90話 帰ってくるまでがデートです
楽しかった琴ちゃんとのお出かけも、これにて終了。最後にとっておきのサプライズを……と企んでいた私に襲いかかって来た突然のハプニング。
降水確率10%だったのに、狙い澄ましたかのように通り雨に見舞われて。ずぶ濡れの濡れ鼠に。見かねた琴ちゃんに連れ込まれたのは、今朝冗談で(冗談か……?)あれほど行きたいと琴ちゃんにせがまれていたラブなホテルそのもので……
「お風呂どうだった?気持ちよかった?ちゃんと温まった??」
「あっ……はい、とても温まりました……」
「何で敬語?ふふ、おかしなお姉ちゃん。とにかくお姉ちゃんが風邪を引かなくて済みそうでほっとしたよ」
冷めた身体をお風呂で温めて浴室から出た私は、妖しい光で照らされたアホみたいに広い部屋へと戻る。大画面のテレビに壁や天井に無駄に貼られた鏡。どれもこれも初体験な私は見るだけで圧倒されてしまう。
そしてその中でも一番目を引くのはまるで貴族が使っているような天蓋付きのダブルベッド。琴ちゃんはそこにまるで王女さまのように悠々と腰掛けて、私を待ってくれていた。
「……小絃お姉ちゃん?」
「ひゃ、ひゃい!?な、ななな……なんでござんしょか……っ!?」
「そんなところで立ってないで、こっちに来なよ。ほら、ふかふかで気持ちいいよこのベッド」
「は、はぃ……」
直立不動だった私に琴ちゃんは手招きして隣に座るように誘ってくる。言われるがまま恐る恐るちょこんと座らせて貰うことに。
……お、落ち着け。変に意識するな私……ここはただの緊急避難場所。意識さえしなければ私の理性もちゃんと機能する……ハズ。
「あ。濡れた服は今洗濯して乾燥機にかけてるから安心してね。……ただ、ごめんね。洗濯と乾燥で1時間はかかるみたい。すぐにお姉ちゃんをお家で休ませてあげたかったんだけど……もうちょっとの辛抱だから頑張ってね」
「あっ、はいどうも……ありがと……」
「……お姉ちゃんどうしたの?なんだか身体が震えているように見えるよ。やっぱりまだ寒いんじゃないの?部屋の温度上げようか?」
「だ、大丈夫……!?こ、これは寒いとかそういうアレじゃなくて…………そ、そう!武者震い(?)ってやつだから……っ!」
「武者震い?ふ、ふふふ……お姉ちゃん誰かと戦うの?」
ガチガチに緊張する私とは対照的に。琴ちゃんはいつも通りクールでかっこよくて、そして超絶可愛い。そんな琴ちゃんに私は逆に違和感を覚えてしまう。
「……なんか、琴ちゃん凄く落ち着いてるね」
「ん?そう?」
「うん……自分だけ意識しているみたいで恥ずかしい……」
「……ああ、なるほど」
あれだけ私をこの場所に連れ込みたいって言ってたのに。琴ちゃんは何と言うか……平常運転に見える。てっきり私、このまま美味しく頂かれちゃうんじゃないかと思ってたのに……
「お姉ちゃんは緊張してる?」
「んな、何が……ッ!?」
「緊張してるよね。ごめんね、散々お姉ちゃんとこういう場所に行きたいって言ってたら。そりゃあ緊張もするよね」
私のそんな胸の内をあっさり見破った琴ちゃんは、私を安心させるように震える私の身体をさすってくれる。
「正直に言うとさ。今すぐにでも大好きなお姉ちゃんと恋人らしい事いっぱいしたいんだ。平気そうに見える?ううん、そう振る舞ってるだけ。本当は……今すぐにでもお姉ちゃん押し倒したい。お風呂上がりのバスローブ姿とかたまらないし、真っ白なお姉ちゃんの肌がほんのり桃色になってるところとか舐め回したいし。ラブホテルに初めてで戸惑っているウブなところとか誘ってるの?って言いたくなるし」
「しょ、正直だね……」
「でもさ、朝も言ったけど私も一応は段階を踏みたいとは思っているんだよ。もうちょっとムードある感じで、こんな事故みたいな……不意打ちみたいな感じじゃなくてさ」
夢見る乙女のような顔で、琴ちゃんは大真面目にそう告げる。
「お姉ちゃんと最高に素敵な思い出を残したいって思ってる。だから……誓うよ、ここでは私我慢する。ちゃんと相応しい場所で、相応しい時に告白して。ちゃんとOKを貰ってからお姉ちゃんとそういう事するんだ」
「……琴ちゃん」
琴ちゃんのその宣言に、私はちょっとでも琴ちゃんを軽快してしまったことを恥じる。
…………ついさっきもそんな感じの事を言われて。結局琴ちゃんに試着室で襲われたけど、それはまあ置いておくとして。
「……ごめんよ琴ちゃん。私……琴ちゃんの事をまた誤解しちゃってたわ」
「大丈夫大丈夫。今日だけでも2度ほどお姉ちゃんとやらしいことしちゃってたわけだしそう思われても仕方ないもんね。3度目の正直で、今度こそ我慢するから安心してね」
「了解。信じるよ琴ちゃん」
琴ちゃんがここまで宣言したんだ。それを信じないで何が琴ちゃんのお姉ちゃんか。……よし、当面の危機は去ったと思って良いだろう。後は私が場の雰囲気に飲まれて琴ちゃんに絶対に手を出さぬように鋼の意思を持って接するだけだ。
「どうお姉ちゃん?緊張、少しはこれでほぐれたかな?」
「お陰様で。……いや、依然としてラブホにいるこの状況には慣れるのは難しそうだけどね。今更だけど琴ちゃんはこういう場所とか平気なんだね。……も、もしかしてこういうところ来たことあったりとか……」
「やだなぁ、ないよそんなの。当然、私も今日が初めてだよ。ここにはお姉ちゃんと一緒に行くんだって決めてたし。……あー、でもコマ先生とかマコさんたちから色々と話は聞いてたから緊張はしてないかな」
「……師匠たちは琴ちゃんに何を教えているのやら」
「場所の雰囲気とか、ここでの作法とか。……お姉ちゃんも聞きたい?」
「…………遠慮する」
あのちっちゃくて純真無垢だった妹みたいな存在の琴ちゃんの口から、まさかラブホのアレコレを聞かされる羽目になるなんて10年の時は残酷だわ……いや、まあ大人になったって事だし別に良いんだけどね。な、なんかそういう意味でもドキドキする……背徳感が凄い。
「それに今回は女子会プランで入ったからね。エッチな事が目的じゃないってわかってるから緊張とかは全然しないよ」
「女子会プランかぁ……10年前くらいだと同性同士で入るのは禁止とかあった気がするけど、時代は変わったなぁ……」
「今時は普通だよ。ほら、折角だしお姉ちゃんも女子会らしくハニートースト食べよ」
いつの間にか注文されていたでっかいトーストに蜂蜜をぶっかけた代物を、琴ちゃんにまたしてもあーん♡される私。他の人の目が合ったさっきのレストランと違って、ここでは琴ちゃんと二人っきりだから甘んじてあーん♡を受け入れる。
と、琴ちゃんに食べさせて貰いながら私は、琴ちゃんのいつもの良い香りとはまた違った匂いが琴ちゃんから発せられている事にふと気づく。……あれ?なんだろうこの香りは……
「……琴ちゃんから不思議な香りがする」
「あ、わかる?ちょっとお試しにさっき香水店で勧められて買った香水を付けてみたの。……ちょっぴり癖が強いらしいから苦手な人もいるって聞いたけど……ど、どうかな?お姉ちゃんはこの香り嫌じゃない?」
そういや香水店から逃げ出す前に一つおすすめされた香水を買ったんだった。改めて目を瞑って琴ちゃんの香りを嗅いでみる。何と言うか……土っぽい甘い香りが琴ちゃん固有の香りと混ざっている。確かに独特な香りだけど……
「ん。大丈夫そう。私はこれ嫌いじゃないかも。寧ろ……気品があって良い感じかも」
「それは良かった。なんでも身体の余分な水分を外に出したり、気分を落ち着かせたり。後は虫除けにも使えるんだって。お姉ちゃんも良かったら付けてみる?」
「私?んー……琴ちゃんが嫌じゃないなら付けてみてもいいかな」
「良かった、これでお姉ちゃんに寄ってくる悪い虫も除けられるね」
「いや虫除けって言ってもそっちの効能はないんじゃないかな……そもそも悪い虫とか私には寄らないと思うんだがね琴ちゃんや」
そんな事を言いながら不思議な香りのする香水を付けてみる。自分から琴ちゃんと同じ香りがするって思うと胸が高鳴るなぁ……
いや、勿論琴ちゃんの方が良い香りするんだけどね。でもほら、好きな人と同じ匂いがするって……なんか、良いよね。
「ど、どう?変な匂いとかしない?」
「……ううん、素敵。素のお姉ちゃんの香りが大好きだけど……これもお姉ちゃんの香りが混ざって素敵だと思う。……えへへ、お揃いだね」
「う、うん……」
言われるがまま付けて、その匂いを琴ちゃんに嗅いで貰う。……なん、だろう?なんか……クラクラする。今付けた香水は気分を落ち着かせる効果があるらしいけど……おかしいな、ドキドキがさっき以上に収まらないような……?
香水の香りと琴ちゃんの香り、ついでに自分の香りが混ざり合い溶け合って部屋中にふわりと漂う。そしてその香りは私の鼻孔を刺激して私の脳を霞ませてる。
「小絃、お姉ちゃん……?」
「あ、ごめん……なんでもない……ちょ、ちょっとぼーっとしてた……」
「だいじょうぶ?疲れたんじゃ……」
「へ、平気平気!それよか、ほら!このなんちゃらトーストってやつ琴ちゃんも食べよう!はいっ!今度はこっちがあーん♡だよ!」
「わ……お姉ちゃんからしてくれるなんて珍しい。嬉しいなぁ……あーん♡」
呆けた頭をぶんぶん振って意識を戻す。流石にこんな長時間外に出たのは久しぶりだったしちょっと疲れたのかな。だったら琴ちゃんにそれを悟られるわけにもいかない。余計な心配はかけたくないし、なんでもない事をアピールする私。
「いやぁ、にしてもここ凄いよね。ラブホ女子会プランだっけ?最近の子たちはこんなところで女子会やるんだね」
「そうだよー。人目も気にしなくて良いしお泊まりするなら終電とかも気にしなくて良いし。カラオケとか映画鑑賞とかも出来るし。こういうハニートーストみたいな飲食店顔負けのスイーツとかランチも楽しめちゃうからね。ここで女子会をしたりお誕生日会とかも出来ちゃうんだって」
「下手な宿泊施設よりも凄いなぁ……」
なんて感心しながら私は、ちょうど良いタイミングで琴ちゃんから『お誕生日会』というワードが出てきたことに内心やった!とガッツポーズ。危うくラブホ騒動のせいで目的を忘れちゃうところだったけど……ちゃんと今日のお出かけの一番の目的を果たさなきゃね。
「ところで琴ちゃん。お誕生日会がどうとか言ってたけど……琴ちゃんは私が眠りこけてた10年の間お誕生日会はやっぱり琴ちゃんのお父さんとお母さんとやってたのかな?」
「……うん、まあね。二人に祝われてた感じ。お姉ちゃんが事故に遭う前は……お姉ちゃんが毎年必ず盛大にお祝いしてくれてたから……少し寂しさがあったけど」
「あー……ご、ごめんね琴ちゃん。呑気に眠っちゃってて……」
「ううん!お姉ちゃんが謝る必要なんてないよ、お姉ちゃんが悪い事なんて何一つないもん。……それにね」
「ん?それに?」
Pi!
『はっぴばーすでーこーとちゃーん♪はっぴばーすでーこーとちゃーん♪はっぴばーすでーでぃあ琴ちゃーん♡』
Pi!
「——この通り。昔お祝いして貰った時にお姉ちゃんの声をちゃんと録音してたからね。これを毎年欠かさず私のお誕生日の時に流して寂しさを紛らわしてたから全然大丈夫だよ」
「これいつの!?いつ撮ったやつ!?」
スマホから聞こえてきたのは昔の私の琴ちゃんに贈ったであろう誕生日ソング。こんなものを本人のいない10年もの間、音瀬家で毎年流されていたという事実に私は思わず頭を抱える。恥ずかしいって……レベルじゃない……!そして琴ちゃんの10年分の愛が重い……
「それで、お誕生日がどうかした?お姉ちゃんのお誕生日はまだまだ先だよね?勿論私もだけど……」
不思議そうに首を傾げる琴ちゃん。い、いかん……怯んでいる場合じゃない。気を取り直して本題に移らなくては。
「その、さ……私って10年も琴ちゃんのお誕生日をお祝い出来てなかったよね」
「お姉ちゃんが生きてくれているだけで、私に取っては最高のお祝いだったけどね」
「それに加えて……私ってば目覚めるまでの10年間……ううん、目覚めてからも今に至るまでずっと琴ちゃんにお世話になりっぱなしだった」
「お姉ちゃんのお世話することが、私に取っては至高の喜びだよ。……それで、それがどうかしたの?」
「だ、だから……その…………は、はいこれ!」
「……え」
雨に濡れないようにと必死に守り……そしてサプライズが成功するようにとお風呂の時もバレないようにこっそり浴室に隠しておいたブツを琴ちゃんの前に差し出す。
「これ……指輪……?」
「さっきの……アクセサリーショップで琴ちゃんが良いなって言ってたから……え、えっと。とりあえず……ハッピーバースデー琴ちゃん!」
ついさっきトイレに行くフリをして買いに行ったエメラルドの指輪を、10年間言えなかった言葉と一緒に琴ちゃんに贈る私。これには流石の琴ちゃんも目を白黒させて驚いてくれている模様。
「え、え?……で、でも……なんで……私のお誕生日はまだ……」
「知ってる。だからこれは……お祝い出来なかった10年の内の一つ」
「あ……」
「ごめんね。待たせちゃって。ずっとさ、琴ちゃんに10年お待たせした分のお祝いしなきゃなって思ってたんだけど中々機会がなくてね」
「もし、かして……今日私と……デートしたいって言ってくれたのは……このため……?」
「あ、あはは……ゆ、指輪にするかネックレスにするかブレスレットにするか。いろいろ迷ったんだけどね。いずれにしても琴ちゃんが一緒に来てくれないとどれが良いのかわからないし……それに」
そこまで言って私は琴ちゃんの手を取って。
「それに。一緒に来て貰わなきゃサイズがわかんないもん。ぴったり合うものを選べないでしょ」
「…………」
そっと指輪をはめてあげた。琴ちゃんの右手には、琴ちゃんの綺麗な瞳と同じエメラルドの指輪がぴったりとはまっていた。
左手に付けてあげたいところだったけど。それは私がちゃんと琴ちゃんと対等の立場になってから。これはあくまでお誕生日のプレゼントだし、そもそもこんな安物の指輪じゃそういう意味の指輪にはならないからね。
「あまりにお祝いが遅くなっちゃったし。そのお詫びも兼ねて程よい値段のアクセサリーをって思ったんだけど……ちょ、ちょっと重かったかな?だ、大丈夫だよ!大したお値段じゃない安物だし……」
「……」
「ご、ごめんねそんな安物で。勿論この程度で10年の埋め合わせは出来ないってわかってるんだよ?こ、これはあくまでさっき言った通り10年の内の一年分って感じだから!今度また別の贈り物を用意するから!」
「…………
「き、気に入らなかったら外してもいいし売ってくれても良いし、大事なのは琴ちゃんおめでとうの気持ちを受け取って欲しいだけで——」
「小絃お姉ちゃん」
「わ、わわっ!?」
と、慌てて補足するように色々とまくし立てていた私に。琴ちゃんは突然に私の名を呼び私を抱きしめる。勢い余ってそのままベッドの海に沈んでしまった。
「ど、どうしたの琴ちゃん……?や、やっぱ気に入らなかった?怒ってる?」
「お姉ちゃん、それ反則」
「へ?」
反則?なにが?琴ちゃんの言動にどういうこっちゃと首を傾げながら。馬乗りになって私を見下ろす琴ちゃんの顔を見てみる。
「……フーッ!フーッ!フゥウウウウウ……!!!」
「(あかん)」
そこには一匹の美しいケダモノがいた。
「だめ、だよ……こんな。だめ……我慢なんてできない……お姉ちゃんが悪いんだよ……頑張って耐えてたのに……何を言われても何をされても、今度こそ我慢しようって思ってたのに。……こんなに私を悦ばせて……こんな、こんなに……ッ!」
「こ、琴ちゃん……琴ちゃん!ストップ、ストップだ!き、気をしっかりもって……!正気に戻って……!」
「無理」
「即答!?ま、待って!待つんだ琴ちゃん!だ、段階を踏むって話は!?もうちょっとムードがある時にって話だったはずでは!?」
「……だいじょうぶ……だいじょうぶよ小絃お姉ちゃん。お姉ちゃんに、プロポーズされたから。指輪をくれたって事は……プロポーズされたようなものだから……だから大丈夫……私たちは今から将来を誓い合った伴侶だから大丈夫……っ!」
「だ、大丈夫じゃなぁあああああいいい!!??」
「お姉ちゃん、お姉ちゃんお姉ちゃん…………小絃おねえちゃぁあああああん!!!」
目は虚ろに、頬は赤く染まり。蕩けた表情で荒く息を吐き。私の身体の上にのしかかった琴ちゃんは、勢いよくバスローブをはだけさせる。その勢いのまま露わになった肌に唇を這わせる。
むず痒さと気持ちよさがブレンドした感覚が私の身体中を走り、これは自分のものだと主張するように身体中の至る所にキスマークを付けられて。その度に甘い香りと甘い痺れに襲われて——そして。
「…………あ……っ」
◇ ◇ ◇
「——んで?結局小絃はそのまま琴ちゃんに美味しく初体験を頂かれたって事でOK?」
「ギリギリ未遂だよ!!!チューもしてないし入れられてもいないから!!!そこんところ間違えてもらちゃ困るんだけど!!!??」
その……イロイロあったけど、どうにかこうにか無事に戻ってきた私は。いつものように紬希さんを引き連れて遊びに来やがった暇人あや子に先日のデートの報告をしていた。
「くそぅ……えらい目にあった……まさかよりにもよって買った香水に……媚薬効果があったなんて……なんてものを購入させるんだあの店員さんは……」
「小絃、小絃。そこはえらい目じゃなくて——エロい目あったって表現するのが正しいんじゃないの?」
「やかましいわ!?」
あや子のアホをどつきながらため息を吐く。あの後何かがおかしいと調べてみたら……香水店で購入した例の香水の効果には『媚薬』作用まであったんだとか。道理で琴ちゃんも……私も。いつも以上に興奮が抑えられないわけだわ……
…………お前と琴ちゃんが興奮しているのは香水関係無くいつもの事だろうって?気のせい。
「でも良かったじゃない小絃」
「……何がさ」
「本来の目的は果たせたみたいじゃない。てっきりあんたの事だし肝心なところでヘタレるとばかり思ってたけど、やる時はやるのねあんた。ほんのちょっとだけ見直したわ」
「ッ……!」
面白そうに笑う悪友の言葉にたじろぐ私。
「な、何のことさあや子」
「とぼけないで良いわよ。指輪、渡せたんでしょ?」
「…………言ったっけ?琴ちゃんに指輪渡したいって」
「琴ちゃんのあの様子を見れば誰でもわかるわよ。そもそもあんたの言動からバレバレだしね」
そう私をからかいながら言うあや子の視線の先には琴ちゃんと紬希さんがいて。
『えへ、えへへ……指輪……お姉ちゃんの、プレゼント……♡』
『ふふふ♪琴ちゃん嬉しそう。それが小絃さんから貰った指輪?』
『うん……っ!お姉ちゃんがね、私の為に一生懸命選んでくれたの!私の為に買ってくれたの!』
『良かったね。琴ちゃんにとってもよく似合ってるよ』
『ありがと!…………えへっ、えへへへへぇ……♡』
うっとりと私が渡した指輪を見つめながら、琴ちゃんが紬希さんに惚気ていた。そしてその姿を見ながらニヤニヤとあや子のアホが私を肘で突っついてくる。……これは、当分の間このアホに弄られるのを覚悟しなきゃならないようだ。
…………まあ、良いけどね。琴ちゃんがあんなに幸せそうならあや子からからかわれるくらい大目に見ようじゃないか。
「それにしてもさ、小絃。ちょっと気になった事があるんだけど一つ良いかしら」
「……何?まだ何かあるの」
「いや、どうでも良いんだけどさ。今回あんた琴ちゃんにプレゼントしてやったのよね」
「そんなの見りゃわかるでしょ」
「それってあんたのお小遣いで買ったわけよね」
「そうだけど……だからそれが何?」
さっきから回りくどい質問ばかり。何が言いたいんだこのアホは?そう首を傾げる私だったんだけど。次の瞬間、あや子は私に衝撃の一言をプレゼントしてくれた。
「いやー。それなんだけどさ。——そのお小遣いって、元を辿れば琴ちゃんから貰ってるお金なのよね?つまり琴ちゃんから貰ったお小遣いで、琴ちゃんにプレゼントをして琴ちゃんに喜んで貰うとか……ますますヒモが板に付いてきたなーって思ってさ」
「ゲフッ…………!?」
「いよっ!世界一のヒモ女!羨ましいぞー!」
「ヒモって言うなぁ!!!?」
……や、やっぱ今度バイトするなり何なりして自分で稼いでから。改めて別のものを琴ちゃんに贈ろうそうしよう。ヒモは、ヒモになるのだけは嫌だ……!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます