番外編 双子たちの壮大で偉大な活動記録

 琴ちゃんとコマさんの誤解が解けたその日の夜。迷惑掛けたお詫びにと、マコ師匠のお家にお泊まりさせて貰うことになった私と琴ちゃんだったんだけど……


「……うーむ」

「えと……コイコイ?キミは一体、さっきから何をしているのかね?」

「小絃さま?マコ姉さまと私の顔に何か付いてたりしますか?」


 私と琴ちゃんにお料理を振る舞うと言って、仲睦まじく料理を始めた双子姉妹をぼーっと見ていた私。その視線が気になったらしい師匠たちの指摘を受ける。いかん、ジロジロ見すぎるのは失礼だったね。


「……小絃お姉ちゃん。やっぱり…………マコさんやコマ先生の事が気になるの……?私みたいな小娘よりも、マコさんみたいにお胸がおっきかったり……コマ先生みたいな美人さんの方が良かったりするの……?もしそうなら——」

「おっと琴ちゃんストップだ。これ以上話をこじらせて修羅場回パート2とかは無しにしよう。と言うか、全然違うから。だからその殺気はしまうんだ今すぐに」


 一瞬病みモードに入りかけた私の隣に居る琴ちゃんを必死に宥める。折角誤解が解けたというのに、また新たな爆弾を点火されたらお姉ちゃんの命がいくつあっても足りないわ……


「んで?話戻すけどさ。なんでコイコイは私たちの事穴があくくらい見つめていたのさ?そりゃコマが激可愛いすぎて胸打たれて見惚れちゃうのは無理ないけど」

「小絃さま……うちのマコ姉さまが美しすぎて目を奪われるその気持ちは痛いほどわかりますが、それでも姉さまは私のなので……そんなに見つめられると色々困ってしまうのですが……」

「だから違うんですって。そっちまで話をややこしくしようとしないでください。……いや、そうじゃなくてですね。前々から思ってたんですが。私、マコ師匠もコマさんも……どっかで見たことがあるような気がするんですよね」


 マコ師匠に出会った時からなんとなく思っていた事だけど。何故か初対面だったにもかかわらず師匠に既視感があった。出会ってないのにどこかで見覚えがあるような、そんな不思議な感覚を抱いていた。今もコマさんと並んで仲良ししている師匠を見ると、その既視感がより鮮明なものになってしまっていて……


「なんじゃそりゃ?見たことあるって……私たちとコイコイってどっかでニアミスでもしてたって事?」

「そうなんですか?ですが少なくとも私は、小絃さまと出会うのは今日が初めてだと記憶していますが……」

「私もそう思うんですけど……でも思い出せないんですが、どこかで二人の事を見た覚えがあるんですよね……」


 うーむ、どこで見たんだっけか。こんなに特徴のある二人だし、一度見たら普通は絶対に忘れないと思うんだけど。ハテ……?


「ああ、なんだそういう事か。そりゃ見たことあるはずだよお姉ちゃん。だってコマ先生たちってだもん」

「え?」


 と、頭を悩ます私に対して。琴ちゃんはこともなげにそう言ってきたではないか。有名人?師匠たちが?


「確かにマコ師匠はお料理の先生で、テレビとかにも出てるらしいけど……でも琴ちゃん?私、マコ師匠に会う前は料理番組とか積極的に見たりはしてなかったと思うんだけどな」

「んーん。勿論そっちの意味でも有名人だけどそうじゃなくてね」

「じゃなくて?」


 コマさんって琴ちゃんと同じくらい超が付くくらいの美人さんだし、ひょっとしてテレビに出るようなアイドルだったりするのだろうか?なんて呑気に考えていた私に対し、琴ちゃんはこう続けてくれる。


「この二人、『日本での同性婚を認めさせた』っていう偉業を成し遂げた有名人だし」

「…………え」


 同性婚を、認めさせた……?琴ちゃんの一言で。瞬間、脳裏にある記憶の泉よりとある映像が湧き上がってくる。そうだ、あれは確か——


『ちょうど小絃が事故ったすぐ後くらいかなー?すっごい綺麗な女の子たちがね、『同性婚を認める社会へ』ってテーマで活動をはじめたのよね。随分大きな運動で、社会現象が巻き起こったわ。……ええっと、はいこれ。これがその時の映像ね』←『5話 知らない常識非常識』参照


 10年眠り続けた私が目覚めて少し経ったある日……母さんに見せられた動画。そこには綺麗な双子たちが懸命に運動を起こしている姿が映っていた。『好きな人同士で結婚出来る社会を!』と、声高らかに呼びかける美少女姉妹……そんな映像が流れていた。その双子は、あろうことか目の前のこの美人な双子姉妹にうり二つで……

 そうか……思い出した、思い出したぞ……ッ!?


「……あんたらか、元凶は……!」

「んー?なんだねコイコイこの手は?痛いじゃないか」

「あ、あれ?そんなに青筋立てて、どうなさいましたか小絃さま?私たち小絃さまを怒らせるような事を何かしちゃいました?」


 思わず双子たちの胸ぐらを掴んで批難の視線を浴びせる私。ああ、そりゃ有名人だわ。色んな意味で。

 まさかこんなところで元凶たちに出会えるとは思わなかった。こやつらのせいで私が……どれだけ大変な事になっているか……!


「(例えば琴ちゃんに迫られたり琴ちゃんに押し倒されたり琴ちゃんにプロポーズされたり……!)」


 せめて私が目覚めるまで活動起こすのは待っていて欲しかった……!そうすりゃ私だって心の準備ってものがだね……ッ!


「いやぁ、それにしても懐かしいねぇコマ。そういう事もやってたよねー」

「そうですね。目を閉じれば今でも鮮明に思い出せます。ヒメさまやかなえさまと共に、社会を革命しようと戦ったあの日あの時の事を」

「大好きな人と正式に結ばれる事を夢見て……どれだけ辛くても必死になって戦ったよね。時間はかかったけど、少しずつ認められて……実を結んだ時は本当に嬉しかったよね」


 静かにキレるそんな私をよそに。胸ぐらを掴まれたまま双子たちはしみじみと何やら思い出話に花を咲かせる。


「あの頃のお二人の活動は凄かったですよね。幼いながらにハッキリと覚えています。そっちの意味でも私、お二人は尊敬していますしとても感謝しているんです。マコさんとコマ先生の頑張りのお陰で……私、大好きな人を大好きだって皆に自慢できますもん」

「あはは。そんなお礼を言われるような事じゃないよ琴ちゃん」

「ふふふ……ですね。社会の変革を!なんてあの時は大それた事を言っていましたが。結局は私たちは私たちの為に活動していたわけですから」

「……むぅ」


 そこに琴ちゃんも入り込み、和気藹々と話す美人トリオたち。彼女たちを横目にしながら思う。……まあ、この人たちに色々言いたい事は山ほどある。でも……確かに琴ちゃんのいうとおり、尊敬すべき人たちなんだよね。

 大好きな人と正式に結ばれる事を夢見て、か……その想い一つで社会を変革させることがどれだけ凄いことか。私にとってはついこの間に思える10年前を考えると……なおのこと……


「「……まあ、ただ。同性婚を認められたのは良かったけれど」」


 と、そこまで朗らかに話をしていた双子たちは。急に顔をしかめハモらせながらこう告げる。


「けれど、なんです?」

「いやぁ……あの活動ね。実言うと私たちにとって、一つ大きな課題が残っててね」

「ええ、不覚でしたよ。迂闊でした……あんな罠があるなんて」

「……なにか問題でもあったんですか?」


 課題?罠?何のことだろう?首を傾げる私の前で。二人は小さく涙をこぼして——


「「同性婚は認められたけど、まさか今まで通り……ッ!!」」

「……あー」


 魂の雄叫びを轟かせた。ああ、うん……そっか。そこまでは変革出来なかったんですね……


「お陰で未だに私たち、正式には婚約出来ずじまいよ。勿論内密に結婚はしたんだけどねー……どうせならちゃんと認められたいじゃん?」

「同性婚を認めさせる活動に手を貸していた多くのメンバーも。近親婚を認めさせる活動には結局ヒメさま以外はほとんど参加してくれませんでしたからね……本当に、かなえさまたちも現金な人たちですよ。『手を組むのはここまでよ。恋敵コマちゃんに有利になるような活動にまでこのわたしが手を貸すかっての』なんて……酷い女ですよ全く」

「ま、私たちは諦めないけどね!いつの日か……必ず私とコマの結婚を世間に認めさせてやるんだから!」

「ええ、勿論です姉さま!例え味方が姉さま一人になったとしても、絶対に二人の幸せを勝ち取ります!」

「その意気です、感動しました!私、応援してますマコさん。それにコマ先生!」


 力一杯私たちの前で己が信念を宣言するマコ師匠とコマさん。そしてそれに感化され、拍手なんかしちゃう琴ちゃん(かわいい)。

 壮大で無謀とも言える社会変革活動を企てる彼女たちだけど……なんでかな。この人たちならどんなに困難だろうとも成し遂げそうって思えてくるわ。まあ、なんだ。私も陰ながら応援だけはしておきますね。







「あ、ちなみにだけど。私たち双子とは違って……従姉妹同士は今でも普通に婚姻可能だから、その辺は安心して良いよ。つまりいつでも琴ちゃんと結婚出来るって事!やったねコイコイ!羨ましいぞっ!」

「…………やったね、じゃねーです……」

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