105話 天国の耳かきタイム
「——と言うわけで。早速耳かきしようねお姉ちゃん!」
「あ、ああうん。お、お手柔らかに……」
一体今度は何に影響されたのか。突然『耳かきしよう!』と提案してきた私の可愛い従姉妹の琴ちゃん。その魅惑のおねだりを断り切れなかった私は、ありがたいことに琴ちゃんに耳かきして貰うことになった。意志薄弱と笑うなら笑うがいいさ……
「温めたタオルに綿棒、そして肝心の耳かき棒も準備万端。耳かき棒はお姉ちゃんのお耳がどんなものが合うかわからなかったけど、どんなお耳でも対応できるように何種類か用意してきたから安心してねお姉ちゃん♪」
「……準備良いなぁ琴ちゃんは」
ずらりと並べた耳かき用の道具を見せつけられて思わず感心する私。何事もやるなら徹底的にするのが琴ちゃんだとわかっちゃいたけど……たかが私の耳掃除ごときでちょっと本気を出しすぎてる気がする。
……そういう一生懸命なところも可愛いんだけどね。
「ところでお姉ちゃん。始まる直前で今更こういうこと聞くのはズルいとは思うんだけど……」
「ん?なぁに琴ちゃん?」
「その……私に耳かきされるのは、怖くない?傷つけられるんじゃないかって……ホントは嫌だったりしない?」
「はい?」
ほんの少しだけ心配そうな顔で私に恐る恐る聞いてくる琴ちゃん。つい数秒前までノリノリのやる気満々だったのに急にしおらしくなってしまっている。
……やれやれ。何を言い出すのかと思えば。押しは強いけど変なところで怖がりっていうか遠慮しいなんだよねこの子は。
「うんにゃ。怖くなんてないよ。大丈夫、琴ちゃんの事は信頼してるし。間違っても私を傷つけたりはしないでしょ琴ちゃんは」
それに私の場合は……仮に傷つけられてもそれはそれで琴ちゃんに刻まれたって感がして逆に喜びそうな気がするし。
「う、うん……!お姉ちゃんに誓ってそんな真似は絶対しないよ……!」
「よし、ならオッケーだね。琴ちゃんの事信じるよ。ま、でもちょっと間違って傷つけても……琴ちゃんはちゃんと責任をとってくれるだろうしなんにも問題ないよねハッハッハ!」
「責任……」
「ん?琴ちゃん?」
「うん、そだね。万が一……ううん、億が一でもお姉ちゃんを傷つけたら……今度こそ責任取ってお姉ちゃんのお嫁さんとして……」
「あ、あの……琴ちゃん?」
「……あれ?でもその理屈で言うなら、お姉ちゃんを傷つけたら……お姉ちゃんに合法的にお嫁さんにして貰えるのでは……?」
「琴ちゃん……!?」
あれおかしい。なんか私、琴ちゃんの余計なスイッチを入れてしまった気がする……
「……なーんて。冗談だよお姉ちゃん。この私が、二度も同じ過ちを繰り返すわけないじゃない。絶対に。死んでもお姉ちゃんは傷つけたりはしないから安心して耳かきを堪能してね」
「は、ははは……」
笑顔で冗談だと琴ちゃんは言っているけれど、なんか『責任取ってお姉ちゃんのお嫁さんとして』って呟いてた琴ちゃんは真に迫ったお顔だった気がするのは私の目の錯覚だろうか……?
ほ、ホントに信じているからね琴ちゃん……?
「さて。じゃあお姉ちゃんの了承も得たところで。そろそろ始めようか……耳かき」
「う、うん……よろしく……」
と、そんな一抹の不安を感じつつもいよいよ耳かきが始まるらしい。いざ始まるとなるとほんのちょっぴり期待と興奮で胸が高鳴ってしまう。
「(そらね、そうですよ……なんたって琴ちゃんに耳かきして貰えるんですよ?期待しない方が失礼ってもんでしょ)」
口では興味ない、わざわざしなくてもいい……とは言いつつも。本音を言わせて貰うと内心小躍りしたくなっちゃうくらい喜んでいる私。だってそうでしょ?めちゃくちゃタイプの女性に耳かきして貰えるとか夢にまで見た憧れのシチュエーションじゃないの。合法的にタイプの子と触れあえて、甘やかされて、癒やされる……そんな素敵な一時を過ごせるんだもの。
「(そして何より……あの太ももを……堪能出来ると思うと……)」
思わず琴ちゃんの下半身をチラ見する私。今日の琴ちゃんはミニのレザースカートを履いている。そのお陰でバッチリ見える立派に育ったムチムチの太もも。……舐めるように見入ったお姉ちゃん失格な私はついついゴクリと生唾を飲み込んでしまう。
耳かきと言えば……膝枕でして貰うのが一般的。あの柔らかさと程よい弾力を兼ね備えた最高品質の素敵太ももに頭を乗せさせて貰えるのを想像すると……良い匂いとムチムチと琴ちゃんの温もりを直に堪能させて貰えるのを想像しただけで…………ご飯3杯は余裕でイケルわ。
「じゃあお姉ちゃん。耳かきする前にね」
「は、はい……!」
そんな悪い妄想を。必死に鼻血を我慢しながらしていたところで琴ちゃんからお声がかかる。いよいよか……!と身を乗り出して期待を露わにして。
「そこのリクライニングソファに腰掛けてね」
「は……はい……?」
そしてそんな琴ちゃんの一言に、私は目を点にして固まってしまう。…………リクライニング?
「あ、あの……琴ちゃん?今何と?」
「ん?リクライニングソファに腰掛けて欲しいなって言ったけど」
「……耳かき、するんだよね?」
「そうだよ?」
「…………ひ、膝枕は……?」
「膝枕?……ああ、なるほど。確かに膝枕して耳かきするのはよく聞く方法だよね。でもね、あれって実はあんまり良くないんだって。下手に寝転がった状態で耳かきしちゃうとね、耳垢が下に落ちゃって鼓膜に溜まっちゃうらしくてね。だから出来れば直立とか、椅子とかに座った状態でやる方が良いんだって」
「あ……ああ、そっか……にゃ、にゃるほどそういう事ね……」
言われてみればそうである。重力は下に向いているわけだもんね…………い、いや別にがっかりなんてしてないよ!?してないよ……
「……なんか、ごめんなさい琴ちゃん」
「え?どうしてお姉ちゃん謝るの?」
思っていたよりも数百倍琴ちゃんガチだった……なんというか、いやらしい妄想してた自分が恥ずかしいわ。てっきり琴ちゃんの事だし耳かきからのいつもの誘惑モードに入るとばかり……
ごめん、私最低なお姉ちゃんだ……琴ちゃんはこんなにも真面目に私を想って耳かきしてくれようとしていたというのに……
「なんでもない……と、とりあえずリクライニングに横になったら良いのね?」
「うんお願い」
考えてみればこれはこれで良かったのかもしれない。琴ちゃんの耳かきと聞いて最初はどうやっても耐えきれず琴ちゃんに醜態を晒してしまうだろうと覚悟していたけれど、なんてことは無い普通の耳かきならば流石の私も耐えられるだろうからね。
そう胸を撫で下ろしつつ言われたとおり私は大人しくリクライニングソファに横になる。
「まずはお耳のお掃除から。タオルでお姉ちゃんのお耳の外側……耳介の方を綺麗にしてあげるね」
「よろしく琴ちゃん」
「力を抜いて、リラックスしてね」
まさに適温に温められたタオルを使い、ゆっくりと囁きながら始める琴ちゃん。最初は耳全体を包み込み、温まったところで耳の形をなぞるように丁寧に。
——スッスッスッ
——ごし、ごし、ごし……
タオル越しに細長く綺麗な琴ちゃんの指が動き、汚れを隅々まで落としていく。
「毎日綺麗に洗ってあげてるつもりだけど……やっぱり耳裏とかは中々洗えてないんだね」
「ぁぅ……き、汚かった?汚れてたかな……?」
「ほんのちょっとね。見えにくいところだし、丁寧に洗おうとするとお姉ちゃん嫌がっちゃうから中々隅々までは洗えてなかったもんね。……ふふふ。これは、もっと日常的に丁寧にお姉ちゃんを洗う必要があるなぁ。今日のお風呂、楽しみにしといてね」
「じ、自分で洗うよぅ……」
そんな事を言い合いながらも耳掃除は続いていく。縁を沿うように耳輪をなぞり、ふにふにと優しく耳たぶを揉まれ、溝に溜まった汚れを拭われる。片方を綺麗にしたら反対側にまわり、同じように丁寧に耳を掃除されて。
「お耳、真っ赤になってきてるよお姉ちゃん」
「ん……あったかい……きもちい……」
……ただ汚れをタオルで拭き取って貰っている、それだけの行為のはずなのに。タオルのほっとするような温もりと琴ちゃんの繊細なタッチのお陰でもうすでに滅茶苦茶気持ちいい。
程よく刺激された耳は血行が良くなってきたのか熱を帯びているのがわかる。
「あ、の……琴ちゃん……そろそろ中も……」
「ん。良いよ、お姉ちゃんの望むがままに」
こうなってくると外ばかりだともどかしくなってしまう。自分から要求するだなんて随分とまあ甘えん坊だな恥を知れと理性が訴えても、抗いがたい欲求に耐えられず私は琴ちゃんにそうおねだりしてしまっていた。
そんな私のおねだりに琴ちゃんは嬉しそうに応えてくれる。
「一応、模型とか使って練習はしてきたけど。それでも実際に人にやるのは初めてだから……もし上手くいかなかったり痛かったりしたらちゃんと言ってね」
「ん……わかった……」
「それじゃあ手前の方からいくね」
耳たぶを軽く摘まみ、優しく引っ張って耳の穴を広げる琴ちゃん。そのままゆっくりと綿棒が侵入していく。しゅっ……しゅっと擦って柔らかく細長い綿棒がくるくると耳の中を踊ってゆく。
「全然お掃除出来てなかったけど。お姉ちゃんのお耳の中綺麗だよ。それでも細かい耳垢があるから取っていくね」
「おねがい……」
決して力任せではない、実に繊細で精密な動きで入り口から浅いところをなぞり。少しずつ丁寧に溜まっていた汚れが外へ外へとかき出される。練習したと言うだけあって、初めてのハズの琴ちゃんは本当に上手で……不安な気持ちなど一切感じない。
「入り口はこんなものかな。あとはもうちょっと中の方をさせて貰うね。お姉ちゃんのお耳だと……この竹製の耳かきが良さそうだね」
「あーい……」
手早く入り口を綺麗にしたら、今度はもっと深いところへ。選りすぐった耳かき棒の中から最適なものを取り出す琴ちゃん。先ほど以上に繊細に、静かに。耳かき棒を奥へと入れ込む。
「(あー……これ、やばい……)」
よくよく考えてみれば。私はこれまでの人生の中で耳かきというものをやって貰った経験というものがなかった。だから……正直に言うとこの行為を舐めていたのかもしれない。まさか……まさかこんなに気持ちの良いものだったなんて……
与えられる刺激も、場所も、力加減も、タイミングも。全ては琴ちゃん次第。琴ちゃんに全てを委ねている状態だ。掻いて欲しいところを掻いて貰えずにもどかしい時もあるけれど……逆に上手く気持ちの良いところをやって貰った時は……自分でする時よりも遙かに気持ちよく感じちゃう。綿棒を使っていた時とは違う、カリカリ……ガサガサという音が深い場所で鳴り響くと……段々と意識が、思考が単純になっていく。とろんと夢見心地になっていく……
「どうかなお姉ちゃん。ちゃんと気持ちいい?」
「……すごく、きもちいい……」
「ふふ……♪良かった。もうちょっと続けるからねー」
耳垢を掻き出され。琴ちゃんの優しい声が耳元でよりダイレクトに伝わってくるのも、夢見心地になるのを加速させる。出会った時から大好きで、とても安心する耳に優しい琴ちゃんの声が……私の中にある緊張や疲れをスッと取り上げて……夢の世界に私を誘う。
「本当に、気持ちよさそう……♡お姉ちゃんかわいいお顔になってるよ。ああ……これが見たかった……ずっと見ていたいなぁ」
「んー……?にゃにか、ゆった……?」
「うふふ、なんでもないなんでもない。はい、それじゃあ反対側もしてあげるからねー」
「ありがとー……」
お昼ご飯を食べた後の唐突な眠気にも似た感覚に襲われていると。今度は反対側の耳も掃除してくれる琴ちゃん。
「……そうそう。お姉ちゃん知ってた?お耳にはね迷走神経っていう知覚神経が通っててさ。そこに触れると気持ちよくなるんだって」
「へー……」
「耳かき専門店って商売も成り立つくらいだから推して知るべしって感じだよね。まあ、中には耳を刺激されると咳が出ちゃったり嫌な思いをしちゃう人もいるらしいんだけど……」
「…………ふぁああ……」
「……♪お姉ちゃんは、大丈夫そうだね」
琴ちゃんが何か言ってくれている。お姉ちゃんとしてちゃんと琴ちゃんのお話を一言一句逃さずに聞き取らなきゃと思うけれど……気持ちよすぎて視界がぼやけてしまう……耳かきのお陰で耳はすっきりしているハズなのに。耳から耳に琴ちゃんの金言が流れ出てしまっている。
だめ……しっかりしなきゃ……姉として、凜々しいところを……琴ちゃんの前で油断しきったところは見せられな……
「良いんだよお姉ちゃん。眠いんでしょ?このまま寝ちゃっても大丈夫」
「で、も……」
欠伸を必死に堪えていると、耳元で琴ちゃんが優しくそう囁いてくる。琴ちゃんに耳かきさせておいて自分はグースカ寝るのは流石に抵抗があると歯を食いしばって意識を覚醒させようとする私だけれど。その琴ちゃんは耳かきをしながら頭も撫でてきて……
「いいの。お姉ちゃんに気持ちよくなって貰うのが目的だったんだし。それに寧ろ嬉しいよ。眠くなっちゃうくらい良かったって事なんだし」
「琴ちゃ……」
「だから、ゆっくりお休み……お姉ちゃん」
大好きな琴ちゃんの優しい声と、愛おしく撫でてくれるその手。そして的確に刺激を与えてくれる耳かきスキル……
「あり、がと……琴ちゃ……」
抵抗虚しく私はあっさり陥落し。意識を手放す私。そのまま心地良い微睡みの海に身を捧げて、そして——
『…………お休みお姉ちゃん。目が覚めたら今度は……もっと気持ちいい事してあげるからね』
◇ ◇ ◇
そこから一体どれくらいの時間が経っただろうか。ハッと意識を浮上させる私。や、やっちまった……耳かきで気持ちよくさせられてそのままうたた寝とか……
「あ……お姉ちゃん、起きた?ゆっくり休めたかな?」
「こ、琴ちゃん……ごめん寝てた……」
琴ちゃんの声がやけに近くに聞こえるなと思いつつ。霞む視界を瞬き3回でクリアにさせる。そうして見上げた先で一番最初に目に映ったのは、慈愛に満ちた目で私を見つめる琴ちゃんの綺麗すぎるお顔。ああ、いつ見ても琴ちゃんは美人さんだ——
「(…………あれ?)」
……おかしい。何かがおかしい。耳かきされていた時の私は……確かにリクライニングソファに横になっていたハズ。だと言うのに今私が寝そべっているのは……リクライニングソファの上ではなく、いつも琴ちゃんと一緒に寝ているベッドの上。いつの間に瞬間移動した……?
それに、おかしいと言えば……この枕の感触も何かおかしい……普通の枕にしては、なんと言うか……温かくて柔らかくて、それでいて滅茶苦茶心地良い香りがして……
段々とハッキリしてきた脳をフル回転させ状況整理をやってみる。……ふむ、なるほど。これはつまり……
「…………あの、琴ちゃん」
「ん?どしたのお姉ちゃん」
「つかぬ事を聞かせて貰うけどさ……」
「うん」
「…………どうして私は、琴ちゃんに膝枕をされているのでしょうか……?」
まあ、アレだ。この状況を一言で言わせていただくとだ。
目覚めると私を慕う(元)ロリっ娘に、超絶気持ちいい膝枕をされていました……
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