128話 子どもシミュレーター実践中

「——さて小絃、次はどんな子をシミュレートしてみる?」

「まだやる気なのかこのイカレ科学者は……」


 あや子とその悪しき遺伝子の暴走で荒れに荒れた子どもシミュレーション。あれだけの尊い犠牲(※主に紬希さん)を出しておいて、まったく気にすることなく実験を勧めてくる辺り本当に我が母ながら人の心がないらしいな。

 あ、ちなみに騒動の中心だったあや子&あや子似の娘ロリコンたちはというと……


「あ、あははは……紬希?それに私のかわいい娘2号?ひょっとして怒ってる?娘3号にばかり構って寂しくなっちゃった?だ、大丈夫よちゃんとお母さんはいつだって愛する貴女たちの事しか考えていないわ!」

『は、ははは……ママ。それに我が愛しの妹よ。もしかして嫉妬しているのかな?大丈夫だよ、私はママも愛しい妹も平等に愛してるからね』

「…………二人とも。そんな軽口を叩く元気があるんだね。これはまだまだ積めそうだね」

『ママ、お待たせ。追加の石畳だよ。遠慮せずに思い切りやっちゃって』

「つっ、紬希!紬希……ッ!む、娘と一緒に淡々と石を積まないで……!?は、反省する!反省してるから——(ずんっ!)もう私の膝とすねが大変なことになっちゃってるからぁ!?」

『ま、ママ!それに愛しいマイシスター!?優しい二人は私に酷い事しないよね……!?ち、違うんだよ悪いのは母さんであって私はただ母さんに乗せられただけ——(ずんっ!)これ以上乗せられたらおかしくなっちゃうぅううう!?』


 紬希さんと紬希さんによく似た娘ちゃんたちに仲良くオシオキされていた。日頃の恨みを込めてもっと思いっきりやっちゃって良いですよ紬希さん。


「琴ちゃんもまだ実験し足りないと思うでしょ?もっと小絃との子どもをシミュレートしてみたいって思うでしょ?ほら!さっきのあや子ちゃんたちみたいにもっと成長した子どもとか、逆にもっと年齢を下げた子どもとかもシミュレート出来るわよ!」


 そうやって紬希さんたちがロリコンたちに愛の制裁を加えている横で、母さんが琴ちゃんにいつものように甘言を弄してくる。このBBAめ……また琴ちゃんに余計な事を……

 人の良い琴ちゃんが母さんの頼みを断れるわけが——


「んー……お義母さんの力になりたい気持ちはありますが。最初の我が子と会えただけでも大満足ですし。今回はこの辺で遠慮しておこうかなと」

「え、ええっ!?こ、琴ちゃんどうして……!?」

「おぉ……?」


 と、いつもなら素直に母さんの我が儘に付き合ってくれるはずの琴ちゃんのはずだけど。今回はどういうわけかハッキリと断ってくる。


「え、遠慮しないでいいのよ!?も、もっと琴ちゃんも小絃との子どもを見てみたいでしょ!?ね、ねっ!?」

「いえいえ。父も母も十分楽しんでくれたみたいですし、後は他の人にバトンタッチしますね」

「そ、そんな……」


 まさか琴ちゃんに断られるとは思っていなかったようで。母さんはかなり動揺している模様。これは私もちょっとビックリだわ。


「珍しいね琴ちゃん。どうかしたの?母さんじゃないけど私も琴ちゃんなら『お姉ちゃんとの子どもをもっと見てみたいです!』って喜んで母さんの誘いに乗ってくるって思ってたんだけど」

「んー……そだね。いつもなら私も全力で乗っかかるところだけど」


 そう言って琴ちゃんはチラリとあや子のアホと紬希さんを見つめてから……


「でも、紬希ちゃんとあや子さんのさっきのアレコレを見てたらね……オチが見えちゃったっていうか」

「オチが見えたって……?」


 苦笑いでそんな事を口にする。はて?オチとな?一体何の事だろう?


「んーとね。例えば大人になった私とお姉ちゃんの子どもがね、お姉ちゃんに似た場合は良いんだよ。無害だし、お姉ちゃんに似てとっても優しくて良い子に成長しそうだし。私も全力で可愛がってあげられそうだからね」

「ふむふむ」

「でもその逆……もし極端に成長した私たちの子が……」

「琴ちゃんに似ちゃったら?」

「断言して良い。絶対小絃お姉ちゃんの事がだいだい大好きな娘に成長しちゃって……最終的に娘と二人、血で血を洗う小絃お姉ちゃん争奪戦をやらざるを得なくなる」

「…………あー」


 琴ちゃんのその一言で、ついさっきまであや子とあや子似の娘が繰り広げていた醜い紬希さん争奪戦を思い出す私。何の間違いか私の事が大好きでちょっぴり(?)独占欲と嫉妬深い琴ちゃんと……その血を受け継いだ娘ちゃんか。

 それは……うん、確かにヤバいわ……恐らくあや子たちと同様に…………否、それ以上に激しい奪い合いが勃発する未来が容易に見える。


「でも……琴ちゃんとそっくりに成長した我が子かぁ……」


 気になってちょっとだけ脳内で想像してみる。琴ちゃんの遺伝子を受け継いだ子って事は、それはもう大変綺麗で美しい私好みドストライクな大人の女性に成長することだろう。目を引くほどの美人さんに成長したそんな我が子が、琴ちゃん同様に私の事が大大大好きで……


『ママ、好きよ……大好き。私ね……本気だよ。もう子どもじゃないんだよ。ほら、見て。こーんなにママ好みに大きくなったの。このママ好みの身体……ママの好きにして良いんだよ♡』

「小絃お姉ちゃん、ダメだよ。お姉ちゃんが好きにして良いのは私だけ。お姉ちゃんを好きにしていいのも私だけ。……ね、お姉ちゃん。私だけを見て。私だけを触って……私の身体を、もっと感じて……♡」


 私をその豊満なワガママボディでサンドイッチにしつつ誘惑してくるえっちな親子。二人に挟まれ密着され愛を囁かれ取り合いにされちゃうとか……そんな、そんなのって……


「……うへへへへ」

「…………お姉ちゃん。何を想像しているのかな?」

「ハッ!?な、なんでもない!なんでもないよ琴ちゃん!?」


 妄想だけでトリップし、鼻から熱いリビドーが迸りかけたところで。琴ちゃんのジト目(怖可愛い)が私を射刺していることに気づいてどうにか妄想の旅から帰還する私。

 た、確かに琴ちゃん似の我が子とか……色んな意味で危険だわ……


「ぐ、ぬぬぬ……こ、琴ちゃんに断られるのは流石に想定外だったわ……だ、だったら姉さん!それに義兄さん!ふ、二人もシミュレーター試してみない!?」

「うーむ。研究熱心な心絃くんの実験に付き合ってあげたいのは山々なんだがね。私たちには実の娘の琴も、将来家族になってくれる娘同然の小絃くんもいるわけだし。わざわざシミュレートする必要性がないというか」

「それに……もう一人欲しくなったら、シミュレーターなんて使わなくてもお父さんとらぶらぶして作れば良いだけだもんねー♡」

「くっ……この万年バカップルが……!」


 モルモット候補がいないことに焦る母さんは、先にシミュレートしていた私たちの子ども(仮)と遊んでくれている琴ちゃんのお父さんお母さんにまでその魔の手を伸ばそうとしてきたけれど……いつまでも仲良しなご夫婦に返り討ちにあっていた。


「え、ええっと……ええっと…………あ!そうだ!だったら小絃とあや子ちゃんの二人の子どもをシミュレートしてみましょうよ!大人のお姉さん好きとちっちゃい子好きが合わさったらどんな化学変化が起きるのか見てみたいって思わない!?」

「「気色悪いわ!!?」」


 誰一人実験に付き合う気配がないことに危機感を抱いた母さんは、何をとち狂ったのか考えるだけでも鳥肌が立つ発言をぶちかましてきた。これには私は勿論の事、拷問中のあや子もあまりの気持ち悪さに絶叫して嫌悪感を露わにする。


「じょ、冗談じゃない!私と……あや子の子どもだと……!?こ、このBBA……一体何を食ったらこんな吐き気を催す恐ろしい事を思いつくんだよ……!?」

「冗談じゃないのはこっちの台詞よバカ小絃……!?こ、小絃ママ!?勘弁して下さいよ!なにが悲しくてこんなバカとの子どもをシミュレートしなくちゃいけないんですか!?なんの罰ゲームなんですか!?」

「だ、だって……二人とも昔から息ピッタリだし……相性も超良さそうだから……」

「「どこがじゃい!?」」


 そういやこの前のもしもシミュレーターの時も、私とあや子がくっついたもしもを試してみたらとか抜かしていたなこの駄母は……想像すらしたくないし想像しようとしただけで気持ち悪くなってくるわ……


「…………前々から密かに思ってたけど……やっぱり私の1番の敵は……あや子さんなのかも……何だかんだでお姉ちゃんと相性抜群だし……ひょっとしたら身体の相性だって……」

「…………あや子ちゃんと小絃さん、いつも通じ合っている感じがするもんね……でも、それでも……あや子ちゃんは私のお嫁さん……小絃さんには渡しません……」


 母さんの余計な一言のせいで琴ちゃんと紬希さんから殺気にも似た圧を感じてしまう。紬希さんご安心下さい。こんなロリコンこっちから願い下げです……

 おのれ……何故謂われもない屈辱的な中傷で琴ちゃんたちの非難を浴びなきゃいかんのだ……


「ちぇー……わかったわよ。まだ実験データは揃ってないけど……誰もやらないって言うなら仕方ないわ。今回はこの辺にしといてあげる」

「不服そうにしてるけど、不服なのはこっちだからね……?」


 結局誰一人やる気が無い事実を突きつけられて、母さんは渋々といった体で引き上げる準備を始める。やれやれ……やっと終わったか。


「でも良かったよ……恥ずかしい思いはそれなりにさせられたけど。母さんの実験にしては比較的実害が少なくてさ」

「待ちなさい小絃。私は結構実害あったと思うんだけど……?現に今もこうして——(ずんっ!)紬希に愛のオシオキ受ける羽目になってるんだけどぉおおおお……!?」


 胸を撫で下ろす私に対し、あや子のアホは拷問されながら抗議を入れてくるけど当然無視。あや子のアレは自業自得だし、1番の被害者は紬希さんでしょうに。


「でもまあ実害が少ないのも当然か。だって今回のはあくまでもシミュレートだけだもんね」

「ん?シミュレートだけ……?いや、何の話をしてるのよ小絃?」

「は?いや何の話って……今回の母さんの実験装置って二人の間に出来るであろう子どもを予測してシミュレートするだけの代物だったハズでしょ?それってぶっちゃけただのゲームみたいなものじゃない」

「……ああ、なるほど。あんたそんな事思ってたんだ。やれやれ、これだから小絃は」


 そこまで言うと母さんは納得した顔を見せ、そしてその直後鼻で笑ってこう返す。


「甘いわね小絃!このあたしが、シミュレート程度で満足すると思ったのかしら!」

「…………え?」


 なんか、凄くとんでもない事を口走らなかったかこの人……?


「な、何言ってんのさ母さん……流石に同性同士での子どもが出来るのは未だに遠い未来の話だって……」

「誰がそんな事を言ったのかしら?少なくともあたしはそんなん言った覚えはないわよ。何せ……もうあたしの頭の中では理論が完成しているわけだし」



 ガタタッ!!!←琴ちゃんが勢いよく立ち上がる音



「お、お義母さん……それはつまるところただのシミュレートに止まらず、実際にお姉ちゃんの子どもを産むこともお姉ちゃんに産んで貰う事も可能……と認識しても良いのでしょうか?」

「その通りよ琴ちゃん。今回の実験の主な目的はね、あたしの理論が正しいかの裏付けの為のものだったの。ぶっちゃけるとあと一歩のところまで来ているのよねー。シミュレーター使った感じ、特に問題なさそうだったし……あとはシミュレートした同性同士で産まれた子どもの遺伝子情報やら何やらを調べて……逆算して何が足りないのかを見つければ良いんだけど……」


 そこまでブツブツ呟いて、そして母さんはこう続ける。


「あーあ、残念。もうちょっとシミュレーターの実験データがあればなー。夢の同性同士の子どもだって夢じゃなくなるのになー」


 そうして母さんはわざとらしく盛大にため息を吐きながらシミュレーターをシャットダウンしようと電源スイッチに手を伸ばし、


「(ガシィッ!)ごめんなさいお義母さん。やっぱり未来のお姉ちゃんの嫁として、お義母さんの力になりたくなりました。ですから……どうか実験を続けて下さい!」


 伸ばした手を見事釣られた琴ちゃんが力強く取っていた。単なるシミュレートに止まらず、実際に子どもが産めるかもと分かった途端にこれだよ……


「あら嬉しい♡もう終わりにしようかなって思ってたけど皆が協力したいっていうならこれは是が非でもやらなきゃね」

「是非ともよろしくお願いします!じゃんじゃんお姉ちゃんとの子どもを作らせて下さい……!」

「よろしくしないで琴ちゃん!?」


 その後実験と称してサッカーチームが作れるくらい子どもをシミュレータで出現させた琴ちゃん。

 ……母さんの理論が実現したら、マジで琴ちゃんにそれくらい誕生させられるんじゃないかと思うと戦々恐々してしまう私であった……







「——ところでお義母さん。私ふと思ったんですが……実際に二人の間に誕生する子どもの解像度を上げるには……やはり子どもを作る過程も大事だと思うんです。愛する二人が愛し合ってこそ子どもは生まれるというもの。ですので……遺伝情報の他に、お姉ちゃんと二人で愛し合っている過程のデータ——身も蓋もない言い方ですが子作りふ~ふの営みをしている時のデータも一緒にシミュレーターに入力してみるのは如何でしょうか」

「ふむ……一理あるわね」

「一理あるかなぁ!?…………って、ちょ……ちょちょちょちょちょ……!?琴ちゃんちょっと待って!?何故脱ぐ!?何故脱がす!?なにしてんのぉ!?」

「科学の発展の為、そして私たちの可愛い未来の娘の為。ここはお義母さんに協力しようお姉ちゃん。大丈夫……これはあくまでただのデータ収集であって本番じゃない。実際に子作りする時の予行演習も兼ねた模擬戦みたいなものだから大丈夫……!」

「な、何一つ大丈夫な要素がな——ひゃ、ひゃぁあああああああん!!?」

『???ねー、じぃじ、ばぁば。ママとおかーさんはだかんぼでなにしてんのー?』

「未来の貴女に会う為の儀式をしているの。二人が仲の良い証拠だから気にしなくて良いのよ」

「邪魔しちゃ悪いしじぃじたちと一緒にあっちで遊んでいようねー」

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