琴ちゃんと新たな変人たち
50話 進学?就職?進路はどこだ
「うーむ……どうしたもんかなぁ」
「あら……?小絃さん、どうかなさいましたか?なんだか難しい顔をされているみたいですけど」
「なによ小絃。ただでさえ普段から変顔してるってのに、今日はいつも以上じゃないの」
ある日の日曜日。スマホを片手にして、ある事に頭を悩ませていた私……音瀬小絃。そんな私は例のごとく暇だからと押しかけて来た悪友あや子と、そしてそんなあや子に付き添ってくれた紬希さんに話しかけられる。
「ああ、紬希さんすみません。折角遊びに来て貰ってるってのにボケッとしてて。……そしてやかましいあや子。誰が変顔だ。そういうあや子は変態且つ変人でしょうが」
「いやいや。あんたの変態度と変人度と変顔度には負けるわ小絃。誇りなさい、あんたがナンバーワンよ」
「あ、あはは……そ、それで?なんだかお悩みみたいでしたけど、小絃さん……もしかして何かお悩みなんですか?小絃さんにはお世話になりっぱなしですし、私で良ければ相談に乗りますよ」
「まあ、小絃の悩みごとなんて琴ちゃん関連の事だけだろうけど。どーせ『お仕事に行った琴ちゃんに、もう1時間も会えてなくて辛い』的な浅はかで単純な悩みなんでしょ?」
いつものようにいちいち余計な一言を入れてくるアホを無視し。優しく私の悩みを聞いてくれる紬希さんに今の私の悩みの種を打ち明けることに。
「ありがとうございます紬希さん。では……折角なのでご相談なんですが。私……今進路について悩んでいましてね」
「進路……ですか?」
「はい。高卒の資格を取った後、私どうしようかと悩んでいるところなんですよ」
専属家庭教師琴ちゃんのご指導のお陰で、10年前よりも知力はアップしている私。だから高校卒業自体はこの調子でいけば通信でなんとかなりそうなんだけど……困った事に一番大事なその先の事を。高卒の資格を取れた後どうするかについてを全く考えていないのである。
進学するにしても就職するにしても高卒の資格が取れるまでもう1年を切ってるってのに。そんな時期に入っても将来の見通しが全然ないのはかなりマズい。そんなわけで今ちょっと……いやかなり切羽詰まり始めている私。
「なるほどそういう事でしたか。……ちなみに小絃さん?そのお悩みを琴ちゃんに相談されましたか?」
「……あー、はい。そりゃ勿論すでにしています。ですが琴ちゃんは——」
◇ ◇ ◇
『進学?就職?……ああ、なんだそんな事か。今は無理にそんな難しいこととか考えなくても良いと思うよ。今のお姉ちゃんが一番に考えなきゃいけないのは、リハビリして体力を付ける事だけ。後のことは身体が本調子に戻ってから考えれば良い』
『い、いやでもね琴ちゃん。リハビリしながらでもぼちぼち将来の事は考えとかないとマズいような……』
『それに…………大丈夫だよお姉ちゃん。前にも言ったでしょう?永遠に、勉強しなくても働かなくても大丈夫……永久無職で問題ない。だってお姉ちゃんは、私が養うから♡お姉ちゃんはただ、私の専属お嫁さんとして私の側に居てくれればそれでいい』
『…………』
◇ ◇ ◇
「——と、ヒモになれの一点張りでして……!」
「…………あー、その光景が簡単に目に浮かびます。琴ちゃんなら間違いなくそう言いますよね」
年下従姉妹のヒモ女とか私が嫌すぎる。いや、確かに現状すでに私琴ちゃんのヒモみたいなもんだけど!私的には琴ちゃんに頼られたいの!立派なお姉ちゃんとして、寧ろ琴ちゃんを養いたいの!お願いわかって琴ちゃん……!
「そういうわけで。琴ちゃんにこの相談しても意味がなくて。意味が無いって言うか、私を立派なヒモにすべく積極的に進学させまい・就職させまいと堕落させてくる始末でして……仕方ないのでネットで進学のこととか就職のこととか調べてたわけです。でも独力だと限界があって……せめて10年前の現役高校生時代からまともに考えておけば良かったんですけどね。当時からなりたいものとか行きたい大学とか無かったので困っちゃってるんですよ」
「あんたってば高校三年生の時点ですら進路決めずに遊びほうけていた根っからの問題児だったからねぇ。全くやれやれね。普段からちゃんとしてないから、いざって時に困ることになるのよ小絃」
「それは貴様もじゃろがい……」
自分の事を棚に上げて偉そうな事言ってるけど。このアホのあや子も高三にもなって進路決めずに私と一緒にバカやってた事、私忘れてないからね?
「つーか、そういうあや子こそどうなのさ。いっつも人のこと散々ヒモ女とかバカにしてるけどさ……そんな事言ってるあや子こそ、実は紬希さんのヒモになってるんじゃないだろうね?」
何せこいつってば暇さえあればすぐうちでゴロゴロしてるわけだし。まともに進学出来たとは思えないし。まともに働いてる姿も想像できないし。
「あんたと一緒にしないでよね。私はあんたと違ってちゃーんと大学進学したし。就職だってしたわ。紬希という可愛い嫁と愛の共同生活を送るために今だって頑張ってるわよ私。愛する紬希が少しでも楽な暮らし出来るように、バリッバリに働いてるわよ」
「あ、あや子ちゃんったら……そういう恥ずかしい事は、せめて二人っきりの時に言って欲しいんだけど……」
自慢げに胸を張るあや子にちょっと嫉妬。むぅ……共働きか。パートナー同士共に助け合い支え合うって……なんかいいなぁ……正直羨ましいなぁ。
「ちなみにあや子。すっかり聞きそびれてたけどあんた今何の仕事してるわけ?」
「ん?スイミングスクールのコーチだけど?プールで子どもたちに水泳を教えたりしてるわ。ほら、私って昔から運動神経抜群で。特に泳ぎは得意中の得意だったでしょ。天職だったのよねー」
「ほうほう、スイミングスクールのコーチかぁ……子どもたちに水泳を教えているのかぁ……」
そうかそうか、なるほどねー……よし。
「…………紬希さん」
「え?あ、はいどうしましたか小絃さん?」
「私があや子をどうにか引きつけますので、その隙に110して警察呼んでください」
「えっ?」
「待ちなさい小絃。何故そこで紬希に通報させようとしているのかしら?警察呼んで何て言うつもりなのかしら?」
「『いつかやると思っていました。10年前から根っからのロリコンでした』」
「誰が私が捕まった後の事情聴取用の台詞を言えと言った!?違うから!確かにちっちゃい子は好きだけど、仕事と趣味は違う問題に決まってるでしょうが!?教え子に手を出したこととかないからね!?私が愛でるのは紬希だけだからね!?」
とうとう犯罪に手を染めたであろう悪友に、せめてもの引導を渡してやろうとする私をあや子は必死に止める。
手を出したことないって言われても……実際小学生並みにちっちゃくて愛らしい体型の紬希さんに手を出してる時点で……ねぇ?
「あ、あはは……大丈夫ですよ小絃さん。あや子ちゃんがそんな悪いことするはずないじゃないですか」
「そうでしょうか……間違いがあってからじゃ遅いですし、今からでも罪を償わせるべきだって私は思うんですが……」
「犯してもいない罪をどう償えと言うのかしらね!?」
あや子の場合、存在が罪みたいなもんだし十分通報モノだと思う。
「大丈夫です。あや子ちゃんに限ってそんな事は絶対しません」
「そ、そうよ紬希。ほら、もっとこのバカに言ってやって頂戴な」
そうやって通報を勧める私に対し、紬希さんはと言うと。自分のパートナーの身の潔白を健気に信じてそう返す。うーん。そうかなぁ……
「ええ、言ってやりますとも。だって——」
「「だって?」」
「もしも……もしもあや子ちゃんがそんな愚行を犯したら。その時はあや子ちゃんを
「「…………」」
「…………だから、ね。あや子ちゃん。本当に、絶対に、無いと思いますけど。信じていますけど。これまでも、これから先も…………間違っても、私以外の誰かに手を出したりは…………シナイデスヨネ?」
「神と紬希に誓って、これまでもこれから先も悪さは絶対しません……ッ!!!」
なんだかちょっぴり迫力あるオーラを纏い釘を刺す紬希さんとあまりの圧に土下座して誓いの言葉を発するあや子。なるほどなるほど安心した。紬希さんの尻に敷かれている限り、このロリコンはちょっと魔が差していらぬイタズラを……なんてできるはずもないか。
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