46話 お姉ちゃんたちの戯れ
「——小絃お姉ちゃん。私、今から紬希ちゃんとお出かけしてくるよ。お姉ちゃんも一緒に行く?お洋服とか買おうと思っているんだけど」
「あー……えっと。ご、ごめん琴ちゃん。お姉ちゃんちょーっと……あや子と野暮用があって行けそうに無いかも……」
「そっかそっか。うん、親友同士積もる話もあるよね。じゃあ、今日はあや子さんにお姉ちゃんを任せるよ。あや子さん、お姉ちゃんの事よろしくお願いします」
「悪いわね琴ちゃん。こいつの事借りるわ。あと紬希。出かけるならお土産よろしくー」
「うん、楽しみにしててねあや子ちゃん。あや子ちゃんは……小絃さんとあんまり喧嘩しちゃダメだからね。小絃さん病み上がりなんだし。それじゃあ行ってきます」
そう言って琴ちゃん&紬希さんの二人がお買い物へと出かけていったのを見送った私とあや子。二人の乗った車の音が聞こえなくなるのを確認した私たちは、念のためカーテンを閉め、雨戸も閉めて。コソコソとテレビのあるリビングへと向かう。
自分の家なのに、何をそんなにコソコソしているんだって?いや、それはだね……ちょっと今からやることは人にあまりお見せできない事と言うか何と言うか……
「……ねえあや子。確認だけどさ……本当にやんの?」
「やれやれ、日和ったの小絃?大人の魅力って奴を知りたいってあんたが言った事じゃないの。折角上手い具合に紬希も琴ちゃんもいないんだし、やるなら今しかないでしょ」
ああ言った。確かに言ったさ。琴ちゃんに釣り合うような素敵なお姉ちゃんになりたくて。大人の魅力って奴を教えて欲しいとは言ったさ。
……けどね。
「その方法が大いに間違ってる気がするんだが……?もう一度聞く。あや子、あんたさ。一体何を使って、私に大人の魅力を教えるんだっけ?」
「A●だけど?」
「うん、やっぱ間違ってるわ。方法も、ついでにあや子の人生そのものも」
悪友であるこのアホが言い出したのは、●V見て大人の魅力を教えるというあまりにもトンチンカンで馬鹿げた方法だった。
昔からアホだったけど、この10年でアホさ加減に磨きがかかったなコイツ……
「確かにそれは大人になれば見れる代物ではあるけど、私が求めてる答えがそこにあるとは思えないんだけど?……つーか、なんでそんなものをあや子は持ち歩いてんの?バカなの?変態なの?」
「失礼ね。真性の変態に言われたくないわよ。別に私だって好き好んでこういうのを持ち歩いたりはしないわ」
「……じゃあなんでこのタイミングで都合良く手元に持ってたのさ?」
そう私が当然の疑問を口にすると。レコーダーを弄っていたあや子は手を止めて、何故かガタガタ震えだしてこう告げる。
「…………いや、その……ね。紬希とちょっと色々あってね……こういうのを家に隠しとくと、紬希が怖いというか何と言うか……」
「…………貴様。私に大人の魅力を教えるとかもっともらしい事を言ってたけど。さてはそのエロDVDの隠し場所に困って、体よく私に押しつけようとその提案を思いついたんじゃあるまいな?」
「細かいことは気にしない気にしない!さ、準備も出来たし一緒に見るわよ小絃!」
どうやら図星だったらしい。通りでタイミング良すぎだと思ったよ。……まあ、暇だし他に良い方法も思いつかないし。何らかの参考になるかもしれないから見るけどさぁ……
それにしても。片や琴ちゃんと紬希さんは大人の女性らしく優雅にショッピングを楽しんで。片や私とあや子は家に引きこもり女二人でA●鑑賞か……ごめんよ琴ちゃん、それに紬希さん。君たちが好きになってくれたお姉ちゃんたちは、こんな残念なアホ共です。
「んで?何を見るの?流石の私もこういうの見るのは初めてでよくわかんないんだけど……」
「あんたの需要に合わせるわ。ここにあるものの中から好きなの選びなさい小絃」
「はいはい、なら遠慮なく」
選ぶ余地があるほどA●を持ってる事に対するツッコミは敢えてせず。言われた通りあや子が持ってきたDVDをとりあえず物色してみることに。
流石に中身は映像を見るまではわからないから、パッケージのタイトルと写真を見てフィーリングで選んでみるか。えーっと、どれどれ?
『ちっちゃいことは良いことだ!無垢で天使なロリっ娘の誰にも言えないヒミツの時間!』
『おねえちゃん、だ~いすき♡ロリかわいい小さな妹系女の子がおねえちゃんを癒やしてあげるっ♪』
『お姉さんのザーコ、ザーァコ♡大人なのにこ~んな小さい女の子に発情しちゃって恥ずかしくないのぉ?と私を罵る生意気小悪魔、わからせます!』
ほうほう、なるほど。なるほどね……
「…………あや子」
「んー?何よ小絃。見たいの決まった?」
「これのどこが、大人の魅力を鍛える参考になるって言うんだこのロリコンがぁ!!!?」
「わ、私の家宝がぁああああああ!!!?」
あや子が持ってきたDVD、その全てをゴミ箱へダンクシュート。あや子のアホに期待したこの私がバカだった。
「な、なんて事すんのよバカ小絃ォ!?わ、私がどれだけ必死にこれを集めたか知らないの!?中にはプレミア物もあるって言うのに!!!」
「知らんし興味もないわ……ええぃ!別のを出せ、別のを!こういうロリ系以外の奴を出せ!」
よく見たら全部がロリコン御用達のタイトルばかり。パッケージに写った女性も当然ながらこのアホ好みのロリコンホイホイな小さくて愛らしい子ばかりという筋金入りのラインナップ。これで一体、大人の魅力の何がわかるって言うのか。
涙目でゴミ箱から後生大事にDVDを回収する、そんなアホをゴミを見る目で蔑みながらチェンジを要求する私。
「ったく、人が折角協力してやってるって言うのに文句ばっか言って……この贅沢者め」
「何私が悪いみたいな雰囲気出してんのさ……良いからさっさと別の出しなさいよ」
「と言ってもねぇ……私、これ系以外のは持ってないしなぁ」
「……」
思わず頭を抱える私。知ってはいたけどこいつってホント……流石私の悪友をやってるだけの事はあるな。
「仕方ないわね……いいわ、ちょっと待ってなさい」
と、呆れかえる私をよそに。今度は持ってきていたタブレットを取り出して操作を始めるあや子。なんだなんだと覗き込んでみると……何やらサイトを立ち上げて、そしてタブレットごと私に手渡してきた。
「ほれ小絃。この中から好きなの自分で選びなさいな」
「……なにこれ?」
「何って……ご要望のA●よ。好きなの選んで購入しろって言ってるの」
「ここにはないから通販で買えって事?商品待つ為の時間がかかるでしょそれ……待ってる間に琴ちゃんたち帰ってくるじゃんか」
「違う違う。わざわざそんな事しなくても、ダウンロード販売してるから今買えばすぐにこの場で見られるのよ」
ダウンロード……販売……?今すぐこの場で見られる……!?
「今はわざわざお店で買うよりも人目を気にせず即購入・即視聴が出来るダウンロードの時代よ。端末一つでどこでも買えるしいつでも視れる。おまけに嵩張らないし隠す必要もなくて嫁に怒られる事もないからね!」
「はへぇ……マジか凄いな……」
「ちなみに動画とかだけじゃなくてあんたが好きだったエロ本とかも電子書籍で買えたりするわ」
渡されたタブレットを動かしてみると、無限とも思えるくらいの多種多様なA●の世界が広がっていた。勿論●Vだけじゃない。あや子の言うとおり、ちょっとえっちな写真集とかもダウンロード販売をしていて……
一応私が事故る前にもそういうサービスはあるにはあった。けれどここまで便利で盛んじゃなかった気がする。
「なんと言うか……時代を感じるわー……こんなのがネットにゴロゴロ落ちてるなんてね。橋の下とか神社の裏で必死にエロ本拾ってたあの頃が懐かしいなぁ」
「……今更だけど、あんたって昔から発想も行動も性欲持て余した男子中学生のそれよね小絃。一応まだ肉体年齢は高校生の女子だってのに、変態過ぎてちょっと引くわー」
「A●を常に懐に隠し持ってる変態だけには言われたくないわ。つか、あや子も私と一緒にそういう事やってた時期あるのを忘れたとは言わせんぞ」
そんな軽口を叩きつつ、改めてタブレットを眺めてみる。ほうほう……なるほど。自分の趣味嗜好を入力すれば、それに合う動画を抽出できるわけか。折角だしやってみよう。
えーっと……スタイルが良くて、黒髪ロングで、大人のお姉さんキャラ……っと。検索して出てきた動画を更に吟味し、一番よさげな動画を探し当てる。
「選んだよあや子。んで?どうやって買えば良いの?」
「…………ぷっ」
「……あ?今あや子鼻で笑ったでしょ。何さ……何が言いたいのさ」
「いーえ。何もないわよ。ただ……あんたの好み、昔っから変わってないなーって思って。この女優、どこかの誰かにそっくりねー」
「…………」
ニマニマと含みのある憎たらしい笑みを浮かべる悪友を無言で蹴る。くそ……ロリコンの分際で……
「とりあえずこの動画で良いのね?ならツケで買ってあげる。ちょっと待ってなさい…………はい、終わり。これでいつでも視聴可能よ」
「早っ……!?え、嘘!?もう見れるの!?」
「だから言ったでしょ。即購入、即視聴が出来るのがダウンロード販売のウリだって。ほら小絃。あとはここの再生ボタンを押すだけで見れるわ」
ものの1分もかからずに、私が選んだ動画を購入したあや子。ここでも10年後の文明の進歩に地味に驚きながらも、再度タブレットを手に取ってみる。
「じゃ、じゃあ……早速見てみるけど……じゅ、準備は良いかなあや子……!?」
「なんの準備よ。ったく緊張しすぎじゃない?初めてエロ本に手を出した中学生じゃあるまいに」
「いちいち茶化すな。……い、いくよ……!?」
あや子にからかわれながらも、一度大きく深呼吸。……よし、いくぞ……!これで私も大人の階段を上ってやる……!覚悟を決めた私は、震える指で動画再生のボタンを押し——
「——へぇ。小絃お姉ちゃん、やっぱりこういうの好みなんだね」
「…………何やってんの、あや子ちゃん」
「「~~~~~~~っっ!!???」」
——そして、そのタイミングで。私たちの後ろにいた二人の存在にようやく気づく。
思わず手に持っていたタブレットを落っことしてしまいながら振り向いた先には……お出かけしたはずの琴ちゃんと紬希さんが何故か立っていて……
「こ、こここ……琴、ちゃん……!?なん、で……!?」
「ああ、驚かせちゃってごめんねお姉ちゃん。ちょっと忘れ物してて帰ってきたの」
「あ、ああなるほど忘れ物ね……は、ははは……ははははは……」
淡々と説明してくれる琴ちゃんに対して、乾いた笑い声しか出せない私。その間にもタブレットからは……私が今し方購入したA●の映像が流れていて……
「んー……お楽しみのところごめんねお姉ちゃん。もしかしなくても邪魔しちゃった?」
「ち、違……!?い、いや違わないけど、まだお楽しみしてたわけじゃなくて……!?」
琴ちゃん似の女優さんの、いやらしい声が部屋中に響き渡るのを聞きつつ。言い訳にならない言い訳をする私。
なんだこれ……なんだこれ……!恋人同士で借りてきた映画を見てたら濡れ場に突入して気まずい——なんてレベルを遙かに超える気まずさなんだけど……!?おのれあや子、どうしてくれるんだこの空気……ッ!
……ああ、ちなみに。この最悪の状況を作りやがった張本人はというと。
「…………あや子ちゃん。何をしているの?小絃さんにこんなものを見せて……しかも、そこに転がってるDVDの数々って……あや子ちゃんが処分したって言ってたやつだよね?それがどうしてここにあるの?」
「い、いやあの聞いて紬希……ち、違うのよ。これには深いわけがね……」
凍り付いた顔で、自ら進んで正座して。自分のお嫁さんに全力で醜い言い訳をしていた。
「ぜ、全部そこのバカ小絃が悪いのよ。こいつがね、大人の魅力を教えて欲しいって言うから……仕方なく協力してやったまでで、私は何も悪くはないの。だから信じて頂戴紬希……!」
「あや子ちゃん。大人の魅力を教えて欲しいって話から、どうしてこういういやらしい物を見ることになるのかな?意味がわかりません」
「……ぁぅ」
必死で取り繕うあや子に対し、バッサリとその言い分を切り捨てる紬希さん。ごもっともすぎる……
「……琴ちゃん、ごめんね。お買い物の予定だったけど、また今度で良いかな?ちょっと……私。あや子ちゃんとお話しなきゃいけなくなったし」
「ん、大丈夫。私はいつでも良いから。また別の機会に一緒に行こうね」
「ま、待って琴ちゃん!そこは紬希を引き止めて!?」
「それと……小絃さんもすみません。変な事に巻き込んでしまって。あや子ちゃんには私から、きつく言っておきますので」
「あ、うん……お手数かけます紬希さん……」
「こ、小絃!小絃からも紬希に言ってやってよ!?ほ、ほら!私には小絃に大人の魅力を教える義務があるでしょう……!?」
「琴ちゃんならいざ知らず、あや子ちゃんにはそんな義務なんてありません。ほら、さっさと帰るよ」
涙目で紬希さんに言い訳し。そして私と琴ちゃんに救いの手を求めるあや子だったけど。取り付く島もなく、紬希さんはズルズルとあや子を引きずっていく。
「……小絃さんを出しにして、こんなものをこそこそ見るなんて……おまけに小絃さんにこんなものを押しつけるなんて……本当に良い度胸しているよねあや子ちゃん。帰ってからが楽しみだよ私」
「ま、待って!待って紬希!貴女勘違いをしているわ!私の話をちゃんと聞いてくれたら、勘違いだってきっと紬希もわかってくれるはずよ!?」
「うん、言い訳も懺悔の言葉も。家に帰ってゆっくり聞いてあげるから。……じゃあ琴ちゃん、小絃さん。失礼しました」
「こ、小絃!琴ちゃん!お願いたすけ——」
バタン!
力の限り助けを求めるあや子の声も。無情にも閉められた扉の向こうで聞こえなくなる。残されたのは私と琴ちゃん。そして未だにA●を再生し続けているあや子のタブレットだけ。
二人もいなくなり手持ち無沙汰になった私は……私は恐る恐る琴ちゃんに聞いてみる。
「あ、あの……琴、ちゃん……?」
「ん?なぁに小絃お姉ちゃん」
「琴ちゃんは……その。お、怒ってないの……かな?」
「え?怒る?私が?……なんで?」
不思議そうな顔で首を傾げる琴ちゃん。大激怒だった紬希さんとは違い、ぱっと見怒ってはいないみたいだけど……
「い、いや……だって……理由があるにせよ、こういうの嬉々として見ようとしてるなんて……失望したりしないのかなって……」
「んーん。なんか前にも言ったかもしれないけど。別に私、こういうことにお姉ちゃんが興味を持つこと自体は……全然抵抗ないよ。状況から察するに、多分あや子さんがお姉ちゃんをからかう半分で見る流れになったんだろうなってわかってたし」
「そ、そう……」
本心からの琴ちゃんの一言に、ホッと胸を撫で下ろす私。良かった……色んな意味で理解ある琴ちゃんで本当に良かった——
「…………ただ、一つだけ不満を言わせて貰えるなら」
「ふぇ……?」
「これも前に言った気がするけど。こういうのは、隠れてこそこそは嫌だなぁって思ってるよ」
「う、うわっ!?こ、琴ちゃん……!?な、何を……!?」
「ね、お姉ちゃん。紬希ちゃん帰っちゃって……私予定が空いちゃったの。お姉ちゃんもお姉ちゃんで。一緒にエッチな動画を見るつもりだったあや子さんもいなくなったでしょう?だから……ね?」
「だ、だから……?」
安心したのもつかの間の事だった。琴ちゃんはそう言って、私を素早く引き寄せて自分の胸の中に抱きかかえたかと思うと。
「折角だしさ……私と一緒に、これ……見よっか♡」
A●を垂れ流していたタブレットを指さして。私を抱きしめたまま私の耳元で妖艶にそう囁いてきたのであった。
……こ、琴ちゃんと一緒に……●V鑑賞……だと……!?
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