78話 なんでもない琴ちゃんの一日(夜)
~Side:琴~
私のお姉ちゃん。小絃お姉ちゃん。……より正確に言うと従姉妹なんだけど、でも私が物心ついた時から一緒に居てくれたし。いつだって私の事を大事にしてくれていたし可愛がってくれていた。だから私にとってはほとんど実の姉みたいな存在だ。
そんな小絃お姉ちゃんのことは物心ついた時から大好きで。小さな頃からお姉ちゃんに淡い恋心も抱いていた私。まあ、恋心といってもあの頃の私のそれは本当に可愛いもので。せいぜい目と目が合うだけで幸せな気持ちになれたり、凜々しくて美しくてかっこいいお姉ちゃんの姿を見るとドキドキしちゃったり、お姉ちゃんにいっぱいぎゅーってして貰うと胸が熱くなって切なくなっちゃったり、お姉ちゃんと一緒にお風呂に入ったその日の夜は興奮して眠れなくなっちゃったりと……いかにも子どもらしい感情をお姉ちゃんに向けていた。
その恋心は10年前のあの事故で、決定的なものとなった。文字通り命をかけて私を救い、その上でその私を決して一人にさせまいと生死の境から戻ってきてくれたお姉ちゃん。そんなお姉ちゃんに……私は魂の芯から本気で惚れてしまった。生涯を掛けて愛したい存在となった。お姉ちゃんのためなら何でもしたいって思えるし。お姉ちゃんと世界の全てを天秤に掛ければ、迷わずお姉ちゃんを取ると断言できる程に……お姉ちゃんを愛してしまった。
小絃お姉ちゃんに好きになって貰えるように。お姉ちゃんに相応しいお姉ちゃん好みの理想の女になるために。私は日々修行中。
『琴ちゃん、ホントにこの10年でびっくりするくらい私の好みドストライクな美人さんになったよねー…………って……あ、やっべ。琴ちゃん見てたらまた鼻血が……』
小絃お姉ちゃんは毎日のようにそんな嬉しい事を言ってくれるけど。でもまだ足りない。もっと綺麗に、もっと素敵なレディになってお姉ちゃんに心の底から惚れて貰えるように。容姿を磨いたり所作を身につけたり、趣味嗜好をお姉ちゃん好みにしたりと……毎日色んな事を研鑽している。
『——琴ちゃん踏んでくれないかなぁ……あわよくば、大人になった琴ちゃんに踏んで貰えないかなぁ……』
さて。そんな私が今特に力を入れて勉強していること、それは——所謂SMというもの。小絃お姉ちゃんの大親友、あや子さんの貴重な情報によると。お姉ちゃんは綺麗なお姉さんにいじめられる事に強い興奮を覚える性癖を持っているらしい。踏まれたり、叩かれる事を喜ぶヘンタイさんなんだとか。
……正直に言うと、お姉ちゃんを傷つけるなんて真似……したくない。どんな理由であれ大好きなお姉ちゃんを踏む?叩く?この私が?……考えられない。想像すらしたくない。
でもそれをお姉ちゃんが望むなら、尻込みしている場合じゃない。女は度胸と愛嬌だ。何事も挑戦しなくちゃ始まらない。と言うわけで他ならぬお姉ちゃんの為。立派なS嬢となるために、ここのところ毎晩のようにお姉ちゃんに無理を言って協力して貰っている。
「——どう?お姉ちゃん……妹分に踏まれる気分は」
「う、うぅ……」
そんなわけで……今夜も私はお姉ちゃんのお望み通り、お姉ちゃんを自分の足で思い切り踏みつけていた。
「唸るだけじゃわかんないよ?どうなの?」
「ぐ、ぅうう……それ、は……その……」
ベッドの上に寝そべったお姉ちゃん。そのお姉ちゃんを見下ろしながらソックスを脱ぎ捨てて、お姉ちゃんの真っ白な柔肌を素足のまま蹂躙する。
「お姉ちゃん。ちゃんとハッキリ口にしなきゃダメだよ」
「っ……ぅ、くっ……」
「ほら、言って。お姉ちゃんなのに、妹分にこんな風に好き放題されて……どんな気分かって聞いてるの。ちゃんの自分の口で言ってよ」
「き……きもちいい……です……」
裸足の下でお姉ちゃんの体温を感じつつ、そのまま全体重を乗せ躊躇なく踏み抜くと……お姉ちゃんは恍惚の表情を見せ艶めかしい声で喘ぎ、口元には涎が垂れ落ちる。屈辱的な事をされるがままにされているというのに一切の抵抗なく受け入れるお姉ちゃん。
そんなお姉ちゃんの期待に応えるべく、私はお姉ちゃんの身体を踏みつけようと更に足に力を入れ——
「えと……気持ちいいは気持ちいい…………んだけど。あ、あのさ……琴ちゃん」
「な、何かなお姉ちゃん……!?な、なんかダメだった……!?痛かったりする!?」
と、そんなこれからって時に小絃お姉ちゃんは私にストップをかけて何か訴えてきた。
……も、もしかして痛かった?調子に乗ってやり過ぎちゃった……!?慌てて力を緩めてお姉ちゃんからパッと離れ、すぐに『痛いの痛いの飛んで行け』とお姉ちゃんの身体をさする私。
「ダメって言うかなんて言うか…………えと。ごめん、折角琴ちゃんが頑張ってくれてたのに、こんな野暮なこと言うのは申し訳ないんだけどね」
「遠慮しないで言って!わ、悪いところがあるならちゃんと直すから……!」
「ありがとう。それじゃあ遠慮なく。琴ちゃんがやってくれてるこれってさ」
「う、うん……」
「SMじゃなくて……単なる足圧マッサージになってないかな……?」
「ふぇ?」
……足圧マッサージ?
「いや……だって琴ちゃん優しすぎるもの。こういうのって普通(?)は躊躇なく顔とか頭とかお腹とか踏んづけるものなのに、琴ちゃん頑なに『それだけはダメ』だって全力で拒否るし……仕方ないから足裏とか、腰とか背中を踏むに止まるし。踏むにしても絶対に私を傷つけないように……痛みを伴わないようにってもの凄く繊細に踏んでくるじゃん。それじゃあ、ただの足圧マッサージになるのも無理はないっていうか……」
「……だって」
尊敬している、親愛の気持ちを持っている小絃お姉ちゃんのお顔を踏む?無理。絶対無理。頭とかお腹を踏む?加減を間違えたら最悪プレイじゃ済まなくなるじゃない、ダメ絶対。
それにいくら比較的踏んでも問題無いような場所であっても……お姉ちゃんに怪我をさせたらと思うと……慎重にならざるを得ないわけで……
「で、その結果がこの足圧マッサージ?」
「……SM、むずかしい……」
しょんぼりと肩を落としてため息を吐く。SM……まさかこんなに奥が深いものだとは。自分で言うのも何だけど、運動だったり勉強だったり仕事だったり……今まではそれなりに何でも要領よくこなしてきたつもりだった。
けれど……私はもしかしたら今、人生初の挫折というものを味わっているかもしれない。お姉ちゃんの持っていた
「……ごめんなさいお姉ちゃん。琴はダメな妹です……」
「いやいや。良いんだよ、琴ちゃんはそのままで」
なんて落ち込む私に。お姉ちゃんは苦笑いをしながらよしよしと頭を撫でてくれる。
「琴ちゃんから『SMを勉強したい!お姉ちゃん付き合って!』って言われた時は……流石にどうなることかと興奮…………じゃなくてドキドキしたけど。でも安心したよ」
「安心?」
「うん。なんて言うか、凄く琴ちゃんらしいなーって。絶望的なまでにS役に向いてないんだろうね。琴ちゃん誰よりも優しいんだもん。…………(ボソッ)と言っても。SMのSはサービスのSとも言うし……奉仕気質な琴ちゃんだからこそ、ちょっときっかけが作れたら化ける気配がすごく滲み出てるんだけどねー……」
「???ごめん、お姉ちゃん最後の方なんて?」
「ナンデモナイヨー。…………コホン。それよりも。良いんだよ琴ちゃん、無理しないで。私の為に頑張ってくれていることは本当に嬉しい。でも……あのまま頑張っても、琴ちゃんらしさがなくなっちゃうと思うんだ」
「私……らしさ……」
お姉ちゃんにそこまで言われて考え直す。……確かに。今のまま頑張り続けても、成果は上げられない気がする。
「大丈夫。例えSMに向いてなくたって。私が琴ちゃんの事を嫌いになるなんてあり得ない。そのままの琴ちゃんが私は一番好きだよ。私の為にいつでも一生懸命になってくれる琴ちゃんが……誰よりも何よりも素敵だよ」
「……お姉ちゃん」
「例えばの話だけどね。琴ちゃんが仮に私同様にSM好きだったとして。私が琴ちゃんに苛めたり苛められるのが出来なかったら……どう?それだけで琴ちゃんは私の事嫌いになったりする?」
「あり得ない」
「でしょー?それと一緒だよ。気にしないで良いんだよ」
「……うん」
お姉ちゃんの優しい言葉が染みこんでくる。その言葉に、ようやく私は肩の荷を降ろした。
「わかった。お姉ちゃんのお言葉に甘えて……SMはもうちょっと成長して、色んな経験を積んでからまた頑張ることにするね」
「……あ、そこはまだ頑張ってくれるつもりなのね…………お姉ちゃんとしては嬉しいような、姉として止めとかないといけないような複雑な気持ちなんだけど……ま、まあ琴ちゃんの好きにすればいい……のかな?多分……」
そうだよね。私、変に空回りしちゃってた。いくらお姉ちゃんの好みだからって……お姉ちゃんの言うとおり向き不向きというものがあるし。無理したって逆にお姉ちゃんを困らせてしまうだけだろう。
それよりも何よりも大事なこと。それは——
「ごめんねお姉ちゃん。期待に応えられなくて。SM、やってみたかったんだよね?」
「いやいやいや!琴ちゃんが気にするような事じゃないからね!……そもそも謝らなきゃいけないのはこっちというか、いやそもそも謝るべきは極秘にしていたトップシークレットを簡単に暴露しやがったあや子のアホと言うべきか」
「でも…………どうか安心してねお姉ちゃん!」
「……ん?安心?安心って……なにが?」
「SMは今は無理だけど…………今の自分に出来る別の方法で、お姉ちゃんに満足して貰うから!」
「…………へ?」
お姉ちゃんの言うとおり、私らしい方法で。お姉ちゃんにいっぱい悦んで貰うことだ。
「ちょ、ちょっと待って琴ちゃん……な、何する気?」
「実はSM以外にもう一つ、お姉ちゃんに試したい事があったの。お姉ちゃんは覚えてる?ついこの間お義母さんが持ってきた『もしもシミュレーター』を」
「あ、ああうん……勿論あの悪夢は忘れようにも忘れられないけど……そ、それが?」
「あの日『未来の私』を観測した時にね、『未来の私』が言ってたでしょ。お姉ちゃんは——『耳舐め』と『呼び捨て』に弱いって」
「えっ、と……」
「こっちなら今の私でも出来るハズ。SMの期待には残念ながら応えられなかったけど……その分は『耳攻め』でカバーするから!絶対にお姉ちゃんを満足させてあげるから……!」
「…………い、いやの……琴ちゃん。待って……さ、さっきも言った通りお姉ちゃんは琴ちゃんが望まないことを無理にさせたくはないんだよ……」
「大丈夫。これは私が望んだことでもある。お姉ちゃんを傷つけずに、お姉ちゃんに悦んで貰えるなんて最高でしょ?それにSMは気が進まなかったけど、こっちに関しては元から興味津々だったんだよ」
「な、なんで……?」
「だってお姉ちゃん……昔から、お耳触ると可愛い声出してたもんね」
「琴ちゃん、琴ちゃん!?ど、どうして私に迫る?どうして押し倒しながらお耳さわさわしてるの……!?あ、ちょ……ほ、ホントに耳はマズいんだって私……!?」
「お姉ちゃんのあの声……私大好き♡だから……いっぱい聞かせてね、お姉ちゃん……♪」
「や、やめ——ッ!!!?」
その夜は、お姉ちゃんが疲れてぐっすり寝付く(=キャパオーバーして気絶する)まで。いっぱいお姉ちゃんのお耳を可愛がらせて貰って……そしていっぱいお姉ちゃんにかわいい声を聞かせて貰いました。ああ、幸せ……♪
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