115話 師匠と悪友の邂逅
「——ところでさ小絃。あんたにちょっと聞いておきたい事があるんだけど」
「あん?聞きたい事だぁ?急になんなのさあや子」
いつものようになんのアポもなく、そしていつものようになんの用事もなく。勝手気ままに私と琴ちゃんのお家に上がり込んできた悪友あや子。勝手知ったる他人の家と言わんばかりに好き勝手物色し、了承も得ないまま人のベッドの上でお菓子を開けてポリポリ食べつつ唐突にそんな事を言い始めた。
おぅ、とりあえず人のベッドの上で菓子食うのやめろ。食べカス落とすなぶちのめすぞ。
『わぁ……紬希ちゃん凄い。また一段とお料理上手になったよね』
『えへへ……そ、そうかな?教え方が上手な良い先生に教えて貰っているからね。好きな人の為に上達するのって楽しいし嬉しいよね琴ちゃん♪』
『わかる、その気持ち凄くわかるよ紬希ちゃん。ふふふ、これは私も負けていられないなぁ。いっそ私も紬希ちゃんやお姉ちゃんと一緒に料理教室に通おうかな』
あ、ちなみに琴ちゃんはあや子に付いて遊びに来てくれた紬希さんと一緒にキッチンで二人仲良くお料理中。美女&美少女コンビがキャッキャウフフと仲良くしてるのって実に良いよね……目の保養になるもの。こういう女の子女の子している可愛い二人の爪の垢を、目の前のこの女らしさの欠片もないぐーたらアホにも煎じて飲ませてやりたい。そうすれば少しはコイツもお淑やかに――
……いやそれはダメだ、前言撤回しよう。コイツの場合ホントに紬希さんの爪の垢を喜んで煎じて飲みそうで気持ち悪くて嫌だわ……
「…………ねえ小絃。あんた今なんかもの凄く失礼な事を考えていないかしら?」
「いーや別に何も」
「……まあいいか。とにかくなんでもいいから聞かせなさい小絃。あんたさ……今でも紬希と一緒に例の料理教室に通っているのよね」
「ん?ああ、うん。そうだよ。都合がつく時は二人で一緒に行ってその料理教室で料理してるけど……それが何?」
「その料理教室って……なんか有名人が料理の先生をしてるって話だったわよね」
「有名人……?ああ、もしかしなくてもマコ師匠のこと?」
一瞬誰のことかと考えたけど、料理の先生ってことは十中八九マコ師匠のことだろう。良い意味で庶民的で壁がなくて誰にでも気安く接してくれるから忘れてたけど、そういやマコ師匠って色んな料理番組にもよく出てるし、ロングセラー化している料理本もバンバン出しているし。あと色んな意味で有名だから有名人には変わりないか。
「んで?そのマコ師匠がどうかしたの?」
「……その人さ、どんな人?」
「どんな人って……え?もしかしてあや子、師匠の事知らないの?」
自分で有名人と言っておきながら、まるでマコ師匠のことを知らないような口ぶりのあや子に違和感を覚える私。テレビにもちょいちょい出てくるくらいだし、恐らくマコ師匠の大ファンである紬希さんから師匠の話は嫌ってほど聞いてそうだし。
何よりも他でもないロリコンの権化みたいなこの変態女が、あのマコ師匠のことを知らないハズはなさそうなんだけど……
「……直接は会ったことないから詳しいことは知らないのよ」
「いや、それにしたってテレビとかで見たことないの?つーか私から聞くよりも、紬希さんから話を聞いた方が早くない?紬希さんって私以上にマコ師匠のこと尊敬してるっぽいじゃない」
「…………(ボソッ)だって、紬希の口から他の女の話をされるのムカつくし……」
「は?」
「…………なんでもない。それよか小絃。さっさと教えなさいよね。その人って結局どんな人なのよ?」
うーん……どんな人って言われてもなぁ。
「んーと……そうだね。生粋のシスコンで変態で変人で言動と見た目が大分特徴的な無自覚女誑しの権化みたいな人で——」
「待ちなさい小絃、あんたの説明だとますますどんな人なのかわからなくなるんだけど……?」
私が語るマコ師匠の人物像に困惑している様子のあや子。仕方ないじゃないか。マコ師匠を語る上で、今の説明はなんにおいても欠かせない超重要要素なわけだし。
「まあ、要するに一言で師匠を言い表すならちょっと変わった人って話だよ」
「なるほどね。変わった人筆頭の小絃がそこまで言うって事は……相当に変わり者って事なのね」
「それはどう言う意味だコラ……!?まるで私まで変人だとでも言いたいのか貴様……!?」
「あんた自覚なかったの……!?どう考えても世界トップクラスの変人でしょうが……!?」
心外!そりゃ10年間寝たきりで今の世の中の常識には未だについて行けてない自覚はあるけれど……それを差し引いたら私だってロリコン性犯罪者のあや子とは違って比較的常識人寄りの真人間のハズだというのに……!
「ま、まあ良いわ。とりあえずその人の大体の人物像は分かったし。そんな変人に教わるなんて紬希がちょっと心配ね。……料理教室の時の紬希はどんな感じ?変な事教わったりしていないかしら?大丈夫なの?まさかその先生に口説かれたりおかしな事をされたりしてないでしょうね」
「いいや?紬希さんに危害を加えるとかそういう事は一切ないよ。確かに奇人変人ではあるけれど、マコ師匠が変になるのは基本的にコマさんが関わった時だけだし」
「あや子が何を心配してるのか知らんけど、取り越し苦労も良いところだよ。度しがたいシスコンってとこさえ目を瞑ればそれ以外はマジで良い先生だもん」
「む……」
「料理に対しては常に真剣で、指導中の師匠はちょっぴりスパルタだけどその分メキメキ上達する実感沸いてくるし。ああ、あとやっぱ何だかんだで(琴ちゃんには負けるけど)師匠って小動物みたいで可愛いからね。そんな子が親身になって教えてくれるならそらマコ師匠目当てで料理教室に通い詰める人がいても不思議じゃないよね」
「むむ……」
「不器用そうに見えて教え方も上手いし、褒めるところはしっかり褒めてくれるからやりがいがあるんだよね。皆から好かれるタイプの良い先生だよ。世間の評価に見合う実績もしっかりあるし……そりゃあの紬希さんが師匠に憧れて大ファンになるのもわかるってものだよねー」
「むむむむむ……」
「……って、さっきから何むーむー唸ってんのさあや子は?」
どうやらマコ師匠の事を危険人物だと勘違いしているっぽいあや子のために、あらぬ誤解を解いてやる私だったんだけど。何故かあや子のアホは私が師匠を褒める度、より一層難しい顔になりながら唸り始める。
いつも以上に気持ち悪いんだけど何?なんなのこいつは?
「…………べっつに。何でもないわよ」
「嘘つけ。何でもないって顔してねーだろ。もしかしなくても怒ってない?一体なにに怒ってんのさ」
「うっさいわね……何でもないって言ってるでしょ」
そう言いつつ頬をぷくーっと膨らませ苛立ちを抑えられないでいるあや子。やめるんだあや子……そういう拗ね方は琴ちゃんや紬希さんのような生粋の愛らしいキャラがやるからこそ価値があるもので、お前のようなロリコン変態女には絶望的に似合わない。
「それよりも小絃。一つ頼みがあるんだけど」
「頼み?私に?」
そうやって何故かイライラしながらも。あや子のアホはそうして私にこう言ってきた。
「あや子が私に頼み事とか珍しいじゃないの。で?用件はなに?」
「その……さ。あんたの師匠の立花マコって人。良かったら私にも会わせてくれないかしら」
「……マコ師匠に?」
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