番外編 王様ゲームのその後

一方その頃;立花家



 ~Side:マコ~



「——なるほどね……コマとコトたんがイカサマしてたのは、私とアヤヤ(※あや子)に仲良くなって貰うためだった……と?」


 波乱の王様ゲームを終えなんとか生還した私は、我が家に帰ってきて早々愛するマイプリチーシスターコマから今日のアレコレについての説明と謝罪を受けていた。


「その通りです姉さま。仕方がなかったとはいえ、反則してしまった事……申し訳ございませんでした。如何なる罰も受け入れます」

「あ、いや……謝らないでよコマ。そういう理由ならイカサマするのも仕方ないと思うし……寧ろ謝らないといけないのは、あの場の空気を悪くしてた私とアヤヤだったと思うしさ」


 聞くところによるとあまりにも剣呑な雰囲気だった私とアヤヤ。放置したら最悪流血沙汰にもなりかねない勢いだったらしい。そのあまりの有様を見かねたコマとコトたんが手を組んで……私たちが無理矢理にでも協力せざるを得ない場を作ったんだとか。

 ……そうだよね。やっとすっきりしたよコマは理由もなくズルするような子じゃないもんね。ごめんねコマ……面倒かけちゃったね。


「…………それはそれとして。コマ、罰ゲームの事でちょっと気になったんだけど」

「あ、はい。何でしょうか姉さま」

「何と言うか……その。王様ゲームでツムツム(※紬希)と壁ドンしたり、ツムツムとお姫様抱っこしたり、ツムツムに耳つぶしたりしてたよね。なんか妙にツムツムと絡む命令が多かったような気がしたんだけど……なんか理由とかあったりするの?」


 私の気のせいかもしれないけど。それにしたってツムツムと絡む命令が目立った気がする。

 ……い、いや別にツムツムに嫉妬しているわけじゃないんだよ……?ただ……ちょっとだけなんだか気になってね……


「……いえ、特に深い意味はありませんよ」

「そ、そう。それなら良いんだけど——」

「ええ、深い意味はありませんとも。…………私のマコ姉さまに憧れを抱く紬希さまを姉さまから遠ざけたかったからとか、紬希さまにチヤホヤされて鼻の下を伸ばしているマコ姉さまにちょっぴりムッとしたとか、私と紬希さまがイチャイチャしているところをマコ姉さまに見せつけて……私の苛立ちを姉さまに理解して欲しかったからとか——そういう深い意味は決してありませんのでご安心くださいマコ姉さま」

「…………(絶句)」


 ここまで言われて鈍い私もようやく気づく。こ、これは……


「…………あ、あの……コマ……?」

「はい?どうしましたかマコ姉さま?」

「もしかしなくても……そのぅ……怒って、いらっしゃる……?」

「うふふ……なぜそう思われるのですか姉さま?怒っているように見えますか私?」


 怒気など一切感じない、超素敵な笑顔のコマ。端から見たら確かに全く怒っているようには見えない。

 ……見えない、が……


「(にこにこにこにこ)」

「(……アカン)」


 笑顔のまま私をただ淡々と見つめているコマ。そのコマを見て本能で理解する。…………ヤバい……怒っているとか怒ってないとかそういう段階を優に超えてたわコレ……許されない一線をとっくの昔に越えちゃってたわ私……

 わ、私を料理の師として尊敬してくれてるツムツムに嫉妬していたのかコマ……全然気づいていなかった……


「…………怒っていないけど、ごめんなさい……今晩は好きにしちゃってください……コマの言うこと何でも聞きます……」

「あら嬉しい♡姉さまがそう仰るなら遠慮なく」


 もはや私に出来る事と言えば……コマが許してくれるまでコマに絶対服従を誓うことだけ。

 きょ、今日は……朝までコース確定……かな……?スタミナドリンク飲んどくか……







「(ボソッ)……まあ、とは言え今は本当に怒ってはいないんですけどね。これで紬希さまが本気でマコ姉さまを狙うようないつもの輩でしたら酷い事になっていましたが……そうではなかったので」



 ◇ ◇ ◇



 一方その頃;伊瀬家



 ~Side:あや子~



「——えっ?琴ちゃんとコマ先生……イカサマしてたの?ほ、ホントに……?」

「気づいてなかったのね紬希……あの二人、あれだけ露骨にやってたのに。あの小絃ですら気づいてたのに……」

「だ、だって……!あんなに聡明で優しくて大人っぽい琴ちゃんたちが、そんなことするわけないって思うでしょ普通……!?」


 帰宅してすぐ今日の王様ゲームについて紬希に話を振ってみた私。やはりと言うべきか純粋な紬希はただ一人琴ちゃんたちのイカサマに気づいていなかったらしい。そういう天然なところも可愛いわねうちの嫁は……


「で、でもなんで?琴ちゃんもコマ先生も、イカサマするような人じゃないじゃないよね?もしかして何か理由があったのかな……」

「それは……」

「……?あや子ちゃん、理由知ってるの?」

「…………まあ、うん。一応……あ、あのさ……」


 あの場の雰囲気を1番悪くしていたのは私だ。無関係の紬希までイカサマありの王様ゲームに巻き込んでしまったわけだし……これも罰だと思って全部包み隠さず話してみる事に。


「——と言うわけで。私とマコさんの雰囲気が最悪だったから……無理矢理にでも仲良くする為にイカサマやってたんだってさ」

「……なるほどね。もう……マコ先生に対抗心燃やしてたなんて、なんでそんな意味の分からない事をしてたのよあや子ちゃん」

「…………なんでって……」

「私……マコ先生の体型的に、あや子ちゃんなら飛びついて自分から仲良くなりに行くとばかり思ってたのに。どうしたの?何かおかしなものでも食べたんじゃない?大丈夫?」

「それどう言う意味……!?」


 まさかあのバカ小絃と同じ事を、最愛の紬希にまで言われるとは思わなくて地味にショックだわ……皆、私の事をなんだと思っているのかしら……?


「どうしてマコ先生を敵視してたの?初対面なら尚更嫌いなる要素がないでしょうに。怒らないから言ってみてよあや子ちゃん」

「…………」

「あや子ちゃん?」


 紬希にそう促されたけれど無言を貫く私。言えるかっての……あんなみっともない理由なんて……


「むー……もしかして黙秘権使ってる?ならいいよ、わかった。あや子ちゃんには聞かない」

「(ホッ……)」

「強情なあや子ちゃんじゃなくて…………素直で優しい琴ちゃんとか小絃さんに聞くもん」

「ま、待ちなさい紬希……!?話す!ちゃんと話すから……!」


 黙りこくる私に対し、紬希はすぐさまスマホを取りだし琴ちゃんたちに電話をかける素振りを見せる。

 や、やめなさい紬希……琴ちゃんはともかくあのバカの場合、絶対ある事ない事好き勝手紬希に吹き込むに決まっているじゃないの……!?


「で?結局なんであや子ちゃんはマコ先生を毛嫌いしてたの?」

「……それは、その…………ええっと」

「(Pi!)もしもし小絃さん?私です、紬希です。ちょっとお尋ねしたいことがありまして——」

「言う!言うわよ!?だから小絃呼び出すのやめて紬希……!?」

「嫌ならさっさと話しなさいあや子ちゃん」


 最近、嫁が逞しい……実力行使まで厭わない紬希の成長に思わず涙が溢れてくる。これは……もう隠し立てするのは無理みたいだわ……

 深い深いため息の後、私は半ば自棄になってこう答える。


「だ。だって……」

「だって?」

「…………つ、紬希の憧れの人とか……仲良くしたくなかったし……」

「……は?」

「だ、だから……っ!私の紬希の憧れの人とか、仲良くしたくなかったの!紬希にあれだけ羨望の眼差しを向けられるマコさんが、羨ましかったの……!」

「…………え」


 今まで溜め込んでいたもの全てを爆発させるように、紬希に告げる私。私のその一言に、紬希はぽかん……と大変愛らしい顔になる。


「そ、それって……つまり、その……嫉妬……?マコ先生に……嫉妬してたのあや子ちゃん……?」

「…………なによぅ……悪い?自分の一番大事な人が私以外の誰かに頬を染めるところが嫌なのが、そんなに悪い?」

「わ、悪くはない……けど…………へ、へぇ……ふーん……そ、そっか……嫉妬かぁ……そっかぁ……♡」


 そんな情けない告白をした私に対し、紬希はと言うと驚いた顔から一転……なんとも言えない不思議な顔を経て、笑いを必死に堪える顔になってゆく。

 ……そんなに笑えるかしら?……まあ、笑えるわよね……とんだ道化よね私……


「笑いたきゃ思いっきり笑ってくれたっていいのよ紬希……いっそ笑い飛ばしてくれた方が気が楽よ……ああ、くそ……情けないったらありゃしないわ……」

「ち、違うよ……あや子ちゃん。バカにしているから笑ってるんじゃなくて……嬉しいから笑ってるの」


 と、ふて腐れてそっぽを向いた私を後ろから優しく抱きしめてくる紬希。


「もう……バカだねあや子ちゃんは。確かにマコ先生の事は憧れてるけど……憧れと好きはまた別次元の話だよ。前にちゃんと言ったでしょ。私の一番は、あや子ちゃんだって」

「紬希……」

「ふふふ……ごめんね、不安にさせちゃって。私嬉しいよ。出会って間も無いマコ先生に嫉妬しちゃうくらい、私の事が好きなんだねあや子ちゃんは。私を……取られたくなかったんだ?」

「…………うん」

「…………えへへ。あや子ちゃん、かわいい。心配しないで。私は誰のものにもならないよ。私は……あや子ちゃんのものだから」

「…………ぅ、うぅぅ……紬希……つむぎぃ……!」

「きゃっ♡も、もぅあや子ちゃんったら…………せめてベッドに連れてって。ね?」



 ◇ ◇ ◇



 ~Side:小絃~



 あの地獄の王様ゲームから一夜明け、たまたま都合が付いたあや子ロリコンマコ師匠シスコンイトコンの三人が一堂に会していた。


「――そういやさアヤヤ。すっごいどうでもいい話なんだけど……キミってロリコンなわけじゃん?」

「待ってくださいマコさん。そこのバカ小絃に何を吹き込まれたのか知りませんが、私は決してロリコンなどではありません。単に小さい子の愛らしさに心奪われ全力で守護り愛でたいと心から思う淑女なだけです」


 王様ゲームを経ていつの間にか仲良くなっていたマコ師匠とあや子がそんな事を話し出した。人はそれをロリコンと言うと思うんだがね。


「OKわかった。アヤヤは変態淑女って事ね」

「だから待ってくださいマコさん。変態って枕詞はいらないと思うんですが?」

「師匠、何も間違ってないので続けて良いですよ」

「了解コイコイ。んでさ。ちょっと気になったんだけど……アヤヤ私に最初に会った時に言ってたでしょ。私みたいな胸が大きい子は守備範囲外とかなんとか」

「あー……そういや師匠にそんな事言ってたねあや子。今考えると失礼を通り超して訴えられるレベルだったよね」

「あ、あれはちょっと色々余裕なくて苛立ってて……つい……改めてマコさん、すんませんでした……」

「ああいや、それは良いの。過ぎたことは気にしない気にしない。それよりもさアヤヤ。例えばなんだけど……私みたいなおっきい胸を持つちっちゃい体の本物の小学生がいたとして。そういう子には性的興奮はしないんだ?」

「…………え?それはするでしょ普通に」

「「(普通……?)」」


 何を当たり前の事を言っているんだ?といった顔でそんな事を言ってくるロリコン性犯罪者。お前が何を言っているんだ。


「ええっと……それはつまり、私の場合は歳が歳だからアヤヤの基準を満たしてないって事かしらん?」

「それもまた違います。マコさん。良い事を教えてあげましょう。ロリというものはですね……魂のあり方なんですよ。マコさんは確かにいい線をいっていましたが……非常に残念ながら魂がロリではありませんでした。その点うちの紬希は、体型は勿論の事……魂もロリなので……ハタチを過ぎた今でも立派にロリしてる永遠のロリ娘なんです。わかりますか?」

「う、ううん……ごめんアヤヤ、高度すぎて私にはわかんない。わかんないけど……なんか深い話だって事はわかった」

「師匠、師匠。そこは深いじゃなくての間違いでは?」


 とりあえずあや子。今の話は後で紬希さんに報告しておくから覚悟しておくように。


「やれやれだ……相変わらずあや子はどうしようもない上にしょうもない変態だよね。連れ添ってる紬希さんが不憫でならないよ」

「それをあんたが言うか変態王。年下従姉妹に踏まれたいとか跪いて足なめなめしたいって願望を隠しきれないあんたこそ、キングオブ変態でしょうが。あんたみたいな変態を何かの間違いで好きになっちゃった琴ちゃんが可哀想でたまらないわ」

「は?」

「あ?」


 毎度のこととは言えあや子の変態さにほとほと呆れる私に対し、そのあや子はと言うと自分の事を棚に上げてそんなワケもわからないことを言いだした。何言ってんだコイツ……


「あや子の方が変態でしょ!あんなによくできたお嫁さんがいながら、そのお嫁さんを惚れさせておいて他の幼女たちにも手を出す救いようのないにクズでアホな変態に変態って罵倒されたくはないんだけど!」

「それはこっちの台詞よ!あんな身近にあんたの事を大好きな年下従姉妹が、貴重なロリ属性を捨ててまであんたの事を慕ってくれてるのに……その気持ちに答えてやらないくせに、夜な夜な琴ちゃん似のA●女優を探しだしては『琴ちゃん、琴ちゃん……!』って自分を慰めてる最低最悪のカスに変態ってバカにされたくないわ!」


 いつものように互いの意見を拳に乗せて主張し合う私とあや子。こうなったら仕方ない、公平な立場の人にジャッジしてもらうしかあるまいて。


「マコ師匠!」

「マコさん!」

「「どっちが変態だと思いますか!?」」

「うーん、五十歩百歩でどっちも変態だと思うな私」

「「んなっ!?」」


 殴り合う私たちを前に、マコ師匠はそんな事を言い出した。なんてことを……!こいつと一緒にされるのは心外すぎる……!?誰が変態ですか誰が……!?


「って言うか……今更ですがそういう師匠こそ変態の中の変態なのでは?」

「そう言われてみれば……人畜無害な顔をして、血を分けた実の双子の妹にガチで手を出している時点で……マコさんがこの中で一番業が深いですよね」

「……にゃ、にゃにおう!?」


 あや子と一緒にそう指摘すると、今度は師匠の方が激昂して反論し出す。


「ちょ、ちょっと待ってくれ二人とも!確かに私はダメ姉で、実の妹の事が世界一好きだよ!?で、でもそれだけで変態扱いされるのは違うんじゃないかな!?私はせいぜい――ちょっと愛するコマの成長記録を残すために毎日コマの写真を撮ったり(※盗撮)大好きなコマの健康状態をチェックするためにトイレの音やシャワーの音を録音したり(※盗聴)服や下着の匂いを嗅いでついでに真空パックに保管している(※下着ドロ)くらいで――」

「「スリーアウトチェンジ」」


 まさかあや子以上に警察に厄介にならなきゃいけない人が身近にいるとは思わなかった。ちょうど良い機会だ。あや子を警察に突き出すついでに師匠もおまけでつけておこう。


「総評するとやっぱ私がこの中の誰よりも常識人だって証明されたね」

「まだ言うか。あんたら二人に比べたら私なんてノーマルもノーマルよ」

「いやいや、君ら二人に比べたら私なんて可愛いもんだよ」

「「「…………」」」

「私が!」

「私がっ!」

「私こそが!」

「「「常識人だ……!」」」

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