88話 お姉ちゃんと楽しいデート(アクセサリー編)
「……絶対変に思われた……あのランジェリーショップにはもう二度と行けない……」
琴ちゃんに私ぴったりの下着を選んで貰い、そのついで感覚で試着室にて(いつものように)琴ちゃんに襲われて……汗とかその他諸々で汚しちゃった下着を急いで購入し、逃げるように琴ちゃんを引き連れてランジェリーショップを後にした私。
「大丈夫だよお姉ちゃん。ほんのちょっとスキンシップしただけじゃない。本番はしてないからセーフだよ」
「ほんのちょっと……?スキンシップ……?」
あれだけ大暴れした琴ちゃんは(やけに艶々した顔で)しれっとそんな事を言う。何をもってセーフ基準になるのかわからんが、琴ちゃん的には試着室のあれやこれやは恋人同士がやる軽いじゃれ合い感覚だったらしい。
がっつり抱きしめられて全身の匂いを嗅がれて全身を舐められて全身にキスマークを付けられてたんだけど……ほんのちょっととは一体……?
「それに……お店に関しても大丈夫だよ。何を隠そうあのお店は私の職場のお得意さんだからね。後で私から事情を説明しとくよ。『お嫁さんと試着室でついイチャイチャしちゃったけど、それは取り扱っている下着がとても魅力的だったからなんです。今度とも変わらぬご愛顧を賜りますようお願い申し上げます』ってね」
「余計に行きづらくなるんだけど……!?」
それだけはやめて貰うように琴ちゃんにはお出かけが終わったら口を酸っぱくして言い聞かせよう。下手したら琴ちゃんも琴ちゃんの会社も大変な事になりかねない……
「それよりほらお姉ちゃん、アクセサリーショップがあるよ。お姉ちゃんにぴったりの下着も選んだわけだし、それに合うようなアクセサリーも折角だから選んじゃおうよ」
「……そうね」
普通アクセサリーって下着じゃなくて洋服とかに合わせるものじゃないのかね琴ちゃんや……?と、そんなツッコミを心の中で入れつつも。ある意味今日一番来てみたかった場所へ辿り着いた私はランジェリーショップの向かいにあるアクセサリーショップへ琴ちゃんに誘われるがまま入り込む。
「おぉ……輝いてる……」
ネックレス、ピアス、ヘアピン、ブレスレット。女の子たちが憧れるアクセサリーが鎮座するこの場所は、アクセサリーは勿論店員さんやお客さんたちも心なしか光り輝いて見える。
普段こういう煌びやかなお店には縁がないっていうか、あや子曰く女としての終わっているらしい私には場違いっていうか……とにかくあまり入った事のない場所だけにちょっぴり居心地の悪さを感じちゃうわ……
「わぁ……素敵!こんなにいっぱいあったら目移りしちゃうよねお姉ちゃん!」
そんな私とは逆に、こういう場所が誰よりも似合う琴ちゃんは嬉々として店内を見て回っている。正直アクセサリーの良さとか付ける楽しさとかはわからんが、こんな風に小物とか洋服とかを楽しそうに選ぶ琴ちゃんを見るのは昔からとっても楽しいね。これだけでここに来た甲斐があるわ。
……おっといかんいかん。琴ちゃん鑑賞するのも良いけど。ここに来た本来の目的もちゃんと果たしておかなきゃね。
「ね、ねっ!小絃お姉ちゃん。お姉ちゃんはどんなアクセサリーが良い?どれを付けてみたい?」
アクセサリーよりも輝く笑顔でそう問いかけてくる琴ちゃん。ちょうど良い機会だ。ここでちょっと情報収集しておくとしようか。
「あー……その。ごめんね琴ちゃん。私こういうお店……っていうかアクセサリー自体にはあんまり興味がなくてさ」
「あ、うん。知ってる。昔からそうだったね。お姉ちゃんってアクセサリーなんか付けなくても輝いているからアクセサリーの方が霞んで見えちゃうし、アクセサリーに興味を持てないのも仕方ないよね」
何やら謎理論を論じながら自分でうんうんと頷いている琴ちゃん。色々言いたい事はあるけどとりあえず置いておくとしてだ。
「だ、だからさ琴ちゃん……その、何と言ったら良いか……お願いがあるんだけどさ……」
「なあに?何でも言ってよお姉ちゃん」
「こ、琴ちゃんが貰って嬉しいものを……お姉ちゃんに教えて欲しいなー……なんて」
「え?私が貰って嬉しいもの?…………なんで私?」
私のそんな一言に首を傾げる琴ちゃん。いかん……これはいくらなんでも露骨すぎた……慌てて誤魔化してみる私。
「い、いやほら!さ、参考までに教えて貰いたいなって思ってね!琴ちゃんってセンス良いし、琴ちゃんが欲しいって思うものを選んだら間違いないかなってね!?」
「ああ、なるほど。んー……私もそこまでセンスが良いってわけじゃないけど……でも、うん。参考になるかわかんないけどお姉ちゃんの頼みだもんね。頑張って選んでみるよ!」
「う、うんありがとね……」
とってつけたような話だったけど琴ちゃんは納得してくれたようだ。良かった……出来ればサプライズ的な感じにしたいのにド直球過ぎてバレたかと思ったわ。
ほっと胸を撫で下ろす私をよそに、琴ちゃんは真剣にアクセサリーを選び始める。
「そうだね、私が貰って嬉しいものってなると……こういう定番の指輪とか」
「なるほど指輪ね。琴ちゃんの言うとおり誕生日とか記念日とかのプレゼントの定番だよね」
「あとこういう腕輪とか」
「腕輪……ああ、ブレスレットの事ね。銀色に光る冷たくて拘束も出来ちゃう鍵付きのブレスレットとかお洒落だね。まるで手錠みたいだ」
「あとはこういう首輪とか!」
「首輪……ネックレスね。へぇー……リード付きのネックレスなんて初めて見たなぁ。これじゃまるで本物の……首輪みたいな……」
…………あれ?
「……ちょっと、待ってくれるかな琴ちゃん。指輪はともかくだ、ブレスレットとネックレスってなんかおかしくないかなこれ……!?」
「え?何が?」
「何が、じゃなくてだね!これガチの手錠と人間用の首輪じゃないのさ!?なんでこんなものがここにあるの!?ここアクセサリーショップじゃなかったの!?」
何の店だよここは!?SMショップか何かか!?何でこんなものを平然と売ってるんだよ!?そしてそれを平然とチョイスする琴ちゃんも何なんだよ!?
「琴ちゃんはこんなの貰って嬉しいの……?普通こんな危なげなものをプレゼントとして貰ったら引かない……?」
「そう?まあ知らない人から貰ったら流石に引くけど……もしもお姉ちゃんに貰えるならこういうの欲しい!お姉ちゃんから束縛されたいし♡」
「…………ちなみに。さっきの三つから選ぶとしたら、一番はどれが良いの?」
「首輪!」
「首輪かぁ……」
何の汚れもない純粋な瞳でハッキリ言い切る琴ちゃんに思わず頭を抱える。どうしてその三つからチョイスして一番ヤバそうな首輪を選ぶんだ君は……いや、確かに琴ちゃん忠犬みたいな感じだし首輪も似合いそうではあるんだけどさぁ……
ちょっと想像してみる。首輪を琴ちゃんの首に付けて四つん這いにさせて、そして夜道を散歩させる私。誰かに見られるかもしれないという羞恥に頬を染めながら、人間の尊厳を踏みにじる屈辱を味わわされて……それに悦びを感じる琴ちゃんは媚びるように私の足下に擦り寄ってきて……そのまま夜の公園に着いたらそのままお座りとかお手とかさせちゃったりして——そんなの、そんなのって……!
「(ボソッ)ちょっと……いい、かも……」
「お姉ちゃん?」
「…………ハッ!?い、今私何を……!?」
一瞬変な気持ちになりかけて、全力で目覚かけた邪心を振り払う。わ、私なんて最低な事を……そ、想像の中であっても琴ちゃんに酷い事なんてしたくないのに……!
「や、やめよう首輪だけは……なんか色々と危険な匂いがするし……」
「そう?だったらこっちの腕輪を——」
「出来ればその
「むぅ……残念」
私に全力で拒絶されて心底残念そうな琴ちゃん。琴ちゃんは私に一体何を求めているんだとちょっとだけ不安になった。
「じゃ、じゃあ選ぶなら指輪って事だね。それで……琴ちゃんが欲しいって思う指輪ってどれ?」
「ふーむ……そうだね。どれも素敵に見えるけど……これとか凄い好きかも」
「え?これ?」
そう言って琴ちゃんが指さしたのは、何の変哲もない指輪。中央に小さなエメラルドがはめ込まれている以外は特に特徴のないお値段もお手頃な指輪だった。
琴ちゃんならもっと高価そうでもっと派手なやつでも似合いそうなのに……
「本当にこれが良いの?ちなみに決め手はなんなのかな?」
「これが一番好きだよ。だってこれ……お姉ちゃんの瞳の色だもん」
「ふぇ……?」
そう言われてもう一度指輪を見返してみる。……言われてみれば確かに。輝く淡い緑は私の瞳の色。そして従姉妹である琴ちゃんの瞳と同じ色。
「この指輪を見てると……お姉ちゃんの瞳を思い出して。ドキドキしちゃうだろうなって思うんだ。だから……もしも貰えるならこの指輪が欲しいかな」
「なるほど……」
そう言われてみると途端に私もこの指輪が欲しくなってくる。これを付けてたらいつでも琴ちゃんと一緒に居られる感じになれそうだよね。仮に琴ちゃんがお仕事とかお買い物でお外に出ていても、ずっと側に居られる感覚になれそうで確かに良さそうだ。
「どう?参考になった?」
「へ……?参考って……何が?」
「???何がって……お姉ちゃんのアクセサリーを選ぶ為の参考に私が欲しいと思うアクセサリーを聞いたんだよね?違ったっけ?」
「あっ……あ、ああうんそうそうそうだった。あ、ありがと琴ちゃん。とっても参考になったよ」
「えへへ、それは良かった。それじゃあこれを踏まえてお姉ちゃんに合うアクセサリーを選んじゃおうね!お姉ちゃんにはどんなアクセサリーが良いかなぁ」
私へのアドバイスも終わったところで再び私に合いそうなアクセサリーを楽しそうに物色し始める琴ちゃん。
「(……値段はそこそこ。手持ちを考えるとかなりギリギリだけど……買えないこともない。よし……じゃああとはいつバレずに買うかだけど……)」
そんな琴ちゃんを眺めながら、私はこっそりとある決断をしていた。
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