92話 バストアップ大作戦始動
琴ちゃんに釣り合う立派なお姉ちゃんになりたい。具体的には琴ちゃん並みのグラマラスな大人の女になりたい。そう思い立った私は身近な知り合いの中でも最も胸が大きいマコ師匠にそのヒミツを教えて貰うと思ったんだけど……マコ師匠は不幸な事故(?)によりあえなく散ってしまった。(散ってないよ!?by
師匠の無念を晴らすためにも、何か他の方法で胸を大きくしたいところなんだけど……
「他に相談できる人、アテがいなんだよなぁ……」
私の周りの人間で胸が大きい人と言えば、マコ師匠と師匠の妹のコマさん。それに他でもない私の琴ちゃんなんだけど……まず妙な地雷を踏んで謎の女性に拉致されたマコ師匠はしばらく音信不通になりそうだから相談できない。次にコマさんなんだけど……コマさんの連絡先を私はまだ知らないし、仮に連絡が付いたとしても今は多分それどころじゃないだろう。コマさんのことだし今頃は師匠を拉致した女性と仲良くガチ喧嘩してる気がする。
となるとここは琴ちゃんに聞くしかないんだけど……正直言うとある意味一番琴ちゃんには今回のことを相談したくないんだよね。年下の従姉妹にそんなしょうもない事を聞けないって言うか、私の中にある琴ちゃんのお姉ちゃんとしてのプライドが邪魔をして聞きたくても聞けないわけで。
「他の私の周りの人間は…………ダメだわ。母さんは私と同じ程度だし、あや子に至っては私以下の残念おっぱいだしなぁ……」
そもそもあの二人に胸のことで悩んでいるって正直に打ち明けたとしても。大笑いで酒の肴にされた挙げ句役に立たないアドバイスをされるのが目に見えているからね。絶対にあいつらには相談するもんか。
じゃあ他に頼れそうな人というと……あとは……うーん……
「——小絃さん?どうなさいましたか?難しいお顔をされていますが……」
「へっ?あ……紬希さん」
と、そんな感じで唸っていた私に。いつものようにあや子のアホに連れられて私と琴ちゃんのお家に遊びに来てくれた紬希さんが心配そうに声をかけてくれる。
「もしかして何かお悩みなのではないでしょうか。そうでしたら……頼りないかもしれませんが、私で良かったらお話聞きますよ」
「あ、ああいえ大丈夫です。別に大した事では——」
こんなしょうもない悩みを紬希さんと共有するなんて恥以外の何ものでもないし、慌てて大した事じゃないと言おうとして……ふと私は考える。
「(待てよ……?今私が抱えている悩みって……ここにいる紬希さんに聞くのがベストな方法なんじゃないか……?)」
何と言っても紬希さんは現役の看護師さん。言うなれば医療や保健のエキスパートだ。職業柄、若い女性に身体の悩みについて質問される事だって珍しい事じゃないだろう。
今日みたいに琴ちゃんがいない時に、ちょくちょく私のお世話までしてくれる易しくて思いやりのある紬希さんなら……あや子や母さんの悪ノリコンビと違って私の悩みに真摯な気持ちで向き合ってくれそうだし。それに何より紬希さんなら口が堅くて琴ちゃんに『小絃さんが胸がない事を悩んでた』なんて告げ口をする事なんてないだろうし……
「小絃さん?」
……よし、決めた。聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥とも言うんだ。紬希さんに聞いてみようじゃないか。
「……すみません紬希さん。貴女を見込んで一つ、お尋ねしたいことがあるんです。どうか哀れな私に力を貸していただけませんでしょうか……?」
「小絃さん……やっぱり何かお悩みなんですね。……勿論です。小絃さんにはいつもお世話になっていますからね、遠慮せずに何でも言ってみてください」
「紬希さん……!」
なんて嬉しい事を言ってくれるんだろう。紬希さんになら安心して相談できそうだ。覚悟が決まった私は、勇気を振り絞って紬希さんにこう尋ねた。
「では遠慮なく聞かせていただきます。
……おっぱいって、どうやったら大きくなりますか?」
「そんなの私が知りたいですよぅ……っ!!!」
この日私は、初めて紬希さんの本気の叫びを聞かされた。
「大きくなる方法!?知っているならとっくの昔に自分自身で試していますよ!?と言うか、試してみたけど効果なかったんです……!今まで色んな方法を試してみて、その全てが無駄な努力だったこの私の虚しい気持ち……小絃さんにわかりますか……!?」
「あ、あわわわわ……つ、紬希さん落ち着いて……」
「どうせ私は身長も、胸すらも昔から一ミリも変わらない永遠のペチャパイ小学生体型の女ですよ……ッ!」
「す、すみません変な事聞いてホントにすみません……!ど、どうか落ち着いてくださいお願いします……!」
どうやら盛大に地雷を踏み抜いてしまった私は、半泣き状態で錯乱する紬希さんをなんとか宥める。い、いかん……質問する時はよく考えてすべきだったわ……そう言えば紬希さんって、あのあや子がメロメロになっちゃうくらいの奇跡のひんにゅー合法ロリ体型の持ち主だったんだ。体型に対するコンプレックスは私の比じゃなかったんだよね……本当にごめんなさい……
「ちょっと何!?人がちょっと席を外した途端に何の騒ぎよ!?どうして紬希が泣いてるのよ!?なに人の嫁泣かせてんのよ!?説明しなさいバカ小絃!!!」
と、そんな私と紬希さんの騒ぎを聞きつけてあや子のアホが血相を変えて戻ってきた。戻ってくるなり即私が悪いと決めつけて(まあ、今回に限って言えばマジで私が悪いんだけど……)状況説明を求めて来るけれど。
「…………ぐすっ」
「……あー、その。何と言えば良いか……とりあえずあや子、察してくれ……」
ここでどうして紬希さんを泣かせる羽目になったかを私の口から説明した場合。更に紬希さんの傷口が開いてしまいかねない。あや子の状況を察する力に一縷の望みをかけて説明をぼかしてみた私。
……が、それが非情によろしくなかった。
「ハァ?いきなり察しろって言われてもわけわからん!そんなつかみ所のない話をされても困るんだけど!?」
「あ……っ」
あや子の口から出た『つかみ所がない』という今この場で使用してはいけない禁止ワードの一つ。状況はまるでわかっていないのに、まさかそれをピンポイントで引き当ててしまうとは……
その一言は少しずつ冷静さを取り戻しかけていた紬希さんに再度スイッチを入れるには十分過ぎて。
「…………誰が」
「ん?何?どうしたの紬希?なんで戦慄いているの?」
「誰が、つかみ所すらないまな板女ですか……!あ、あや子ちゃんのばかぁあああああああ!!!」
「え、えっ!?な、何の話……?つ、紬希……つむぎぃいいいいいいいいい!!?」
あや子を置いて泣きながら部屋から飛び出す紬希さん。残されたあや子は、突然自分のお嫁さんに罵倒され。へなへなとその場に座り込む。
「な、なんなのよ一体……私の何が悪かったのよ……」
「間が悪かった、としか……」
流石に今回ばかりはこのアホに同情しよう。タイミングが悪すぎだろコイツ……
とりあえず紬希さんは一先ず私に任せて貰うとしよう。多分今下手にあや子が紬希さんを宥めようとしたら……余計にややこしくなりそうだ。座り込んで半べそをかいているあや子を残して私も紬希さんを追いかける事に。
「ひくっ……うぅぅ……どーせ私は……持たざる者ですよ……ぎゅうにゅう毎日飲んでるのに身長も伸びなくて、おっぱいもちっちゃいままな小学生ちゃんですよ……」
急いで部屋を出て探してみると。何故か台所の片隅で牛乳をちびちびと飲みながら体育座りしている紬希さんを発見する。こんなに荒れた紬希さんを見るのも初めてだわ……
とにかく誠心誠意謝罪しなければ。私は紬希さんの前で土下座しつつ先ほどの非礼を全力で詫びることに。
「あ、あの……紬希さん……すみません変な事を聞いちゃって。悪気があったわけでも。まして紬希さんを貶そうと思ったわけでもないんです」
「…………」
「その、ですね。私も琴ちゃんと釣り合うような大人の女性になりたいなって思って……ちょっと焦ってたんです。いつの間にか琴ちゃんは心身共に成長しているのに、私だけ置いてけぼりをくらったみたいに感じて……」
「…………」
「あんなに成長した琴ちゃんと比べたら、私ってまだまだ子どもみたいなものじゃないですか。もしかしたら大人な琴ちゃんは私の未発達な身体に満足出来なかったらどうしようとか……変な事考えちゃって。それで琴ちゃんに飽きられて捨てられたら嫌だなって…………と、とにかく本当にごめんなさい!さ、さっきの事は忘れてください!お詫びに、私に出来ることなら何でもしますんで……!」
「…………」
がしっ!
「つ、紬希……さん……?」
そうやって平謝りを続けていると、不意に紬希さんは私の手をがしっと握ってきた。ど、どうなさいましたか……?この指へし折るぞって意思表示でしょうか……?そう震える私に、紬希さんはちょっとだけ座った目でこう言ってきた。
「…………私も」
「へ?」
「私も、小絃さんと同じ悩みを抱えていました……こんな貧相な身体じゃ……いつかあや子ちゃんに捨てられるんじゃないかって。その気持ちは、痛いほどわかります」
「は、はぁ……」
「こうなったら私たちは一蓮托生です小絃さん。私に詫びる気持ちがあるというのなら……手伝ってください」
「て、手伝うって……何をです……?」
「…………一緒に、育乳始めましょう」
こうして今ここに。音瀬小絃と伊瀬紬希さんによるバストアップ大作戦が始まったのであった。
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