番外編 ダメ姉妹は、人生相談される(後編)
~一方その頃琴ちゃん&マコ師匠~
~Side:琴~
「あのね、マコさん。私……姉という存在が、何を考えているのかが知りたいんです」
折角の貴重なお休みの日。本来であれば一分一秒無駄にする事なく、大好きな小絃お姉ちゃんといちゃいちゃラブラブしているところなんだけど……
「——ふむふむ。つまりアレか。コトたんの話をまとめるとだ。コトたんの大好きお姉ちゃんであるコイコイが、全然自分に甘えてくれなくて。『姉』という存在が一体何を考えているのか、どうやったら素直に甘えてくれるのかを知りたい……って事でいいかな?」
今日は自ら小絃お姉ちゃんの元から離れるという暴挙を涙を呑んで犯し、恐らく私の悩みを一番理解してくれるであろう……お姉ちゃんの料理のお師匠さんである立花マコさんをお姉ちゃんにナイショで呼び出していた。
「その通りです。コマ先生曰く『史上最高の姉』であるマコさんなら、きっと小絃お姉ちゃんの気持ちを理解してくれると思いまして」
「ほ、ほほぅ……?『史上最高の姉』ねぇ……コマったらそんな事まで言ってたんだ。いやぁ……いくら身内びいきの評価とは言え、そんなホントの事言われると照れちゃうなぁハッハッハ!」
「それで……どうでしょうかマコさん?教えて貰っても良いですか?」
「うんうん、そういう話なら是非とも任せて欲しい。なんたって私は『史上最高の姉』なわけだし!」
最初はあまりに抽象的な悩み相談だったせいで怪訝な顔をしていたマコさんだったけど。呼び出した事情と経緯を話してみるとなるほどといった顔に変わった。
マコさんと小絃お姉ちゃんはよく似ている。二人とも『姉』という立場なのは勿論の事、性格や存在感、根っこの思考まで……正直ちょっぴり嫉妬しちゃうくらい似ていると思う。だからきっとマコさんならお姉ちゃんが何を考えているのかわかってくれるハズ。藁にもすがる気持ちで悩みごと相談をお願いすると、マコさんはこの通り快く引き受けてくれる。
「さて。それじゃあコイコイが……と言うか『姉』が何を考えているかって話だったけど」
「はい」
「結論から先に言おう。いいかねコトたん、これは世界の真実なんだがね」
「……はい」
「姉という生き物はね——めんどくさいんだよ」
なるほどめんどくさい。……めんどくさい?
「姉という存在はね、基本無駄にプライドが高いのよ。その上妹に甘えられたい、妹に頼られたいという欲求が魂に刻まれているの(※シスコンの感想です)。だから……妹に甘えて貰えるように変に見栄を張ったり、尊敬されたいが為に妹の前だけ良いところを見せようとしたりする傾向があるんだよ。コトたんも覚えがあるでしょう?」
「あー……」
心当たりしかない。まさしく小絃お姉ちゃんの行動そのものだ。
「特に何でも出来る妹を持った姉ってのがとにかく厄介でね。私もコマみたいな完璧超人を妹に持つからよくわかるんだけど……とにかく優秀な妹分と釣り合えるようにって毎日無駄に必死なんだよ。大好きで大切な妹と肩を並べられる存在になりたい、もっと頼りがいのある姉になりたいって気持ちが常にあるんだよね。だから甘えるなんてもってのほかなんだ」
「……私、釣り合うとかそういうの全然気にしてないのに」
「しゃーないの。こればっかりは『姉』という存在のエゴなのさ」
妙に説得力があるマコさんの『姉』持論。なるほど、そういう事をお姉ちゃんは考えていたのかと理解する反面。納得は出来ないでいる私。
「コイコイも例外じゃないと思うよ。そりゃ色々あって今はコトたんの方が大人になってコイコイのお姉さんっぽくなっちゃったけど。それでもやっぱり『姉』としては妹分のお世話になるなんて言語道断。甘えられるならまだしも、甘えさせられるのは抵抗があるんじゃないかな?」
「……ですがマコさん。お姉ちゃんは……」
「ああ、そだよねー。そうは言ってもコトたんはコイコイに甘えて欲しいよね。なんたって……コイコイったら生活が困難なレベルの痛みとか辛さをコトたんにも隠しちゃってるわけだし」
「え……?」
さらりとマコさんの口から出たその言葉に、私は完全に虚を突かれる。マコさん……今なんと……?
「……あの、マコさん。もしかして小絃お姉ちゃんから聞いていたんですか?」
「聞いていたってコイコイのやせ我慢の事?うんにゃ、本人の口からは一言だって聞いてないよ。でもまあ、似たもの同士だからわかっちゃうんだよね。コイコイが無理してるって事も。コトたんに心配されたくないからそれを隠してるって事も」
「……マコさんすごい」
これには流石の私も正直かなり驚いた。お姉ちゃんの幼なじみのあや子さんですら気づいていなかった小絃お姉ちゃんの身体の状態を、出会ってほんの少しのマコさんが気づいているなんて……
でもありがたい。そういう事なら話は早いね。
「マコさんのお察しの通りです。小絃お姉ちゃんはいつも無理をしています。あの事故の後遺症は未だに色濃く残っていて、呼吸するだけでも相当に辛いハズなんです。だからこそ……私はお姉ちゃんに無理させたくない。お姉ちゃんは嫌がりますが、あの事故の贖罪をしたい。……お姉ちゃんを養いたいし、身のまわりのお世話をさせて欲しいし、お姉ちゃんが望む全てをやってあげたいんです」
「ふむふむなるほどねー。だからコトたんは事あるごとにコイコイを堕落させようとしていたんだね」
「…………そうですね」
……まあ私の場合勿論それも理由の一つではあるけれど。『お姉ちゃんを私に依存させてお姉ちゃんを私だけのお姉ちゃんにしたいから』ってのがお姉ちゃんを堕落させたい理由の大部分を占めるのはナイショだ。
「さて。コトたんの気持ちはわかったよ。その上で私個人の意見を言わせて貰うとだね」
「はい」
「まずさっきも言った通り。コイコイがコトたんの『姉』である以上、残念ながらコイコイがコトたんに甘えてくれるのは……ぶっちゃけ無理だと思う」
「……そんな」
やっぱり……無理なのか。マコさんならあるいは……と一縷の望みをかけてみたけどダメなのか。
「だがねコトたん。それはあくまでも直球勝負で『甘えさせて欲しい』ってコトたんがコイコイに頼んだ場合の話さね」
「……?どういう事です?」
「甘えて貰う方法なんて、他にやり方はいくらでもあるって事だよ」
なんですと……!?
「と言うわけでここからがアドバイス。コイコイに限らず全ての『姉』は妹に褒められたり尊敬されたりおだてられるのに弱いんだよ(※しつこいようですがシスコンの感想です)。だから甘えて貰う前に……最初に褒め殺しにするんだよ」
「褒め殺し、ですか……?」
「その通り、例えば——」
『えー!そうだったんだー!』
『私知らなかったよ!』
『お姉ちゃんすごーい!』
「——といった具合に。どんな些細な事でも良い。とにかくコイコイを褒めるの。そうすればコイコイも警戒を解いてくれるはず」
「……ふむ」
「それが上手くいったら第二段階。今度はコトたんがコイコイに甘えるんだよ」
「……え?私が?」
甘えさせるのではなく、私の方から甘える……?それって本末転倒もいいところなのでは?
「まあ話は最後まで聞きたまえコトたん。まずね、コトたんに甘えられたい衝動がコイコイにはある。だからそれを逆手に取るんだよ」
「……具体的には?」
「例えばコトたんの方から『小絃お姉ちゃん……あーん♡して欲しいな』って甘えるの。すると……どうなると思う?」
どうなるって……それは……
「十中八九コイコイならそんな風に甘えられたら素直に『あーん♡』してくるはず。その流れで『お姉ちゃんありがと♡お返しに私もあーん♡してあげるね』ってやるんだよ」
「…………!」
「これはお風呂でも就寝でも同じように使えるんだよ。『お姉ちゃん、背中流して欲しいなぁ』って妹モードで甘えたらコイコイも素直に一緒にお風呂に入ってくれるだろうし、一度お風呂に入れることが出来れば『お返しに私もお姉ちゃんのお背中流すからね』って押し切れるわけよ。就寝も『最近寝付きが悪くて……お姉ちゃん、一緒に寝てもいい?』って甘えたらコイコイなら絶対断れないってワケさ」
「な、なるほど……!」
つまり無理矢理甘えさせようとするのではなく、私がお姉ちゃんをコントロールして甘えさせる流れにしろって事か。確かに今までは割と力業で(お姉ちゃんのお口に無理矢理ご飯を突っ込んであーん♡させる・無理矢理衣服を剥いでお風呂に入れる・お姉ちゃんの寝床に侵入する)甘えさせようとして悉く抵抗されてたけど……その方法ならお姉ちゃんも素直に甘えてくれる気がしてきた。
この人……もしや天才か……?
「要するに甘えたフリをして『甘えて良い空間』を作って、その状況を利用して逆にコイコイを甘えさせるんだよ。かなり単純なやり方だけど……私にはわかる。絶対に上手くいく。何せ……コマにこんな風におだてられて甘えられたら。後は気づけばいつもコマの手のひらの上で踊らされて、最終的にドロドロに甘えさせられる羽目になるんだから」
「……あ。コマ先生に踊らされてる自覚は一応あったんですねマコさん」
「……うん。踊らされて、姉としてのプライドをズタズタにされちゃうの……」
ほろりと静かに涙をこぼすマコさん。……まあ、ともかくとても効果てきめんの方法って事はよくわかった。相談に乗ってくれたマコさんに感謝しつつ、貰ったアドバイスを元に……お姉ちゃんに存分に甘えて貰うように企むとしようじゃないか。
◇ ◇ ◇
~Side:???~
「——へぇ?じゃあコマは今日コイコイに呼び出されて人生相談されてたんだね」
「そういうマコ姉さまは琴さまの呼び出しを受けて人生相談されていたのですね」
「その通り。いやはや従姉妹なだけあってあの子たちって思考回路がそっくりだよね。まさか同じ日に双子の片割れに同じような相談をするなんてさ。……んで?どうだった?」
「ええ。彼女から話を聞いてよくわかりました。思っていた以上に……小絃さまも琴さまも、抱えている問題やトラウマの根が深いみたいですね」
「だねぇ。私も同感だよ。以前コイコイに『琴ちゃん、毎晩悪夢を見るくらい10年前の事故がトラウマになってる』って聞いてたけど。今回コトたんの話も聞いてみたら、トラウマを抱えているって意味じゃコイコイもどっこいどっこいだなって理解出来たよ。姉としての立場とか、成長した妹とどう接するべきかとか、まだ言うこと聞かない自分の身体とどう向き合うべきかとか。あとは10年前にコトたんの心を傷つけてしまった負い目とかが全部ごちゃ混ぜになって一種の錯乱状態になってるっぽいよね。だから自分のコトたんへのホントの気持ちにも気づいていないみたいだし」
「琴さまは琴さまで、小絃さまが無理をなさっている事もお見通しで。庇われた負い目もあって……だからこそ養いたい、自分に依存させて小絃さまの全てを管理したいと躍起になっていて」
「ありゃ二人とも苦労するわ。両思いのハズなのに見事にすれ違っているんだもの。二人とも余計な事考えすぎだと思うんだよねぇ。だからこそ吹っ切れて貰うように、あんなアドバイスをしてみたわけだけど……」
「…………ふふふ」
「……ん?コマ?どしたの?なんで笑ったの?」
「いえ、思い出すなと思いまして。あの二人って本当に……昔の私たちそっくりだなって。お互い想い合っているのに、二人の気持ちに齟齬があって想いが通じ合えなかったあの時の私たちそのものだなぁって思いまして」
「……だねぇ。だからこそあの二人って応援したくなっちゃうよね。余計なお世話かもしれないけどさ、背中を押してあげたいよね。あのね……コマ。大変かもしれないけどさ……これからもあの子たちが悩んでたら……」
「ええ、わかっていますよマコ姉さま。可愛い後輩たちですもの。力になってあげましょうね姉さま」
「ところでマコ姉さま」
「んー?なぁにコマ?」
「若い女に呼び出されて、二人っきりで食べる外食は美味しかったですか?」
「へ?」
「相談に乗って欲しいと言われて、そのまま無警戒に呼び出しに応じ。妹にも行き先を教えずに向かったお店は如何でしたか?」
「あ、あの……コマ?何を……?」
「年下の……ハタチの若いピチピチの女との密会は、楽しかったですか?」
「…………あ、あの……もしかしなくてもコマ……?お、怒ってる……?コマに何も言わずにコトたんと会ってた事を……ま、待ってくれマイスイートハニー!?こ、コトたんならコイコイにゾッコンラブで安全だってコマも太鼓判をおしてたよね!?可愛い後輩に力になってあげるって今まさに言ったばっかりだよね!?」
「ええ、その通りです。ですが…………今日の小絃さまのお言葉を借りるなら」
「か、借りるなら……?」
「それとこれとは話が別です♡」
「ぴぃ……!?ま、待って!?待ってお願いコマ……!弁解を!弁解をさせてください……!いや、その前にその理屈でいうならコマも私に何も言わずにコイコイと密会を——あ、うそちょ待っ…………ぴぃあぁああああああああ!!?」
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