91話 師匠の胸は大きい

「——マコ師匠って、おっぱい大きいですよね」

「いきなり何を言い出すのかね、このバカ弟子は」


 今日も今日とて琴ちゃんの理想のお姉ちゃんとなるべく。最近知り合った私の料理の師、立花マコ師匠の料理教室で料理の特訓中な私。その料理教室が終わった後の片付け中、ふいに師匠の上半身についているご立派なものが目に入り。思っていた事がつい口から零れだしてしまった。


「いや、だって実際師匠のおっぱい凄いですし……ねえ師匠。やっぱり、それがマコ師匠のモテる秘訣なんですか?」

「なんでそうなるのさコイコイ……急にどうしたの?脳内ピンクに染まってない?」


 私がそんな疑問を持つのも無理はないくらい、この師匠はビックリするほど女の人にモテる。人柄とか容姿とか。好かれる要素が満載なのは見てわかるけど、それにしたって恐ろしいくらいにモテるのである。

 そのモテる秘訣は……やはりその圧倒的とも言える巨乳にあるのではなかろうかと睨んでいるわけだが……


「私ってば10年くらい昏睡状態だったんでよくは知らないですけど、昔なんちゃらチャレンジって流行ったらしいじゃないですか。なんか胸にスマホを置けるかとか、タピオカを乗っけて飲んでみるとか、下乳でボールペンを挟めるかとかってやつです。師匠ってもしかしなくても出来ちゃったりするんですか?」

「いや、知らんし……」

「ちょ、ちょっと試しにやってみて良いですか?ちょうど都合が良いことに、スマホもボールペンもついでにタピオカもありますんで」

「コイコイ?仮に出来たところで一体何になるんだね?」


 ちなみにこの後実際にやってみて、余裕で置けたし飲めたし挟めました。師匠すげぇ……


「そ、そもそもさ。コイコイだって意外と良い乳しているでしょ?」

「マコ師匠には完敗ですよ。何したらそれだけおっきくなれるんですか?」

「そりゃおっきくなるって言うか……愛する人コマに揉まれまくったら自然と——って、何を言わせるんだね君は!?」


 それは師匠が勝手に語っただけでは?


「と言うかだね……何でまた急に乳の話になったのさ」

「……いや、実はその。おっぱいの事でちょっと悩んでおりまして」

「どう言うことなの……?」

「それがその……ついこの間私の大好きな琴ちゃんと一緒にお出かけに行った時の事なんですが——」



 ◇ ◇ ◇



『ふふふっ♪今日は本当に大収穫だよ。図らずもお姉ちゃんのスリーサイズまで入手出来ちゃったし。これで大手を振って渾身の自信作の下着をお姉ちゃんに着けて貰えるんだね!』

『お、お手柔らかにね……』

『楽しみだなぁ♪待っててねお姉ちゃん、今回は緊急事態って事で仕方なく市販のものを買ったけど……今度はお姉ちゃんに似合う私のオーダーメイドの下着をプレゼントしてあげるからね!』

『そ、それよりも琴ちゃん。スリーサイズ測ってた時にふと気になったことがあるんだけどさ……』

『ん?なぁにお姉ちゃん?』

『今更だけどそういう琴ちゃんこそ、今は一体何カップなの……?』

『え?私のカップ?Fだよ』

『へぇーFかぁ、それはまた立派に育った…………えふぅ!?』

『うん。お姉ちゃんっておっぱい大きい人、好きだったもんね。だから私……お姉ちゃんに好きになって貰えるようにいっぱい頑張ったんだよ♡』

『…………』

『だ、だからさお姉ちゃん。もっと私のおっぱい見てくれて全然良いし、何なら触っても揉んでも吸ってくれても——』

『えふ…………すごい……』



 ◇ ◇ ◇



「——という事がありまして……」


 数値化すると改めて凄いと思う琴ちゃんの急成長ぶり。い、いや……琴ちゃんのお母さんもおっきいし。私が知らないだけで10年の時を経ていたわけだし。その間琴ちゃんは他ならぬ(おっぱい好きな)私の為にたゆまぬ努力をしてたから、別にそれだけ大きくなってても不思議ではないんだけど……

 私が少し目を離した隙に、色んな意味であんなにちっちゃかった琴ちゃんのお胸が超進化を遂げていた事に改めて衝撃を受けることになったわけで。


「ふむふむなるほど。でもそれとコイコイが悩んでいる事と何の関係があるのさ?」

「か、関係ありますよ!?だ、だって私……B寄りのギリギリCになったばっかなんですよ!?」

「それがどうしたのさ?」

「…………そ、その程度じゃ……こ、琴ちゃんと並ぶと……その。格差を感じちゃうじゃないですか……」

「あー……やっとコイコイの言いたい事がわかった。妹の成長っぷりは嬉しくもあるけど。それはそれとして、琴ちゃんのお姉ちゃんという立場としては妹分に知らない間に負けちゃって。見比べたら圧倒的過ぎてショックだったって事ね」

「…………その通りです」


 大きくなったことは喜ばしいけど。自分と比べられると……姉として自分があまりにも成長出来ていないってわからされている気分になっちゃうじゃないの……惨めだわ……

 それに……もしも仮にこのまま成長しないなら……私、琴ちゃんに――


「姉としてのプライドもありますし……せ、せめてもうちょっと増量したいなと思った次第でして。し、師匠は琴ちゃんをも越える巨乳を越えた爆乳モンスターじゃないですか!だから胸のことは師匠に聞くのが一番だと思うんです!教えて下さい師匠!一体どうすれば師匠みたいになれるんですか!?」

「なにげに師匠に対して失礼だなオイ……誰が爆乳モンスターじゃい……け、結構気にしてんだぞ?師匠泣いちゃうぞ?」


 必死に懇願する私に、何故だか師匠はうっすらと涙を浮かべつつ。ため息交じりにこう話し出す。


「あのねコイコイ。まず最初に言っておくけど胸が大きくても良いことばっかりってわけじゃないんだよ?飛んだり跳ねたり走ったりする時とかとにかく邪魔だし。肩こりとかも酷くなるし。下着とかも全然サイズが合うものがなくて困ってばかりで——」

「そうい巨乳特有の自虐風自慢話はどうでも良いんで、肝心の巨乳になれる方法だけとっとと教えて下さい師匠」

「キミ、さっきから師匠に対してあんまりな扱いじゃないかなぁ!?こちとら真面目な話してんだけど!?」


 真面目な人は私の可愛い従姉妹の琴ちゃんに悪い入れ知恵をして、ラブホの割引チケットを渡したりはしないと思うんだがね。

 まあ、今はそんな事はどうでも良い。早くその巨乳のヒミツを師匠から吐かせねば。


「……わかった。この際だからコイコイに世界の真理を教えてやるとしようじゃないか」

「へ?世界の真理?」

「あのねコイコイ……キミはどうやら胸というものは大きければ大きいほど素晴らしいものだと勘違いしているようだが……それは違うんだよ」

「……と、言いますと?」

「おっぱいの大きさに貴賤無し。優劣なんて本来はつけようがないんだよ。胸が大きいから私がモテるんじゃないかってコイコイは言ってたけどさ……そんなのは関係無い。実際、私の親友とか悲しいくらい絶壁なんだけど……その子は私以上に女の人にモテるんだよ。だからね、胸とモテ度は関係ないんだぞ我が弟子よ。そんなものよりもなによりも、一番大事なおっぱいというものがある。それはね——」

「(ゴクッ)それは……?」







「——マコ、随分と面白そうな話しているわね」

「へっ?」

「えっ?」


 と、なんだか師匠がめちゃくちゃ良い話をしようとしていた……まさにその時だった。


「面白そうだからもう一度わたしにも聞かせて貰えないかしら?胸がどうたらこうたらって聞こえたんだけど」

「…………げぇ!?かっ、カナカナぁ!?」


一体いつからいたのやら。師匠の真後ろに、なんかどこかで見たことあるような……すっごい凜々しくて如何にも男装の麗人みたいな女の子にモテそうな人が現れて。そして師匠の首根っこを掴んで師匠に話しかけてきたのは。


「だーれが悲しいくらい絶壁でまな板でドラム缶みたいな寸胴ナイムネ女ですって?詳しく聞かせて欲しいわねマコ……」

「あ、あの……違…………こ、これはその……か、可愛い弟子の悩みに応えようとしただけで別にカナカナを陥れるような発言をしようとしたわけでは決して……」

「うんうん、わかったわかった。とりあえず……そっちの部屋でゆっくりとお話聞かせて貰おうじゃないの……」

「た、たたた……助けてコイコイ!?わ、我が親友の目がやばい!?師匠このままじゃ大変なことになっちゃう!?」

「ほら、とっとと行くわよマコ」

「い、いやぁあああああああああああ!!!?」


 何が何やらわからぬうちに。そのイケメン女子にズルズルと引きずられて退場してしまう師匠。

 あの様子だとしばらく師匠とは連絡は取れなくなる気がする。師匠、骨は拾ってやりますからね……


「……というか。結局一番大事なおっぱいって何だったんだろ……?」

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