126話 子どもシミュレーター使用中(あや子&紬希)

「——貴女が紬希ちゃんね。うちの琴と仲良くしてくれて本当にありがとう」

「確か小絃くんの担当の看護師さんでもあったね。とてもよくして貰っていた覚えがある。今度ともうちの琴と小絃くんを宜しく頼むよ」

「いっ、いえ!わ、私の方こそ琴ちゃんにも小絃さんにもいっぱいお世話になってます……!」


 いつものようにお土産を手に遊びに来てくれた紬希さん。微笑ましくたまたまうちに来ていた琴ちゃんのご両親とご挨拶をしている。


「んで?小絃はいつも以上にバカ面晒して一体何をしてたわけ?まあ、どうせ碌なことしてないことはわかるけど」

「アホ面を常時晒して碌なことしないやつにだけは言われたくはないわ……」


 そしてこっちもいつものように土産一つよこさずに上がり込んできたあや子。憎たらしく私にごあいさつをかましてくる。こいつは何なの?憎まれ口一つは叩かないと挨拶一つまともに出来ないの?

 そんな中、新たなモルモット出現に。マッドサイエンティストな母さんは目を輝かせて駆け寄ってきた。


「いやぁ、ちょうど良いところに来てくれたわねあや子ちゃん!」

「ああ、小絃ママもいたんですね。今日はどうしたんです——」

「あや子ちゃん、実は貴女と紬希ちゃんにぴったりの実験があるんだけどさ!当然あや子ちゃんも付き合ってくれるわよね!」

「——いっけなーい!急用があるのすっかり忘れてたわ!紬希、さっさと帰るわよー!」

「え、え?急用……?あや子ちゃん何の事……?今来たばっかりなのに……?」


 長い付き合いなだけあって、大なり小なり母さんの実験に辛酸をなめさせられてきたあや子。故に私同様に母さんの危険性は重々承知しているらしい。実験という不穏なワードが母さんの口から発せられた時点で紬希さんを抱っこしてあや子は即逃げの体勢を取る。気持ちは分かる。


「ままま、そう言わずに。この実験は絶対にあや子ちゃんも気に入ってくれるハズだし」

「すみませんね小絃ママ、今日は手が離せないんです。小絃や琴ちゃんなら実験に付き合ってくれると思いますので私たちはこの辺で失礼して——」

「何せあや子ちゃんと紬希ちゃんの間に子どもが出来るという実験なんだからね!」

「——いやぁ、私実は天才小絃ママの実験に滅茶苦茶興味あるんですよね!是非ともその夢のある実験に付き合わせてください!」

「手のひら返し早っ……」


 あれだけ明確に拒絶反応を示しておいて。紬希さんとの子どもが出来るという発言に爆速で手のひら返しを見せるあや子。こいつの手のひらドリルかよ……


「紬希ちゃんも興味あるでしょ。私もついさっきお義母さんに私と小絃お姉ちゃんの未来の娘を見せて貰ったんだ。ほら、あっちで今私のお父さんお母さんと遊んでるのが私たちの娘だよー」

「す、凄い……琴ちゃんと小絃さんにそっくり……って事は……わ、私と……あや子ちゃんの子どもも……」

「ふふふ、紬希ちゃん。見たい?」

「み、見たい……」


 あや子だけでなく母性本能が刺激された紬希さんまでもが興味津々のご様子。どうやらあや子も紬希さんも乗り気らしい。

 そういや以前未来の琴ちゃんに『女の子同士でも子どもが出来る研究してる』って話をされた時、琴ちゃんと並んで二人とも滅茶苦茶食いついてたっけ。シミュレーターとはいえ自分たちの子どもを見れるならそりゃそういう反応になっても仕方ないとは思う。

 けど……うーん……


「紬希さんとあや子の子どもかぁ……それって大丈夫なのかなぁ?」

「むっ……なによ小絃。あたしの世紀の発明を疑っているわけ?あんたと琴ちゃんの子どもはちゃんとシミュレート出来てたでしょうに」

「ああ、いや。勿論母さんの実験が不安って気持ちは十分あるけどさ。それ以上に心配なことがあってだね」

「はぁ?心配なことって何よ」


 だってあや子と紬希さんの子どもでしょう?あや子要素はともかく、紬希さん要素が詰まった愛の結晶なんでしょう?それってさ……


、色んな意味で大変なことになったりしない?」

「「「…………あり得る……」」」

「ちょっと待ちなさい!?どうしてそこで皆バカ小絃の戯れ言に同意してるのよ!?」


 私の指摘に琴ちゃん、母さん。そして紬希さんまでもが非常に難しい顔を示す。紬希さんの為にも二人の子どもをシミュレートしてあげたいのはやまやまなんだけど……ロリコン性犯罪者に自分の子どもに対する性的虐待というさらなる罪が重なる可能性があるんだよなぁ……


「しかも今回は前回の《もしもシミュレーター》とは違って、母さんの余計なアップデートにより物理的接触が可能になったわけでしょ?って事は絵面的にも相当ヤバい事になると思うんだよね」

「しまった……その可能性を考えてなかったわ……あや子ちゃん用にセーフサーチ機能も設定しておくべきだったかしら……」

「今からでも遅くない。設定を見直しておくんだ母さん。取り返しが付かなくなるその前に」

「心外っ!心外よバカ小絃!あんた私をなんだと思ってるわけ!?」


 なんだとって……ロリコン性犯罪者以外の何者でもないでしょあや子は。


「……いいかしら小絃、冷静になってよく考えてみなさい。自分の子どもに欲情するとか普通あり得ないでしょうが」

「身近に母と娘でえっちい事までヤッてる例がいるから、普通にあり得ると思ってる」

「あー……確かにお姉ちゃんの言うとおり。うちの係長とかガッツリお母さんと一線越えてるもんね……」

「ヒメさんは例外!例外よ!?」


 必死になって反論しようとするあや子だったけど逆効果。更に間違いなく自分の子を襲うという私の仮説に信憑性が増した模様。


「じゃあさあや子。ちゃんと約束できる?それが出来るなら一応信用してシミュレーター起動を許可してやってもいいよ」

「いや何の約束よ……」

「そりゃ当然。自分の子に欲情しない、絶対に手を出さないって約束に決まってるじゃん。あや子は約束出来るの?出来ないの?」

「…………」

「……おい、何故そこで長考する?」


 こいつやっぱり……


「ち、違うわよ!ちょ、ちょっと考えただけじゃない!欲情なんてするわけないわ!」

「じゃあなんですぐに答えなかったんだ貴様」

「え、えっと…………そ、そう!手を出さないってのが普通に撫でたり抱っこするのもダメって判断だったら困るなって思っただけよ!他意はないわ!ほ、本当よ!」


 普通なら『約束できる』と即答出来そうなものなのに答えに詰まっていたあや子。この時点で相当やばい気配が漂っている気がするんだがね。


「え、えっと……小絃さん。あや子ちゃんが不安だって気持ちはよくわかります。ですが……信じてあげていただけませんか?流石のあや子ちゃんも手を出すことは……恐らくない……と思いますので。そう信じたいと思っていますので……」

「紬希、信じてくれてありがとう……でもそこは手を出すことはないって言い切って欲しかったわ……」

「それに……私もあや子ちゃんとの子ども、見てみたいですし……」

「う、うーむ……」


 一抹の不安は抱えているけれど、あや子はともかく紬希さんの頼みは断れない。流石のあや子も紬希さんの信頼を裏切ることはしない……と思いたい。


「仕方ない。ここは紬希さんに免じて許可するとしよう。あや子、変な真似はするんじゃないぞ」

「しないっての……ったく、ごちゃごちゃ変な事言ってないでさっさと実験すればいいものを……」

「よーし、そんじゃ話もまとまったところでそろそろ実験開始といきましょう。あや子ちゃんと紬希ちゃんの子ども、出るわよー」


 ぶつくさと不満を呟くあや子。その隣で母さんが手早く装置を操作する。ややあって独特の機械音と共に二人の子どもが現れた。


『ぅー……?ままぁ、ままどこぉ……?』


 現れた二人の子どもは私と琴ちゃんの子どもと同様に、二人の特徴を足して二で割ったような……そんな可愛い女の子だった。髪の色と髪質、目の色と目つきはあや子によく似ていて。その他の顔立ちとか滲み出る愛らしさは紬希さんって感じだ。


「こ、この子が……私とあや子ちゃんの……か、かわいい……♡」

『あっ……ままぁ♡』

「きゃっ!?」


 そんな二人の子どもは紬希さんを視認するや否や、真っ先に紬希さんに抱きついて甘えだす。紬希さんのことが大好きなのはあや子の遺伝だろうね。


「も、もう……急に抱きついたらダメだよ。ビックリしちゃうし危ないでしょう?」

『えへへー、だってままとぎゅーっしたかったんだもん!』

「そ、そっかぁ、それなら仕方ないかな。で、でも本当に危ないから次は気をつけてね」

『はぁい。…………ね、ね!まま』

「んー?なぁに?」

『だーいすき!』

「ぁ、あぅ……ま、ママもあなたのことが大好きだよ!」


 実に微笑ましい光景を作り出してくれる紬希さんとその子どもちゃん。見ているだけで笑顔になっちゃうなぁ。


「紬希さんも良いお母さんになれそうだよね」

「うん。紬希ちゃんって、病院でも面倒見が良いし。きっと優しくて素敵なお母さんになれる」

「だよねー」

「…………それにしても。紬希ちゃんと子どもちゃんって、サイズ的に……並んでると親子と言うよりはに見え——」

「おっと琴ちゃんそこまでだ。それ以上は紬希さんが傷ついちゃうからやめよう」


 それは私も内心思ったけどね。……さて。そんな微笑ましい二人はともかくだ。


「ふひ……ふひひひひ…………て、天使……天使が二人……私の天使が……ふひひひひひひ……!」

「「…………」」


 鼻血やら涎やら感涙やらを大量にまき散らす、この危険人物をどうしてくれようか。


「ちょ……あ、あや子ちゃんなんて顔してるの……!?というか、は……鼻血!鼻血出てるよそれも病気を疑うレベルの……!?」

『お、おかーさん……だいじょうぶ……?』

「し、心配してくれてありがとう……かわゆいお嫁さんと娘をもって私は幸せよ…!大丈夫、お母さんは絶好調よ。……ああ、でもちょっと(?)血で汚れちゃったからさ…………汚れをキレイキレイするためにもちょっと三人でお風呂に入りましょうか……!だ、大丈夫よ……!家族風呂に入るんだしなんの問題もないわ大丈夫だいじょうぶだだだだだだだだだだだ……!!!」

『「きゃ、きゃぁあああああ!?」』


 どう考えても大丈夫じゃない性犯罪者が、あらゆる体液を垂れ流しながら紬希さんと娘ちゃんに詰め寄っていく。ほら見ろやっぱりこうなった。


「さーてと。そんじゃ止めるとしますかね。母さん、なんかちょうど良い発明品とかない?暴れ回る猛獣も捕獲できるやつとか」

「んー、そうねぇ。今開発してる象も一発でおねんねしちゃう麻酔銃とかならあるんだけど……人間用じゃないわよコレ」

「大丈夫、アレはもはや人間じゃないから」


 ちなみに。容赦なく母さんお手製の麻酔銃を使うもロリ×ロリに刺激されアドレナリン出まくりのあや子にはほとんど効かず……結局琴ちゃんに協力して貰い全弾撃ち尽くす羽目になったことをここに記する。

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