72話 もしもシミュレーション使用中(パラレルなもしも編その2)
「どいつもコイツも私の事ロリコンロリコンってバカにして……!おまけに機械まで私をロリコン扱いとか失礼にも程があるわホント……!」
「失礼もなにもロリコンがあや子なのは疑いようも無い事実だしなぁ」
「逆よ逆ぅ!それを言うならあや子がロリコンなのは、でしょうが!?バカ小絃、人をロリコンの代名詞みたいに言わないで貰えるかしら!?」
シミュレーターにロリコンだとお墨付きを貰ったあや子は、ご機嫌斜めで何やら憤慨している模様。
「じゃあ何かね?自分はロリコンじゃないとでも?」
「どう見ても違うでしょうが……!私はただ、小さくて可愛い女の子を全力で愛でるという神から与えられた崇高な使命を全うする愛の使者なだけで、断じてロリコンではないわ!」
ロリコンが何やら意味不明な供述をしている。よほど自分がロリコンだと認めたくないらしい。なんて見苦しい奴なんだ。……やれやれ仕方ない。現実をみせてやるとするか。
「ねえ紬希さん。突然ですけどちょいと紬希さんにお願いしたい事があるんですが」
「ふぇ……?あ、はい何でしょうか小絃さん。小絃さんにはいつも本当にお世話になっていますし、私に出来る事があるなら何でも協力しますよ」
「ありがとうございます。では……何度も申し訳ないんですけど、もう一度だけ紬希さんの10年前のお姿を拝見させていただいても宜しいでしょうか?過去の紬希さんとは一瞬だけしかお会いできませんでしたし、ちょっと興味がありまして」
「え……?そ、そんなの見ても面白くはないと思うんですけど……ほ、本当にそれで良いんです?」
「ええ勿論。是非ともお願いします」
「は、はぁ……わかりました。えと……小絃さんのお母さん。もう一度だけ10年前の私を出して貰っても良いですか?」
「ほいほーい」
紬希さんに許可を貰い、先ほど母さんの操作ミスで現れた『もしも10年前に戻ったら』という設定の紬希さんが再度私たちの前に現れる。
『あ……えと。こ、こんにちはですお姉さんたち……』
「はいこんにちはー。ちゃんと挨拶できて偉いねー紬希さんは」
「ふふふ……紬希ちゃん、この頃からしっかり者さんなんだね」
「うぅ……な、なんだか恥ずかしいです……私、端から見たらこんな感じだったんだ……」
現れた(何故か今と全く容姿が変わっていない)10年前の紬希さんは、突然呼び出された事にビックリした表情を見せながらもそれでもおずおずと見知らぬ私たちに一生懸命丁寧な挨拶をしてくれる。ふむふむ、この様子だと今も昔も紬希さんは品があって真面目で優しいとても良い子だった事が簡単に窺えるね。
そしてそんな10年前のガチでロリ時代な紬希さんを見たあや子はと言うと……
「ハァ……ハァ……!こ、こここ……こんにちはお嬢ちゃん……!と、ととと……突然だけど、お姉さんと一緒に良いところに行かない……!?」
もはやロリコンを通り超して、不審者になっていた。こいつこれでよく自分がロリコンじゃないって言えたもんだな……
『え……あの、その……?』
「お、お嬢ちゃんはケーキとか甘いもの好きよね?それに可愛いお洋服も。お姉さんのお家に行けば、甘いものも好きなだけ食べられるし可愛いお洋服もお嬢ちゃんみたいな可愛い子の為にお姉さん準備万端なのよ……!」
『あ、えっと……あ、甘いものもだいすきですし……かわいいお洋服もだいすきですけど……で、でも……かっこいいお姉さんごめんなさい。お母さんから知らない人について行っちゃダメだよって言われてますから……』
「大丈夫、あと10年もすれば知らない人どころか一番親密な関係になっているからね……!折角だからお姉さんと今のうちから親睦を深めましょうねぇええええ……!」
紬希さん(10年前)に詰め寄って、血走った目つきと手付きで危険な事を口走っている性犯罪者予備軍。母さんのこの立体映像が実体を持った映像じゃ無くてよかった。YesロリータNoタッチな仕様で本当によかった。
この様子だと、仮に実際に触れられた場合……このロリコン女は紬希さん(10年前)にYesロリータGoタッチして、危うい映像がこの場にお出しされてただろうから。
「あや子ちゃん……いくら私の過去の姿とはいえ……その言動はちょっと……」
見かねた紬希さんは若干引きながらも幼い自分からあや子を遠ざけようとする。けれども何やらスイッチの入ったあや子は、本物の紬希さんごとシミュレーターの紬希さんに迫って……
「紬希……それは嫉妬!?昔の紬希に嫉妬してくれているのかしら!?だ、大丈夫よ……!私は、どんな紬希だって愛しているし、どれだけ紬希が増えようともその愛が薄まるわけないの……!なにせ、私の紬希への愛は無限大なんだから……!」
「って……ちょ、ちょっとあや子ちゃん……!?ど、どこ触って……やめて私が見てるから…………い、嫌……こういうのは、二人の時に……」
『お、お姉ちゃんたち……なにをしてるの……?や、やだ……こわい……』
ただでさえあや子の性癖ドストライクな紬希さんが二人になったせいで完全にタガが外れたようで。10年前の紬希さんに見せつけるように、今の紬希さんを押し倒している
「ねえ母さん。頑丈なロープとか持ってない?手錠とかでも良いけど」
「ロープ?んー……そうね、開発中の発情期のゴリラをも容易に捕縛できるってロープなら手元にあるけど」
「ちょうど良いからそれ貸して。そこの発情期の雌ゴリラを縛って警察に……いやこの際だから動物園に突き出さないといけないからね」
◇ ◇ ◇
「…………あの、紬希……今のはちょっと……軽く……興奮しただけだから……じょ、冗談だったから……だからその……許してほしいなって…………あとついでに、このロープも解いていただけると嬉しいんだけど……」
「もう知りません!しばらくそのままで反省しなさいあや子ちゃん!」
琴ちゃんと二人がかりであや子を捕縛し紬希さんの前に投げておいた。正気に戻ったあや子は平謝りで許しを請うけど……流石の紬希さんもお冠なご様子。紬希さん、そのアホは煮るなり焼くなり好きにして良いですよ。
「にしても……ねえ琴ちゃん?」
「ん?どしたのお姉ちゃん」
「……今更だけど琴ちゃんってさ……私が眠りこけてる10年間、あのアホあや子から変な事されたりしてない……よね?大丈夫だよね……?」
もしそうなら私……残念だけどアホあや子を今すぐ穏便に処理せざるを得ない。そう心配する私に琴ちゃんはくすくす笑いながらこう返してくれた。
「あはは、大丈夫だよお姉ちゃん。あや子さんがあんな風に暴走したのは、あくまで大好きな紬希ちゃんが増えちゃったせいだから。そもそも私の場合は……すぐに成長しちゃって、あや子さんの好みのタイプから大分外れちゃってたみたいだからね」
「そ、そかそか。それなら良いんだ」
それはそれでどうかと思うけど……でも琴ちゃんが穢されずにここまで無事に成長してくれてホントによかったよ……
「それにしても……あんなに暴走しちゃうだなんてね。こうなると『あや子さんが小さい女の子が趣味じゃ無かった』って『もしも』の世界も見てみたいかも」
「へ?あ、あや子がロリコンじゃない『もしも』の世界……?」
「うん、そう。あや子さんってかっこいいでしょ?そういう趣味をオープンにしてなかったら、今以上に女の子にモテてたんじゃないかなーって」
縛られながらもなんとか紬希さんのご機嫌を取ろうとする哀れなロリコンを眺めながら。琴ちゃんがそう言ってくる。うーん……あや子がロリコンじゃ無い『もしも』……ねぇ。
「いやいや琴ちゃん。そのもしもは観測するまでもなくオチが見えてるよ私」
「わ……小絃お姉ちゃん凄い。どんなもしもになるかわかるの?流石」
「勿論だとも。……よし、母さん。ついでだから今言った『あや子がロリコンじゃ無い』ってもしもを観測してくれない?」
「へいへーい」
私の指示で母さんは言われたそんな『もしも』を観測すべく装置を起動させる。けれど……正直無駄な行為だと思うがね。
「いいかい琴ちゃん。人にはね、切っても切り離せない強い信念ってものがあるんだよ。私が……琴ちゃんのこと、命をかけてでも守りたいように。誰にだってそういう信念を持っているものなんだよ」
「わ……実際に命がけで私を守ったお姉ちゃんが言うと説得力あるね」
「そういう信念ってものはね、自分の存在意義を確立する上で重要な要素の一つになっているって思うんだよね」
「ん……なんとなく言いたい事わかるかも。強い信念が自身の
「そゆこと」
そしてあや子の場合の強い信念と言えば……『小さくて可愛い女の子を愛でる』という碌でもないもの。だからこそ……その信念を失ってしまった『あや子がロリコンじゃ無い』という世界は——
『エラー発生、エラー発生。そのような『もしも』は観測出来ません。繰り返します。エラー発生、エラー発生。そのような『もしも』は観測出来ません』
「ね?この通り、あや子がロリコンじゃ無い可能性なんて万に一つもあり得ないんだよ」
「なるほどー」
当然、そんな世界はあり得ないわけで。なにせあや子は存在が歩くロリコンだからね。
「だから私は、ロリコンじゃ無いってば……!?」
◇ ◇ ◇
「うんうん、良い調子良い調子。さあ、この調子でまだまだ実験しちゃおうか!」
あや子が言い訳のしようのない生粋のロリコンと言う事が証明できたところで。母さんは陽気にそう告げる。ええい、まだやるのか……
「……あ、でも待てよ……?もしかしたらこの装置を使えば……あの『もしも』も観測出来るんじゃ……?」
と、飽きない懲りない悪びれない母さんにため息を吐きつつも。ふと、とある考えが頭をよぎり思わず呟いてしまう私。
その呟きを地獄耳な母さんは聞き逃すハズも無く……
「なによ小絃!見てみたい『もしも』があるなら早く言いなさいよね!ほら、遠慮しないでお母さんに言っちゃいなさい!どんな『もしも』も思いのままに観測出来るわよ!」
テンションあげあげで期待に満ちた顔をしてウザ絡みしてくる母さん。くそ……言わなきゃよかった……
「お姉ちゃん、何か見てみたい『もしも』があるの?私、お姉ちゃんが見てみたい『もしも』に興味あるよ」
「あー……いやその……」
「小絃さん、良い機会ですしお遊びと思って試してみるのも良いのではないでしょうか?」
「う、うーん……」
「どーせ、碌でもない『もしも』でしょうけどね」
「やかましいロリコン犯罪者」
琴ちゃん、紬希さんに後押しされちゃう私。この二人も私が見たい『もしも』に興味があるようで……目をキラキラさせている。う……あかん、私こういう純粋な目で見つめられるの……昔から弱いんだよ……
「…………じゃ、じゃあ折角だしやってみよう……かな」
「よくぞ言ったわ小絃!さあ、我慢なんてしないで自分の欲望を吐き出して見たい『もしも』を言いなさいな!」
結局押しに負けて渋々自分が見たい『もしも』を白状する事に。
「『もしもあの時……琴ちゃんを助けられなかったら』……どうなってたんだろうなって」
「「「…………は?」」」
ずっと抱いていた不安を口に出す私。……10年前、あの時琴ちゃんを庇う事が出来たのは正直言うとかなり運がよかった。一歩間違えていたら私は……琴ちゃんを……
今はリハビリ必須なこの身体だし、もし仮に……同じような事が起こったらあの時のように琴ちゃんを守れる自信は正直言ってない。
「『琴ちゃんを守れなかったもしも』の自分がいたら……どうなってたのかって気になってさ……同じような事が起こる前に……反面教師として、そんな自分に色々聞いてみたいなって……思って」
「「「…………」」」
私のそんな要望に。母さんと(縛られたままの)あや子、そして琴ちゃんは全員顔を見合わせて。そして三人を代表するように、母さんはこう呟いた。
「…………つまんね」
「はい?」
さっきまでのテンションはどこへやら。萎えた顔で盛大にクソデカため息を漏らす母さん。な、なにさその態度は……?
「小絃ママと同意見ね。そんな『もしも』なんてつまんないし、見るまでも無いわ」
「ええっと……あや子ちゃん、それってどう言う意味?」
「簡単な話よ紬希。時間の無駄だって言ってんの。だって結果は分かりきってる事じゃない」
「???」
結果は分かりきってる……?どう言うことだ……?
「あ、あはは……あの、お義母さん。お姉ちゃんは多分、実際に見ないと納得しないと思いますし……もし良かったら一度見せてあげてくれませんか?その『もしも』を」
「えー……証明するまでも無い、証明する必要性ゼロなものをわざわざ観測するとか無駄じゃ無いのー?」
「お願いしますお義母さん」
「……まあ、琴ちゃんがそこまで言うなら仕方ないか。ほーんと、うちの小絃はバカなんだから」
琴ちゃんに促され、渋々と言った様子でシミュレーターを起動する母さん。ややあってシミュレーターは『琴ちゃんを守れなかったもしも』の私を導き出す。
長考の末、シミュレーターが出したその答えは——
『エラー発生、エラー発生。そのような『もしも』は観測出来ません。繰り返します。エラー発生、エラー発生。そのような『もしも』は観測出来ません』
「え……な、なんで……?」
それは『あや子がロリコンじゃないもしも』を観測出来なかった時と同様。シミュレーターはそんな『もしも』は観測出来ないと告げている。
おまけに紬希さん以外の皆はなにやら『そうなって当然』、と言った顔になってるけど……ど、どうして……?
「小絃お姉ちゃん、本気でわかんない?自分の事なのにね」
「う、うん……これ、どう言うことなの……?」
「わかんないなら教えてあげる。あのねお姉ちゃん」
困惑する私に対し、琴ちゃんは満面の笑みを浮かべてこう告げた。
「小絃お姉ちゃんが、私を助けられないなんて『もしも』は……絶対にあり得ないよ。お姉ちゃんはいつだって……私の永遠の、私の自慢のヒーローだから」
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