120話 小絃お姉ちゃんネットデビュー?

『——マコ姉さま、愛しています♡』

『マコ、好きよ。世界中の誰よりもね』

『マコせんぱーい!大好きですっ!』

『マコさん……共に高みを目指しましょう』


 今日も今日とてコマさんを筆頭に、イケメン女子にワンコ系後輩に和服美人さん……他にも色んな女性を侍らせているマコ師匠。


『——あや子ちゃん、お外でそんなに好き好き連呼しないでよ恥ずかしいじゃない。…………私も、大好きだよ』

『『『あや子せんせー!だーいすき!』』』


 紬希さんに呆れられながらも好意を向けられて。ロリコンの魔の手によって洗脳教育を施された教え子さん(※全員幼女)に慕われるあや子。


「……うーむ。不思議だ」

「どしたのコイコイ?私とアヤヤの顔に何か付いてるの?」

「小絃。あんた人の顔をジロジロ見ながら何をブツブツ言ってんのよ。相変わらず失礼な奴ね」


 そんなあや子たちの有様を観察していたところで当の二人からそう尋ねられる私。


「いや、二人を見てたらちょっと不思議だなって思って」

「不思議って何の事かなコイコイ?」

「どうせ碌でもない事でしょうけど聞いてやってもいいわよ。一体何が不思議なのよ小絃」

「どうしてこんな奇人変人狂人な三拍子揃った変態二人がモテモテなんだろうなーってそれはもう不思議で不思議で」

「待ちたまえ我が弟子。誰が三拍子揃った変態だと?」

「小絃、喧嘩売っているものと見なすわ。表出なさい」


 当然の疑問を口にする私に、師匠はおののき青筋を立てたあや子は私の胸ぐらを掴んでくる。だって……実際意味わかんないし。


「まあ、料理上手でお人好しでその上人外レベルの爆乳のマコ師匠はまだモテる要素がわかりやすいから良いんですけどね。よくできたお嫁さんがいるのにそのお嫁さんだけに飽き足らず手当たり次第ちっちゃい女の子にお手つきする浮気者兼犯罪者なあや子がモテるのは世の中間違ってると思うんだよね」

「料理上手とお人好しはともかく……人外レベルの爆乳ってなんじゃい……だ、だから気にしてるんだぞこれでも……」

「誰が犯罪者よ、誰が浮気者よ。私はただただ純粋にロリっ子たちを愛でているだけだし、真に愛を注いでいるのは紬希ただ一人よ」


 なんか師匠とあや子がごちゃごちゃ言っているけど、本当に不思議だ。この二人、相当に度しがたい性癖を持っている人類筆頭の変態だというのに、何故か自分の思い人たちから……いやそれどころか周囲の美女美少女からもよくモテるのである。料理の先生として活躍してるマコ師匠はまだ良いんだけど……何故あや子みたいな異常性癖女がモテるんだ……?

 もしや私がちょっと眠りこけていたこの10年で世の中の価値観が変わり、変態であれば変態であるほどモテるような世界になってしまったというのだろうか?だとしたら世も末だわ……


「つーかバカ小絃。私から言わせて貰えばあんたみたいなおバカがモテてる事実が理解出来ないんだけど?」

「あー……確かに。アヤヤの言うとおり、何だかんだでコイコイも人のこと言えないよね」


 と、あや子たちの謎のモテ具合を疑問視する私に対し二人は反撃と言わんばかりにそんな事を言ってくる。


「ぐ……そ、それって琴ちゃんの事だよね?それに関しては惚れられてる私の方が、なんでこんなダメお姉ちゃんを好きになっちゃったの?って琴ちゃんに問いただしたいところだけど……で、でもそれは琴ちゃんが例外なだけで、私は二人と違って無差別に周囲の女の子たちを惚れさせるようなプレイガールじゃないし……」

「「…………は?」」

「へ?」


 慌てて自分は二人と違うと否定してみるも、何故かあや子たちはジト目になって私を睨む。え?なにこの反応……?


「……え?何?もしかしてコイコイって自覚ないの?」

「そうなんですよマコさん。人にあんな事言っておいて……コイツも中々にアレな奴でして」

「そうなんだ……結構隅に置けないんだねコイコイって。あー、こりゃコトたんも苦労するだろうねぇ」

「???あの……二人ともさっきから何の話してんの……?」

「鈍いって罪だよねって話かな」

「鈍感が許されるのは美少女だけよ小絃」

「いや、だから何の話……?」



 ◇ ◇ ◇



「——音瀬さん、今日も素敵な箏の演奏をありがとうございました……!」

「「「ありがとうございました!」」」

「んーん。こちらこそ部外者なのにお邪魔しちゃってごめんね」


 演奏、そして指導を終えたところで現役女子高校生たちに一斉にお礼を言われる。若い彼女たちのエネルギーにちょっとタジタジになりながらも、今日の箏の指導も無事に終えることができたことに私は心底ホッとしていた。


『貴女の奏でる音に惚れました……!外部指導者として、是非とも私たち箏曲部に指導をお願いします音瀬さん……!』


 以前琴ちゃんのお父様の紹介で学校見学に行った際、その学校の箏曲部の生徒さんたちに箏の腕を買われた私。そんなわけで転入はしない代わりに週に一回のペースで学校にお邪魔して、こうして生徒さんたちと一緒に箏を弾かせて貰っているのである。

 正直人に教えるほど箏は上手くないし、指導力もないから足を引っ張っている感は否めないんだけど。それでも彼女たちは喜んで私の指導を受けてくれている。私としても良い気分転換になるし、身体と箏の腕のリハビリに繋がるからお誘いしてくれるのはめっちゃありがたいんだよね。


『…………ふーん。お姉ちゃん、またあの子たちに箏の指導しちゃうんだ。へー……手取り足取り教えてあげちゃうの?……ほー……そうなんだ……私以外の女の子と、息を合わせて演奏しちゃうんだ……ふうううううん……?(ボソッ)これは、近いうちにお姉ちゃんが誰のものなのか、あの子たちにハッキリ分からせとく必要がありそうだね……』


 ……まあ、何故か琴ちゃんは不服そうだったけど。今日も箏の指導に行ってくるって言ってみたら……冷ややかな目で私を見つめてきてとてもゾクゾクしたわ……

 多分琴ちゃん的にはまだまだ身体が本調子じゃないのにふらふら外出したがる私を良く思っていないんだろう。やれやれ、私は随分動けるようになったのに相変わらず心配性だよね琴ちゃんは。


「音瀬さん、お身体の具合はどうですか?」

「お願いしている私たちが言うのもなんですが、あまり無理はなさらないでくださいね」

「まだ移動には車椅子を使わざるを得ないのですよね。お辛い時はすぐに仰ってくださいませ」

「大丈夫大丈夫。寧ろ凄く良いリハビリになってるよ、いつも誘ってくれてありがとうね」


 なんてことを考えながら指導を終えてのんびり箏を片付けていると、女の子たちは一斉に集まって声をかけてくれる。流石は名門女子校の生徒さんたちだ。教育が行き届いているんだろうなぁ。気遣い上手で感心するわ。


「音瀬さん、これお飲み物です。良かったらどうぞ」

「タオル持ってきましたのでお使いください。もし音瀬さんお望みでしたら私がお汗を拭いて差し上げますわ」

「お疲れでしょう?音瀬さんさえ宜しければ私肩をお揉みいたしますよ」

「あ、いやホント……そんなお構いなく……」


 ……ちょっと気を遣いすぎてる気がしなくもないけど。私はオタサーの姫かなにかか?


「ところで音瀬さん。音瀬さんはこんなに箏がお上手ですし……やはり将来はプロになられるのですか?」

「へ?プロ?」

「いえ、とてもわかりやすいですしきっと箏の先生になられるのですよね?」

「あ、いや……」

「大舞台で音瀬さんが箏をお弾きになる姿……容易に想像出来ますわね。音瀬さんの一人のファンとして応援いたしますわ。是非ともお弾きになる時は教えてくださいませ」

「う、うーん……」


 私を取り囲み私のお世話をしながら、楽しそうに私の将来のビジョンを語り合う女の子たち。彼女たちに言われてちょっと真面目に考えてみる。箏関係のお仕事か……


「いやぁ……盛り上がっているところ悪いんだけど、残念ながら私如きの箏の腕じゃプロにも指導者にもなれそうにないからね」


 以前進路について悩んでいた時に候補には挙がったけど……まだまだブランクがある今の私では箏一本でご飯が食べられるとは自分でも思っていない。仮に昔のように箏を弾けるようになったとしても、プロになってコンサートに出たり箏の講師になってお弟子さんを取ったりする立場になれるとはとてもとても……


「そうなのですか?それは勿体ないですね……音瀬さんなら絶対箏で大成できると思いますのに」

「「「私たちもそう思います!」」」

「あはは、ありがとう皆。私も唯一と言っても良い特技の箏で楽しくお仕事できたらなーとは思っているんだけどねー」


 琴ちゃんが私を養いたいと思うように、私だって琴ちゃんを養って尊敬できる立派なお姉ちゃんだって分からせたいと思っている。と言っても全快したわけじゃないこの身体でお仕事するのは厳しいだろうし、何よりも琴ちゃんが仕事するのを許してくれなさそうだ。

 そういう意味でも比較的負担がかからない箏という趣味が転じて仕事にできれば最高なんだけど……


「何かないかなぁ、私程度の箏の腕でもお金稼ぎができる方法とかさ」

「あ……でしたら音瀬さん。良い方法がありますよ」

「へ?良い方法?」


 と、そう冗談交じりに呟いた私に。一人の女子生徒がこんな事を言い出した。


「音瀬さんの箏の演奏をネットで世界中に配信するのは如何でしょうか?」

「…………ネット?配信?」

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