49話 お姉ちゃんたちの天国と地獄
「——誤解のないように言っておきたいんだけどね小絃お姉ちゃん。私、別にいやらしいことだけが好きなわけじゃないの」
「……と、言うと?」
ひょんな事から従姉妹の琴ちゃんと一緒にA●鑑賞会、そして……ちょっと大人な予行演習をやる羽目になった私……音瀬小絃。
琴ちゃんに大人の魅力を散々教え込まれ、色んな意味でキャパオーバーを起こしてベッドに沈む中。そんな私に添い寝をしつつ、琴ちゃんは不意にそう言い出した。
「勿論、お姉ちゃんと結ばれて……お姉ちゃんと肌と肌を合わせ、甘く蕩けるキスを交わして愛し合って……そして今日やったお遊びみたいな予行演習とは違う、ありとあらゆる知識と方法を使って……全身全霊でお姉ちゃんを気持ちよくしてあげたいって願望はあるにはあるけど」
「アレで、お遊びみたいなもの……だと……?」
待って、怖い……超怖い。今日のでさえ最高に気持ちよくさせられて……頭真っ白になって失神しちゃったってのに。未だに心地良い倦怠感で身体が動かせないってのに。あれで手加減していたとな?琴ちゃんが本気になったら、私……気持ちよくされすぎてしぬのでは……!?
そんな戦々恐々する私に、琴ちゃんは私をギュッと抱きしめて話を続ける。
「でもね、あくまでもこれってね、コミュニケーションの一環としてやってるわけで。お姉ちゃんが本気で嫌なら……私、絶対しないよ。お姉ちゃんが嫌がることは、しないし……したくないもん。やりたくないのなら絶対しない。私は……ただこうして……大好きなお姉ちゃんとくっつき合うだけでも。私……とっても幸せになれるから」
「琴ちゃん……」
それは……うん。言葉にしなくてもちゃんとわかってる。琴ちゃんは私が本気で嫌がるような事だけはしないことも。……恐らく本人の言うとおり、えっちい事なんかしなくても私と一緒に居るだけで幸せを感じてくれることも。ちゃんとわかっているつもりだ。
「その上で改めて聞かせて欲しい。ごめんね、聞きそびれちゃってたんだけどさ……お姉ちゃんは。私と、そういう事するの……嫌だったりしたかな……?えっちなこと、嫌いだったり……する?」
「…………」
「お姉ちゃんが嫌だって言うなら……もう二度としないから。教えて欲しい。……どう、だったかな……?」
少しだけ不安そうに私の手を握り、上目遣いにそんな事を聞いてくる琴ちゃん。……さっきのアレコレが嫌だったかって……?そんな、そんなの……!
「…………嫌じゃ、なかったよ……」
「っ!」
枕で自分の顔を隠し、か細い声でそう告白する私。嫌どころか……寧ろ、その……恥ずかしながら、すっごい気持ちよかったし。めちゃくちゃタイプの大人の女性に、いいようにされるのが心地良かったし。
何よりも、世界で一番大好きな子と一緒に気持ちよくなれるのって……本当に、満たされてちゃって……
「ま、まあでも……嫌じゃないのが嫌というか……琴ちゃんのお姉ちゃんって名誉ある立場からすると、流されるままにいいようにされちゃってるのは反省しなきゃいけないなって自己嫌悪してるって言うか…………(ボソッ)だから……私としては、その。……せめてやるならやるでちゃんと責任取れる立場になってからしたかったって言うか」
なんて枕の下でごにょごにょ言い訳めいた事を呟く私。そんな私を前にして、琴ちゃんはと言うと……
「……お姉ちゃん」
「あ、ちょっと琴ちゃん枕取るの禁止……今私、絶対顔赤いから……恥ずかしいから見ないで欲し——」
「嫌じゃ、ないのね?」
「…………へ?」
無造作に顔を隠していた枕を私から奪い取り、そして私に成長した超美形な顔立ちをぐいっと近づけて……
「良かった……嫌じゃないのね?お姉ちゃん、嫌じゃなかったのね?……だったらこの際予行演習なんてまどろっこしいものはすっ飛ばして……もっと気持ちいいこと私としようお姉ちゃん」
「へっ!?い、いや……ちょ、ま……」
「大丈夫、私、頑張るから。頑張ってお姉ちゃんをいっぱい気持ちよくしてあげるから。お姉ちゃんは寸止めであれだけ気持ちよくなれるんだし……本番になれば、さっきのとは比べものにならないくらい幸せになれるよ」
恍惚の表情を浮かべ、息を荒くし。ギラギラした美しくも恐ろしさを感じてしまう肉食獣の瞳で私を見据え、そして。
「ま、待て……まって琴ちゃ——!?」
「待てない、待たない……イタダキマス」
そして、私の制止を聞かず……第二ラウンドに突入するのであった。
◇ ◇ ◇
~Side:あや子~
「——誤解のないように言っておきたいんだけどねあや子ちゃん。私、別にこういうのを見ちゃダメだとは言ってないの」
「……はい」
「ただ、見るなら色々と覚悟をして見ろと言っているだけで」
「…………はい」
……それは、暗に、見るなと言っていないでしょうか……?思わずそうツッコみたくなるのをグッと堪え、嫁の説教を正座して聞く私。
事の発端は、悪友である小絃が『大人の魅力が知りたい』などと余計な事言い出したから。昔なじみのよしみで仕方ないから教えてやろうと私秘蔵のDVDを見せてやろうとしたら……そこから色々あって……紬希にバレて即帰宅・即正座・即説教のコンボを決められてしまっている。おのれ小絃め、許すまじ ←逆恨み
「小絃さんに、何を変な事教えようとしていたの?彼女はまだ高校生の女の子なんだよ?」
「い、いやあの……紬希?見てくれは確かにそう見えるけど、あいつは一応私と同い年だし……それに、今回に限って言えば……あのバカに大人の階段を上らせてやるという使命がが……」
「……A●見て、何をどうやったら大人の階段が上れると?」
「…………スミマセン」
マズい……滅多な事では怒らない紬希が本気で怒ってる……は、ははは……紬希って……本気で怒ったらこうなるのね……嫁の普段見ることが出来ない新たな面にちょっと興奮——するには、あまりにも迫力がありすぎた。
これは……正座だけでは許されなさそう。し、仕方ないわね……ここは日本伝統の謝罪方法の土下座で……
「…………そんなに……画面の中の女の子たちが良かったの……?」
「え……?」
と、早速土下座を実行しようとしたところ。蚊の鳴くような声で紬希が放った一言に反応する私。……紬希……?
「……小絃さんをだしにしてまで……私に内緒にしてまで……そんなに、A●を見たかったの……?そんなに、女優さんが良かったの……?」
いや、だから本当にあいつに『大人の魅力』を教えてやる為に●Vに手を出した、と反論したかったけど……出来なかった。
だってあまりに紬希が必死で、余計な口を挟めなかった。
「わた……私じゃ……ダメなの……?私じゃ、物足りないの……?欲求不満……?私じゃ、あや子ちゃんを……満足させられないの……?」
黙って聞く私を前に。目に涙を浮かべながら紬希は必死に訴える。自分の想いを言葉にする。
「…………ごめん、ごめんねあや子ちゃん。私も頭ではわかってるの。現実と●Vは別のものだって。でも……私。あや子ちゃんが、自分以外の誰かに興味を抱いてるって……自分以外の誰かに興奮しているのって…………正直に言うと、嫌だよ……!耐えられないよ……!」
「紬希……貴女……」
……こんな時に、こんな事思っちゃダメだって。最低だって自覚はあるけれど……自分の想いのままに感情を爆発させる紬希は…………とても美しいと、思った。
「こんなのも我慢できないなんて……心、狭いよね……嫌な女だ私……でも、それでも……私……わたしは……」
「紬希」
「ッン……!?」
気づけば私は紬希の前に立ち、自分自身に向けて被虐的な言葉を放とうとするその唇を……私の唇で塞いでいた。唇を舐めて、舌を絡め、唾液を吸い付く本気のキス。
キスされた時は少しだけ抵抗しようと身をよじっていた紬希だけれど。キスと一緒にハグをしてあげると……すぐに大人しくなって……私のキスを受け入れてくれて。
「…………どうかしら。わかった」
「ふ、ぇ……なに、が……?」
数分後、すっかり蕩けて愛らしい顔になった紬希に。私は間髪入れずにそう問いかける。
「たかが映像じゃ、こんなこと出来ないでしょ?」
「あ……」
腰砕けになった紬希を抱いて私は告げる。
「大丈夫、私がこんな風に……愛を込めたキスも、ハグも。紬希……貴女だけにしか出来ない事。私を愛してくれた、私と結婚してくれた……貴女だけにしか出来ない事だから」
「あや子……ちゃん……」
「私の方こそごめんなさい紬希。貴女の事、不安にさせてしまって。……貴女に隠れてこそこそやってたなんて。……心配するのは当然よね。裏切られたって思われても仕方ないわよね」
本当にダメね私。大切な紬希を誤解させるような真似、もうしないってついこの間誓っておいて。また同じ過ちを繰り返すなんて。
「……約束させて頂戴紬希。もう貴女に隠れてコソコソこんなもの見るなんて事は絶対しないから。そして……未来永劫、貴女以外の誰かに対して。貴女以上の感情を持たないって誓わせて頂戴」
そう言って私は、もう一度紬希の可愛い唇に誓いのキスを落とす。今度は一切抵抗なく紬希はそのキスを受け入れてくれて……
「わ、私の方こそ……ごめんなさいあや子ちゃん……本当に、変なところで……嫉妬して……あ、あや子ちゃんが……私の事どれだけ愛してくれてるか……本当はわかってたのに……子どもっぽい理由で理不尽に怒っちゃって……」
「謝らないで良いって。今回も私が悪いんだし。……それに、嫉妬する紬希は可愛いからね。寧ろご褒美だったわ」
「っ……も、もう!あや子ちゃんってば……!」
私の余計な一言に、頬を膨らませてポカポカ私を叩く紬希。そんな嫁の愛らしい行動ににやけ顔を隠せない私は……再度、紬希のご機嫌を取るように。紬希が満足するまでキスの雨を降らしてあげるのであった。
「——ところであや子ちゃん。ちょっと聞いてもいいかな?」
「ん?何かしら紬希?」
「……確かA●は、隠れてもう見ないって言ったよね?私にそう約束したよね?」
「うん、間違いなくそう誓ったわ。それがどうかした?」
「……だったらどうして、そのDVDを後生大事にしまっているのかな?」
「え?だってこれ…………紬希と愛し合う為の資料みたいなものだし」
「……は?」
「私、ちゃんと反省したわ紬希。隠れて見ないで、今度はちゃんと紬希と一緒に堂々と見ることにしたから安心してね!」
「…………は?」
「いやね、本当に私に取っては資料なのよ。これとかこれとかこれのDVD見ればわかると思うけど、ホント凄いのよ紬希!これに出てくる女優さんが着てる服……マジで紬希に似合いそうなの!いつか紬希にこういう服を着て、えっちしたいなぁって思ってて……それで資料として取っといたのよね!」
「…………」
「実はね、こういう服を紬希にプレゼントしたいって思ってて……アパレル関係のお仕事してる琴ちゃんにお願いして、このA●に出てきた女優さんが着てる服を調べて貰ってさ!つい先日売ってるお店が判明したの!早速その店でオーダーメイドして、紬希用に作って貰ったのが——こちら!見て見て紬希!これすっごい可愛いと思わない!?可愛い紬希に可愛い服を着せたら、最高だと思わない!?……と、言うわけで……紬希!これ着て一緒に●V見て、是非とも私と再現えっちを——」
「…………あや子ちゃん」
「ん?なになに?あ、着たい服の要望あったりする?何でも良いわよ、全部紬希のサイズぴったりのはずだから」
「…………お説教、追加です」
「なんでぇ!?」
この後。どうしてか先ほど以上にこってり紬希にお説教されました。……何故だ。
あ、ちなみに余談だけど。この追加説教を終えた夜に。
『…………あ、あや子ちゃん……こ、これで……満足……?』
と、A●に出ていた子たちが着ていたロリ系の服をしっかり着こなして。顔を真っ赤にして紬希が私に夜這いをしに来てくれた事を報告しておくわ。
お陰で恥ずかしながらそれはもう大変興奮して、ついつい張り切っちゃって。いっぱい抱いて抱かれて……翌朝。
『お仕事あるからこの辺でやめてってちゃんと言ったのに……結局朝まで寝かさないとか……ちょ、ちょっとは加減しなさいあや子ちゃんっ!』
って再度お説教されたわ。ああ、もう……ホント。私の嫁可愛すぎかよ……!
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