110話 小絃お姉ちゃん、悪酔いする
~Side:琴~
私の従姉妹の小絃お姉ちゃん。彼女は本当に綺麗でかっこよくて、そして……可愛らしい。
『いやぁ実はね。ついこの間たまたま、そうたまたまコマさんと会ったんだけどさ。その時に『良かったら琴さまに』って色んなお酒を頂いたんだ』
『頑張ってお酒に合う料理を作ってみたんだ。初めて作った料理も多いから、琴ちゃんのお口に合うかわかんないんだけど……どうかな?』
『(ボソッ)それに、どっちかというと今回のメインは料理じゃなくてお酒の方だし……』
『……あっ!ち、違うんだよ!?グラスが空いたからおかわりを飲んでもらおうかなって思っただけで、決して琴ちゃんに無理矢理飲ませようとしているわけじゃなくて……!』
『…………って、感傷に浸っている場合じゃなかったわ。今日の目的は琴ちゃんと楽しくご飯食べるだけじゃないのに……』
私がお家に帰ってくるなり、手作りのお料理と大量のお酒で出迎えてくれたお姉ちゃん。恐らくコマ師匠の入れ知恵なのだろう。あの言動から察するに……私を酔わせ私を甘えさせようとしているらしい。
ただ……本人的にはその作戦は隠し通せているみたいだけれど。素直すぎて昔から嘘があんまり得意じゃないお姉ちゃんは……顔にも口にもその企みがハッキリ出ちゃっているワケで。
「(そういうところ……ホントに愛おしいなぁ♡)」
わざわざそんな回りくどい方法で私に甘えさせようとしているいじらしいところも、嘘が下手っぴでちょっぴり不器用なところも、酔わせるためだけにわざわざ気合いを入れてお酒に合う美味しい料理を作る生真面目なところも……その何もかもが愛おしい。
そんな風に感じながらも、一方で私はこうも考えていた。
「(……そういう事なら、私も乗っからせて貰おうかな)」
折角なのでこの状況を利用させて貰うとしよう。甘えて貰いたい気持ちは私も一緒。だから……以前よりお姉ちゃんの料理のお師匠さんであるマコさんからアドバイスを頂いていた例の作戦……『甘えるフリをして甘えさせる』作戦を実行に移させて貰った。
この作戦は見事に上手くいった。私が酔い潰れたと思い込んでいるお姉ちゃんは、あーん、したり。膝枕したり。……おトイレに連れて行ったりと。いつもと違って(お姉ちゃんにしては)積極的にあの手この手で私を甘えさせようとしてきた。
そしてそんなお姉ちゃんに私も酔ったフリをして十分に甘えながらも。そのまんま返しとしてお姉ちゃんを思いっきり甘えさせた。『あれ?何かおかしいな……?』と感じつつも私の口車に乗せられて甘えてくれるお姉ちゃんは本当に可愛らしくて、それはもう至福の時を過ごさせて貰った。
…………そう、この作戦は見事に上手くいっていたんだ。途中までは。
◇ ◇ ◇
「…………(ぐいっ!)」
「あっ……!?こ、小絃お姉ちゃんソレは……!」
今度はどんな風にお姉ちゃんに甘えて貰おうか、そうわくわく考えていた矢先の事だった。お姉ちゃんが私の飲みかけに誤って手を出してしまったのは。
「こ、小絃お姉ちゃんソレは……私の飲みかけのワインじゃ……!?だ、大丈夫!?き、気分悪くなってない!?気持ち悪いなら急いでトイレに……いや救急車を——」
お姉ちゃんが口にしてしまったのはそこそこ高いアルコール度数のワイン。実年齢は私よりも上とはいえ……以前ほんの一口ビールを飲んでしまっただけで相当に酔ったお姉ちゃんだ。お酒に弱い上、肉体年齢や今のお姉ちゃんの身体の状態などを考慮すると……下手に飲むとどんな悪影響があるか……
慌ててお姉ちゃんに駆け寄って、残ったワインを引ったくり。そしてお姉ちゃんの顔色をうかがう私。けど……何もかも遅かった。
「…………ヒック」
「え……?あ、あの……お、お姉ちゃん……?」
目は据わりフラフラと身体は揺れ、頬はいろっぽく上気し口元からはほのかなアルコールの匂いとしゃっくりが漏れていた。ものの見事に酔っていた。
「……(じー)」
「お姉ちゃん……だ、大丈夫……?」
「……えへへー……こーとちゃーん♪」
「はぅぁ!?」
完全に泥酔状態のお姉ちゃんは、私の顔を見るなり思い切り抱きついてくる。遠慮も恥じらいもないお姉ちゃんからの積極的なハグは貴重で、凄く……すごくいい……
「……って、違う。ハグを堪能してる場合じゃない……お、お姉ちゃん本当に大丈夫?そんなに酔っちゃうなんて……」
「酔う?……あははー。なーに言ってるの琴ひゃんは。私はまーだお酒なんて飲めないのに、酔うわけないでしょー?」
「(酔ってる……)」
ああ、なんかこれ凄いデジャヴ……以前うっかりお酒を口にした時と同じように呂律が回らず陽気になり、そのくせ自身が酔っていることは一切認めないお姉ちゃん。
「んもー、琴ちゃんったら急に変なこと言いだしてー。これはきっとお仕事で頑張りすぎて疲れている証拠だろうねー」
「い、いや……違……」
「ほら、そんな琴ちゃんにはおねーちゃんが良い子良い子したげるからねー」
そんなお姉ちゃんは私をハグしながら、『良い子良い子』と私の頭を撫で始める。
「琴ちゃんはえらいねー」
「う、うぅ……」
優しい手付きでポンポンと頭を撫で上げられ、
「いっつも私の為に頑張ってくれて嬉しいなぁ」
「はぅ……」
丁寧に何度も何度も手櫛で自慢の髪を梳かれ、
「本当に、琴ちゃんは良い子。良い子だねー」
「ひゃぁあああ……!」
耳元で甘い吐息と優しい言葉を何度も何度もかけられて。
『コイトおねーちゃん!琴ね、琴ね!テストで100点取ったんだよ!』
『おぉー!琴ちゃんすごーい!よく頑張ったね!よーしよしよし、琴ちゃんはいいこだねー』
その度に思い出す、幼かった頃の記憶と感触。お姉ちゃんにただただ甘えてばかりだったあの頃の自分を呼び起こされる。
「(だめ……このままじゃ……ホントに、だめになる……)」
自分の中で危険信号が点滅している。思考が蕩けておかしくなりかけてる。何がダメになるのか自分でもよくわからないけれど。このまま続けたら間違いなく良くない事になりそう。
とにかくまずはお姉ちゃんの酔いをなんとかしないと。いきなりこんな高い度数のワインを飲んだわけだし急性アルコール中毒になる可能性だって大いにあり得る。お水を飲ませて休ませて血中のアルコール濃度を下げて——
「あーっ!」
「ッ!?な、何!?どうしたのお姉ちゃん!?」
「琴ひゃん、服汚れてるじゃないのぉ!」
「え?」
突然叫びだした小絃お姉ちゃん。一体何だろうとお姉ちゃんが指差した先をつられて見てみると、いつの間にか自分の着ていた服が汚れてしまっていた。どうやら先ほどこれ以上飲ませまいとお姉ちゃんからグラスを引ったくった時に溢してしまったワインの跡らしい。
「んもー、琴ちゃんはおっちょこちょいねー。大きくなってもお飲み物溢しちゃうなんてぇ。やっぱり私がいないとダメなんだからぁ」
「いや、あの……これはお姉ちゃんが……」
「このままじゃ染みになっちゃうね。よーし、お姉ちゃんが琴ちゃん脱がせてあげるねー!」
「え、ちょ……お姉ちゃ……!?」
「はーい、脱ぎ脱ぎしましょーねー♪」
止める間も無くお姉ちゃんは私の服を脱がせにかかる。普段のお姉ちゃんは簡単に私に組み伏せられるハズなのに、酔ってリミッターが外れているのだろうか?抵抗虚しくお姉ちゃんは見事に私から服を剥ぎ取り、そのまま洗濯機に投げ込んだ。
「あー……あつい。せっかくだから私も脱いじゃおーっと」
「ッッッ!!!」
おまけにアルコールのせいで火照っているらしく、お姉ちゃんまで脱ぎ出す始末。
「ん、しょ……んー?あれー?脱げないなぁ……?」
「…………(ゴクリ)」
酔いが回っているせいか上手くボタンを外せないでいるお姉ちゃん。それがなんだか見ていてもどかしくて、焦らされているような気分になってしまって……
「ふぃー!やっと脱げた。さーてと。ごめんねぇ、お待たせ琴ちゃん。ナデナデの続きしたげるねー」
やっとの思いでシャツを脱ぎ、下着姿でおいでおいでと私を手招きするお姉ちゃん。いつもお風呂を一緒に入っている私たちだし。お姉ちゃんの下着姿なんて今更見慣れたもののハズ。だと言うのに……
「(なに、この……いつも以上の色気……)」
そう思ってしまうくらい、この時のお姉ちゃんはホントに色っぽくて。以前も確かそうだった。酔っていたお姉ちゃんは普段よりも色気が妙に増していた。……ううん。以前よりも更に……
いつもは恥ずかしそうに隠そうとするけれど、今日のお姉ちゃんは酔っているせいか『隠す』という意識が全くない。下着姿とはいえ堂々と私にその身を晒してくれる。その柔らかくしっとりした肌も、私を守るために付けた全身の美しい傷一つ一つも、『大きくしたい』とのご希望だったその胸も……
「ほーら、なにを遠慮してまちゅかー?はい、ぎゅーっ!」
「んむ……!?」
呆然とお姉ちゃんの艶めかしい肢体を眺める私に痺れを切らしたのか。お姉ちゃんは私を引っ張り胸に埋める。コンプレックスを解消させてあげるために、責任持って私が丹念に育てあげた豊満な胸。形良く美しい輪郭のその胸が……視界いっぱいに……
「よーしよし。琴ちゃんはいいこ、いいこー♪」
「ん、むぅ……んんんぅ……ッ!」
私を胸に抱いたまま、変わらず良い子良い子を続けるお姉ちゃん。一方私はそれどころではなくなっていた。
「(すごい、良い匂い……!あったかいし、やわらかいし…………で、でも……息が……ッ!)」
質量たっぷりのお胸に密着されて。顔面が完全に塞がれて。息が続かないでいる私。酸欠一歩手前だ。
どうにか必死に呼吸を確保しようとするけれど、胸いっぱいにお姉ちゃん特有の甘く素敵な香りが鼻と肺いっぱいに広がって……余計に頭がクラクラしちゃって……
「(あ、でも……お姉ちゃんに天国に連れて行って貰えるなら……こんな幸せな逝き方なら……あり、かも……)」
なんて考えが頭をよぎるも、お姉ちゃんが正気に戻った後の事を考えると……おちおちと昇天させられるわけにもいかない。どうにか身をよじり『お姉ちゃん、息出来ないよ』と訴えようと試みる…………が。その私の声は胸の中に吸収され、ただただお姉ちゃんの胸を振動させるだけだった。
「ぁん……♪こーら。琴ちゃんくすぐったいよ。お胸の中でもごもごしないの。もー、琴ちゃんは赤ちゃんになったんでちゅかぁ?お姉ちゃんのおっぱいは、お乳はまだ出ないのに仕方ないなぁ」
けれどどうにか異変は伝わったらしい。胸の中で暴れる私に身じろぎして、一旦私を幸せ天国ハグから解放してくれるお姉ちゃん。た、助かった——
「ちょーっと待っててね琴ちゃん。んー……おぉ、良いものはっけーん」
「え……お、お姉ちゃん……?」
と、思ったのもつかの間。お姉ちゃんは一体何を思ったのか、近くに置いていたお酒を手にし。そのままトクトクトクと、自分の身体に……より正確に言うと自分の胸にお酒をかける。そして……
「これで、よし。それじゃ琴ちゃん、どーぞ召し上がれ♪」
「は、ひ……?」
そして再びその豊満な胸を、私の口元に突き出した。……え、と?これは……?
「あ、の……お姉ちゃん……?」
「ほら、これでお乳飲めまちゅよー♪小絃ママのおっぱいでちゅよー♪」
「…………」
……どうやら。胸に溢れたお酒を、母乳代わりに飲め……とお姉ちゃんは言っているらしい。思わずゴクリと生唾飲んでしまうほどに、それは甘美なお誘いだった。
本人はそのつもりは一切ないと思うけど、お酒に酔いいつも以上に色気を纏ったお姉ちゃんは蠱惑的で。
『今のお姉ちゃんは正常な判断が出来ていないのよ』
『貴女はお姉ちゃんよりも大人になったハズでしょ』
『母性に負けて本能のままにおっぱい吸うとか恥ずかしくないの』
私の中のなけなしの理性と自尊心が総動員で私を止めようとする。だ、だめ……私……は、お姉ちゃんの理想の、大人の女性に……ならないと……いけないの。こんなところで、醜態を晒すわけには……
「むー……琴ちゃん、ママの言うこと聞かないなんていけない子。ほーら、琴ちゃん——来なさい」
「ひゃ……ひゃい……」
そんな私のわずかばかりの抵抗を嘲笑うように。お姉ちゃんの『来なさい』の一言で簡単に私は陥落させられた。
ふらふらと光に誘われる虫のようにお姉ちゃんに近づいて、たっぷりとお酒が染みこんだブラを……お姉ちゃんのたわわに実った乳房ごと私は——
「ままぁ、コイトママぁ……!」
「ん、ぁ……♡いい、いいよ琴ちゃん……いっぱい甘えていいの。ママのおっぱいおいしい?そう……だったら……たくさんちゅーちゅーちまちょうねー♪」
◇ ◇ ◇
翌日。酔いが覚めたお姉ちゃんは、前回酔った時と同様に何も覚えていなかった。
「…………全然覚えていないけど。もの凄くヤバいことしたような気がする……」
「確かにヤバかった。あの母性は……麻薬と一緒。過剰に摂取しちゃうと禁断症状が出ちゃう恐れもあるね」
「なんの話かわかんないけど、とりあえずごめんなさい琴ちゃん……」
前回、そして今回でようやくわかった。お姉ちゃんがお酒に酔うと……どうやら『お姉ちゃんが酔う直前に考えていたことを優先し、欲望に素直になって大胆になってしまう』らしい。今回で言うなら『琴ちゃんを甘やかしたい』という望みが、ああいう形で表に出ちゃうんだろうね。
普段は羞恥心とか自尊心、あとは私を大切にしなきゃいけないという『姉』としての理性で懸命に抑えつけているその欲望が解き放たれたら……まさかあんなに積極的になるなんて……
「…………(ボソッ)ああいう一面をもったお姉ちゃんも素敵だったし、久しぶりに思い切り甘えられたのは良かったけど……でも、私が目指すべきお姉ちゃん好みの理想の大人の女性とはちょっと方向性違うんだよね……」
「……?何か言った琴ちゃん」
「んーん。何も。ただ……お願いお姉ちゃん。今後はお酒を自分の判断で飲んじゃダメだからね。私以外の人の前でお酒飲むなんて絶対ダメ。わかった?」
「う、うん……それはわかってる。ちゃんと反省するけど……でも、その理屈だと琴ちゃんの前でならお酒を飲んで良いの?」
「…………と、時々なら。……私と二人っきりの時だけなら……良いよ……小絃ママ……♡」
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