琴ちゃんとトンデモ実験その4

124話 母さんのたのしいトンデモ実験

 研究以外頭にない生活能力皆無なマッドサイエンティストの母の代わりに私の父&母代わりとして面倒を見て貰ったり。逆にお仕事で忙しい二人の代わりに琴ちゃんと一緒に遊んであげたり。

 自分で言うのも何だけど琴ちゃんのお父さんとお母さんの二人とは昔からかなり良好な関係を築けていると思ってる。


「——身体の調子はどうだい小絃くん。目を覚ました時に比べたら随分と顔色は良くなったみたいだが」

「すっごい元気になりましたよ。それもこれも琴ちゃんが献身的に私の面倒を見てくれてるお陰です。ホント、琴ちゃんには頭が下がるばかりです」

「あんまり無理しちゃダメよ小絃ちゃん。琴から聞いたわ。小絃ちゃんは優しいし責任感も強いから何でも自分でやろうとしちゃうんだって。もっと琴を頼って良いのよ。琴に我が儘も言ってあげて。その為に一緒に居るわけだし」

「い、いや……今以上に琴ちゃんに頼るのはちょっと……姉としてのプライドというモノが。そ、それにホラ!琴ちゃんもお仕事で忙しい時もあるでしょうし!」


 そんな琴ちゃんのお父さんとお母さんは、お仕事中の琴ちゃんに代わりお忙しい中貴重なお休みを使ってまでまた私に会いに来てくれていた。わざわざ高価なお土産まで持参して……そんなに気を遣わなくてもいいのに。


「ふむ。確かに琴もいつも小絃くんの側に居られるわけでもないもんな」

「そうですね。小絃ちゃんを養う為にもお仕事はちゃんとしなきゃですものね」

「は、ははは……まあそういう事です。こんなに元気になりましたし自分の事は自分で——」

「そういう事なら琴が仕事の時は毎回私たちが小絃くんのお世話をしてあげようじゃないか母さん!」

「そうね!小絃ちゃん、あの子がお仕事の時は私たちを呼んで頂戴!琴に負けないくらい小絃ちゃんのお世話してあげるわ!」

「いやホント良いですって……!?てか、お二人こそお仕事があるのでは……!?」

「「そんなもの、小絃くん(ちゃん)に比べたら些事に過ぎないよ(わ)!!」」

「このご両親……琴ちゃんと同じ事言ってるぅ……」


 元々私に対してもちょっぴり過保護気味だったんだけど。あの事故から琴ちゃんを庇ってから、更にその過保護がパワーアップしている気がする琴ちゃんパパ&ママ。私になにかあればすぐに二人揃って駆けつけてくるし、娘がお世話になっているからと目を疑いたくなるようなお小遣いを渡そうとしてくるし……


「そうそう小絃くん、琴から聞いたよ。動画デビューしたんだってね」

「箏を弾いたり指導してくれる動画だったわよね。私とお父さんもいつも見ているのよ。小絃ちゃん本当に昔から箏上手よね」

「あ、あはは……お二人にまで見られちゃってましたか。お恥ずかしい限りで……」


 と、何気ない会話をしていると。お二人から例の動画配信の話題を振られる私。


「何を恥ずかしがる必要があるんだい。とても素晴らしい演奏だったよ」

「亡くなった小絃ちゃんのお祖母ちゃまも喜んでいるわよきっと。あれだけの腕前ならコンサートを開いても良いくらいだものね」

「おお、それは良い。小絃くんさえ良ければ、私がツテを当たってみようか。市民会館やイベントホールもすぐに抑えられるし、宣伝も任せてくれれば盛大に——」

「い、いいです!?そんなのしなくていいですから!?あ、あくまで趣味でやってる程度なので!?コンサートとかちょっと私には向いてないと思うので!?」

「むぅ……そうかい?まあ確かに小絃くんはまだまだ身体も本調子じゃないだろうからね。コンサートなんか開いたら無理をさせてしまうか」

「そうですね。小絃ちゃんがもう少し身体の調子が良くなってからでも遅くはありませんよね」

「は、ははは……」


 このお二人、流石琴ちゃんのご両親なだけあってやることも考える事も琴ちゃんにそっくりすぎない?確実な血の繋がりを感じる……この親にしてこの子ありって感がヒシヒシ伝わるわ。


「それはそうと小絃くんの動画で思い出したんだが……」

「ん?どうかなさいましたか?」

「その……すまないね小絃くん。うちの琴が……大事な動画配信中に過激な事をやったじゃないか」

「そうだった……ごめんね小絃ちゃん。恥ずかしい思いをさせちゃって。あの子の親として謝るわ。ごめんなさいね」

「過激な事?恥ずかしい思い?」


 そう言われて一体何のことかと思い返してみる。ハテ?何の事だろう?動画配信中に琴ちゃんにされた……事と、言えば…………


『いけないわ。ホントいけないお姉ちゃんだよね。私という者がいながら……勝手に知らない妹たちを作っちゃうんだから』

『琴、ちゃん……どこ……触って……は、ぁん……ッ!』


 記憶の彼方に葬り去っていた、あの羞恥の記憶が鮮明に蘇る。生配信中に琴ちゃんに乱入されて、全世界に琴ちゃんとのアレコレを公開処刑されたあの日の出来事を……

 ハッハッハ。…………あれもお二人に見られてたの……!?


「ご、ごごご……ごめんなさい琴ちゃんのお父さん、お母さん……!?」

「お、おいおい小絃くん?いきなりどうしたんだい?」

「急に蹲っちゃって……もしかして体調悪いの?病院に連れて行ったほうがいいかしら……?」

「よ、嫁入りまえの大事な娘さんである琴ちゃんを顔出しさせちゃって……おまけにお姉ちゃんとして琴ちゃんを止めなきゃいけないところだったのに止められなくて……ほ、本当にごめんなさい……ッ!わ、私から手を出すような真似は一切してませんので……ど、どうかお許しを……!」


 思わず得意の土下座を披露してお二人に全力で謝罪を入れる私。そうだよね……私の動画を見てるなら、あの炎上動画も当然ご視聴済みだよね……

 何で私はあの動画を削除していなかったのか…………つか、寧ろ何であの動画は運営に削除されないまま普通に残ってるんだよ……!?


「なんだそんな事かい?謝るのはこちらの方だよ。どう見てもうちの琴の暴走だって分かりきっていたことだからね。怒らないといけないのは抵抗できない小絃くんを押し倒すうちの娘の方だろうし」

「全く……気持ちはわかるけど琴も困った子よね小絃ちゃん。安心して。もうちょっとムードとか考えないと嫌われちゃうわよって私からちゃんと叱っておいたから。小絃ちゃんが気にしなくて良いのよ」


 幸いなことにご両親は大して気にした様子も無く、逆に私に謝ってくれる。よ、良かった……『うちの一人娘を辱めるとはどういうつもりだ!』とか『可愛い一人娘に手を出すなんて良い度胸ね!』とか言われるんじゃないかってビクビクしてたわ。

 ムードがどうとかちょっと気にするところが違う気もするけれど……寛大なお二人で良かった……


「…………(ボソッ)寧ろ……小絃くんはもっと積極的に琴に手を出してくれても良いと思うんだがね。ねぇ母さん」

「…………(ボソッ)うふふ……♪そうですね。琴を何よりも大事にしてくれる小絃ちゃんなら……きっとお姉ちゃんとして責任取って琴をお嫁さんにしてくれるでしょうし」

「……?琴ちゃんのお父さん、お母さん?今何か仰いました?」

「いいや何も無いよ、気にしないでくれたまえ」

「二人がもっと、もーっと仲良くなって欲しいって思っただけよ小絃ちゃん」


 もっと仲良く……か。それは私としても望むところ。もっと頼りになるお姉ちゃんに進化して、昔のように琴ちゃんに慕われるように日々精進せねば。


「困った子ついでで、ちょうど良い機会だから小絃ちゃんに聞いておこうかしら。小絃ちゃん。うちの琴が何か小絃ちゃんを困らせるような真似していない?」

「もしも不満があるなら今のうちに言っておいて良いからね。私たちからあの子にそれとなく伝えておいてあげるから」

「へっ?困った事?琴ちゃんに対する不満……ですか?」


 唐突に言われて考えてみる。うーん……不満かぁ。私の好みドストライクに琴ちゃんが成長しすぎて、一挙手一投足ムラムラさせられちゃうのが毎日困ってる……なんてご両親に正直に言えるわけないからそれは置いておくとして……

 それ以外のちょっとした不満というと……


「…………あの。困った事とか、不満とはちょっと違うかもなんですが……」

「「うんうん」」

「最近、その……私の枕元に結婚情報誌ゼク○ィとか……出産情報誌た○ごクラブとかが……大量に置かれてて……琴ちゃんからの圧が……凄いのがちょっと……」

「「あー……」」


 私が知らぬうちに10年経過していたこの時代では、女性同士・男性同士でも普通に結婚出来る。そんなわけで何をまかり間違ったのか私にゾッコンLoveな琴ちゃんは日々私と『結婚しよう』と毎日のようにアプローチをかけているのである。

 まあ、法律が変わって可能になった結婚まではまだ良いんだけど……出産はどうしろと?なんでたま○クラブを置いたのか琴ちゃんに聞いたら……


『大丈夫、世の中には想像妊娠というものがあるから♡私頑張るよ!お姉ちゃんとの愛の結晶……楽しみだね!』


 とか自分のお腹を愛おしそうにさすりながら言ってたっけ。……あれって確か実際に妊娠していないのに、妊娠超初期のようなさまざまな心身の兆候が現れ、あたかも妊娠しているかのような錯覚の事だったハズでは?それで何が出産されるの……?無から有は産まれないんだよ琴ちゃん……これじゃあ想像妊娠って言うか妊娠じゃないの……


「ま、まあゼ○シィはともかく……出産に関しては琴ちゃんも冗談半分だとは思うんですけどね。流石に科学が発展した10年後の今でも、女の子同士で子どもが出来るのはまだまだ先の話で——」



 ガラッ!



「——お待たせ小絃!今、あたしの力が必要だって呼ばれた気がしたわっ!」

「呼んでないし帰れマッドサイエンティスト」

「あら心絃。久しぶりね」

「ははは、相変わらずみたいだね心絃くん」


 なんて、不用意にそんな事を口走った瞬間。呼ばれもしないのにタイミング良く勝手に私と琴ちゃんのお家に侵入してきた我が母。うわ……嫌な予感……


「良いから黙ってあたしの実験に付き合いなさい小絃!そうすればあんたの望みは叶えられるわ!」

「もう一度言う、帰れ。二度と来るな。母さんに望むことがあるとすればそれだけだっての」

「なによぅ小絃!あんた琴ちゃんとの子ども、欲しくないの!?」



 ガラッ!



「お姉ちゃんと子作り出来ると聞いて!」

「うぉっ!?こ、琴ちゃんまでどっから現れた!?と言うか仕事は!?」

「お姉ちゃんとの子作り以上に大事な仕事なんてないよ!」

「あら琴まで。お帰りなさい」

「こらこら琴。帰ってきたらちゃんと小絃くんにただいまを言いなさい」


 そうこうしているうちに仕事中だったはずの琴ちゃんまで現れる。ああ、この流れはヤバい……

 畜生……また始まってしまうと言うのか……いつもの母さんのトンデモ実験が……

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