うことだろう。慌てて琴ちゃんにまくし立てるように声をかける。
「どこ、いくの……」
「ど、どこって……いや別にどこに行くってわけでもないよ。ただ琴ちゃんの邪魔しないように隣の部屋にでも行っておこうかと……」
「嫌……行っちゃ、いや……」
「嫌って……」
「琴と……いっしょにいて……」
「琴ちゃん……」
まるで迷子の子どものように、今にも泣き出しそうな顔で私にそう告げる琴ちゃん。成長したいつもの凜々しく大人っぽい琴ちゃんはそこにはいない。私の目には今の琴ちゃんは10年前の琴ちゃんのイメージと重なって見えた。
もしかしなくても……熱でちょっと幼児退行しちゃってるみたいな感じになっているのか?
「(コマさんの言うとおりだったわ……)」
ふと、先ほどのコマさんの発言を思い出す。
『あのですね——風邪を引いた時ってとても不安な気持ちになるんです。とにかく心が不安定になるんです。心細くて、一人でいるのが怖くて辛い。そんな気持ちになっちゃうんです。かくいう私が風邪を引いた時いつもそうでした。その度に姉さまに救われてきました』
「不安……ですか」
『勿論全員が全員そうなるわけではありませんし、琴さまは強い人ですので大丈夫だとは思います。ですが……それでももし、琴さまが不安を口にするような事があれば』
「あれば……?」
『……どうか、琴さまの側にいてあげてください』
……なるほど、こういうことでしたか。ええ、ええ。勿論わかっています。コマさんに言われるまでもありませんよ。
「おねえちゃん……ひとりは、いや……おねえちゃんといっしょが……いい……ずっとずっと、いっしょが……いい……」
「うん、大丈夫。お姉ちゃんはずっと琴ちゃんの側に居るよ」
そう言って私は琴ちゃんのベッドにお邪魔する。琴ちゃんは私を離すまいと、私の腕の中にすっぽり収まり、自分の頭を私の胸にすり寄せる。
「ほんとに……?お姉ちゃん……もういなくなったり……しない……?」
もういなくなったり……か。これは耳が痛い。何せ10年前に危うく琴ちゃんの前からいなくなりかけた私だからなぁ……
「うん、大丈夫。ごめんねー、心配かけちゃって。もう二度と……琴ちゃんの前からいなくなるような愚行は犯さないよ」
「ずっと、いっしょにいてくれるの……?」
「うん、もちのロンよ。琴ちゃんが嫌がろうと私は琴ちゃんの側に居るよ。琴ちゃんからウザいと思われても、ぜぇったい側にいるんだからね」
ぎゅぅっと抱きしめ諭すように私は告げる。私のその宣言に、琴ちゃんは心の底から嬉しそうに弱々しく私を抱きしめ返す。
「よかっ、たぁ……」
「さあ琴ちゃん。ゆっくりお休みしようね。……大丈夫だから。お姉ちゃんも今日は琴ちゃんと一緒に…………あ、いや今日はっていうかいつも寝る時は一緒だけど……お姉ちゃんと一緒に寝よう。離れないで良いようにね」
「うん……うん……!」
琴ちゃんの背中をポンポンと叩きながら、いつも夜にやっているように琴ちゃんを優しく『大丈夫、大丈夫』と言ってあげる。それを続けていると、段々と琴ちゃんも力が抜けていって……
「おねえちゃん……」
「なぁに琴ちゃん」
「ありがと……だいすき…………」
「…………琴ちゃん?」
いつの間にか琴ちゃんは、すやすやと眠りに落ちていた。私の腕の中で、私の腕を枕にして穏やかな寝息をたてている琴ちゃん。
「お休み琴ちゃん。…………私も、大好きよ」
琴ちゃんがすぐに良くなりますように。そんな願いを乗せて私は……愛らしい彼女の、まだまだ熱いおでこに唇を落としてあげるのであった。
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