82話 和解、そして妹同盟結成
師匠たちの親友、そして琴ちゃんの上司で皆の理解者さんなだけあって。麻生さんのアドバイスは実に的確だった。何を言っても止まらない、止められないガチバトル中の琴ちゃんと師匠の妹さんも……麻生さんに教えて貰った魔法の一言を唱えればであら不思議。一瞬にして彼女たちを戦意喪失させ、見事に喧嘩を止めてしまった。
「コマ、コマぁ!?い、息してなくない!?大丈夫なの!?」
「琴ちゃん、琴ちゃぁあああああん!?目を開けて、しっかりしてよぉ!?」
「「…………」」←死屍累々
……ついでに二人の息の根までも見事に止めてしまっていた。
「よし、無事に二人を止められたね。良かった良かった」
「よかねぇよ!?これのどこが無事だと!?誰がかわゆい私のコマの息の根まで止めろと言ったヒメっち!?」
「あ、麻生さん!琴ちゃんが、琴ちゃんが大変な事に!?い、急いで救急車を……!?」
慌てふためく姉二人に対し、麻生さんは平然とこう返す。
「大丈夫大丈夫。ちゃんとこの後の処置の方法も大体わかってるからさ。とりあえず二人とも、
「「りょ、了解!!」」
なんかルビが若干おかしかった気がしたけれど、そんな事気にしている余裕などない。
言われた通りに私と師匠はそれぞれの妹たちに付いて、心臓マッサージで蘇生すべくその胸に手を当てて——
「こ、小絃お姉ちゃんの方から積極的に私のお胸を揉んで貰えるなんて……これはもう、お嫁に貰ってもらうしか……♡」
「え……あれっ!?こ、琴ちゃん気がついたの?てか大丈夫なの?一瞬息も心臓も止まりかけてなかった?…………あと、どうして更に胸を押しつける……!?だ、ダメだってこんな公衆の面前で服の中にまで手を入れようとするのは……!?」
「姉さま……そんな、白昼堂々他の人が見ている前でいやらしいことをしてくれるだなんて……ですが姉さまがお望みとあらば私は喜んで……いいえ、寧ろウェルカムです……っ!いっそのこと見せつけてやりましょう……!」
「ちょ……コマ、コマ……!待ちたまえ……一瞬にして元気になってくれた事はありがたいけど……何故脱ぐ?何故私を押し倒す?ここ外だから!?や、やめて……親友と弟子が見てるからぁ……!?」
「ほーらね。すぐ復活した」
——次の瞬間、麻生さんの言うとおり二人は息を吹き返した。
◇ ◇ ◇
「ごめんなさい、ごめんなさい小絃お姉ちゃん……!私、もう二度とあんな事はしないから……!だから、お願い……嫌いになんてならないで……ッ!」
「あ、いや……嫌いになんてならないから大丈夫だって。あれは喧嘩を止める為の方便みたいなものだったわけだし本気で言ったわけじゃないからね」
「マコ姉さま……大変申し訳ございません……頭に血が昇ってしまって……ついあんな野蛮な事を……失望しましたよね……?嫌いになってしまいましたよね……?本当に、なんとお詫びすれば良いか……」
「だ、大丈夫だよコマ……他でもないお姉ちゃんがコマのことを本当に嫌いになるわけないでしょ」
息を(ついでに正気も)取り戻した琴ちゃんと師匠の妹さん。二人とも相当例の麻生さん直伝の呪文が効いたのか猛省している様子。
「ま、まあ私は良いんだよ。それよりも琴ちゃん。謝る相手が違うよね?琴ちゃんはまず師匠にごめんなさいしようね。勘違いしてたとはいえ喧嘩をふっかけちゃったりしたわけだから」
「うん……」
試しにそう進言してみると、いつも通り素直になった琴ちゃんはおずおずと師匠の前に立ち、そして頭を下げて謝罪する。
「音羽琴です。……その、ごめんなさい。立花さんに私……酷いこと言いました。それだけじゃなくて暴力まで振るいそうになっていました。本当にごめんなさい」
「あ、ああいや良いんだよ。勘違いなら誰にでもあるからね」
琴ちゃんの謝罪を受けて、師匠は笑って許してくれた。小さな身体に反して器は相当大きいマコ師匠。そんな師匠は続けてこう琴ちゃんに言ってくれる。
「……琴ちゃんはさ、コイコイのことが……お姉ちゃんのことが大好きなんだね。大好きで、大切で。誰にも渡したくなかったんだよね」
「……はい」
「焦っちゃったんだよね?大好きなお姉ちゃんが盗られるんじゃないかって。多分コイコイのことだから……私の事を褒めてくれてたんでしょ?音羽ちゃんの前でもさ。それで、心配になっちゃったんだよね?」
「…………その通りです。私にとって、小絃お姉ちゃんは……世界の全てだから……」
「うん、その気持ち。言葉にしなくても伝わってきたよ」
「だから…………お願いです、お姉ちゃん……盗らないで……」
「盗らないよー。安心してくれたまえ。私は未来永劫、
「……よかった」
優しい顔で琴ちゃんに笑いかけながら、師匠はそう宣言する。その言葉にようやく琴ちゃんは今日初めての笑顔で笑い返した。……うん。本当に良かったよ。こっちは一件落着かな?
「あの……音瀬、小絃さま……でしたよね?」
「ひゃ、ひゃいっ!?そ、そうです小絃です……!」
「改めまして、立花コマと申します。その……音瀬さまは……本当に、私の姉さまと……何もないのですか……?」
ホッとしたのもつかの間。真剣な表情でコマさんは私に問いかけてきた。私も早くこのお方の誤解を解かないとね……
「な、ないですってば!師匠の事は本当に凄い人だって思ってますけど……あくまでも師匠として、人として尊敬しているだけです。恋慕の感情は皆無ですから!」
「ほ、本当……ですか?」
「本当です!だ、だって貴女にマコ師匠が居るように……私にも…………その……」
「…………あっ」
その先を言いよどみながら、思わず私は横目で琴ちゃんをチラリと見る。そんな私の態度にコマさんはハッとした顔を見せ……
「……なるほどです。そういう事でしたか。……重ね重ね失礼致しました。謝らせてください音瀬さま。私、酷い勘違いをして……挙げ句音瀬さまにも音羽さまを傷つけるような事を……」
「あ、頭上げてくださいコマさん!誤解させるような事をした私だって悪いんですから!」
全てを察した様子のコマさんは、最敬礼で私に謝ってくれた。何にせよ誤解が解けて良かったよ。
全員の誤解が解けたところで。最後に琴ちゃんとコマさんが対面する。先ほどまであれほど高度で派手なバトルを繰り広げていた二人だ。もう大丈夫……だと思うけど、つい私も師匠にも緊張が走る。さて……どうなる……?
「……貴女の事、誤解していました。貴女にも貴女のお姉さんにも酷いこと言ってごめんなさい」
「私の方こそ、お二人に心ない発言をしてしまって……大変申し訳ございませんでした」
心配する姉たちが見守る中。二人はまず互いの非礼を素直に詫びて。そして……
「最悪な出会い方をして虫が良すぎかもしれませんが……改めまして、今度とも姉さま共々よろしくお願い致します」
「私の方こそよろしくお願いします。……貴女のお姉さんを思う強い気持ち、感服致しました。人生の先輩として、妹の先輩(?)として……見習わねばと思いました。……あ、あの!コマ先生、って呼んでも良いですか?」
「どうぞお好きなように。貴女とは……琴さまとは良いお酒が飲めそうです」
ガシィッ!!
まるで河原で殴り合って友情を深めた一昔前の青春ドラマのように、妹たちは手と手を取り合って爽やかに笑い合っていた。
「ふぅ……良かった。雨降って地固まるって奴ですね!」
「だね……一時はどうなることかと思ったよ。……ヒメっち、方法はどうあれよく二人を止めてくれたね。すまん助かった」
「ですね!麻生さん、本当にありがとうございました!」
「んーん。これくらいお安いご用。……にしてもマコ、それに音瀬さん」
「おー?何かねヒメっち?」
「どうしましたか麻生さん?」
「頑張ってね。あの二人が仲良くなったのは良いことだろうけど。多分……ホントの意味で大変なのはこれからだろうから」
「「……へ?」」
~数日後:再び立花家~
「いやぁ……琴ちゃんとコマさんの誤解も無事に解けて、本当に良かったですよねー」
「そうだねぇ。あの二人ったらあれ以来意気投合しちゃってさ、最初の血で血を洗うバトルが嘘みたいに今ではすっかり仲良しじゃない?お姉ちゃんとしては最愛の妹に仲の良い友達が出来て嬉しい反面、内心ちょっぴり嫉妬しちゃってるわ」
「私もですよ。まあ仲良きことは美しきかな、ですけどね」
「「はっはっはっ!!」」
「…………それはそれとして。マコ師匠。ちょっとご相談があるんですが宜しいでしょうか?」
「んー?何かねコイコイ?」
「あの二人が仲良しになった事自体は大変喜ばしいんですけど……」
「けど?」
『——し、舌を入れちゃうんですか……!?そ、そんなに積極的に迫って……良いんですか!?』
『良いのです。妹の特権ですもの。大丈夫ですよ、私の見立てでは……小絃さまは琴さまがグイグイ行ってあげた方が喜んで貰えるハズ。そういうのお好きみたいですし』
『な、なるほど……流石コマ先生、勉強になります!……そ、それで?肝心のやり方の続きですけど……』
『まずは舌先を相手の舌先に触れさせるんです。しばらくはチロチロとくすぐり合いながらゆっくりと奥へ侵入させて……それから——』
「…………あの通り。コマさんに妙な知識を入れ知恵された琴ちゃんに、普段以上に過激なアプローチを仕掛けられるようになったんですけど……どうしてくれるんです師匠?」
「…………(ササッ!)」
「師匠?師匠……!何故目を逸らすんですか師匠……!姉として責任取ってくれませんかねマコ師匠……!?」
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