69話 もしもシミュレーション使用中(あや子&紬希編)
「——と言うわけで。対象者の『もしも』を観測できる装置の実験中なのよ。未来だったり過去だったり、あり得ないような『もしも』だったり。どんな『もしも』も思いのままに立体映像で投写出来ちゃうの。どう?凄いでしょー!」
「す、凄いです!お話は伺っていましたが、小絃さんのお母さんって本当に凄い研究者さんなんですね!」
「相変わらず小絃ママの技術はぶっ飛んでるわよねぇ……」
お休みを利用して遊びに来てくれた紬希さん(と一緒に付いてきたお邪魔虫と言う名のあや子)。そんな二人に母さんは自分が作った装置を(聞いてもないのに)自慢げに説明する。
「ところでさ。心底どうでも良いんだけど、小絃はなんでそんなにへこんでいるのかしら?何があったのよ?」
「……聞くな」
あや子の問いにそっぽを向く私。まさか未来の私が今と変わらず……と言うか琴ちゃんにおんぶに抱っこな生活を甘んじて受け入れる残念なただのヒモに成り下がっていたとかあや子にだけは知られたくない。絶対バカにして笑うだろうから。
「ま、聞かずとも大体想像出来るけどね。どーせアレでしょ?碌でもない未来を見ちゃったんでしょ?所詮小絃だししょうも無い将来を歩んでたんでしょ?」
「アァン!?い、言わせておけば勝手な事言いやがってからに!そういうあや子の方こそ碌な末路を辿らなさそうじゃないの!」
見ても居ないくせに私の将来をしょうも無いものだと断言して私を鼻で笑うあや子にガンを飛ばして反論する。
何をバカな事を言ってんだあや子は……!確かに私の将来は碌でもないものだったかもしれない。けれど……!少なくともこのアホあや子に比べたら遙かにマシなハズ……!
「は?何を言うか。小絃とは違って私には輝かしい未来が待っているに決まっているじゃないの。なんなら試してみましょうか?」
「おーおー、やれるもんならやってみろや!賭けてもいい、あや子は絶対私以上に悲惨な未来が待ってるわ!」
「言ったわね……ならお望み通りやってやろうじゃないの。……小絃ママ、いきなりで悪いんだけどこのシミュレーター私も使ってみていい?そこのバカ小絃に格の違いって奴を教えてやらなきゃならないみたいだし」
「おー、どうぞどうぞ。サンプルデータは多ければ多い方があたしとしても助かるし是非とも使ってちょうだいあや子ちゃん。設定は小絃と同じように10年後の未来の観測でいいかしら?」
「ええ、それで問題ないですよ」
格好のモルモットを獲た母さんは、嬉々として装置にデータを入力する。
「——よし、準備完了っと。そんじゃあや子ちゃん。準備はいーい?」
「いつでもどうぞ。さあ見ていなさい小絃。私の明るい未来をね」
自信満々に私にそう告げるあや子。そんなあや子に呼応するかのように、シミュレーターが未来のあや子を立体映像として投影する。
徐々に映し出される未来のあや子は、ただでさえデカいくせに更に背丈が伸びていて。相変わらずムカつく顔つきをしていて。そして……
「…………な、何やってんの未来の私ぃいいいいいい!!??」
そして、両手に繋がれた
「
「だ、黙りなさい小絃!……ええい、小絃ママ!?これは一体どう言うことですか!?」
「どうもこうも……あや子ちゃんの10年後の『もしも』を観測した結果なんだけど」
「認めません、認めませんよ……!こ、こんな悲惨な未来なんて……!」
さっきまでの威勢の良さはどこへやら。この事実を認めたくないようで何やら拒絶の言葉を喚いているあや子。いやいや、これは妥当な未来だろう。つい先日も自分の教え子の女児に手を出してた事が判明したわけだし、寧ろ捕まるのが遅かったくらいだ。
「あー……えと。み、未来のあや子ちゃん?どうしてあや子ちゃんは手錠なんて付けてるのかな……?」
「何やったんですかあや子さん?紬希ちゃんを悲しませるような事しちゃダメですよ」
見かねた紬希さんと琴ちゃんが、未来の
『……?ええっと、紬希に琴ちゃん。何の話をしているのかしら?』
「え、いや何って……」
「あや子さんのその手錠の話ですよ。一体何をしたら警察に厄介になったんですか?」
『ああ、なんだこれの事?あはは、違うわよ二人とも。これはただのオモチャ。本物なんかじゃないわよ』
「「「え?」」」
そう言って未来のあや子はかけられていた手錠を私たちに見せつける。え?オモチャ……?
「な、なんだオモチャ……オモチャね……良かった……あや子ちゃん、オイタが過ぎてとうとう捕まっちゃったのかと思ったよ……」
「ビックリしました。もう……あや子さんは今も昔も変わらずお茶目なイタズラばっかりしているんですね」
「つか驚かすんじゃないわよ未来の私!?心臓に悪いわ!?」
どうやら本格的にお縄になったわけじゃないらしい。未来のあや子のその一言に、本人も含め皆ホッと胸を撫で下ろしている。未来の自分に逆ギレしているけどあや子さぁ……そもそも捕まるような心当たりがある事をやってる事自体が問題だと私は思うんだがね。
「あれ?でもちょい待った。それならそれでなーんで未来のあや子はそんなもの付けて登場したのさ?ロリコンに引き続き、更に変な性癖にでも目覚めでもしたの?」
ちょっと気になって未来のあや子に問いかける、するとあや子は首を振ってこう答えてくれる。
『10年前から相変わらず失礼ね小絃は。そんなんじゃないわよ』
「じゃあ結局その手錠は何さ」
『いいわ、教えてあげる。この手錠はね』
「その手錠は?」
『…………紬希にね。浮気防止兼女児に色目使ったオシオキとして一ヶ月くらい付けられてただけよ……』
「それはそれで問題があるように聞こえるのは気のせいかしらね未来の私!?」
あー、なんだそういう理由で手錠付けられてたのか。凄く納得したよ。
「未来のあや子は無事に紬希さんの尻に敷かれているみたいだね。幸せそうで何よりだわ」
「そだね。紬希ちゃんとあや子さん、お似合いのパートナーは未来でも健在みたいで安心したよ」
「え、えへへ……そんな、幸せとかお似合いだとか……照れちゃいますよ二人とも」
「ちょっと待ちなさいあんたたち!?紬希に手錠を付けられたってわかった途端、手錠の事スルーするのおかしくない!?未来の私もあんたらも、何ナチュラルに手錠付けられている事を受け入れてるのよ!?」
何を疑問に思う必要があると言うんだろうか。そもそもあや子の未来なんて所詮警察にお世話になるか、紬希さんの尻に敷かれるかの二択しかないっていうのに。
「それにしても……あや子ちゃんって今でもおっきいのに……10年後も更に大きくなっているんだね……かっこいいなぁ……」
「さっきの未来の小絃お姉ちゃんも背丈伸びてて、とっても綺麗になってたよ」
「そうなんだ。やっぱり10年経てば皆成長するよね。…………はっ!?と、と言う事は……私にも大きくなれる可能性が……!?」
自分の未来に納得できず何やらブツブツ言っているあや子をよそに。未来の成長した(?)あや子の姿を見てほんのり頬を染めていた紬希さんは、琴ちゃんの一言にハッとした表情を見せる。
「あ、あのあの!こ、小絃さんのお母さん!わ、私もこのシミュレーター……使ってみてもいいですか!?」
「勿論いいわよー。さっきあや子ちゃんにも言ったけど実験サンプルはどれだけあっても足りないくらいだからねー。実験に付き合ってくれるの大歓迎だもの」
「で、では……!私も10年後の自分を見てみたいんですが……!」
「はいはーい。すぐ準備するから待っててねー」
何かに触発されたらしい紬希さん。物好きにも母さんの次なる犠牲者として名乗り出てしまう。
あ……しまった。あや子はともかく紬希さんを母さんの関わるもの全てを不幸にするトンデモ実験に巻き込む事はしたくなかったのに……
「準備おっけー、そんじゃいくわよー」
「よ、よろしくお願いします……!」
「ちょ、ちょっと待て母さ——」
慌てて止めようとする私。けれど一歩遅かったようで……シミュレーターは紬希さんの10年後をシミュレーションし始める。
「ふ、ふふふ……楽しみです。あや子ちゃんも小絃さんも大きくなっていたと言う事は……きっと私にも成長する余地があるはず……!」
まるでサンタさんのプレゼントを待つ純真無垢な子どものように、わくわくしながらシミュレーションが終わるのを待つ紬希さん。そんな紬希さんの期待を背負ったシミュレーターはすぐさま演算を終え、紬希さんの未来の姿を立体映像で映し出す。
その映像を見て、この場に居た私たちの心は全員一致する。
「「「(何も、変わってない……)」」」
「なっ、なんでですかー!?」
映し出された紬希さんは…………その。残念ながら今と背丈は何一つ変わっていなかったのだから。
「こ、小絃さんのお母さん!?こ、これはどう言うことですか!?何も変わっていないじゃないですか!?」
「えーっとちょっと待ってねー。…………あっ、ごめんごめん。よく見たら設定ミスってたわ。間違えて『もしも10年が経過したら』って設定じゃなくて『もしも10年前に戻ったら』って設定にしてたみたいねー」
「あ、ああなんだ……そういう事ですか…………良かった……」
ホッと胸を撫で下ろす紬希さん。なーんだ、あれ10年前の紬希さんなんだね。何一つ容姿も背丈も今と変わっていないからビックリした……
……って。あれ?でもそうなると……紬希さん10年前から変わっていないって事……?
「んーと。よし、お待たせ紬希ちゃん。今度こそ10年後の貴女が現れるわよー」
「は、はい!」
私のふとした疑問はさておき。シミュレーターの再設定が終わったらしい。今度こそ本当に10年後の紬希さんが現れる。その姿を見て、またもやこの場に居る全員の心は一致する。
「「「(やっぱり何も、変わってない……)」」」
「なんでですかー!!?」
10年前だろうが、10年後だろうが。紬希さんは今と全くお変わりない。ちょっぴりちっちゃな愛らしいお姿のままだったのだから。
いや、と言うか……10年後に設定しているはずなのに寧ろ容姿とか更に幼くなっているように見えるのは気のせいだろうか……?
「こ、これも間違いですよね!?10年前の姿ですよね!?そうだと言ってください未来の私!?」
『あれー?もしかして昔の私?それに昔の皆までいるね。ふふふ、懐かしいなぁ』
「うわぁああああん!!!?」
わずかな可能性に賭けて未来の自分に問いかけるも、自分自身に可能性を否定されてしまう紬希さん。あー……えっと。ど、ドンマイです紬希さん……
「うんうん!やっぱり紬希はこうでなくっちゃね!今も昔も未来であろうとも!未来永劫私の嫁はいつまでも可愛くてロリロリしてて素晴らしいわ!」
いつの間にやら復活していたあや子のアホがただ一人が満足そうに紬希さんの姿を見てうんうんと頷いている。……あや子……そういう態度をとるから紬希さんに怒られて、将来見事に尻に敷かれる羽目になるだろうに……
「こ、小絃さんのお母さん!なんでこうなるんですかっ!?何も変わっていないじゃないですか!?」
「……あー。えっとその……何と言ったら良いものか。多分シミュレーターが紬希ちゃんが成長する未来を……成長する可能性を……シミュレーション出来なかったんじゃないかなーって……」
「可能性すらないと!?そ、そんな…………で、でしたら……『成長して、ぼんきゅっぼんになった』ってもしもの私を設定して下さい!」
「ええっ!?そ、そんなの勿体ないわよ紬希!?紬希はロリロリしい今の姿こそ最高なのに!そんなもしもなんて見る必要ないわ!今すぐ考えなおして頂戴紬希!?」
「あや子ちゃんは黙ってて!……小絃さんのお母さん、今すぐお願いします!」
「あー、うん……わかった。とりあえずやってみるわね」
紬希さんの迫力に押されて。母さんは紬希さんに言われたとおりの『もしも』を設定する。そして妙に長い演算処理の後——
『エラー発生、エラー発生。そのような『もしも』は観測出来ません。繰り返します。エラー発生、エラー発生。そのような『もしも』は観測出来ません』
「だからなんでですかー!?」
シミュレーターの無機質な機械音声の答えに、紬希さんは泣いた。
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