93話 小絃と紬希のバストアップ大作戦(前編)
私の余計な一言がきっかけで。あや子のお嫁さんである紬希さんの中の何かのスイッチをオンにしてしまった結果……『おっぱいを大きくしたい同盟』がここに発足した。
「小絃さん……二人で一緒に、お胸を大きくしましょうね……!大好きな人の為に……!そして、貧乳貧乳とバカにされないために……!」
「お、応です紬希さん!」
闘志に燃える紬希さんに圧倒されつつも思う。大いに地雷を踏んでしまった紬希さんには申し訳ないことをしたけれど……結果的に紬希さんを巻き込めたのは良かったかもしれない。私一人なら何をどうしたら胸を大きく出来るのかわからなかったところだろうからね。
「さて……それでは育乳を始める前におさらいです小絃さん。そもそも胸が大きくなるそのメカニズムについてですが、小絃さんはご存じでしょうか?」
「え、えっと……うーむ……改めてそう聞かれるとすぐには答えられないかもです」
「では説明させていただきますね。女性の胸はですね。母乳を作るための乳腺、胸の9割を占める脂肪。それからそれらを支えるための筋肉で構成されています。その中で胸を大きくする際に欠かせないのは乳腺です。乳腺を発達させることにより周りの脂肪がついて胸が大きくなると言われています」
「ほうほうなるほど」
流石現役の看護師さん、とても詳しく私でも理解出来る話し方で身体のメカニズムについて説明してくれる。
「つまりは乳腺を発達させれば胸も大きくなるって事ですね。それでそれで?どうしたら乳腺とやらは発達させられるんですか?」
「乳腺はエストロゲン、プロゲステロンという女性ホルモンが分泌されることで増えます。つまりその女性ホルモンの分泌を促す事が胸を大きくする鍵となるのです」
「なるほどです!して紬希さん、その女性ホルモンってどのタイミングで分泌されるんですか?」
「そうですね……一般的に女性ホルモンの分泌が活発になるのは思春期です。ですから第二次性徴を遂げる思春期に胸が大きくなるのですが……」
なるほど思春期、思春期か。
「……思春期、ですか」←コールドスリープ装置で思春期が止まった女
「……思春期、ですね」←思春期はとっくの昔に過ぎ去ってしまった女
二人仲良く地に伏せて涙をこぼす。思春期……私止まったままなんですが……?
「あ、諦めてはダメです小絃さん……!た、確かに思春期にこそ女性ホルモンは分泌されやすくなりますが、胸が大きくなるのはそれだけが原因ではないので!」
「そ、それは良かった!そ、それで?他にはどういう原因がありますか?」
「遺伝です。身体的特徴は遺伝的要因も影響があるとも言われています」
そうか遺伝、遺伝か……
「……遺伝、ですか」←母親と同程度の胸を持つ女
「……遺伝、ですね」←一族皆永遠の合法ロリ幼女
その事実に私と紬希さんは地面を叩いて静かに泣く。遺伝で胸の大きさが決まると言うなら絶望的じゃないですか……神様という残酷な存在はどうして持てる者と持たざる者を分けて創ったんだ……
「だ、大丈夫です小絃さん!た、確かに遺伝的影響はあるにはありますが……所詮、その影響も3割程度。遺伝の影響が全てというわけではありませんので……!」
「そ、そうですか!それは良かった……本当に良かった……!そ、それで……具体的にどうすれば胸は大きくなるんでしょうか?」
なんだか雲行きが怪しい気がしてきたけれど、気を取り直して肝心の胸を大きくする方法について問うことに。
「先ほど説明したとおり、女性ホルモンの分泌が胸を大きくする事に繋がります。ここで気をつけたいのは、この女性ホルモンは生活習慣の乱れ——例えば偏った食生活や睡眠不足、無理なダイエットなどが原因で分泌量が少なくなってしまう事があるんです」
「なるほどです。と言うことは。逆に規則正しく生活すれば……」
「お察しの通りです小絃さん。栄養バランスを考えた食事としっかり睡眠を取れば……自然と女性ホルモンが整い分泌を促すのです。それと……さっきも言いましたが胸の大半を構成するのは脂肪です。故に身体全体に脂肪が付いた方がより胸にも脂肪がつきやすくなって大きくなりやすいのです」
まとめると……よく食べてよく眠り、健康的な身体を維持しつつ脂肪を付けるって事か。なるほど……それならなんとかやれそうだ。
「あとはナイトブラを付けて胸の形を整えたり、女性ホルモンと同じ働きを持つ大豆イソフラボンという栄養素を含んだ大豆などを意識的に摂取したり。ストレッチをするのも良いそうです。後で一週間分のトレーニングメニューと食事表を作成しますね」
「何から何まですみません、助かりますよ紬希さん」
「いえいえです。……私も、小絃さんという運命共同体が居てくれてとても心強いです。辛く苦しい戦いになるでしょうが……共に頑張りましょうね……!」
「はいっ!」
紬希さんと手と手を取って決意を新たにする。こうして、バストアップ大作戦が本格的に開始されるのであった。
◇ ◇ ◇
看護師である紬希さんが、わざわざ上司である看護主任さんに監修してもらい作ってくれたバストアップ用トレーニングメニュー&食事表。これらを元に私と紬希さんは一週間必死にバストアップに努めた。
毎日の食事に気をつけて、ストレッチを欠かさず行い。そしてたっぷりといつも以上に睡眠を取って。こうして迎えた一週間後。血の滲むような努力の甲斐あって。私と紬希さんの胸は——
「何故だ……」
「どうして……」
一ミリも大きくなっていなかった。
再び私の家に集合して、頭を抱えつつ緊急対策会議を行う私と紬希さん。おかしい……何も成長出来ていない……
「ちゃんと女性ホルモンを刺激するような規則正しい生活を送ったハズなんですけどね……どうして何も変ってないんでしょうね……」
言われたとおりの規則正しい生活を送った。リハビリも兼ねたストレッチも欠かさず行ったし。勿論疲れやストレスを残さないように早めの就寝も心がけた。
……だというのにだ。健康状態とか血行とかは確かに良くなったけれど、胸に関しては何一つ変化無しとはどう言うことじゃい……
余談だけれど何も知らない琴ちゃんは『この一週間、お姉ちゃんったらどんどん顔色も良くなって健康的で……私すっごく嬉しいよっ♪』って喜んでくれてたけど……違うそうじゃない……私が求めているのはそっちじゃないのよ琴ちゃん……
「……私もです。私の場合、とにかく全体的に身体が薄いので。まずは脂肪を付けなきゃとご飯をいっぱい食べてみたんですが……残念ながら胸は大きくならず……ただお腹がぽっこり膨らんだだけでした。ちなみにあや子ちゃんからは『うっひょぉおおおおお!!!つ、つつつ……紬希ぃ!?その芸術的なイカ腹はなに、何なの!?最高すぎるんですけどぉおおおおお!!!』って、一晩中お腹を撫で回されました……」
「何やってんだあのアホは……」
あや子の奇行と性癖は死ぬほどどうでも良いとして。さて困ったぞ。そりゃ私だって一朝一夕で胸が成長出来るとは思ってなかったけど……ここまで徹底してバストアップに努めてきたというのに、まさかまるで成長していないとは……
「…………こうなったら、最後の手段です小絃さん」
「へ?さ、最後の手段……とは……?」
「禁断の裏技です。これだけは使いたくはありませんでしたが……短期間で胸を大きくするには……これしかありません」
不穏な事を呟きながら何かヤバい方向に覚悟を決めたようなお顔をしている紬希さん。い、一体何をするおつもりなんだ……?
「短期間で胸を大きくするって……ど、どうやるんです?」
「…………豊乳手術です」
「っえぇ!?手術!?」
紬希さんの提案に流石にびびる私。しゅ、手術って……
「これならば間違いなく大きくなります。背に腹はかえられません。これこそが唯一にして確実な方法と言えるはずです……」
「ま、待ってください紬希さん!?さ、流石に手術までするのは危険なのでは……!?」
「……大丈夫ですよ小絃さん。10年前ならいざ知らず、今は技術も上がっています……リスクは少ないはずです」
「で、ですが……」
「それに私たちには、とっても頼れる凄腕の科学者さんが付いています。大丈夫です……必ず成功します」
「とっても頼れる凄腕の科学者……?」
「今、アポを取りますね」
誰のことだ……?ま、まさかとは思うけどその人って……
嫌な予感がヒシヒシと感じる中、紬希さんは自分のスマホを取りだしてどこかに電話をかけ始める。
『——はぁい、もしもしー?』
「……こんにちは小絃さんのお母様。ご無沙汰しています。突然申し訳ございません。私、小絃さんの友人の伊瀬紬希です」
『あら、あらあらやっほー紬希ちゃんおひさしぶりー!どったのー?珍しいね電話するなんて』
嫌な予感、的中。電話の向こうの相手は他でもない、稀代のマッドサイエンティストにして不肖の我が母親ではないか。
な、なんで紬希さんは母さんになんか電話を……ま、まさか……!?
「突然で申し訳ございませんが小絃さんのお母様、お尋ねします。…………胸を大きくする装置とか、ありますか?」
『胸?大きくする装置?あー……ちょうど今実験中のやつはあるんだけど……でもなんで?』
「良かった。是非ともそちらを使わせていただきたいのですが……」
『おお!実験台――もとい、使ってくれるのね!ありがたいわ!ちょうどサンプルが欲しかったところなのよ!使ったらどんなぺったんこでも爆乳間違いなしの装置よ!…………まあ、あまりに爆乳過ぎて胸の重みに耐えきれずに歩けなくなるって些細な欠点もあるにはあるし、当然のように不可逆だけど……それでも使う?』
「構いません……もはやそれしか方法がないのなら……」
「構ってください紬希さん!?と言うか正気に戻ってください!?母さんもなんて悍ましいものを人の大事な友人に勧めようとしとるんじゃい!?」
いつかの琴ちゃんの時と同じように不穏な会話を繰り広げていた二人にツッコミを入れて通話を強制終了させる私。あ、危なかった……
「紬希さん落ち着いてください……手術するにしてもあの人に頼むのだけはやめた方が良い。娘として断言しますがあの人に関わると碌な事になりません」
「ですが……」
母さんの装置なんて危うい物を使用したら最後……下手をしたら豊乳されるどころか胸が削れる恐れもあるからね。紬希さんには現実をみて貰わなきゃ……
「良いですか紬希さん。紬希さんは母さんの事を何故か信頼しているようですが……あの人は危険です。以前母さんを頼って脂肪吸引装置とやらを使い痩せようとした人がいましたが。装置が故障して痩せるどころか使用した部位が腫れ上がって膨らんでしまってそれはもう酷い事になった例もあるんです。幸いあの時はなんとか元に戻せましたが……実際にそういう失敗もあり得るんです。生きているだけで災いと失敗を巻き起こす大変危険な存在なんです。ですので母さんに頼るのだけはやめてください」
「……なるほど、わかりました」
「良かった、わかっていただけましたか」
「つまりその脂肪吸引装置とやらを胸に使えば私のこの貧相な胸も腫れ上がってバストアップ出来ると言うことですね。これは良いことを聞かせていただきました。早速小絃さんのお母様にお願いをしなければ……」
「ですから正気に戻ってください紬希さん!?それ成功した場合は脂肪吸引されて胸なくなっちゃいますよ!?本末転倒もいいところですよ!?」
今日の紬希さんはもうダメかもわからんね……
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